ご主人様（♂）とルームシェア

第五話 悪戯の代償

　ぷつんと理性が切れた一瞬があったんだと思った。その証拠に今、俺は鬼崎に食べられようとしている。
　時々漏れる吐息もすぐに唇を塞がれる。息が苦しくて、押し返そうとした身体は頑として動かない。

「・・ん・・んぅ・・も・・むり・・・」

　頭がくらくらする。酸欠のせいか、この状況のせいか、林田は唇が離されると鬼崎の胸に頭を乗せた。男の指が首輪に触れる。鬼崎は丹念に首元を撫で回して、首輪が付いている感触を感じて楽しんでいる。

「わぅーん？」

　鬼崎を見上げて犬語で問いかけた。

「何でもないよ、蓮太郎」

　言葉とは裏腹に鬼崎の目は怪しく光った。止んでいたキスの嵐がまた始まる。今度は唇だけじゃなく、耳、首筋、胸まで下がってきた。男としていつもはする側、はじめての経験に身体が緊張してしまう。

「蓮太郎、リラックスして」

　耳元で囁かれて、そこからゾクゾク刺激が走った。ねっとりと耳を舐られて、クチュクチュと耳が直に犯される。

「・・んあっ・・・」

　いつのまにかシャツの下に侵入した手が薄い胸を弄る。指が乳輪、乳頭と行き来するたびにくすぐったいだけだった感覚がじんわりと腰に響いてきた。ぷっくりと主張し始めた蕾を優しく摘まれて、「ひんっ」と女のような喘ぎ声が口から溢れる。
　慌てて口を抑えるが、鬼崎は興奮した様子で指の動きに舌の刺激を加えた。両方の乳首を舐めて、摘んで、押しつぶす。

　ぴんっぴんっ、すりすり
　
　きゅっ・・、ぐりぐり

「・・ぁああ・・あふ・・・」

　何だこれ、こんなの知らない。男の胸に付いてても、全く役に立たない飾りみたいなモノのくせに、死にそうなくらい気持ちよくさせられてる。

「蓮太郎の乳首、充血してるね。ピンク色でとても可愛いよ」

　そんな恥ずかしい事言わないで、林田はフルフルと首を振って懸命に否定した。

「ペットはご主人様に従順じゃなきゃいけないんだよ」

　鬼崎はにっこりと微笑んだ。男の声は低く響き、林田の身体の奥をゾクリとさせた。

「んひっ！」

　硬くしこった乳首を強めにつね上げられ、再び繰り返される愛撫の手。「蓮太郎のピンク色の乳首」「こんなに硬くして」「気持ちいいね？」とまるで擦り込みのように、胸を弄られながら幾度も囁やかれた。

「・・んぅぅ・・ぅあっ！」

　「やめて」「違う」そう表現する度に刺激は強くなる、それは林田が首を縦に振るまで続いた。ぼんやりした意識の中で林田は気付いた。
　これは・・躾？
　俺はいけない事をしたから、お仕置きをされて躾けられている・・・

「・・はっ・・はっ・・」

　ブワッと毛が逆立った。狂おしい程の熱が林田の身体を駆け巡る。

「・・ぁあ・・・ああ・・」

　触られてるのは乳首だけ、分かっているが、張り詰めた林田のペニスはパンツの中で痛いくらいに勃起していた。
　ヌルりとした感触を耳に感じた。

「蓮太郎、気持ちいいね？」

　鬼崎の声といやらしい水音が混ざり合う。

「・・・は・・ああ・・」

　迫り上がった熱はもう入り口まで来ている、気持ちいい・・死んじゃう・・ビクンッと大きく腰が跳ねた。一度も触られてないのに、パンツの内側は林田の放った精液でべっとりと濡れていた。

「返事は、蓮太郎？」

　林田は脱力感に包まれてぐったり身を任せた。力強く抱き抱えられながら「わぅん」と鳴く。

「ふふ、やっぱり蓮太郎はお利口さんだね」

「くぅーん」

　やっと褒めてもらえた喜びが胸に染み込んだ。突っぱねられると悲しくて、優しく撫でられれば嬉しい、当たり前の感情が俺の中で百倍の大きさに膨れ上がる。涙が勝手に押し出されて目が潤んだ。

「可愛い、蓮太郎」

　鬼崎に耳をかじられて、くすぐったさに小さく喘ぐ。刷り込まれた言葉が林田の耳から出て行かないように穴は舌で閉じられる、いつまでも続く甘い響きに、林田は「うん」「うん」と心の中で馬鹿みたいに何度も頷いた。