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序章 俺が知ってるゲームじゃない〝主島リストルジア、召喚編〟
#3 元の世界へ戻る方法が理不尽過ぎた
しおりを挟むゲーム上のハルデロト城とは違い、真正面から見るこの城は堂々と誇り高く聳え立っている。ゲームのグラフィックも綺麗だったが、こうやって実際に目にすると、綺麗という感想ではなく長い歴史を感じるな。どれほどこの城がここに存在しているのか……軽く百年は超えているだろう。
がっしりと構える正門は、網目状に張り巡らせてある鉄の柵で閉じられている。
「おや? メイド長殿、いつの間に外出されたのですか?」
甲冑に身を包む髭面の門番兵のひとりが、目を細めて俺をちらりと横目で覗いた。
「こちらの方をお迎えに行っていました。レイティア様の客人です。門を開けてください」
だが、髭面の兵士は俺の背後に背負っているアスカロンが気になっているようで、すんなりと通してはくれないらしい。
「そちらの方は剣士職とお見受けしますが、レイティア様とはどういった間柄ですか?」
「あなたには関係のないことです。レイティア様の知人に対して無礼を働くのなら、レイティア様にご確認をどうぞ?」
これ以上はマズいとおもったんだろう、髭は黙って俺達を通した。
「次に外出する際は、一声かけてくださると嬉しいですな……メイド長殿」
「そうですね。次からそうさせていただきます……レオ様、参りましょう」
「あ、ああ……」
こんなにギスギスしているのは、やはり世界情勢が不安定だからだろうか。それとも、派閥がどうのと言った問題だろうか? そういう話はゲームで語られていなかったし、兵士のNPCも『頑張れよ!』みたいなことしか話してこなかったから、もっと友好的な反応然り、城の人間関係も、もっと穏やかなものだと思っていた……。
正門を潜ると、庭師が丁寧に育てた草花が城の前まで軒並み置かれて、客を歓迎するかのようだが、一方では兵士達が剣を磨いていたり、素振りをしていたりするので、歓迎ムードはあまりない。城にいる兵士のテンプレ、『ようこそハルデロト城へ!!』という台詞は期待できそうにない状況だ。
城の中へ入ると、やはり俺のイメージとは違い、どこか殺伐とした雰囲気が立ち込めている。オーケストラ演奏のBGMがあれば少しはマシだろうが、こういう所は妙にリアルなんだよな、この夢は。
三階の回廊を奥まで暫く進むと、突き当たりにレイティ……レイティアの部屋がある。
重厚な木の扉をラッテが叩くと、レイティアがうんざりした声音で「どうぞ」と返事した。
ガチャリと扉が開くと、そこは豪華絢爛な装飾が施された部屋。
赤い絨毯が大理石の冷たい床を緩和するかのように敷かれ、中庭を一望できる大きな窓と、その窓から少し距離が置かれて設置された天蓋付きの大きなベッドがある。このベッドには金の装飾が施されていて、見た目の印象は『贅沢過ぎる蚊帳を』だった。
レイティアは部屋の中央に置かれた丸く白いテーブルの椅子に座り、紅茶のような飲み物を飲んでいる。
部屋に立ち込めいていた香ばしい匂いの正体はこれのようだ。
この世界では紅茶という名称じゃなかった気がする。なんだったかな……確かスリッパとかそんな名前だった気が……って、さすがにスリッパは違うだろ。
「レイティア様、お疲れですね。また大臣の’小言にでも付き合わされましたか?」
ラッテはレイティアの後ろ、定位置に着き、カラになったコップにポットからスリなんちゃらを注いだ。
「いえ。今回は保守派代表の〝アデントン公〟がね……。確かにアデントン公の言い分も理解できないことはないけど、だからと言って私を交渉材料にしようとするその卑しい考えには賛同しかねるわ……」
「保守派のアデントン公は話のわかる方ではありますが、なかなかの曲者です。なかなか諦めてはくれませんね」
保守派……? アデントン公……?
一体なんの話をしているんだろうか……てか、さっきから俺を放置し過ぎじゃないですかね?
俺はレイティアに対峙するように、テーブルの前まで進んだ。
「俺を忘れてないか……?」
レイティアは俺の身なりを観察するかのように目を下から上へと向けて、小さく頷いてから「うん。問題ないですね」と呟いた。
ちょっと失礼じゃないですかね、この姫様は。
まあ、そういうとこは音瑠そっくりだが……見た目も、ささやかお胸も。
「今、なにかとてつもなく失礼なことを考えてませんでしたか?」
「へ? い、いや!?」
やっぱりこのお姫様は読心術でも使えるんじゃないか!?
「……まあ、いいです、今はそれよりもあなたを元の世界に返す方法ですね……結論から申し上げますと、可能です。可能なのですが条件があります。その条件を解決できさえすれば、レオ様は元の世界に戻れるのですが……」
なんだか含みのある言い回しだな。まあ、大体こういう場合の条件はわかる……どうせ、『魔王を倒す』とかそういうテンプレな条件なんだろう。その前にこの夢から覚めちゃえばいいだけの話だ。
「……で、その条件は?」
しかし、レイティアは唇を固く結び俯いてしまった。
「レイティア様?」
ラッテが心配して声をかけるが、当の本人はバツが悪そうにモゾモゾとしている。
「俺も大体予想はしてる。魔王を倒せ……とかだろ?」
「そ、それは……違います」
え……? 違うの……?
「この魔道書によると……」
レイティアは壁際にある本棚に向かい、背伸びをして一冊の本を手に取り、それをテーブルの上に置いて、問題のページを広げた。この文字は確かこの世界の言語のようで普通なら読めないが、夢補正だろうか、どんなことが書いてあるのかが手に取るように理解できる。
「この一文です」
レイティアが指を指した部分を要約すると、召喚された英雄は、『召喚者の定めた願い』を叶えるまで元の世界への帰還は許されない……という内容だ。しかし、レイティアはさっき俺の質問に対して『違う』と否定した。つまり『魔王討伐』という願いではない。
「えっと、この文を要約すると、つまり──」
「あ、読めたから大丈夫だ」
「「読めた……ッ!?」」
レイティアとラッテは声を揃えて驚いていたが、今はそれよりもレイティアが願った望みが優先だ。俺はレイティアを真剣な目で見つめて、その望みを問いただすことにした。
「早くレイティ……レイティア様の望みってやつを教えて欲しいんだが」
そして、再びの沈黙……なんとも言えない空気が、部屋の中を包み込んだ。
「ふたり共、その……怒らないで聞いてくれますか……?」
「俺は兎も角、ラッテが怒るほどの理由なのか……」
聞くのが怖くなってきたぞ……。
ラッテもどこか緊張した様子で、強張っている表情を無理矢理平常心にしようとして、頬がピクピクと動いている。
「だ、大丈夫です……お話しください」
ここまで狼狽えるラッテは、ゲームでも見なかったな。もしかしたら、俺はとんでもない願いによって召喚されてしまったのではないかと、俺の額からも冷や汗が一筋垂れた。
「異世界の英雄が……」
「「英雄が?」」
「魔王と……」
「「魔王と……?」」
──おい、ちょっと待て。『魔王と』の『と』ってなんだ……?
「……番になって、幸せな世界を築きあげて欲しい、です」
青天の霹靂とは、まさにこのことだろう。
俺とラッテは互いに口を開けて、暫くレイティアが、今、なんて言ったのか理解するのに時間がかかった。
「レイティア様……今のは本当でしょうか? ……ご冗談ですよね」
「おいラッテ、今のは一応初対面の俺でも冗談だとわかるぞ? ……ったく、メイド長ならそれくらいわからないとダメだろ?」
「そ……、そうですよ、ね? 私としたことが……」
「「……」」
しかし、ふたりは気づくッ!!
召喚をしたレイティアがッ!!
沈黙ッ!!
圧倒的茶番ッッッ!!
「おい、嘘だろ……?」
「レイティア様……?」
「……ごめんなさい」
ざわ…… ざわ……
ざわ…… ざわ……
待て待て、ちょっと待てよッ!? 魔王ってあの魔王だぞ!? 『よくぞここまでたどり着いたな、まずは褒めてやろう』先輩だぞ!? 野太い声に、毛むくじゃらのゴリラみたいな体格に、足は羊のような蹄で、顔はゴリゴリのおっさんだぞ!? しかも、大きな二本の角が生えてるし、血は青いぞ!?
俺に、そんな趣味はねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!
倒れそうになるところをテーブルに手を置いてなんとか持ち堪えたが、ラッテはその場にへたり込んでしまっていた。
「こ、国王陛下に……なんと申し開きをすれば……」
頭を抱えて、今にも泡を吹いて倒れそうなほどに顔面蒼白になっている。
落ち着け……俺。これは夢だ。
覚めてしまえば元の生活に戻れるはずなんだ。
さあ、目を覚ませ……タイミングは今だぞ!!
「あ、あの……レオ様。もしかしたらですが、〝これは夢だ〟とお考えです……か?」
「え……」
「この魔道書の最初のページに〝召喚された英雄は夢だと勘違いする。その誤解は最初に解く必要がある〟と記載されているのを、ついさっき思い出したので……」
ヤバい……ヤバいヤバいヤバいッ!!
この流れは正しく『転生系ゲーム&ノベル&アニメ』のテンプレッ!!
だが、テンプレだからこそ、これは夢だとまだ思え──
「レオ様……もし納得できないようでしたら、この本の最終ページに描かれている魔法陣に手を翳してくれませんか?」
いいだろう……これが夢だと証明してやる。
俺は右手をその魔法陣に翳すと、魔法陣が宙に浮かび上がり文字を形成していく。この形は……日本語? 目の前にカタカナで名前がどんどん浮かび上がっている。どうやら、過去、この世界に召喚された英雄達の名前らしい。そして、最後に一文字……英雄一同より新入り英雄へ……とある。
その文にはこう添えられていた──
『草』
クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
これ、完全に煽りじゃねえか!! 草じゃねぇよ!!
なんでもかんでも草、草、草ァッ!!
語彙力なさ過ぎなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!
……俺もだけど。
しかし、これだけで『夢じゃない』という証明にはならない。絶対だ!!
「……仮に、だ。もしこの世界が夢じゃないなら、この世界で死んだら……?」
「レオ様の住んでいた世界と死の概念が同じだとするなら、心肺停止状態……命の終わり、です」
冗談だろ……? なあ、これは冗談だよな……?
さすがにこの俺も草を生やせざるを得ないぞ……?
だって、考えてみろ。いきなり戦争真っ只中な戦場に飛ばされて、銃弾飛び交う中、『これは夢ではない』とか言われて信じられるか!? むしろそれを『そうか、これは夢じゃないんだ』って開き直れる数々の名作ラノベ主人公の方が吃驚だ!! まあ、そういう意味でなら、このチートレベルなステータスが唯一の救いか……あと、アスカロンも入手できたしな。
だが、それはそれ、これはこれ──だ。
百歩、いや千歩譲ってこの世界が俺の夢じゃないとしよう。『俺が魔王と番になってこの世界を平和に導くぞ!』……って、なるはずあるかボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
「俺は認めないぞ……この世界は夢だ。だから、魔王と番にもならないし、いつか目が覚めて戻るんだ!!」
息を荒げながら、捲し立てるように宣言するが、レイティアはただ「そうですか……」と零すだけだった。
そんなやり取りを見ていたラッテは、どこか覚悟を決めたような顔で立ち上がると、レイティアに改めて膝をついて頭を下げた。
「ラッテ……? どうしたの……?」
「レイティア様。誠に申し訳御座いませんが、この度を持ちまして、この城を去ろうと思います」
「「はいっ!?」」
そうくるとは露とも思っていなかっただけに、俺とレイティアは声を揃えてしまった。
「ラッテ、それはつまり、責任を持って俺の旅に参加するとか、そういう誓いのアレか……?」
「そうなの……?」
「いえ、違います」
──違うのかよっ!!
ラッテが仲間に加わるイベントじゃないのかよっ!!
「この件が国王様に知られたら、私の責任となります。なので、先に申し上げておこうかと……」
「そんな……ラッテ……本気なの……?」
決意は硬いようで、レイティアを真っ直ぐ見つめている。
「この国の姫にこういった感情を向けるのは恐れ多いのですが、私はレイティア様を妹のように思っていました」
「わ、私だってラッテを姉のように慕っていたわ……だから、そんなことを言わないで!!」
空気が頗る重い、気まずい、帰りたい、帰りたい、あったかホームが待っている……。
レイティアは涙ボロボロ流してるし、ラッテはそれでも考えを変えないみたいだ。
本来、俺は被害者であり、これはレイティアの責任だ。
だから俺が罪悪感を抱く必要ないんだけど、目の前でこうも妹の姿で泣かれると、それはれでいた堪れないな……。
そうか──、そうなんだ。
数々の転生系ラノベの主人公達は、こんな『なんともいえない感覚』に苛まれて、結局悟りを開いたように順応するんだな……さすが先輩達、参考になります。
「つまり、国王陛下に知られなければ、ラッテはこの城を去ることもないんだろ? 俺はこの見た目だ。どこからどうみても冴えない男なんだろ? 国王陛下が俺を見たとしても、俺が召喚された英雄とは思わんだろ」
「「……確かに」」
そろそろ殴っていいかこいつら……。
「それに、俺には魔王と渡り合えるだけの力がある。ぶっちゃければ、この世界に他に召喚された英雄がいないなら、俺はこの世界で最強まであるからな」
おい、そんな痛い子を見るような目で俺を見るなよ……。
「だから俺は、夢が覚めるまでこの世界を謳歌しつつ、魔王軍に抗ってやるよ。それなら文句ないんだろ?」
ああ、クソ面倒臭ぇ……。
なんで俺がそんな貧乏くじを引かなきゃならんのだ。
でも、よくよくこれまでの人生を振り返ってみると、兄というだけで様々なことを我慢させられたし、それを思えば今回のこれも、規模が大き過ぎる妹のわがままと捉えれば……って、ちょっと苦しいか。でもやるしかないんだろ? あんなおっさん魔王、ワンパンでぶっ倒してやる。
無論──、おっさんと番になんて絶対にならないからな!!
「しかし、召喚の儀を執り行ったことを国王陛下にお伝えしなくていいのでしょうか……」
「……そうね。それはお父様にお伝えしなきゃいけないわね」
「黙ってりゃいいんじゃないか? わざわざ叱られに行くなんてどMだな」
「「どえむ……?」」
え、まさかこの世界にはこういう表現法方が存在しないのか?
「簡単に説明すると、自分を痛めつけたり、苦しめたりするのが好きなやつってことだ」
「そんな趣味はないですが……召喚の儀式をするには、それなりの対価を支払うんです。今回は〝魔力結晶三〇個〟だけで済んだのですが……」
魔力結晶は、モンスターを倒すとよくドロップする低級素材のひとつで、これを一〇〇個集めて、ようやく『魔力水晶』と同格の力になる。つまり、俺にかかったコストはめっちゃ破格ということだ。
「安過ぎるだろ……俺……まあ、それくらいなら俺が集めてやるよ。モンスター共を倒してくりゃいいんだろ?」
「まあ、そうなんですけど……魔物、モンスターは凶暴化していて、手練の兵士でも苦戦するほどの力を持っています。一匹倒すのも苦労しますよ? それをひとりで三〇匹だなんて……」
ラッテが珍しく、俺を心配してくれている。
「もしレオ様になにかあれば、やはり私の責任となりますので……」
──そういうことですか。……わかってたけどさ。
「ちなみに、この辺りにはどんなモンスターが?」
それについてはレイティアが説明するようで、再び椅子から立ち上がって本棚まで歩き、これまた再び背伸びをして一冊の本を取り出した。そんなに取るのに苦労するなら、もっと下に置いておけばいいのに、不便なやつだな。
手に取った本は、どうやらモンスターについてが記載されている、RPGお決まりの『モンスター図鑑』のようで、その図鑑をテーブルに広げると、図鑑には手描きのイラストと特徴がまとめられていた。
「この辺りによく出現するのは、レッドリザードマン、フロッグゲル、デスアメーバ、キラーボア……あとは夜になるとアンデッド系が増えて、ゾンビドッグ、グリーンスカルナイト、グランインプ……それから」
「──多過ぎだろ!? ここはラストダンジョンかっ!?」
最初の街のモンスターと言えば、ブルーアメーバと闇カラスと相場が決まっているはずなのに、名前が出てきたモンスター達は、全部ラストダンジョンでエンカウントするモンスターばかりだ。
一体、この世界はどうなってんだ……!?
てか、最初の街にこれだけのモンスターを配置するとか、クソゲーもいいとこだろ。
こんなの……普通なら一歩も外に出れずに終わるレベルだ。
「これだけの量のモンスターが外を彷徨いているので、兵士達も、民も、不安で押し潰されそうになっているんです」
なるほど……そう言われれば、街に配備されていた兵士達も頷ける……が、あまり厳戒態勢ではなさそうだったのはなぜだろうか? これだけの量だぞ? こいつら一匹ずつだけ……という話じゃあるまいし、もっと厳戒態勢を取って守りを固めるべきなんじゃないのか?
「本来ならば警戒レベルを引き上げて、いつ攻め込まれてもいいように備えるべきなのですが、そうすると、それだけの資材を消耗してしまいます。この状況だと、外からの物資もなかなか届かないので警戒レベルを上げるに上げられないのが現状です。今、この国を守ろうという保守派のアデントン公と、こちらから攻め込もうという過激派のデュラン公の間でいがみ合いが続いていますが、どう立ち回るのが最善なのか、なかなか議論が進まないのです」
確か、保守派のアデントン公はレイティアをダシにして、その議論に突破口を作ろうとしているヤツだったな。過激派のデュラン公は知らないが、どちらも曲者なんだろう。だから、いつまで経っても議論が進まないんだ。だが、今は足踏みしている暇はないのではないか?
これほどのモンスターが街の外を彷徨いている状態だ。今、ヤツらが攻めて来たら一溜りもないだろう。
特にレッドリザードマンは厄介だ。竜人族は硬い。それに火を吹くし、攻撃力も高い。
初めてラストダンジョンに挑戦した時は、何度となく苦しめられたのは懐かしい話だ。
「国は動かない。ゆえに兵士も動けない……ってわけか。そりゃ兵士達もどうしていいのかわからないから苛々するわな……」
きっと、髭面門番兵もそういう理由で苛々していたんだろう……そうだと信じたい。
「じゃあ、手鳴らし程度に三〇匹くらい狩ってくるか」
幸いにもラッテと手合わせをして、自分の体が思いの他動くことがわかったし、この調子なら楽勝だろう。
ゲームのエンカウントはランダムエンカウントだったけど、この世界はきっとシンボルエンカウントだ。
敵が見えるのならそれだけやりようはある。背後からの奇襲も簡単そうだ。
「あ、そうでした……レオ様、これを」
ラッテが手渡してくれたのは、ごく一般なロングソードだ。
「これは……?」
「ローグから預かったものです。アスカロンを使えなかった時用の予備武器ですね」
「そ、そうか……でも、不要な気がするなぁ……」
「一応、お持ちください」
左の腰にロングソードを下げると、背負っているアスカロンとガチガチ当たってウザったい。
「やっぱこれ、要らない……」
返そうとした時、レイティアがロングソードを徐に取り上げると、俺の背後に回り込んで、なにやらカチャカチャと俺の腰に取り付けている。
「本来は横に下げるのですが、こういう装備の仕方もありではないでしょうか?」
作業は一瞬で終わり、俺の腰辺りにロングソードが下げられている。確かに、これなら邪魔にならないし、使う時は横にずらせばいいってわけだ。
「これなら邪魔にならなそうだな。ありがとう、レイティア」
「いえ、大したことはしていませんよ。では、モンスター討伐の件、よろしくお願いします」
「レイティア様の尻拭いは、本来私の務めなのですが……レオ様、申し訳御座いませんが、何卒ご無事で……」
「……え?」
もう、出発しなきゃいけない雰囲気が漂う中、俺にはもうひとつ不安要素がある。
「ひとつ質問していいか、レイティア」
「はい?」
「……これから俺はどこに泊まればいいんだ?」
「「あ……」」
こいつら、全く考えてなかったのかよっ!?
「当分はこの街に滞在することになりますよね。それなら私が宿を手配しておきます」
ラッテは開き直ったのか、それとも先ほどの条件に満足したのか知る由もないが、元気になったみたいだ。表情もどこか柔らかくなっている。
「そうね。ラッテ、お願いできるかしら?」
こっちもこっちで心配の種が取り除かれた分、ようやく本来のレイティアに戻りつつある。
「はい。では行って参ります……さあ、レオ様。行きますよ」
「え? あ、ああ……急だな」
折角レイティアの部屋に入れたってのに、少しも堪能することなく終わってしまった。もう少し『女の子の部屋』という魅惑の箱庭を堪能したかったんだが……キモいな、引くわ。
後ろ髪を引かれる思いで、俺はレイティアの部屋を後にした。
── ── ──
部屋の扉を閉めてから、暫く城の回廊を歩いていたが、急にラッテは立ち止まった。
「おい、どうした? 腹でも痛くなったか?」
「……私は、本当にこれでいいのでしょうか?」
鮮やか過ぎるくらいのシカトだな……。
ラッテはまだ葛藤していたみたいだな──まあ、その気持ちはわからないでもない。
やましい気持ちがある時って、それを謝らなければならないという強迫観念と、このままやり過ごしてしまおうという心の声に苛まれる。
今、ラッテはその状況なのだろう。
ちゃんと国王陛下に報告するのがメイド長として当然の責務ではあるものの、報告したら確実にクビにされてしまう。
いや、それだけならいい。
最悪の場合、処刑なんてことも有り得るのだ。
でも、この国の国王陛下ってそんな血も涙もないやつだったか? 物わかりがよくて、優しくて、温厚で、民からの信頼も厚い立派な国王だった気がするんだが……。
でも、この世界は俺が知っている世界ではないと理解もしている。
予想外、想定外、不測の事態が起きたとしても致し方ないことは覚悟しておかないとならないな……回避できる危機は回避するのが妥当だ。
ラッテがここまで迷うとなると、最悪の事態になる可能性が高いのが見て取れる。
「お前はなにも知らない。なにも見てない。俺とはついさっきお迎えで知り合った……それでいいだろ」
「そう、ですか……」
頭では納得しているが、心では納得できてないんだろう。
こうやってわからないことをグズグズ悩んだって解決することはない。
逃げることだってひとつの戦略だ。
逃げるが勝ちという言葉だってあるし。
「てか、こんな場所でする話じゃない。続きは宿に着いてからにしないか?」
「はい……そうします」
そうは言ったものの、俺自身も一抹の不安はある。
例えばモンスターを討伐すると、それだけこの付近のモンスターが減るとは思うが、それを怪しまれる危険性があるからだ。
今まで彷徨いていたモンスターの数が激減していたりすれば、街の人達はありがたいとは思うだろう。
しかし、兵士達からすれば『なぜだ?』と疑問視する者もいる。さらに言えば、俺はレベル的にここら辺のモンスターなんてワンパンできるくらいの力がある。もし戦闘を見られでもしたら、俺が『召喚された英雄かもしれない』と、怪しむ者もいるだろう。なので、モンスターと戦う前に、周囲の確認も怠らないようにしないといけない。
これじゃあまるで、ステルスゲームみたいだな……堂々と行動するには時間が必要になりそうだ。
── ── ──
『正門』から城を出て、再び城下にある街に戻ってきたわけだが、これから向かう宿というのは、やはりあそこしかないだろう。
この街にある宿屋と言えば、初心者プレイヤー御用達の格安宿『招き猫』だ。
ここで働いているのは恰幅の良い女将のアリアージュ=レイモン、そして、看板娘であるモラ、大将であり、アリアージュの夫であるアーマンは名前こそ様々な場所で聞くものの、結局、最後まで姿を見せなかったキャラなのだが、もしかするとこの世界で『ロード・トゥ・イスタ』始まって以来の最大の謎に迫れるかもしれない……これは少しワクワクしてしまうぞ。
ラッテが立ち止まった宿屋はやはり宿屋『招き猫』だった。
「この宿屋がおすすめですが、どうでしょうか?」
「お、おう……入ろうか」
アーマンの姿を確認できるかもしれないという興奮と、女性とふたりでこういう場所に入るという背徳感のようなものが入り混じって意味不明な緊張をしてしまっている俺を他所に、ラッテはお構いなしに入っていく。
招き猫の内観は、やはりゲームと同じだったが、こちらの方が年季が入ってるように感じる。
入り口のドアを開けると飲食スペースを兼ねた受け付けがあり、その飲食スペースでは数人の男達が酒を煽っていた。
二階に上がる階段は、この部屋の左奥にあり、この階段の上が宿泊する部屋で、飲食スペースのあるこのエントランスの左側だキッチンだ。
キッチンからは焼いた肉の香ばしい匂いが漂い、俺の腹の虫が鳴った。このキッチンで、件の大将、アーマンが調理しているはずだが……。
「アリアージュ、こんにちは。部屋をお借りしたいのですが空いていますか?」
キョロキョロと宿の中を覗いている俺なんて全く気にせずに、ラッテは事務的に役割を果たしている。
「あら、ラッテちゃんじゃない。そこにいる若い子は彼氏?」
……ん? そういうばあの受け付けにいるご婦人、さっきラッテは『アリアージュ』と呼んでたけど……え?
ナイスバデェの人妻様じゃないか!?
こういう上方修正は素晴らしいぞ運営!!
いや、これはゲームの世界ではなくて俺の夢(仮)なんだよな……ナイス俺!!
「いえ。違います。あの方はレイティア様のご友人です」
ん……?
即答されるのはもう慣れたけど、『知人』から『友人』にランクアップしているのは素直に嬉しい。
俺はアリアージュの元まで歩き、軽く自己紹介をした。
「剣士のレオです。よろしくお願いします」
俺が自己紹介をしている様子を見たラッテが、少し驚いた表情を浮かべた。
「……なんだよ」
「いえ……まともに自己紹介しているところを初めて見たので、つい……」
「あのなぁ……これからお世話になる人なんだから、そういうのはちゃんとしないとダメだろ」
「そうなんですが……ちょっと見直しました」
なにが悲しいって、当たり前のことを当たり前にしただけで見直されることが悲しい。
ラッテから見る俺の印象って、かなり最悪だったんだと、この時点で俺はようやく理解した。
「あらあら……仲がいいわね。私はこの宿の女将をしているアリアージュと申します。これから短い間だけど、よろしくね? それで部屋だけど、勿論空いてるわ。ふたりで泊まるのかしら?」
「それはあり得ません」
「じゃあ、レオ君だけ?」
「はい。ラッテはメイドとしてレイティア様のお世話をしなければならないので。私はしばらくの間この街に滞在しながら、付近のモンスターを倒しつつ、腕を磨こうと考えています。なので、しばらくはこの宿で連泊させていただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
おい、今喋ってるのって俺だよな? もうひとりの僕的な存在じゃないよな?
すげぇ礼儀正しい好青年じゃん……自分でも吃驚だわ。
やはり、年上の美人さんの前だと態度って変わるもんなんだな……おいラッテ、だからってその目やめろ。ラッテ繋がりのダジャレではないぞ?
「連泊? 大歓迎だわ! このご時世だから旅人も少なくて大変だったから。それで、いつ頃まで滞在予定かしら?」
期間か……正直な話、いつまでこの場所に留まるのか考えてなかったな。
モンスターを三〇匹倒して魔力結晶を採取しなきゃならないが、正直、ゲームの時の戦闘と、実際に剣を振っての戦闘は全然違う。ラッテと交えた時、それを感じた。だから、いくら俺のステがチートレベルであったとしても、疲労や集中力の低下によって、思い通りに動けるとは限らない。そして、実際にモンスターと相対した時、俺自身が臆することなく戦えるのかも疑問だ。
最低でも一日三個採取と考えて、それが三〇個だから約一ヶ月くらいだろうか? ──いや、一ヶ月も猶予があるなら、あそこまでラッテが狼狽えるはずもない。最長でも……二週間くらいが限度だろうか?
「滞在期間については後でもいいでしょうか?」
ラッテの言葉から推測すると、やはり時間はあまりないようだ。
「ええ、大丈夫よ。一応伝えておくけど、この宿は宿泊と食事の料金は別で、宿泊だけなら五〇〇R、食事付きで八〇〇Rね? 二日目からは五〇R引きで七五〇Rになるわ」
値段が跳ね上がっている!?
これも魔王軍の弊害なのか……?
それとも夢の弊害か……!?
……ま、支払いはレイティア持ちだし、気にする必要はないが、これから旅をすることを考えると覚えておいた方がいいかもしれない。しかし一〇倍か……うめぇ棒一本一〇〇円と考えると恐ろしい……。
「じゃあ、部屋に案内するわね? モラー?」
ついに看板娘のモラの登場か!!
ゲームでは可愛い勝ったし、きっと実物も可愛いんだろうなぁ!!
──フラグじゃないぞ?
「はーい! 今行きまーす!」
受け付けの奥にあるドアの奥から元気な声が店内に響き、ガチャリとドアが開くと、そこには母親譲りの金色の長い髪をポニーテールにしている明るい笑顔を見せている女の子が現れた。
身長は母親より低い……推定一五〇センチくらいだ。
やはり、ゲーム同様に可愛い……いや、実物の方が可愛いぞ!!
なんて、心の中でガッツポーズしながら元気いっぱいな笑顔に癒されていると、隣に立っているラッテが冷ややかな目を向けている。大丈夫。俺はそんな目には気づいてない。全然気づいてない。
「……なんだよその目は」
「いいえ。仮にも英雄であるあなたを少しでも見直した私が間違いだったと気づいただけですので、お気になさらないでください」
ラッテの好感度がだだ下がる音が聞こえた気がするのはきっと勘違いだよな?
もう下がる必要ないもんな?
絶対最低値だろうし、下がる必要ないだろ?
「初めまして! 私はモラ=レイモンと申します! なにかお困りの際は気軽にお声がけくださいね! では、お部屋までご案内いたしましゅ! ……いたしましゅ! ……えへへ?」
神よ、この可愛い生物を愛でる資格を我に与えたまえ……。
噛んで言い直そうとして再び噛むなんて……しかも笑って誤魔化そうとするその笑顔も最高に可愛いとか、これは反則だ……。年齢が近いなら是非お突き合い……いや、お付き合いさせて欲しい。だが身長と体格、童顔なこの女の子、どう見ても幼女にしか見えない。犯罪者にはなりたくないし、ここはおとなしくファンでいよう……。
案内されたのは二回の東角の部屋で、とりわけ綺麗とかではないが、こう……冒険者になったんだと改めて実感するような部屋だった。
角部屋なので窓がふたつある。朝、この窓から朝日が差して、とても気持ち良さそうだ。
「折角の角部屋なのに、明日から天気が崩れそうなのが残念ですね……では、ごゆっくりどうぞ!」
……希望を打ち砕いて去っていくこの感じ、嫌いじゃない。
ラッテをベッドに座らせて、俺は部屋の隅にあった木製の椅子を引っ張りだして座った。
「さて、なにから話そうか?」
「では、その腐った性根がいつから育ったのかを……」
うわぁ……なんだかラッテが面倒臭い彼女みたいになってるんだが……。
「俺の性根が腐ってるのは生まれつきだ、悪かったな。てか、そんなことどうでもいいだろ。これからどうすればいいのかを話すべきなんじゃないのか!?」
「そうでしたね。サエナイ様」
これで確信した。
ラッテルートは固く閉ざされたのだ……と。
「先ずは魔力結晶の納期についてだが……これは一番重要事項だろ? さすがに一ヶ月なんて猶予は──」
「──最低でも、二ヶ月は……」
「え?」
「はい?」
二ヶ月? 今、二ヶ月って言ったよな?
俺の聞き間違いじゃなければ、絶対に『二ヶ月』って言ったよな?
「そんな悠長にことを構えていていいのか? 二ヶ月だぞ? その間に魔力結晶が減っていることに気づくやつもいるんじゃないか?」
これが一番最悪なパターンだ。
失敗や過ちは、ことが起きた時、直ぐに謝罪をすれば少しくらい大目に見て貰えたりする。しかし、自身の過失を隠蔽して、それを見抜かれた時は、倍くらい怒られるのだ。ソースは俺だけど、これは一般常識的な認知として間違いないだろう。
「多分ですが、魔力結晶が減ったことに気づく者は少ないと思います。魔力結晶やそれらの特殊な素材は〝それなりの地位にいる者しか立ち入れない場所〟なのです。そして、それをひとつずつ確認する者なんてその中でも数名程度。ゆえに、私はこの件のタイムリミットが二ヶ月と推定しました。丁度、その頃に資材を確認をするので間違いはないかと」
一見、大丈夫のように思えるが、今の話の中には不測の事態が含まれていない。例えば、気まぐれで国王陛下がその場所を調べたら? 城内滞在の鍛治職人が、素材を確認しに来たら? そういう『もしも』を考慮した上で、こちらは動くべきなのだろう。それが『リスク管理』というものだ。常にリスクを考えて行動して、最善手を模索する。これはダンジョン攻略や、強敵とのバトルなんかでよくやっているから、馬鹿な俺でも少しは考えられる。
「ラッテ。〝もしも〟を考えてないぞ。メイド長であり、アサシンでもあるラッテが、そんなでどうする? 俺が考えるに、この件の納期は余裕を見ても〝二週間〟だ。根拠は今まで街を見たり、話を聞いたりして感じた〝経済難〟と〝魔王軍〟のふたつ。現状、資材が足りていない状態が続いているこの世界で、資材を確認するのが二ヶ月後……なんておかしいだろ。常日頃チェックして、なにが幾つ減っているのか確認するのが当然。だから本来二週間なんて甘っちょろい納期期間ではなく、遅くても三日で納品を完了しなきゃならない。だが、俺はそんなに早くモンスターを倒して、魔力結晶を集められるかわからない。実際にモンスターと戦ってないし、ドロップ率も不確かだ。それに、この世界は俺が知らない世界。俺の知っている常識が通じないということもよくわかったし、不測の事態が起きることも実感している。だから、それらを引っ括めて出した期間が〝二週間〟という時間だ。……どうだ?」
本当は他にも理由はあるが、どんな言葉を並べても、結局『早く納品する』に越したことはない。……あれ? 俺ってこんなに頭の回転がいいやつだったか?
「なるほど……確かに近年、魔王軍の侵略により物資が少なくなっていることは確かです。私としたことが、レオ様に思考で後れを取るとは……人は見かけで判断してはいけないということですかね」
一々言葉の最後に俺をディスるのやめてもらえませんかこのやろう。
「俺の見た目なんて今はどうでもいいだろ……。とりあえず、今から街の外に出てモンスターがどういう状況なのかを偵察して、可能なら数匹狩ってみるつもりだ」
アスカロンがどの程度再現されているのかも気になるし、試し斬りしたいという理由もあるけど、やはり実際に、この目でモンスターを確認しておきたい。
俺は……ビビらずにモンスターと対峙できるのだろうか?
──そこが一番重要でもある。
相手は人外、異形の者だ。画面越しに見るのと、実際に相対するのとはわけが違う。しかし、こんな状態でもまだ『恐怖』を感じないのは自分が強いという自負によるものか、それとも現実味のないこの世界に、まだ半信半疑だからだろうか。ふと、レイティアの言葉が脳裏を掠める。
この世界での死は、俺の世界での死という概念と相違ない。つまり、『これはゲームであってゲームではない』的なデスゲームと似ているのか。むしろ『これは夢であって夢じゃない』という方がしっくりくる。ふむ……確かに言い得て妙だな。
「では、滞在日数に関しては一応一ヶ月にして、不測の事態が発生した場合も想定して、今一度作戦を立て直す必要がある……ということでどうでしょうか?」
なかなかふわっとしているが、現状それぐらいしか言えないのも事実。
「そうだな……それじゃ、ひと狩りしてくるぜ」
「あ……」
立ち上がった俺を制止するような声音をラッテが零した。
「ひとつ確認してもよろしいでしょうか?」
「なんだよ」
「どろっぷ……とはなんでしょうか?」
これだからトーシローは……それくらいググれ!! とも言えないか。
この世界にはインターネットなんてないもんな。
「俺の世界ではモンスターを倒すとアイテム……道具や金を落とすんだ。それを〝ドロップ〟と呼ぶ。……わかったか?」
「モンスターが……お金を……? レオ様の世界ではモンスターが街で買い物でもするのですか……?」
ここに来てこれかよ……まあ、いつかはこういう勘違いが起きるとは思ってたけど。
「きっと魔界で使ってるんじゃないか? 知らないけど」
「なんと……魔界と同じ通過をレオ様の世界では使っているんですか!?」
目を丸くしているラッテだが、そもそも俺の住んでいた世界にモンスターなんて出現しないし、これは全てゲームの話だ。それを一々説明したところで、ラッテが理解できるとは思えない。
「まあ、そういう世界なんだよ」
説明するのも面倒になった俺は、適当に返事をして部屋の出入口まで進み、ドアノブに手を掛けた。
「それじゃあ、俺は出発するが……ラッテはどうする?」
「私は一度城に戻り、レイティア様と今後について相談します」
「そーかい。じゃ、また後でな」
ラッテは俺の背後で「行ってらっしゃいませ」と見送ってくれた。
やっとモンスターと初対面か……RPGらしくなってきたじゃねぇの……。
意気込みを胸に宿して、俺は宿屋から出て、街の出口へと向かった。
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