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新説、斎藤一
◯その二十一
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介錯を務めた六人は、座敷に呼ばれ、報奨金を受け取った。だが、介錯に失敗した武田観柳斎ともう一人、浅野薫は、厳重注意と訓戒が与えられ、次の失敗は死を意味すると脅された。
さて、見せしめとも言える処刑の後、壬生の屯所は緊迫した。三人を平気で処分する組織に、戦慄を禁じ得ない。そんな中、斎藤一は、隊士を連れて洛中を巡察する。新たな隊士が三人加わり、五人を率いた。
不逞浪士は、壬生浪士組の恐ろしさが浸透してきたようで、以前ほど挑発的な態度は示さなかった。やはり、無謀な連中でも斬り合いは怖いだろう。だから、威圧的な黒装束で闊歩する集団を避けるようになる。壬生浪士組の中で、大多数を占める近藤勇を支持する連中は、揃いの黒装束を着ていた。一方、芹沢鴨が主導する水戸派は、芹沢があつらえた浅葱色の羽織を着用していた。両派は服装でも対立していた。
斎藤は、壬生浪士組の内情を、やそを通して会津藩に報告していた。隊士の数の増減や、幹部の発言や、出入りする業者の話も洩らす。
「やそさん、いま、壬生に出入りしている医師は、傷を針と糸で縫うんですよ」
斎藤は、やそに食事中の会話で教える。やそは、驚いていた。
「なんだか、お裁縫みたいですね」
斎藤は、口数が少ない方なので、やその反応に微笑んでいた。
さて、斎藤は、殺伐とした隊務に追われつつ、やその諜報活動に協力する。壬生浪士組は、斎藤の報告の成果か、次第に表舞台でも活躍するようになる。八・一八の政変では、誠と描かれた旗を押し立て、御所の警護に出動した。これは、七卿落ちと呼ばれる事件で、長州藩が後押しする、過激な攘夷実行を唱える公家たちを、天子様の側から遠ざけ、長州に追放する動きだった。薩摩、会津、桑名の公武合体派が実権を握り、長州藩が京都の表舞台から遠ざかる。壬生浪士組では、会津藩からの密命で、芹沢鴨たち水戸派を排除する。隊名も新撰組に改め、近藤勇を支える体制ができあがった。
そんなある日、壬生の屯所に行くと、原田左之助と藤堂平助が噂話をしていた。
「斎藤さん、今度、新しい組織ができるのを知っています」
斎藤は、藤堂に話しかけられた。
「いや、知りませんね」
斎藤が答えると、原田が教える。
「見廻組と言うらしいぜ。新撰組が上手く行っているもんだから、真似したんだな。なんでも、旗本だけで構成された組織らしいぜ」
斎藤は、興味を持った。新撰組の場合、士分の者も居るが、多くは草莽の士だった。草莽とは、民衆だった。志ある民の力だった。一方、見廻組は、旗本、つまり、士分の精鋭を集めた部隊らしい。ふと、ある旗本を思い浮かべた。
「それで、京都を下見する目的で、江戸から旗本が何人か来ているそうだが、新撰組に挨拶がねぇってんで、近藤局長がご立腹なのよ。こなくそっ! てな」
原田が、面白おかしく話を付け加える。
「原田さん、『こなくそ』はあなたの方言ですよね」
斎藤が指摘すると、原田は頭を掻いた。
「局長の気分を表現したのさ」
さて、見せしめとも言える処刑の後、壬生の屯所は緊迫した。三人を平気で処分する組織に、戦慄を禁じ得ない。そんな中、斎藤一は、隊士を連れて洛中を巡察する。新たな隊士が三人加わり、五人を率いた。
不逞浪士は、壬生浪士組の恐ろしさが浸透してきたようで、以前ほど挑発的な態度は示さなかった。やはり、無謀な連中でも斬り合いは怖いだろう。だから、威圧的な黒装束で闊歩する集団を避けるようになる。壬生浪士組の中で、大多数を占める近藤勇を支持する連中は、揃いの黒装束を着ていた。一方、芹沢鴨が主導する水戸派は、芹沢があつらえた浅葱色の羽織を着用していた。両派は服装でも対立していた。
斎藤は、壬生浪士組の内情を、やそを通して会津藩に報告していた。隊士の数の増減や、幹部の発言や、出入りする業者の話も洩らす。
「やそさん、いま、壬生に出入りしている医師は、傷を針と糸で縫うんですよ」
斎藤は、やそに食事中の会話で教える。やそは、驚いていた。
「なんだか、お裁縫みたいですね」
斎藤は、口数が少ない方なので、やその反応に微笑んでいた。
さて、斎藤は、殺伐とした隊務に追われつつ、やその諜報活動に協力する。壬生浪士組は、斎藤の報告の成果か、次第に表舞台でも活躍するようになる。八・一八の政変では、誠と描かれた旗を押し立て、御所の警護に出動した。これは、七卿落ちと呼ばれる事件で、長州藩が後押しする、過激な攘夷実行を唱える公家たちを、天子様の側から遠ざけ、長州に追放する動きだった。薩摩、会津、桑名の公武合体派が実権を握り、長州藩が京都の表舞台から遠ざかる。壬生浪士組では、会津藩からの密命で、芹沢鴨たち水戸派を排除する。隊名も新撰組に改め、近藤勇を支える体制ができあがった。
そんなある日、壬生の屯所に行くと、原田左之助と藤堂平助が噂話をしていた。
「斎藤さん、今度、新しい組織ができるのを知っています」
斎藤は、藤堂に話しかけられた。
「いや、知りませんね」
斎藤が答えると、原田が教える。
「見廻組と言うらしいぜ。新撰組が上手く行っているもんだから、真似したんだな。なんでも、旗本だけで構成された組織らしいぜ」
斎藤は、興味を持った。新撰組の場合、士分の者も居るが、多くは草莽の士だった。草莽とは、民衆だった。志ある民の力だった。一方、見廻組は、旗本、つまり、士分の精鋭を集めた部隊らしい。ふと、ある旗本を思い浮かべた。
「それで、京都を下見する目的で、江戸から旗本が何人か来ているそうだが、新撰組に挨拶がねぇってんで、近藤局長がご立腹なのよ。こなくそっ! てな」
原田が、面白おかしく話を付け加える。
「原田さん、『こなくそ』はあなたの方言ですよね」
斎藤が指摘すると、原田は頭を掻いた。
「局長の気分を表現したのさ」
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