ラブドール

倉藤

文字の大きさ
上 下
10 / 102
軟禁調教生活のはじまり

10 思い知る

しおりを挟む
「いらないって言ってんだろ!」

 部屋の床には絨毯が敷かれていた。落ちたグラスは割れなかったが、飛び散った水が染みを作り絨毯の色を濃くした。

「何なんだよあんたは。俺に一目惚れしたなら、俺をもっと大事にしろよっ! 難しいことなんて一つも言ってねぇだろうがっ」

 一旦怒りを放つと止められなくなる。次の暴言が喉まで出かかった時、譲は「ぎゃっ」と叫び声を上げた。
 バチンッと弾けるような音と共に、頭が激しい痛みを認識する。

(は・・・・・・?)

 譲自身の目でヴィクトルを睨み続けていたので、彼が譲を殴ったり叩いたりしていないことは明確だった。

(痛みは何処から来た?)

 きょろきょろする譲に聞かせるように、ヴィクトルは溜息をついた。
 半身の後ろに隠していた腕を晒すと、カチカチと親指で何かを押しながら、手に握っているものを見せた。  
 その瞬間、手首と右の脚首がびくんと震える。

「い゛いっっ」

 初めの一回は見逃したが、今のは確実にわかった。
 痛みを発した正体は枷だ。スイッチを押されると嵌められた枷が熱を帯び、ほんのりと焦げた臭いが立ち込める。

「ひ、ぃ、イッ!」

 また、もう一回。
 皮膚を通って流される電流によって、短いが直に神経を叩かれるような鋭い痛みが襲う。

「口で言ってわからないなら、身体で覚えてもらうしかない。反抗するなら、その電極入りの拘束具を急所につける」
「・・・・・・っ、ぎ」

 想像が脳裏を駆け抜けて行き、譲は歯を食いしばった。
 背筋に冷や汗が伝う。この痛みの程度なら数回で慣れる、我慢できる。内心で感じたことを見抜かれたのかもしれない。手首脚首だから耐えられているが、急所と言えば例えば・・・譲は毛布の下で鼠径部に力を入れた。

「譲が痛みを感じている姿はとても心苦しいものだが仕方がない。私も躾のために悪魔になろう。どうする?」

 ヴィクトルは哀しそうに溜息をつくと、ベッドに腰掛ける。
 スイッチを親指で摩る仕草に、譲は身体が強張った。彼の指が動くたびに、びくついてしまう自分に失望する。

(耐えられないか? ・・・・・・本当に、俺は耐えられないか? 俺は、兵士だろ?)

 譲は自問自答の末に、頭をうなだれた。

「食べる、食べます」

 今の譲には耐えうるための心ざしがない。
 譲の返答にヴィクトルは表情を和らげた。

「そうかい。良かった」

 ヴィクトルはスイッチをジャケットの内ポケットにしまう。譲はそれを視線で追ったが、すぐに思い直した。
 スイッチは奪えない。
 体格は互角じゃない、負けている。彼を温室育ちと揶揄してしまったけれど、負傷した譲は格闘戦においても不利だった。
 失敗した時のペナルティが大きい。とても思い切れなかった。

「じゃあ食べようか。私も一緒に頂こうと思って多めに持ってきたんだよ」
「はい」
「せっかくの昼食時間が台無しになってしまったね」

 ヴィクトルは、譲を本気で心配している素振りを見せる。

「さあ、どうぞ。まずは水を。水分を摂らないと死んでしまうよ」
「はい、飲みます」

 譲は入れ直されたグラスを受け取ると、じわりと汗をかいた。手が震えて水面が波打つ。覚悟を決めろと言い聞かせて口を付け、ちびっと一口含んだ。
 緊張して乾いていた喉に、沁み渡るような水。譲を恐怖のどん底に突き落とした水。
 一口の水を飲み下した譲はヴィクトルを見上げる。

「パンだよ。口を開けて」

 食べ易い大きさにちぎられたパンが、餌付けされるように舌に乗せられる。焼き立てで上質な生地だが、水分なしで食べ切るのは難しい。
 譲は二口目の水を飲み、パンを口に含まされるごとに腹に水分を溜めてしまった。

(トイレに行きたい)

 と、毛布の下でこっそり腹をかき抱く。

「ラディッシュは食べられる?」

 止まることなく口に紫色の生野菜が運ばれてくる。
 頷いて咀嚼すると、今度は生ハムがフォークに刺さって運ばれてきた。

「スープも飲むといい」
「・・・・・・ん、むぐ、あの、もう」
「あ、そうか。私が楽しくなってしまっていた。満腹になったかい?」
「はい、充分です。ご馳走様でした」

 腹は限界に膨れている。胃がいっぱいになったせいで、膀胱が圧迫されていた。
 食事をすれば、こうなるとわかっていた自然な結果だ。もう食べられない。「それは良かった」と満足して片付け始めたヴィクトルに深く安堵する。

「美味しかったかい?」
「はい、そうですね。美味しかった・・・です」

 譲は上の空で返事をしたが、味わう余裕なんて一ミリもなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂

朝井染両
BL
お久しぶりです! ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。 こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。 合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。 ご飯食べます。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

両腕のない義弟との性事情

papporopueeee
BL
父子家庭で育ったケンと、母子家庭で育ったカオル。 親の再婚によりふたりは義兄弟となったが、 交通事故により両親とカオルの両腕が失われてしまう。 ケンは両腕を失ったカオルの世話を始めるが、 思春期であるカオルは性介助を求めていて……。

処理中です...