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新説、斎藤一
◯その二十
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「本日、脱走隊士を切腹させようと思う。だが、どうせ死んでもらうなら、有効活用したいだろう。そこで、新入隊士の度胸試しを兼ねて、介錯させようと思う」
土方歳三の提案は、鬼のようなものだった。切腹の介錯人とは、首を斬って楽に死なせてやる役で、それなりの腕前が要る。斎藤は、土方の提案に疑問を感じた。
「土方副長、新入には荷が重すぎる気がします」
土方は、斎藤の意見に答えた。
「たぶん、上手く行かずに失敗するだろう。そこで、君たちが居る。介錯人の失敗を補助して、助けて欲しい。そうすれば、組頭に尊敬の念を抱くだろうし、貸しも作れる。新人は、人を斬る度胸と感覚を得る。臆病者に役に立ってもらうのさ」
介錯人の補助は、切腹するのが三人なので、三人必要だった。斎藤一、沖田総司、永倉新八が選ばれる。
切腹式は、屯所の中庭で行われた。畳が敷かれ、三方の上に、紙を巻いた小刀が置いてある。三人の脱走者は、浅葱色の上下を着た正装で、引き出された。罪人の正面に床几が並び、芹沢鴨を真ん中にして、右に新見錦、左に近藤勇の三局長が座っていた。土方歳三と山南敬助は、脇に控える。その他、主立った隊士が集まる。
斎藤は、介錯人と共に現れた。首を斬るのは、組下の横田尚吉だった。正式な介錯人は、平隊士の武田観柳斎になる。剣の他に学才が自慢の隊士で、近藤勇からの信頼が厚い。武田観柳斎は、修験者のように長髪で、額が広く、目が険しい。甲州流軍学に明るく、その点が、武田信玄を尊敬する近藤勇の心を掴んだ。新入りだが、幹部候補でもある。
「斎藤さん、宜しくお願いします」
武田観柳斎は、神妙に挨拶する。手が震えていた。斎藤は、会釈で返す。
さて、横田は、三方を前にして、正座する。武田観柳斎は、刀の刃に柄杓で水を掛けてもらう。切腹の始まりは、横田が決める。彼は、介錯人に話しかけた。
「肩を怪我していますゆえ、不調法があってはいけません。早々に介錯をお願いします」
武田は、頷いて了承した。その態度は、傲慢な印象を受けるが、本当は、緊張から来るものだった。妙な力が入っている。斎藤は、刀の鯉口を外し、抜きやすくした。
横田は、覚悟を決め、着物の前を開くと、小刀を右手で持ち、腰を浮かせ、左手で三方を尻の方へ回す。前かがみの状態で、腹に刃を突き入れる。
「介錯」
横田が声を発する。
武田観柳斎は、慌てて刀を振り下ろす。ところが、刃は後頭部を痛打して、血が噴き出した。
斎藤は、素早く抜刀すると、横田の首を落とす。武田観柳斎は、呆然としていた。
壬生浪士組初の切腹式は、無事に終わった。沖田総司が補助を務めた介錯人は、大石鍬次郎と言い、見事に首を斬った。人を斬った経験があるようだった。永倉新八が補助を務めた介錯人は、斎藤の場合と同じで失敗した。永倉も、素早く首を落とす。
土方歳三の提案は、鬼のようなものだった。切腹の介錯人とは、首を斬って楽に死なせてやる役で、それなりの腕前が要る。斎藤は、土方の提案に疑問を感じた。
「土方副長、新入には荷が重すぎる気がします」
土方は、斎藤の意見に答えた。
「たぶん、上手く行かずに失敗するだろう。そこで、君たちが居る。介錯人の失敗を補助して、助けて欲しい。そうすれば、組頭に尊敬の念を抱くだろうし、貸しも作れる。新人は、人を斬る度胸と感覚を得る。臆病者に役に立ってもらうのさ」
介錯人の補助は、切腹するのが三人なので、三人必要だった。斎藤一、沖田総司、永倉新八が選ばれる。
切腹式は、屯所の中庭で行われた。畳が敷かれ、三方の上に、紙を巻いた小刀が置いてある。三人の脱走者は、浅葱色の上下を着た正装で、引き出された。罪人の正面に床几が並び、芹沢鴨を真ん中にして、右に新見錦、左に近藤勇の三局長が座っていた。土方歳三と山南敬助は、脇に控える。その他、主立った隊士が集まる。
斎藤は、介錯人と共に現れた。首を斬るのは、組下の横田尚吉だった。正式な介錯人は、平隊士の武田観柳斎になる。剣の他に学才が自慢の隊士で、近藤勇からの信頼が厚い。武田観柳斎は、修験者のように長髪で、額が広く、目が険しい。甲州流軍学に明るく、その点が、武田信玄を尊敬する近藤勇の心を掴んだ。新入りだが、幹部候補でもある。
「斎藤さん、宜しくお願いします」
武田観柳斎は、神妙に挨拶する。手が震えていた。斎藤は、会釈で返す。
さて、横田は、三方を前にして、正座する。武田観柳斎は、刀の刃に柄杓で水を掛けてもらう。切腹の始まりは、横田が決める。彼は、介錯人に話しかけた。
「肩を怪我していますゆえ、不調法があってはいけません。早々に介錯をお願いします」
武田は、頷いて了承した。その態度は、傲慢な印象を受けるが、本当は、緊張から来るものだった。妙な力が入っている。斎藤は、刀の鯉口を外し、抜きやすくした。
横田は、覚悟を決め、着物の前を開くと、小刀を右手で持ち、腰を浮かせ、左手で三方を尻の方へ回す。前かがみの状態で、腹に刃を突き入れる。
「介錯」
横田が声を発する。
武田観柳斎は、慌てて刀を振り下ろす。ところが、刃は後頭部を痛打して、血が噴き出した。
斎藤は、素早く抜刀すると、横田の首を落とす。武田観柳斎は、呆然としていた。
壬生浪士組初の切腹式は、無事に終わった。沖田総司が補助を務めた介錯人は、大石鍬次郎と言い、見事に首を斬った。人を斬った経験があるようだった。永倉新八が補助を務めた介錯人は、斎藤の場合と同じで失敗した。永倉も、素早く首を落とす。
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