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軟禁調教生活のはじまり
10 思い知る
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「いらないって言ってんだろ!」
部屋の床には絨毯が敷かれていた。落ちたグラスは割れなかったが、飛び散った水が染みを作り絨毯の色を濃くした。
「何なんだよあんたは。俺に一目惚れしたなら、俺をもっと大事にしろよっ! 難しいことなんて一つも言ってねぇだろうがっ」
一旦怒りを放つと止められなくなる。次の暴言が喉まで出かかった時、譲は「ぎゃっ」と叫び声を上げた。
バチンッと弾けるような音と共に、頭が激しい痛みを認識する。
(は・・・・・・?)
譲自身の目でヴィクトルを睨み続けていたので、彼が譲を殴ったり叩いたりしていないことは明確だった。
(痛みは何処から来た?)
きょろきょろする譲に聞かせるように、ヴィクトルは溜息をついた。
半身の後ろに隠していた腕を晒すと、カチカチと親指で何かを押しながら、手に握っているものを見せた。
その瞬間、手首と右の脚首がびくんと震える。
「い゛いっっ」
初めの一回は見逃したが、今のは確実にわかった。
痛みを発した正体は枷だ。スイッチを押されると嵌められた枷が熱を帯び、ほんのりと焦げた臭いが立ち込める。
「ひ、ぃ、イッ!」
また、もう一回。
皮膚を通って流される電流によって、短いが直に神経を叩かれるような鋭い痛みが襲う。
「口で言ってわからないなら、身体で覚えてもらうしかない。反抗するなら、その電極入りの拘束具を急所につける」
「・・・・・・っ、ぎ」
想像が脳裏を駆け抜けて行き、譲は歯を食いしばった。
背筋に冷や汗が伝う。この痛みの程度なら数回で慣れる、我慢できる。内心で感じたことを見抜かれたのかもしれない。手首脚首だから耐えられているが、急所と言えば例えば・・・譲は毛布の下で鼠径部に力を入れた。
「譲が痛みを感じている姿はとても心苦しいものだが仕方がない。私も躾のために悪魔になろう。どうする?」
ヴィクトルは哀しそうに溜息をつくと、ベッドに腰掛ける。
スイッチを親指で摩る仕草に、譲は身体が強張った。彼の指が動くたびに、びくついてしまう自分に失望する。
(耐えられないか? ・・・・・・本当に、俺は耐えられないか? 俺は、兵士だろ?)
譲は自問自答の末に、頭をうなだれた。
「食べる、食べます」
今の譲には耐えうるための心ざしがない。
譲の返答にヴィクトルは表情を和らげた。
「そうかい。良かった」
ヴィクトルはスイッチをジャケットの内ポケットにしまう。譲はそれを視線で追ったが、すぐに思い直した。
スイッチは奪えない。
体格は互角じゃない、負けている。彼を温室育ちと揶揄してしまったけれど、負傷した譲は格闘戦においても不利だった。
失敗した時のペナルティが大きい。とても思い切れなかった。
「じゃあ食べようか。私も一緒に頂こうと思って多めに持ってきたんだよ」
「はい」
「せっかくの昼食時間が台無しになってしまったね」
ヴィクトルは、譲を本気で心配している素振りを見せる。
「さあ、どうぞ。まずは水を。水分を摂らないと死んでしまうよ」
「はい、飲みます」
譲は入れ直されたグラスを受け取ると、じわりと汗をかいた。手が震えて水面が波打つ。覚悟を決めろと言い聞かせて口を付け、ちびっと一口含んだ。
緊張して乾いていた喉に、沁み渡るような水。譲を恐怖のどん底に突き落とした水。
一口の水を飲み下した譲はヴィクトルを見上げる。
「パンだよ。口を開けて」
食べ易い大きさにちぎられたパンが、餌付けされるように舌に乗せられる。焼き立てで上質な生地だが、水分なしで食べ切るのは難しい。
譲は二口目の水を飲み、パンを口に含まされるごとに腹に水分を溜めてしまった。
(トイレに行きたい)
と、毛布の下でこっそり腹をかき抱く。
「ラディッシュは食べられる?」
止まることなく口に紫色の生野菜が運ばれてくる。
頷いて咀嚼すると、今度は生ハムがフォークに刺さって運ばれてきた。
「スープも飲むといい」
「・・・・・・ん、むぐ、あの、もう」
「あ、そうか。私が楽しくなってしまっていた。満腹になったかい?」
「はい、充分です。ご馳走様でした」
腹は限界に膨れている。胃がいっぱいになったせいで、膀胱が圧迫されていた。
食事をすれば、こうなるとわかっていた自然な結果だ。もう食べられない。「それは良かった」と満足して片付け始めたヴィクトルに深く安堵する。
「美味しかったかい?」
「はい、そうですね。美味しかった・・・です」
譲は上の空で返事をしたが、味わう余裕なんて一ミリもなかった。
部屋の床には絨毯が敷かれていた。落ちたグラスは割れなかったが、飛び散った水が染みを作り絨毯の色を濃くした。
「何なんだよあんたは。俺に一目惚れしたなら、俺をもっと大事にしろよっ! 難しいことなんて一つも言ってねぇだろうがっ」
一旦怒りを放つと止められなくなる。次の暴言が喉まで出かかった時、譲は「ぎゃっ」と叫び声を上げた。
バチンッと弾けるような音と共に、頭が激しい痛みを認識する。
(は・・・・・・?)
譲自身の目でヴィクトルを睨み続けていたので、彼が譲を殴ったり叩いたりしていないことは明確だった。
(痛みは何処から来た?)
きょろきょろする譲に聞かせるように、ヴィクトルは溜息をついた。
半身の後ろに隠していた腕を晒すと、カチカチと親指で何かを押しながら、手に握っているものを見せた。
その瞬間、手首と右の脚首がびくんと震える。
「い゛いっっ」
初めの一回は見逃したが、今のは確実にわかった。
痛みを発した正体は枷だ。スイッチを押されると嵌められた枷が熱を帯び、ほんのりと焦げた臭いが立ち込める。
「ひ、ぃ、イッ!」
また、もう一回。
皮膚を通って流される電流によって、短いが直に神経を叩かれるような鋭い痛みが襲う。
「口で言ってわからないなら、身体で覚えてもらうしかない。反抗するなら、その電極入りの拘束具を急所につける」
「・・・・・・っ、ぎ」
想像が脳裏を駆け抜けて行き、譲は歯を食いしばった。
背筋に冷や汗が伝う。この痛みの程度なら数回で慣れる、我慢できる。内心で感じたことを見抜かれたのかもしれない。手首脚首だから耐えられているが、急所と言えば例えば・・・譲は毛布の下で鼠径部に力を入れた。
「譲が痛みを感じている姿はとても心苦しいものだが仕方がない。私も躾のために悪魔になろう。どうする?」
ヴィクトルは哀しそうに溜息をつくと、ベッドに腰掛ける。
スイッチを親指で摩る仕草に、譲は身体が強張った。彼の指が動くたびに、びくついてしまう自分に失望する。
(耐えられないか? ・・・・・・本当に、俺は耐えられないか? 俺は、兵士だろ?)
譲は自問自答の末に、頭をうなだれた。
「食べる、食べます」
今の譲には耐えうるための心ざしがない。
譲の返答にヴィクトルは表情を和らげた。
「そうかい。良かった」
ヴィクトルはスイッチをジャケットの内ポケットにしまう。譲はそれを視線で追ったが、すぐに思い直した。
スイッチは奪えない。
体格は互角じゃない、負けている。彼を温室育ちと揶揄してしまったけれど、負傷した譲は格闘戦においても不利だった。
失敗した時のペナルティが大きい。とても思い切れなかった。
「じゃあ食べようか。私も一緒に頂こうと思って多めに持ってきたんだよ」
「はい」
「せっかくの昼食時間が台無しになってしまったね」
ヴィクトルは、譲を本気で心配している素振りを見せる。
「さあ、どうぞ。まずは水を。水分を摂らないと死んでしまうよ」
「はい、飲みます」
譲は入れ直されたグラスを受け取ると、じわりと汗をかいた。手が震えて水面が波打つ。覚悟を決めろと言い聞かせて口を付け、ちびっと一口含んだ。
緊張して乾いていた喉に、沁み渡るような水。譲を恐怖のどん底に突き落とした水。
一口の水を飲み下した譲はヴィクトルを見上げる。
「パンだよ。口を開けて」
食べ易い大きさにちぎられたパンが、餌付けされるように舌に乗せられる。焼き立てで上質な生地だが、水分なしで食べ切るのは難しい。
譲は二口目の水を飲み、パンを口に含まされるごとに腹に水分を溜めてしまった。
(トイレに行きたい)
と、毛布の下でこっそり腹をかき抱く。
「ラディッシュは食べられる?」
止まることなく口に紫色の生野菜が運ばれてくる。
頷いて咀嚼すると、今度は生ハムがフォークに刺さって運ばれてきた。
「スープも飲むといい」
「・・・・・・ん、むぐ、あの、もう」
「あ、そうか。私が楽しくなってしまっていた。満腹になったかい?」
「はい、充分です。ご馳走様でした」
腹は限界に膨れている。胃がいっぱいになったせいで、膀胱が圧迫されていた。
食事をすれば、こうなるとわかっていた自然な結果だ。もう食べられない。「それは良かった」と満足して片付け始めたヴィクトルに深く安堵する。
「美味しかったかい?」
「はい、そうですね。美味しかった・・・です」
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