新説、新撰組

雨川 海(旧 つくね)

文字の大きさ
上 下
16 / 28
新説、斎藤一

◯その十六

しおりを挟む
 斎藤一が壬生の屯所に着くと、沖田総司が話しかけて来た。
「斎藤さん、今日は朝から、局長と副長が集まって会議らしいですよ。例の、法度の事じゃないですかね」
 沖田は、楽しそうに言う。
「まぁ、なんにしても、私は決定に従いますよ」
 斎藤は、適当に流す。まだ発表されていない物を、あれこれ詮索しても無意味に思えた。
 局長、副長の指示がなくても、壬生浪士組の仕事は決まっていた。今日も鎖の着込みを装備し、洛中を巡察する。

 斎藤は、昨日と同じ二人に、新入隊の一人を引き連れて、京都の街を見回る。不逞浪士は、すぐに遭遇する。まだ、壬生浪士組の怖さを知らない者が多いので、ちょっとした事で闘争になる。斎藤は、不逞浪士の一団に声をかけた。
「京都守護職預かり、壬生浪士組です。そちらの姓名と身分をお聞きしたい」
 こう訊ねるだけで、相手は興奮した。不逞浪士は、長州藩の後ろ盾と、尊王攘夷の名目で意気が上がっている。幕府の役人を侮っていた。
「なんじゃ、天子様の御用を勤める我らに逆らうか!」
 不逞浪士が刀の柄に手をかける。だが、斎藤は、抜くと同時に片手突きで敵を刺殺した。
 不逞浪士は、突然の出来事に目を丸くする。

 斎藤たち副長助勤には、不逞浪士は斬るべしとのお達しが出ていた。斎藤に続き、平隊士も刀を抜き、不逞浪士に襲いかかる。怒号と斬り合いが始まる。壬生浪士組の方は、鎖の着込みで防護している上、相手を殺す気でいたから、圧倒的に有利だった。不逞浪士の一団は、三つの遺体を残し、逃げて行く。中には、手傷を負った者も多い。

 さて、勝利した壬生浪士組に近づく者が居た。着流し姿の町人だが、眼光が鋭い。それもその筈で、お上の御用を賜る密偵だった。彼は、斎藤に話しかける。
「京都奉行所の御用を承る佐七と申しやす」
 佐七は、頭を下げて挨拶する。
「壬生浪士組の副長助勤、斎藤一といいます」
 斎藤も、佐七に名乗る。
「斎藤先生、壬生浪士組の活躍ぶり、あっしたち、お上の御用を預かる者には爽快で、応援しておりやす。今まで、どれほど食い詰め浪士の横暴に泣いて来た事か。壬生浪士組の活躍で、やっと奉行所は、町の治安を取り戻せやす」
 斎藤は、町の役に立っていると知って嬉しかった。壬生浪士組と言う暴力装置は、不逞浪士の乱暴狼藉に対して、有効に働き始めていた。
 佐七は、壬生の屯所に出入りして良いか尋ねた。斎藤は、使えそうな男だと判断して、許可した。さっそく、不逞浪士の遺体を任せる。佐七は、快く引き受けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

華研えねこ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...