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第二十話 砂糖を一杯
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林田が目を覚ます。自分が抱いていたはずなのに、なぜか鬼崎の腕の中にいる。眠っていた時間は一時間にも満たない。もうすぐ十九時を回るが、部屋の中は眠る前と変わらない明るさだった。
男からはまだスゥスゥと静かな寝息が聞こえた。そっと額に手のひらを当て、起こさないようにベッドを抜け出す。一階でタオルを濡らして部屋に戻り、男の額にそれを乗せ、また一階に降りた。
腕をまくり、リビングとキッチンを片付け始める。散らかったゴミを分別して袋に入れ、服を洗濯機に放り込み、食器を洗って棚にしまった。棚の一番手前にはマグカップを二つ並べて置き、満足げに微笑む。
「蓮太郎」
その声に振り向く。濡れタオルを握り締める鬼崎の顔を見て、林田の表情は曇った。
「なんで帰ってきたんだ」
素直に歓迎はされないだろうと予想していた。林田は口をキュッと結び、男の手を取ってソファに座らせた。
「ちょっと待ってて、コーヒー入れてくる。・・・あっその前に」
男の額に手をやる。
「まだ少し熱がありそうだけど平気?」
男はコクンと小さく頷いた。
「うん、分かった」
初めて触るコーヒーメーカーで入れ方が分からず、セットするまでに酷く手間取った。その間、鬼崎は黙り込んだまま、眉間の皺が二倍になったんじゃないかと思うほど難しい顔をしている。
「お待たせしました、どうぞ」
紺と赤のカップにコーヒーを注ぎ、テーブルに運んだ。鬼崎はチラッと見てから、戸惑うように手を伸ばす。一口飲んで、わずかに顔が綻んだ。
「・・・甘い」
「鬼崎さんが、実はブラック苦手なの、知ってました」
得意げな林田の言葉に「そうか」と一言だけ返すと、男はまた黙り込む。微妙に和んだ空気も瞬時にピリピリと凍りつく。
林田は姿勢を正して座った。その様子に鬼崎も顔を上げた。二人は向かい合う。心の中でゆっくり三秒数え、大きく息を吸った。
「鬼崎さん、俺はあなたが好きです。これからも一緒に暮らしたいと思っています。近づくなと言うのなら、その通りにします。だから・・またここに住まわせて下さい、お願いします」
林田は一息に言い切って頭を下げた。
「・・・君は俺が恐ろしくないのか?」
間を置き、自嘲気味に笑った男の顔が歪む。
「あの時はびっくりしたけど、今は怖いなんて思いません」
膝の上で握った拳が震えた。ここで引き下がったら、今度こそ、この男との関係は切れてしまう。たとえ目を合わせてくれなくても、逸らしたくないと思った。
林田の視線を避けるように、鬼崎はマグカップを持って席を立つ。
「待って、俺はちゃんと伝えたよ?だから鬼崎さんも逃げないでください」
「・・・・だ」
鬼崎は見上げた林田から不自然に顔を背けて、ぼそりと呟いた。
「え?」
林田が聞き返すと、目を泳がせた男の顔が今度は苦悶に歪む。
「君のその顔が・・」
そこまで言い、言葉を切った。葛藤するかのように唇が震えている。「俺の顔が何?」と男の手を取り、林田も立ち上がった。明らかに欲情した目が自分を見下ろしているのに、気が付かないはずがない。
「そんなふうに見られたら、俺、期待しちゃうよ?」
恐る恐る、男の頬に手を添えた。
「逃げないなら、このままキスしちゃうから」
上目遣いで囁けば、この男が拒めないのを知っている。自らの確信犯的な行動に呆れながらも、久しぶりの鬼崎の高ぶる顔、林田も興奮が隠せなかった。
「鬼崎さんの唇、あっつい・・」
唇を重ねた後に、男の目を見つめた。男はもう逸さなかった。
またキスが始まる。激しく求められるキスに身体の芯がちりちりと熱る。林田も感情の赴くままに男の唇を食んだ。口内を舐め回す舌先を夢中になって追いかけ、舌を絡めた。混ざり合った唾液が淫らに音を立てる。
「・・はぁ・・はぁ・・鬼崎さん・・ごめんなさい・・言うこと聞けなくて・・」
見上げながら「ごめんなさい」と溢す林田を、鬼崎は腕の中に抱きすくめる。
「あー、ヤバい」
耳元で呟かれた男の素の声に、思わずドキッとして肩を震わせた。
「これ以上したら、止めてあげられなくなる」
「止めなくていいよ・・鬼崎さんの全部受け入れてあげる」
息を呑む声がすぐ近くで聞こえて、抱き締める腕に一層強く力が籠る。ギュッと引き寄せられて、男の心臓の脈動が自分の身体にも響いてきた。林田は「くぅん」と甘えた声を出す。男の首筋をぺろぺろと舐め、チュッチュッと吸った。
自分を見下ろす目の色が変わった。「本当にいいんだね?」と念押しをされる。答える代わりに、鬼崎の口をキスで塞いだ。
「んっ・・・んぅ」
それがスイッチになった。少しずつ後ろに追い込まれ、ソファに仰向けに倒れた。鬼崎は上に乗っかり、林田の服を捲り上げ乳首に吸い付く。敏感なそこは性急な刺激にも反応し、「ああん」と上擦った声が出る。
「あっあっ・・きもち・・い」
言葉に出した途端、乳首を強くつねあげられ「ひぃっ」と体が強張った。
「・・なんで・・痛いよぉ」
鬼崎は涙目になる林田を冷ややかに見下ろし、口の端を怪しく釣り上げる。
「犬は犬らしく鳴かないとダメだろう?」
その一言に下半身がじわりと熱くなった。乳首をこね回し、「返事は?」と言い放たれる。刺激に悶え、答えられないでいると、手は突然離れた。
「あ・・あ・・」
じんじんと痺れたままで放置されて、焦ったくて、だらしなく声が漏れた。男は無言で林田の乳首を凝視する。
「・・・あぅん・・」
舐めるような視線に腰をくねらせながら、切なく鳴いた。
「よしよし、いい子」
言い終わらないうちにぷっくりと尖った乳首が弾かれ、林田は歓喜に声を上げた。
男からはまだスゥスゥと静かな寝息が聞こえた。そっと額に手のひらを当て、起こさないようにベッドを抜け出す。一階でタオルを濡らして部屋に戻り、男の額にそれを乗せ、また一階に降りた。
腕をまくり、リビングとキッチンを片付け始める。散らかったゴミを分別して袋に入れ、服を洗濯機に放り込み、食器を洗って棚にしまった。棚の一番手前にはマグカップを二つ並べて置き、満足げに微笑む。
「蓮太郎」
その声に振り向く。濡れタオルを握り締める鬼崎の顔を見て、林田の表情は曇った。
「なんで帰ってきたんだ」
素直に歓迎はされないだろうと予想していた。林田は口をキュッと結び、男の手を取ってソファに座らせた。
「ちょっと待ってて、コーヒー入れてくる。・・・あっその前に」
男の額に手をやる。
「まだ少し熱がありそうだけど平気?」
男はコクンと小さく頷いた。
「うん、分かった」
初めて触るコーヒーメーカーで入れ方が分からず、セットするまでに酷く手間取った。その間、鬼崎は黙り込んだまま、眉間の皺が二倍になったんじゃないかと思うほど難しい顔をしている。
「お待たせしました、どうぞ」
紺と赤のカップにコーヒーを注ぎ、テーブルに運んだ。鬼崎はチラッと見てから、戸惑うように手を伸ばす。一口飲んで、わずかに顔が綻んだ。
「・・・甘い」
「鬼崎さんが、実はブラック苦手なの、知ってました」
得意げな林田の言葉に「そうか」と一言だけ返すと、男はまた黙り込む。微妙に和んだ空気も瞬時にピリピリと凍りつく。
林田は姿勢を正して座った。その様子に鬼崎も顔を上げた。二人は向かい合う。心の中でゆっくり三秒数え、大きく息を吸った。
「鬼崎さん、俺はあなたが好きです。これからも一緒に暮らしたいと思っています。近づくなと言うのなら、その通りにします。だから・・またここに住まわせて下さい、お願いします」
林田は一息に言い切って頭を下げた。
「・・・君は俺が恐ろしくないのか?」
間を置き、自嘲気味に笑った男の顔が歪む。
「あの時はびっくりしたけど、今は怖いなんて思いません」
膝の上で握った拳が震えた。ここで引き下がったら、今度こそ、この男との関係は切れてしまう。たとえ目を合わせてくれなくても、逸らしたくないと思った。
林田の視線を避けるように、鬼崎はマグカップを持って席を立つ。
「待って、俺はちゃんと伝えたよ?だから鬼崎さんも逃げないでください」
「・・・・だ」
鬼崎は見上げた林田から不自然に顔を背けて、ぼそりと呟いた。
「え?」
林田が聞き返すと、目を泳がせた男の顔が今度は苦悶に歪む。
「君のその顔が・・」
そこまで言い、言葉を切った。葛藤するかのように唇が震えている。「俺の顔が何?」と男の手を取り、林田も立ち上がった。明らかに欲情した目が自分を見下ろしているのに、気が付かないはずがない。
「そんなふうに見られたら、俺、期待しちゃうよ?」
恐る恐る、男の頬に手を添えた。
「逃げないなら、このままキスしちゃうから」
上目遣いで囁けば、この男が拒めないのを知っている。自らの確信犯的な行動に呆れながらも、久しぶりの鬼崎の高ぶる顔、林田も興奮が隠せなかった。
「鬼崎さんの唇、あっつい・・」
唇を重ねた後に、男の目を見つめた。男はもう逸さなかった。
またキスが始まる。激しく求められるキスに身体の芯がちりちりと熱る。林田も感情の赴くままに男の唇を食んだ。口内を舐め回す舌先を夢中になって追いかけ、舌を絡めた。混ざり合った唾液が淫らに音を立てる。
「・・はぁ・・はぁ・・鬼崎さん・・ごめんなさい・・言うこと聞けなくて・・」
見上げながら「ごめんなさい」と溢す林田を、鬼崎は腕の中に抱きすくめる。
「あー、ヤバい」
耳元で呟かれた男の素の声に、思わずドキッとして肩を震わせた。
「これ以上したら、止めてあげられなくなる」
「止めなくていいよ・・鬼崎さんの全部受け入れてあげる」
息を呑む声がすぐ近くで聞こえて、抱き締める腕に一層強く力が籠る。ギュッと引き寄せられて、男の心臓の脈動が自分の身体にも響いてきた。林田は「くぅん」と甘えた声を出す。男の首筋をぺろぺろと舐め、チュッチュッと吸った。
自分を見下ろす目の色が変わった。「本当にいいんだね?」と念押しをされる。答える代わりに、鬼崎の口をキスで塞いだ。
「んっ・・・んぅ」
それがスイッチになった。少しずつ後ろに追い込まれ、ソファに仰向けに倒れた。鬼崎は上に乗っかり、林田の服を捲り上げ乳首に吸い付く。敏感なそこは性急な刺激にも反応し、「ああん」と上擦った声が出る。
「あっあっ・・きもち・・い」
言葉に出した途端、乳首を強くつねあげられ「ひぃっ」と体が強張った。
「・・なんで・・痛いよぉ」
鬼崎は涙目になる林田を冷ややかに見下ろし、口の端を怪しく釣り上げる。
「犬は犬らしく鳴かないとダメだろう?」
その一言に下半身がじわりと熱くなった。乳首をこね回し、「返事は?」と言い放たれる。刺激に悶え、答えられないでいると、手は突然離れた。
「あ・・あ・・」
じんじんと痺れたままで放置されて、焦ったくて、だらしなく声が漏れた。男は無言で林田の乳首を凝視する。
「・・・あぅん・・」
舐めるような視線に腰をくねらせながら、切なく鳴いた。
「よしよし、いい子」
言い終わらないうちにぷっくりと尖った乳首が弾かれ、林田は歓喜に声を上げた。
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