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信長と元康
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俺の名は、織田信長だ。尾張の国守、織田信秀の子として生まれ、国を背負うべく育てられた。俺が吉法師と名乗っていた頃、竹千代は来た。
竹千代は六歳だそうで、子兎みたいな印象だった。そんな子兎でも、三河を治める松平広忠の息子だ。しかも嫡男だから、将来は三河の国を治める国守になる。丁重に扱わねぇ~とな。
その竹千代、尾張に来た経緯が複雑だった。元々は、駿府の今川の元へ送られる筈が、反対方向の尾張に連れて来られた。俺は、そんな若君の面倒をみたのさ。若君同士だからな。
親父の信秀は、広忠が竹千代を見捨てて今川に組みすると聞き、頭に血が昇って人質を処刑しようとしたが、すぐに思い止まった。三河の現当主の広忠が死ねば、竹千代が次の当主になる。竹千代を伴えば、織田の軍勢が三河入りをする正当な理由ができる。だから、親父は俺に竹千代と仲良くしろと言う。まぁ、勿の論だ。それから、毎日のように相撲の稽古で遊んでやった。本人は泣きながら喜んでいたな。
竹千代は、寅年、寅の月、寅の日、寅の刻に生まれた四虎様だと言う。ところで、俺は虎を見た事がない。親父に、「何で日の本には虎が居ない?」と聞くと、親父は、「俺が全て駆逐したから」だと言う。まぁ、嘘だ。それはともかく、虎は龍と違って遠い異国には生息しているらしい。まだまだ、俺の知らない事は沢山ある。世界は日の本だけじゃない。まずは、天下統一をして、全てを手に入れたいと思っている。
ところで、三河の竹千代だが、今川に奪い返された。これは俺じゃなく、父の失策になる。今川勢に安祥城を落とされ、俺の腹違いの兄の信広が捕らわれた。今川が信広との交換に要求したのは、竹千代だった。これで、俺は竹千代と別れる事になる。さて、竹千代は虎の皮を被った兎なのか、兎の皮を被った虎なのか、再会した時が楽しみだ。
その後、親父が死に、俺が織田家の当主になった。隣国の美濃から嫁も貰った。ところが、美濃は内乱が起こり、義理の父の斎藤道三が倒される。美濃のマムシと異名を取る奴でもしくじる事はある。因みに、マムシは蝮と書く。親の腹を食い破って出て来るからこの字が使われたとするが、息子の義龍に倒されたとあっては、蝮らしい最期かも知れん。
さて、尾張の指導権は俺が握った。家臣の中には、「もうおわり」などと陰口を叩く者も居るが、目にものを見せてやるぞ。
とにかく、駿府の今川を倒す。何故なら、今川義元は俺の真逆だからだ。義元は、甲斐の武田、相模の北条と手を結び、共存共栄の共同体を作ろうとしている。力で従わせようとせず、利害を一致させて理解し合おうとしている。各国守による同盟は、今川を中心に広がって行くだろう。だが、俺は覇道を目指す。武力による統合で日の本を一つにする。覇道に転がる岩は、取り除く。大きな岩の一つである今川は、早めに潰す必要がある。
俺は、鳴海城と大高城を攻めるべく行動した。鷲津砦と丸根砦を構築し、攻城の拠点とした。その後の今川の反撃は想定内だった。
今川の反撃に苦戦すると、家臣たちが文句を言い出す。「やれ出陣しろ」だの、「籠城の備えをしろ」だの、煩くて敵わない。俺は、家臣の苦情を無視した。
さて、いよいよ、機は熟した。この戦に全てを賭ける。家臣の陰口の様に、おわりになっても構わない。
通常なら、本隊同士が対峙して戦う場合、かなりの時間を浪費する。小競り合いでも二、三日かかる事も多いので、大軍となれば一週間でも早い方だと言えた。そうなると、敵の城を残して置くと、そこから援軍が来て、敵に背後や側面を突かれてしまう。そうならない様に手前の敵城を落として進軍するのが戦の定石になる。だが、俺は敢えて敵城を放置して、今川軍の本隊を攻める。調べでは、今川義元は桶狭間に本陣を敷いている。
決行前夜、家臣を集めて会議をする。だが、作戦の事は言わない。家臣の愚痴を聞く会合になった。これを深夜まで我慢した。これで、内通も寝返りも防げる。作戦は、敵だけでなく、味方にも訳が分からない内に実行する必要があった。
何故、味方にもかと言うと、前線で敵城を攻略中の味方を、素通りして進軍する必要があったからだ。家臣から必ず反発されるだろう。捨て身の行動をしなければ、勝機はない。
明け方、今川軍が鷲津、丸根の両砦に攻撃を始めたとの報告が入った。俺は、すぐに敦盛を舞う。「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」これは、遺言のつもりだった。
舞う間に、各所に伝令を届ける。
支度を整え、尾張の軍勢を率いて出陣した。
進軍中、天気が急変し、雨が激しく降る。これは、俺の運命を呪っているのか? いや、考えようによっては、敵に悟られずに侵攻できるとも言える。
今川義元は、小高い場所に布陣していた。赤鳥紋の馬印まで見える。雨の中を強行して来た甲斐があった。
その時、天も合力してくれた様に雨が上がる。俺は、突撃の命令を出す。
「物ども、今川義元の輿があるぞ、大将の首級を上げよ!」
号令の元、織田の軍勢が今川軍に襲い掛かる。相手は完全に不意打ちとなり、総崩れした。
我が軍は、今川の将を次々と討ち取る。今川義元は、勇敢に戦いつつも、ついに最期を迎えた。
俺は、義元の首実験をした。白塗りにお歯黒を塗った上品な公家顔だった。死に様、生き様、共に感服する。首は丁重に扱う様に命じた。
さて、次は大高城へ進軍するつもりだった。竹千代、いや、松平元康が入っていると聞く。別に攻め取るつもりは無い。尾張で体勢を立て直す方が先だから、挨拶するだけだった。駿府と三河、それに遠江は、武田と北条の取り合いになるだろう。さて、元康はどう出るか? 先が楽しみではある。
竹千代は六歳だそうで、子兎みたいな印象だった。そんな子兎でも、三河を治める松平広忠の息子だ。しかも嫡男だから、将来は三河の国を治める国守になる。丁重に扱わねぇ~とな。
その竹千代、尾張に来た経緯が複雑だった。元々は、駿府の今川の元へ送られる筈が、反対方向の尾張に連れて来られた。俺は、そんな若君の面倒をみたのさ。若君同士だからな。
親父の信秀は、広忠が竹千代を見捨てて今川に組みすると聞き、頭に血が昇って人質を処刑しようとしたが、すぐに思い止まった。三河の現当主の広忠が死ねば、竹千代が次の当主になる。竹千代を伴えば、織田の軍勢が三河入りをする正当な理由ができる。だから、親父は俺に竹千代と仲良くしろと言う。まぁ、勿の論だ。それから、毎日のように相撲の稽古で遊んでやった。本人は泣きながら喜んでいたな。
竹千代は、寅年、寅の月、寅の日、寅の刻に生まれた四虎様だと言う。ところで、俺は虎を見た事がない。親父に、「何で日の本には虎が居ない?」と聞くと、親父は、「俺が全て駆逐したから」だと言う。まぁ、嘘だ。それはともかく、虎は龍と違って遠い異国には生息しているらしい。まだまだ、俺の知らない事は沢山ある。世界は日の本だけじゃない。まずは、天下統一をして、全てを手に入れたいと思っている。
ところで、三河の竹千代だが、今川に奪い返された。これは俺じゃなく、父の失策になる。今川勢に安祥城を落とされ、俺の腹違いの兄の信広が捕らわれた。今川が信広との交換に要求したのは、竹千代だった。これで、俺は竹千代と別れる事になる。さて、竹千代は虎の皮を被った兎なのか、兎の皮を被った虎なのか、再会した時が楽しみだ。
その後、親父が死に、俺が織田家の当主になった。隣国の美濃から嫁も貰った。ところが、美濃は内乱が起こり、義理の父の斎藤道三が倒される。美濃のマムシと異名を取る奴でもしくじる事はある。因みに、マムシは蝮と書く。親の腹を食い破って出て来るからこの字が使われたとするが、息子の義龍に倒されたとあっては、蝮らしい最期かも知れん。
さて、尾張の指導権は俺が握った。家臣の中には、「もうおわり」などと陰口を叩く者も居るが、目にものを見せてやるぞ。
とにかく、駿府の今川を倒す。何故なら、今川義元は俺の真逆だからだ。義元は、甲斐の武田、相模の北条と手を結び、共存共栄の共同体を作ろうとしている。力で従わせようとせず、利害を一致させて理解し合おうとしている。各国守による同盟は、今川を中心に広がって行くだろう。だが、俺は覇道を目指す。武力による統合で日の本を一つにする。覇道に転がる岩は、取り除く。大きな岩の一つである今川は、早めに潰す必要がある。
俺は、鳴海城と大高城を攻めるべく行動した。鷲津砦と丸根砦を構築し、攻城の拠点とした。その後の今川の反撃は想定内だった。
今川の反撃に苦戦すると、家臣たちが文句を言い出す。「やれ出陣しろ」だの、「籠城の備えをしろ」だの、煩くて敵わない。俺は、家臣の苦情を無視した。
さて、いよいよ、機は熟した。この戦に全てを賭ける。家臣の陰口の様に、おわりになっても構わない。
通常なら、本隊同士が対峙して戦う場合、かなりの時間を浪費する。小競り合いでも二、三日かかる事も多いので、大軍となれば一週間でも早い方だと言えた。そうなると、敵の城を残して置くと、そこから援軍が来て、敵に背後や側面を突かれてしまう。そうならない様に手前の敵城を落として進軍するのが戦の定石になる。だが、俺は敢えて敵城を放置して、今川軍の本隊を攻める。調べでは、今川義元は桶狭間に本陣を敷いている。
決行前夜、家臣を集めて会議をする。だが、作戦の事は言わない。家臣の愚痴を聞く会合になった。これを深夜まで我慢した。これで、内通も寝返りも防げる。作戦は、敵だけでなく、味方にも訳が分からない内に実行する必要があった。
何故、味方にもかと言うと、前線で敵城を攻略中の味方を、素通りして進軍する必要があったからだ。家臣から必ず反発されるだろう。捨て身の行動をしなければ、勝機はない。
明け方、今川軍が鷲津、丸根の両砦に攻撃を始めたとの報告が入った。俺は、すぐに敦盛を舞う。「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」これは、遺言のつもりだった。
舞う間に、各所に伝令を届ける。
支度を整え、尾張の軍勢を率いて出陣した。
進軍中、天気が急変し、雨が激しく降る。これは、俺の運命を呪っているのか? いや、考えようによっては、敵に悟られずに侵攻できるとも言える。
今川義元は、小高い場所に布陣していた。赤鳥紋の馬印まで見える。雨の中を強行して来た甲斐があった。
その時、天も合力してくれた様に雨が上がる。俺は、突撃の命令を出す。
「物ども、今川義元の輿があるぞ、大将の首級を上げよ!」
号令の元、織田の軍勢が今川軍に襲い掛かる。相手は完全に不意打ちとなり、総崩れした。
我が軍は、今川の将を次々と討ち取る。今川義元は、勇敢に戦いつつも、ついに最期を迎えた。
俺は、義元の首実験をした。白塗りにお歯黒を塗った上品な公家顔だった。死に様、生き様、共に感服する。首は丁重に扱う様に命じた。
さて、次は大高城へ進軍するつもりだった。竹千代、いや、松平元康が入っていると聞く。別に攻め取るつもりは無い。尾張で体勢を立て直す方が先だから、挨拶するだけだった。駿府と三河、それに遠江は、武田と北条の取り合いになるだろう。さて、元康はどう出るか? 先が楽しみではある。
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