207 / 304
第二部
小話② のおまけ ※小話③と順番入れ替えました
しおりを挟む
※急にキスしてる二人が書きたくなって勢いで書いたおまけです。
俺は応接室の内開きの扉を部屋の中に大きく開いて、その前に膝をついた。
「これ……直るか?」
折れたドアノブを持ってため息をつく。
オズが消えてからなんとかグウェンを宥め、彼の機嫌がある程度直ってからドアの様子を見に来たが、さっきグウェンがへし折ったドアノブは、握り玉の根元に刺さった心棒が完全に折れていた。
どうすんだよこれ。心棒自体取り替えないとダメなんじゃないか。
ツヤっとした真鍮のノブの方は何とか大丈夫そうでまだ救いがあるが、応接室にドアノブがないのはまずいだろう。
「心棒だけなら他の使ってない部屋のやつをとりあえず外してこっちに回すか。グウェン、それでいいよな」
「ああ」
「オズがバカなこと言ったせいなんだから、部品代はあいつに請求してやる……」
床に膝立ちになりながらぶつぶつ呟いていると、すぐ後ろから「レイナルド」と話しかけられた。
「船では本当に何もなかったんだな」
確認するようなグウェンの声には振り返らず、ドアノブに集中していた俺は扉に残っている心棒の端を引っ張り出しながら答えた。
「あるわけないだろ。前にも言ったけど、首輪つけられて迫られただけだって」
「迫られた……?」
低い声が聞こえて、慌てて訂正した。
「うそうそ。間違えた。迫られたんじゃない、脅されただけ」
それもあいつの冗談だったから、と続けて言おうとしたら、それよりも先にぐっと肩を掴まれて振り向かされた。
「えっ?!」
驚いて膝立ちだった体勢が崩れ、扉に背中をぶつける。バタンと大きな音と衝撃が響いて目を丸くすると、膝をついたグウェンが俺を囲い込むように覆いかぶさってきた。
「グウェン?!」
肩を押さえ込まれて強引にキスされた。
驚きで固まると、ぼやけるくらい近くにある彼の瞳の中に不愉快そうな苛立ちが見える。
その目を見て、俺はグウェンの機嫌が収まった訳ではなかったことに気づいた。
しまった。オズが来てたことに結構イライラが溜まってたのか。もう少しちゃんと宥めればよかった。
弁明しようと口を離そうとしたら片手で顎を掴まれる。
「んっ」
唇をずらせなくなったら一度角度を変えて、今度は深く合わさってきた。戸惑っている間に唇のあわいから差し込まれた舌が遠慮なく口の中に入ってくる。
「んぅ」
俺の肩を押さえ込んでいる腕を掴んで引っ張ったが、力は弛まない。少し無理な体勢を立て直すために、もう片方の手を扉について身体を支えた。
俺がぐらつくのも構わず、グウェンは深く唇を重ねて舌を奥まで潜り込ませてくる。舌先でぐりぐり口蓋を抉られたら背筋がぞくぞくして、腕を掴んだ手が震えた。
「んっ、ん……」
いつもよりやや性急なキスでグウェンが不満を訴えてくる。
舌を絡ませて無理やり吸い出されると腰から力が抜けて、足が床に崩れる前に腕を掴んでいた手を肩にずらしてしがみついた。
「あの、さっきの音、どうかされまし」
突然マーサの声が聞こえ、中途半端に途切れた。
グウェンに覆いかぶさられているから俺からは見えないが、直後に慌てて遠ざかっていく足音が聞こえる。
おいヤバい、見られた。
「んぅ、ちょっ、見られて」
動揺で顔から火が出るかと思うくらい耳まで熱くなったが、グウェンは全く気にする様子はなくキスを続行してくる。
「おい、んんっ」
顎を掴まれたままなおも深く口付けられて、慌てる俺を宥めるように唇が何度も合わさる。
「ん……は」
グウェンがやめる気がないから、強引なキスに抵抗しようと強張っていた身体から否応なく力が抜けていく。扉についた手に力が入らなくなってずるっと下がるとグウェンは屈んで更に追ってきた。
「ん、んっ……グウェ」
怒るなよ、と肩を掴んでいる手で彼のシャツを引っ張ると、不機嫌そうに眉を寄せたグウェンが少しだけ唇を離した。
「君は、殿下に懐かれすぎだろう」
「ふ……、んなこと言ったって、あいつ、友達が俺しかいないんだよ。毎回追い返す訳にも、いかないだろ」
「……私がいないときを見計らって来るのが気に入らない」
「それは仕方ない。お前にビビってんだもん。じゃあ、グウェンがあいつの友達二号になってやれば」
「…………友人になれば雑談と称して殴っても許されるのか」
「いや、その解釈はちょっとどうなんだろ」
そもそも雑談って、お前あいつと何を雑談するつもりなんだ。出来やしないだろ。あいつと雑談なんて。
雑談と称して殴りかかったら、それは雑談じゃなくて決闘だよ。
頭の中で突っ込みまくりながら体勢を立て直し、扉から手を離して膝立ちのままグウェンの首に腕を回した。
「そんなに怒るなよ。嫉妬されるほどあいつと会ってないって」
「今週は何回来ている」
「うーん、多分三回くらいか?」
そう言ったらグウェンの眉間の皺が濃くなった。
失言だったな、と気づいたときにはすでに唇を塞がれていた。
「ん……っ」
グウェンにしがみついて体勢が安定しているから、もう容赦なく食いつかれた。顎を掴んでいた手で後頭部を支えられて上向かされる。
こんなに嫉妬心を曝け出してくるのも少し珍しいので、気のすむまで付き合うことにして俺もキスに応えた。
そのうち部屋の中には俺たちの濡れた息遣いしか聞こえなくなり、混ざり合った二人分の唾液を飲み込まされる頃にはもう何も考えられなくなった。
それからグウェンの気が収まるまで長い間唇を離してもらえず、我に返ったときにはいつの間にかソファに移動していて押し倒されていた。
応接室の扉が開け放たれたままだったので驚愕して、そのままことに及ぼうとするグウェンに必死で待ったをかけたが、空気を読んだマーサが既に帰った後だったと知って俺は羞恥で頭を抱えた。
廊下を通ったの全然気づかなかったんだけど、いつ帰ったんだ……?
涙目になっている俺に「だいぶ前に静かに帰っていったが」と真顔で伝えてくるグウェンが憎たらしかったので、散々キスをして煽ってから中断してやった。
次にマーサに会ったら気まずい、と思いながら夕食を食べて風呂から出たら、早々にベッドに引き摺り込まれて仕返しされた。
オズへのイライラに重ねて煽りすぎたのか、グウェンはいつにも増してしつこかったので、結局その夜割りを食ったのは俺だった。
俺は応接室の内開きの扉を部屋の中に大きく開いて、その前に膝をついた。
「これ……直るか?」
折れたドアノブを持ってため息をつく。
オズが消えてからなんとかグウェンを宥め、彼の機嫌がある程度直ってからドアの様子を見に来たが、さっきグウェンがへし折ったドアノブは、握り玉の根元に刺さった心棒が完全に折れていた。
どうすんだよこれ。心棒自体取り替えないとダメなんじゃないか。
ツヤっとした真鍮のノブの方は何とか大丈夫そうでまだ救いがあるが、応接室にドアノブがないのはまずいだろう。
「心棒だけなら他の使ってない部屋のやつをとりあえず外してこっちに回すか。グウェン、それでいいよな」
「ああ」
「オズがバカなこと言ったせいなんだから、部品代はあいつに請求してやる……」
床に膝立ちになりながらぶつぶつ呟いていると、すぐ後ろから「レイナルド」と話しかけられた。
「船では本当に何もなかったんだな」
確認するようなグウェンの声には振り返らず、ドアノブに集中していた俺は扉に残っている心棒の端を引っ張り出しながら答えた。
「あるわけないだろ。前にも言ったけど、首輪つけられて迫られただけだって」
「迫られた……?」
低い声が聞こえて、慌てて訂正した。
「うそうそ。間違えた。迫られたんじゃない、脅されただけ」
それもあいつの冗談だったから、と続けて言おうとしたら、それよりも先にぐっと肩を掴まれて振り向かされた。
「えっ?!」
驚いて膝立ちだった体勢が崩れ、扉に背中をぶつける。バタンと大きな音と衝撃が響いて目を丸くすると、膝をついたグウェンが俺を囲い込むように覆いかぶさってきた。
「グウェン?!」
肩を押さえ込まれて強引にキスされた。
驚きで固まると、ぼやけるくらい近くにある彼の瞳の中に不愉快そうな苛立ちが見える。
その目を見て、俺はグウェンの機嫌が収まった訳ではなかったことに気づいた。
しまった。オズが来てたことに結構イライラが溜まってたのか。もう少しちゃんと宥めればよかった。
弁明しようと口を離そうとしたら片手で顎を掴まれる。
「んっ」
唇をずらせなくなったら一度角度を変えて、今度は深く合わさってきた。戸惑っている間に唇のあわいから差し込まれた舌が遠慮なく口の中に入ってくる。
「んぅ」
俺の肩を押さえ込んでいる腕を掴んで引っ張ったが、力は弛まない。少し無理な体勢を立て直すために、もう片方の手を扉について身体を支えた。
俺がぐらつくのも構わず、グウェンは深く唇を重ねて舌を奥まで潜り込ませてくる。舌先でぐりぐり口蓋を抉られたら背筋がぞくぞくして、腕を掴んだ手が震えた。
「んっ、ん……」
いつもよりやや性急なキスでグウェンが不満を訴えてくる。
舌を絡ませて無理やり吸い出されると腰から力が抜けて、足が床に崩れる前に腕を掴んでいた手を肩にずらしてしがみついた。
「あの、さっきの音、どうかされまし」
突然マーサの声が聞こえ、中途半端に途切れた。
グウェンに覆いかぶさられているから俺からは見えないが、直後に慌てて遠ざかっていく足音が聞こえる。
おいヤバい、見られた。
「んぅ、ちょっ、見られて」
動揺で顔から火が出るかと思うくらい耳まで熱くなったが、グウェンは全く気にする様子はなくキスを続行してくる。
「おい、んんっ」
顎を掴まれたままなおも深く口付けられて、慌てる俺を宥めるように唇が何度も合わさる。
「ん……は」
グウェンがやめる気がないから、強引なキスに抵抗しようと強張っていた身体から否応なく力が抜けていく。扉についた手に力が入らなくなってずるっと下がるとグウェンは屈んで更に追ってきた。
「ん、んっ……グウェ」
怒るなよ、と肩を掴んでいる手で彼のシャツを引っ張ると、不機嫌そうに眉を寄せたグウェンが少しだけ唇を離した。
「君は、殿下に懐かれすぎだろう」
「ふ……、んなこと言ったって、あいつ、友達が俺しかいないんだよ。毎回追い返す訳にも、いかないだろ」
「……私がいないときを見計らって来るのが気に入らない」
「それは仕方ない。お前にビビってんだもん。じゃあ、グウェンがあいつの友達二号になってやれば」
「…………友人になれば雑談と称して殴っても許されるのか」
「いや、その解釈はちょっとどうなんだろ」
そもそも雑談って、お前あいつと何を雑談するつもりなんだ。出来やしないだろ。あいつと雑談なんて。
雑談と称して殴りかかったら、それは雑談じゃなくて決闘だよ。
頭の中で突っ込みまくりながら体勢を立て直し、扉から手を離して膝立ちのままグウェンの首に腕を回した。
「そんなに怒るなよ。嫉妬されるほどあいつと会ってないって」
「今週は何回来ている」
「うーん、多分三回くらいか?」
そう言ったらグウェンの眉間の皺が濃くなった。
失言だったな、と気づいたときにはすでに唇を塞がれていた。
「ん……っ」
グウェンにしがみついて体勢が安定しているから、もう容赦なく食いつかれた。顎を掴んでいた手で後頭部を支えられて上向かされる。
こんなに嫉妬心を曝け出してくるのも少し珍しいので、気のすむまで付き合うことにして俺もキスに応えた。
そのうち部屋の中には俺たちの濡れた息遣いしか聞こえなくなり、混ざり合った二人分の唾液を飲み込まされる頃にはもう何も考えられなくなった。
それからグウェンの気が収まるまで長い間唇を離してもらえず、我に返ったときにはいつの間にかソファに移動していて押し倒されていた。
応接室の扉が開け放たれたままだったので驚愕して、そのままことに及ぼうとするグウェンに必死で待ったをかけたが、空気を読んだマーサが既に帰った後だったと知って俺は羞恥で頭を抱えた。
廊下を通ったの全然気づかなかったんだけど、いつ帰ったんだ……?
涙目になっている俺に「だいぶ前に静かに帰っていったが」と真顔で伝えてくるグウェンが憎たらしかったので、散々キスをして煽ってから中断してやった。
次にマーサに会ったら気まずい、と思いながら夕食を食べて風呂から出たら、早々にベッドに引き摺り込まれて仕返しされた。
オズへのイライラに重ねて煽りすぎたのか、グウェンはいつにも増してしつこかったので、結局その夜割りを食ったのは俺だった。
879
お気に入りに追加
8,352
あなたにおすすめの小説
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました。
おまけのお話を更新したりします。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない
佐倉海斗
BL
王国を敵に回し、悪役と罵られ、恥を知れと煽られても気にしなかった。死に際は貴族らしく散ってやるつもりだった。――それなのに、最後に義弟の泣き顔を見たのがいけなかったんだろう。まだ、生きてみたいと思ってしまった。
一度、死んだはずだった。
それなのに、四年前に戻っていた。
どうやら、やり直しの機会を与えられたらしい。しかも、二度目の人生を与えられたのは俺だけではないようだ。
※悪役令息(主人公)が受けになります。
※ヤンデレ執着義弟×元悪役義兄(主人公)です。
※主人公に好意を抱く登場人物は複数いますが、固定CPです。それ以外のCPは本編完結後のIFストーリーとして書くかもしれませんが、約束はできません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。