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新説、斎藤一
◯その十六
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斎藤一が壬生の屯所に着くと、沖田総司が話しかけて来た。
「斎藤さん、今日は朝から、局長と副長が集まって会議らしいですよ。例の、法度の事じゃないですかね」
沖田は、楽しそうに言う。
「まぁ、なんにしても、私は決定に従いますよ」
斎藤は、適当に流す。まだ発表されていない物を、あれこれ詮索しても無意味に思えた。
局長、副長の指示がなくても、壬生浪士組の仕事は決まっていた。今日も鎖の着込みを装備し、洛中を巡察する。
斎藤は、昨日と同じ二人に、新入隊の一人を引き連れて、京都の街を見回る。不逞浪士は、すぐに遭遇する。まだ、壬生浪士組の怖さを知らない者が多いので、ちょっとした事で闘争になる。斎藤は、不逞浪士の一団に声をかけた。
「京都守護職預かり、壬生浪士組です。そちらの姓名と身分をお聞きしたい」
こう訊ねるだけで、相手は興奮した。不逞浪士は、長州藩の後ろ盾と、尊王攘夷の名目で意気が上がっている。幕府の役人を侮っていた。
「なんじゃ、天子様の御用を勤める我らに逆らうか!」
不逞浪士が刀の柄に手をかける。だが、斎藤は、抜くと同時に片手突きで敵を刺殺した。
不逞浪士は、突然の出来事に目を丸くする。
斎藤たち副長助勤には、不逞浪士は斬るべしとのお達しが出ていた。斎藤に続き、平隊士も刀を抜き、不逞浪士に襲いかかる。怒号と斬り合いが始まる。壬生浪士組の方は、鎖の着込みで防護している上、相手を殺す気でいたから、圧倒的に有利だった。不逞浪士の一団は、三つの遺体を残し、逃げて行く。中には、手傷を負った者も多い。
さて、勝利した壬生浪士組に近づく者が居た。着流し姿の町人だが、眼光が鋭い。それもその筈で、お上の御用を賜る密偵だった。彼は、斎藤に話しかける。
「京都奉行所の御用を承る佐七と申しやす」
佐七は、頭を下げて挨拶する。
「壬生浪士組の副長助勤、斎藤一といいます」
斎藤も、佐七に名乗る。
「斎藤先生、壬生浪士組の活躍ぶり、あっしたち、お上の御用を預かる者には爽快で、応援しておりやす。今まで、どれほど食い詰め浪士の横暴に泣いて来た事か。壬生浪士組の活躍で、やっと奉行所は、町の治安を取り戻せやす」
斎藤は、町の役に立っていると知って嬉しかった。壬生浪士組と言う暴力装置は、不逞浪士の乱暴狼藉に対して、有効に働き始めていた。
佐七は、壬生の屯所に出入りして良いか尋ねた。斎藤は、使えそうな男だと判断して、許可した。さっそく、不逞浪士の遺体を任せる。佐七は、快く引き受けた。
「斎藤さん、今日は朝から、局長と副長が集まって会議らしいですよ。例の、法度の事じゃないですかね」
沖田は、楽しそうに言う。
「まぁ、なんにしても、私は決定に従いますよ」
斎藤は、適当に流す。まだ発表されていない物を、あれこれ詮索しても無意味に思えた。
局長、副長の指示がなくても、壬生浪士組の仕事は決まっていた。今日も鎖の着込みを装備し、洛中を巡察する。
斎藤は、昨日と同じ二人に、新入隊の一人を引き連れて、京都の街を見回る。不逞浪士は、すぐに遭遇する。まだ、壬生浪士組の怖さを知らない者が多いので、ちょっとした事で闘争になる。斎藤は、不逞浪士の一団に声をかけた。
「京都守護職預かり、壬生浪士組です。そちらの姓名と身分をお聞きしたい」
こう訊ねるだけで、相手は興奮した。不逞浪士は、長州藩の後ろ盾と、尊王攘夷の名目で意気が上がっている。幕府の役人を侮っていた。
「なんじゃ、天子様の御用を勤める我らに逆らうか!」
不逞浪士が刀の柄に手をかける。だが、斎藤は、抜くと同時に片手突きで敵を刺殺した。
不逞浪士は、突然の出来事に目を丸くする。
斎藤たち副長助勤には、不逞浪士は斬るべしとのお達しが出ていた。斎藤に続き、平隊士も刀を抜き、不逞浪士に襲いかかる。怒号と斬り合いが始まる。壬生浪士組の方は、鎖の着込みで防護している上、相手を殺す気でいたから、圧倒的に有利だった。不逞浪士の一団は、三つの遺体を残し、逃げて行く。中には、手傷を負った者も多い。
さて、勝利した壬生浪士組に近づく者が居た。着流し姿の町人だが、眼光が鋭い。それもその筈で、お上の御用を賜る密偵だった。彼は、斎藤に話しかける。
「京都奉行所の御用を承る佐七と申しやす」
佐七は、頭を下げて挨拶する。
「壬生浪士組の副長助勤、斎藤一といいます」
斎藤も、佐七に名乗る。
「斎藤先生、壬生浪士組の活躍ぶり、あっしたち、お上の御用を預かる者には爽快で、応援しておりやす。今まで、どれほど食い詰め浪士の横暴に泣いて来た事か。壬生浪士組の活躍で、やっと奉行所は、町の治安を取り戻せやす」
斎藤は、町の役に立っていると知って嬉しかった。壬生浪士組と言う暴力装置は、不逞浪士の乱暴狼藉に対して、有効に働き始めていた。
佐七は、壬生の屯所に出入りして良いか尋ねた。斎藤は、使えそうな男だと判断して、許可した。さっそく、不逞浪士の遺体を任せる。佐七は、快く引き受けた。
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