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セフレ編

決戦の日は来たり、いざ、参らん!

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「心の準備はできたか」

 こくり。

「抜かりないな?」

 こくり。

「よし、行ってこい。さっき渡したのは俺のとっておきだ、可愛がってやれ」
「ありがとう」

 クイっと親指を立てる湯門の肩を力強く引き寄せ、俺は友情のハグをする。

「ああ、きっと大丈夫だ。武運を祈る」
「うむ」

 出陣の狼煙は上がった。いざ、参らん。ホームに滑り込んできた電車に俺は飛び乗った。

「では」

 プシューーーーーーン。

 ドアが閉まる。自動ドアを挟んだ向こうで湯門が頷き、電車が動き出す。湯門の顔が遠ざかる。

 俺は吊革につかまり、電車に揺られた。

 今日はこれから春太郎に会いにいく。つまりはSとMのセックスをしにいく。リベンジだ。

 今夜こそは心から気持ちがいいと言わせて泣かせたい。春太郎の尻もちんこも乳首も、ぐちゃぐちゃにしてイカせまくりたい。

 決意の拳を握り締め、湯門に言われた言葉を心の中で暗唱した。

『相手の心の声をちゃんと聴くんだよ。セックスは二人でするものなんだから』

 よし、やってやる。

 この俺様にできないことなんかないのだ!

 ———春太郎の心の声を聴く!

 ———セックスは春太郎と二人でするもの!

 ぶつぶつと百回目の復唱を終えると電車は降車駅に到着し、俺は春太郎の家に向かう。ドアの前に立つまでに、復唱回数は百五十回を超えた。

 不審者通報をされなくてよかった。

 インターホンを押す指が情けないが震える。

 ドアが開き、いつもと変わらないもっさりヘアの春太郎が顔を出した。

 おっさんの外見への印象は「キモい」から、クセになったように感じ、今では「ほっこり」に変わった。とんでもない突然変異だ。

 俺のギュンも「ギュン! ギュン!」する。

「ど、どうしたの? 入って?」

 春太郎は少し緊張した面持ち。改めてみると、身体に力が入っている。

 これまでも、そうだったのだろうか。俺が気が付かなかっただけで。

 とたんに、ふっと居た堪れない感情が湧いてきた。胸が引きちぎられるなんて表現は大袈裟だって思ってたけど・・・・・・それに近い感じ。

 そう思うと、俺は春太郎を抱き締めていた。

 腕の中でびっくりした春太郎が真っ赤になる。

 ———可愛い。本当にずるい。

 春太郎菌は悪いウイルスだ。俺の心をバグらせる、俺にしか効かない悪いウイルス。

「お風呂、はいった?」

 春太郎の耳元で囁く。

「・・・・・・あ、ごめ・・・・・・ん、まだ」
「いいよ、入れてあげる」

 神様、適度に残った筋肉の使い道を残しておいてくれてありがとうございます。

 俺は春太郎を横抱きに抱き上げた。

 一年前の俺は思いもしなかっただろう。おっさんをお姫さま抱っこする日が訪れようとは。

「わ、わ、わぎゃにゃゃにゃゃぎゃゃっ?!」

 恥ずかしいあまりに春太郎が意味不明の言葉を吐いて暴れる。

「こら、いい子にしてないと落っことしちゃいますよ~」

 そう言ってやると、ぴたりと動きが止まり、サナギのように微動だにしなくなった。

 おとなしくなった春太郎を浴室まで運び入れ、「よくできました」と頭を撫でる。何かで感極まった春太郎の瞼に涙がじわじわと溜まり、崩れた顔に俺の心がキュッと掴まれる。

 俺の行動の中に春太郎にとって好きなポイントがあったのだ。

 なんだ。どれだ。どこだ・・・・・・?

 考え込む俺を、春太郎が涙でいっぱいの瞳で見つめている。

 俺は見つめ返した。

「・・・・・・———なにが、良かった?」

 思い切って口を開くと、春太郎は驚いて目を見開き、涙を一雫こぼした。

「・・・・・・やさ、しい、うれ、しい」

 まったくおっさんは日本語を覚えたての外国人か。

 じゃなくて地上に降り立ったばかりの天使か、これは失敬。

 カタコトで伝えられた言葉は、ダイレクトに俺の胸に届いた。

「優しくされたかったんだ?」

 春太郎は「うん」と震えるように頷く。

 ———あーーーー、もうたまんない。ぶち犯したい。

 けれど、ゆっくり、じっくり、心も身体も解してあげなくては。

「・・・・・・いいよ、今日はぜんぶやってあげるから。はい、バンザイして」

 春太郎は素直に両手をあげて、俺に身を任せる。

 よれよれのティーシャツを脱がしかけ、途中で良いことを思いつき、服を着せたまま春太郎の胸をさわさわと揉む。当然ふくよかな乳房はついていないが、服の上からでもわかるほどに、少しずつ乳頭がツンと張り出してきて、俺の本能は充分にくすぐられた。

「ここ、いやらしい形になってきた」

 そう教えてあげると、春太郎は泣きそうな顔でうつむく。

「・・・・・・や、なってな・・・・・・い」
「なってない? ほんとかなぁ?」

 俺は「じゃあ、確認しよう」と春太郎を浴室に連れ込み、服の上からシャワーをかけた。

「な、なに?!」

 ぐっしょりと濡れたティーシャツが肌に張り付き、両胸の尖りがくっきりと晒される。その状態で浴室の鏡の前に春太郎を立たせた。

「見て、えっちだね。こんなになってる」

 見せつけるように乳首をピンと弾いてやると、「んあ」と甘い声が漏れる。
 
 張り付いたティーシャツの上からクニュクニュと乳首を押し潰していじめ、下半身を覗けば、物欲しそうに腰が揺れていた。

「かわいい、乳首を触られて気持ちよくなれてえらいね」

 呟いて、頭を撫でる。だが本心から言ったのに、春太郎の目からブワッと涙がこぼれた。

 ———泣いて・・・・・・?!

 どうして。

「ごめん、これは嫌なんだ?」

 俺は春太郎からパッと手を離し、頭を悩ませた。

 ボロボロと涙を流し、えぐえぐと嗚咽が止まらなくなってしまった春太郎。しゃっくりをあげるほどに、泣きじゃくり、どうしたらよいのか・・・・・・俺の気持ちも、あそこも下を向く。

「ご、ごめッ、ごめッ、ごめんねッッ」 

 しゃっくりのせいで語尾が「ぽん、ぽん」と跳ね、喋るときに息が苦しそうだ。

「ちがッ、ちがッ、ちがうからッッ」

 頑張って伝えようとしてくれているのはわかる。

 でも、今日も俺は失敗した。

 やはりこれまでも無理を強いていたんだ。

 俺は春太郎に触れちゃいけない星のもとに生まれた人間だったのかもしれない。

 別にいいさ。セフレなんて数えられないだけ取っ替え引っ替えしてきた伝説のプレイボーイを舐めるな・・・・・・。

 昂ぶりも、ヤル気も、何もかも全部がしょぼんぬとなり、タオルを取りに浴室から出ようとした。

 そのときだった。

 ものすごい勢いで春太郎が間に回り込み、バンッとドアに張り付く。

 ———エー! キモッッ。

 ゴキブリみたいな手足の動きで最強にキモい! 

 スリッパでスパーンといきたくなるからやめてほしい!

 ひさびさにがっつりドン引いていると、春太郎が「だめェ」と叫び、俺は耳がキーンとなった。

 春太郎は止まらないしゃっくりと涙と鼻水にまみれながら、動こうとしない。

 俺は不可解な行動に言葉を無くす。

 しばらく張り付いていたかと思うと・・・・・・、少し落ち着いたのか、春太郎はか細い声で「いかないで」と訴えた。

「でも泣くほど嫌なんだよね?」

 春太郎はぷるぷると首を横にふる。

「・・・・・・か、感情が溢れてしまう」

 そう言いながら、またぼろぼろと涙を流す。

「む、むかし、から、・・・・・・う、嬉しくても、悲しくも、気持ちが爆発して、すぐ涙がでる」

 春太郎の涙は止まらない。しゃっくりがでる。

「・・・・・・は、恥ずかしくて、直したい。でも、・・・・・・涙はッッ、勝手に出るからッッ!」

 唖然とした。だが同時にそうかと思う。

 この人は、気持ちを吐き出すときに、涙も一緒に出てしまう人なんだ。

 ウ、ウ、と涙を堪えるように目をギュッとつむる春太郎が心の底から愛おしくなって、・・・・・・守りたくなって、俺は「大丈夫だ」と声をかけていた。

「泣いていいよ、いっぱい泣いていい。だから気持ちいいとか嫌だとか、思ったことはちゃんと教えて? わかったら、はい、おいで」

 そして大きく手を広げて、春太郎を受け入れる姿勢を取った。

 へばりついていた扉からようやく離れ、春太郎はダッシュしてくると、俺の胸に飛び込む。

 胸に抱いた生きものが可愛い。

 これで一コ、解決した。おっさんはバブ化したいんじゃなくて、がちのバブだったのだ。

 赤ちゃんだ。だから天使なんだ。

 謎の解釈なのに、しっくりくる。

 知らないうちに、俺は立派に春太郎の母になっていたのかもしれない。

「続き・・・・・・したい」

 春太郎の前髪をかき上げて額にキスを落とす。

 ウンと頷いた春太郎はティーシャツを自らまくり、むっちりと浮き上がった両胸の肉粒を俺に見せた。

「さ、触ってくれる・・・・・・?」

 泣き腫らした瞳で見上げられ、俺の理性は遠い彼方へ飛んでいった・・・・・・。
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