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第二部

小ネタ 相変わらず災難を吸着する日々 後*

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※ぬるいですが、R18なのでご注意ください。
結構唐突に終わります。


 ◆

 その夜は、久しぶりに攻防戦となった。


「お前、いい加減にしろって」

 俺は今、力いっぱいグウェンの腕を掴んで彼の動きを牽制している。
 場所はグウェンの屋敷の寝室。追い詰められている俺は既にベッドに乗り上げていて退路はない。正面から俺を押し倒そうとしているグウェンはベッドに膝をついて手に持ったものをぐぐぐと俺の手に近づけようとしてくる。

「俺が何かやらかす度にいちいちそれ出してくんのやめろ!」

 久しぶりに登場した手枷を見て顔を引き攣らせる俺を、彼は無情な目をして真顔で説き伏せてくる。

「君に自覚を促すにはこうするしかない。君の悪友も常々そう言っているだろう」
「言ってない言ってない。都合よく自己解釈するな。ルーが言ってるのは自覚しろってとこまでだろうが」
「同じだ」
「違うだろ?! 何でそこで拘束に走るんだよ!」

 全力のツッコミを叫ぶ俺に「大丈夫だ。君はもう慣れたはず」と平然と恐ろしいことを言い放つグウェン。

 慣れるわけないだろう。
 手枷に慣れてる奴って何だよ。
 それは罪人かいかがわしいプレイの上級者だよ。俺はまだ若葉マークの初心者だぞ。

 ラムル神聖帝国から戻った後、休みの初日にやられた拘束プレイのせいで俺は危うくおかしな扉を開きかけた。雰囲気に流されてつい許容したら、存在すら知らなかったドアを無理やりこじ開けられそうになったわ。
 これはまずいと怯えた俺は慌てて扉の前から撤退することにして、二日目以降は夜に枷を付けたままやるのをやめさせたという過去がある。

 あのな、あんな怪しげな世界は俺たちにはまだ早いんだよ。
 あれが普通になるなんて怖すぎる。
 あと数年は先でいい。

 そう主張したらグウェンは「それならやむを得ないときにしよう」と呟いていたが、その意味深な言葉通り今でも俺が何かやらかす度に本当に出してくる。やむを得ない時というのは、つまり俺にお仕置きをする時という意味だったらしい。
 手枷を使われると何をされるわけでもないけど感じまくって訳がわからなくなるから怖い。こいつも変なスイッチが入るのか、いつもより強引になるからやめ時が分からなくなって俺は最後はいつも意識がなくなっている。あれに慣らされたらヤバい。それなら次は一体何をされるのか、考えただけでも変な汗が出てくる。


 手枷を嵌めようと俺の手を掴もうとしてくるグウェンの手首を力の限り握って阻止するが、腕がプルプルしてきた。
 顔が真っ赤になるまで力を入れたが、腕力では到底敵わない。力んだ息を吐いて力が緩んだ隙を突かれて押し倒された。背中がドサッとベッドについたらすかさず腹の上に乗られてマウントを取られる。

「グウェン、力ずくなんて卑怯」
「君は何度言っても軽率な振る舞いをやめない。反省を促すためには戒める手を緩めるべきではないと判断した」
「だから判断する方向性がおかしいんだよ!」

 渾身のツッコミを入れる俺に尚も枷を嵌めようとしてくるから、俺はとっさに両手を頭の上に伸ばした。グウェンが腰を僅かに上げた瞬間思いきり身を捩ってうつ伏せになる。その隙にさっと両手を胸の前に隠して仕舞った。
 
「今日心配かけたのは悪かったと思うけど、それはそれ、これはこれだろ。俺はやるなら普通にやりたい」

 顔だけ後ろを振り返ってちらりとグウェンの顔を見ると、無言で俺を見下ろした彼はしばらく黙ってから頷いた。

「わかった。枷は使わずにしよう」

 そう答えたグウェンの言葉に安心して俺は身体の力を緩めたが、それが『枷を使わずに仕置きしよう』の言い換えだったと気づいたときにはもう遅かった。



「あ、ぅ……グウェ、も、やめ」

 うつ伏せになって頬をシーツに擦りつけながら根を上げた。
 裸に剥かれて腰だけ上げさせられて、さっきからもうずっと指で中を責められている。感じるところを執拗に擦ってくる指が前後に抜き差しされるたびにぞくぞくした快感が腰の周りに集まるが、決定的な刺激が与えられない。そもそも勃ち上がった性器の根本をグウェンの手で掴まれていてイけない。それでもその手を振り払って自分で触ろうとしたらグウェンがベッドの上に放ったままの手枷を引き寄せてくるから、涙目になって投降した。
 
 これは、あれか。
 焦らしプレイってやつか。
 だから俺はまだ若葉だって言ってんのに、ねちっこいことしやがって。

 シーツをぎゅっと握りしめながらもどかしくて腰が揺れる。
 頭の中がもう快感でいっぱいなのに、いつまでも出せないから射精感だけが高まって辛い。もうイくことしか考えられなくなってきた。じりじりと中の弱い部分だけを擦り上げてくる指の動きに焦れて懇願に近い声が漏れる。

「グウェ……も、やだ、んっ、なか、イかせて……おねがっ」

 顔だけで振り返ると、目尻に溜まった俺の涙をグウェンが舐めとって唇に触れるだけのキスを落としてくる。
 
「反省したか」
「したっ、したから、も、イきたい……っ」

 ぐすぐす鼻を啜って腰を揺らしたら、俺の顔を舐めるように見ていた彼の黒い瞳に熱が篭る。獲物を捉えた猛禽類みたいな眼をしたグウェンが指を引き抜いて背中に覆いかぶさってきた。
 力の入った俺の肩に軽く噛みつきながら、まだ少し不機嫌そうな声で耳元に囁いてくる。

「何度も言うが、君はもっと慎重に行動しろ」
「ん、うんっ、わかったって」
「もし君に何かあったら私はその原因にどんな報復をするかわからないのだから、自覚してほしい」
「……うん」

 どういう諭し方なんだよ、怖えよ。

 相変わらず俺への執着心が人並み外れているグウェンに内心突っ込むが、今はとにかく余裕がないからこくこくと頷いた。

「グウェン、も、お願い。手離して、イかせて」

 振り向きながら懇願したら俺に覆いかぶさって密着したグウェンが戒めていた手を離して俺を抱え、おもむろに身体を横向きに変えた。俺も一緒に右が下になるようにベッドに横向きに寝そべる。
 何事だと瞬きしたら、後ろから左足の膝裏を掬い上げられて大きく開かされた。
 あられもない格好をさせられてひっと息を呑むと、すかさず後ろの窄まりに硬い熱が当たる。

「あ、待って。まさかこの体勢で入れるき」

 そう言った瞬間には切っ先がめり込んできた。

「んんっ」

 のけぞって腰が逃げると、グウェンのもう片方の手が身体の下から潜り込んできて腰を抱えるように腕を回される。膝裏と腰を固定されて身動きできなくなったところに熱い屹立が中に押し込まれた。散々苛められた内部は少し強引な挿入でも拒まない。

「あっんっ……んぅっ」 

 眉間に皺を寄せて挿入の違和感に耐えると、じきに奥まで入ったのかグウェンが動きを止めた。
 内臓を押し上げるように入ってきた熱い昂りを感じて、は、と息を吐き出す。背中にぴったりと重なったグウェンの肌が汗ばんでいて、珍しく余裕がないのか詰めた息をそのままに彼はすぐに動き始めた。

「えっ、……あっ」

 開いた左の太腿を掴まれてずくっと揺すり上げられる。
 まだ馴染みきらないうちに後ろから深く穿たれて、泣き声が漏れた。

「あっ、まって、まだ動くなって」

 俺の制止は聞こえているはずなのに、止まる気配はない。

「あっ……ぁ、んっ」

 焦らされ続けた中は何度か突かれるとすぐに従順になった。グウェンの雄に突き込まれるたびにひくひく絡みついて締まっている。横を向いて足を開かされたまま貫かれるのが恥ずかしくてシーツに縋りついたら、後ろに密着しているグウェンに耳を齧られて肩がびくびく震えた。
 声を殺そうとするが、奥を突かれると堪えきれない喘ぎ声が漏れてしまう。
 限界まで高められていた俺の性器は強引な挿入でも全く萎えていない。それどころか強く突き上げられる快感と連動してすぐにでも達しそうになる。頭の中がぐらぐら煮詰まったように熱かった。

「も、イく、あっ、あっ、ぁああっ」

 腰を抱えた手に昂ったものを握り込まれて扱かれたら一瞬だった。熱を放った法悦で一時頭が真っ白になるが、すぐに中を突き上げられて悲鳴を上げた。

「あっ、待っ、ひ、あっあ!!」

 イったばかりの中襞を擦られてがくがく震えるが、揺さぶってくるグウェンの動きは止まない。

 ぼろぼろ涙を零しながらシーツを掻いている俺の後頭部に唇を落としながら、執念深い恋人の責め立てはそれから数時間続いた。お仕置きを兼ねているからって、いつもの倍くらいしつこかった。最近大人しかったのに、急にスイッチが入ったのか久しぶりに体力オバケの本領発揮だった。

 最中にもう軽率な行動はしないと何度も約束させられたが、まともなことを考えられない頭に言い聞かせたって効果なんかあるのか。
 それでも最後には俺を正面から抱きしめて愛おしそうな目で優しくキスしてくれるから、息も絶え絶えになりながら俺はグウェンを抱きしめ返した。

 今度の休みに、サエラ婆さんのところに行っていい加減占ってもらおうと心に決める。早急にこのトラブル吸引体質の改善を図らなければ、俺は早いうちに執着心強めの彼氏から若葉ワークを取り上げられるかもしれない。嫌だよ。俺まだ若葉でいたい……。

 しばらくはグウェンを不安にさせるような厄介事を吸着しないように、なるべく慎重に、リスク回避を念頭において大人しくしていよう。

 でもさ、俺は思うんだよ。

 突然鷲に攫われるなんて、予知能力者でもない限り想定なんかできるわけないだろう、と。
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