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英国編

下を向かないために

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 エリオットの帰宅は遅く、深夜をまわる時間に帰宅した日には眠っている成彦に気をつかい、肘掛け椅子で資料に目を通しながら寝ていることが多いが、この夜、眠れなかった成彦はうなじにキスをされる感触を感じると身体の向きを変えてエリオットを見上げた。
 
「おかえりなさい」
「起こしてしまったね」
「眠れなかったんです」
 
 理由は話せないけれど、無性にエリオットの顔が見たくなってしまったのだ。しかし見つめ合うと逆効果になってしまい切なさが募った。
 
「・・・・・・ん?」
「僕にあまり優しくしないでくださいエリオット様」
「おっと、急に何を言い出すかと思えば唐突だな」
「だって、・・・っ」
 
 独り占めしたくなってしまうからと、言えるわけがない。まだ説得する決意もできていないのに、成彦の口から言えることなんて一つもなかった。
 
「抱いてください。エリオット様を僕の中にください」
「それは当然オーケーだが、何か言いたいことがありそうだ」
「いいえ。エリオット様を早く感じたいと思っただけですよ」
 
 するとエリオットは目を細めた。
 
「私の番は最高だ」
 
 舌なめずりしたまま唇を近づける。柔らかな感触、湿ったぬるりとした舌の肉。力強く意思を宿したエリオットの肉体が成彦の下唇をぺろりと舐め、隙間を割るようにして口腔内に入ってきた。
 
「ん・・・はぁ」
 
 ちゅるりと舌先を吸うと、離れた唇は顎から喉仏にかけて降下する。
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「ん、はあっ、んああっ」
 
 両胸がじくじくと熱をもち、成彦は腹の奥が疼いて我慢できなくなる。きゅんとペニスが勃ち上がるが、エリオットは気づいていて手を後ろにやった。
 
「今日はこっちだけにしようか」
 
 下履きの上から窄まりを弄られ、焦ったさと期待の狭間で脳裏が混濁してくる。
 
「っつ、は、あああっ」
 
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「触ってエリオット様・・・・・・!」
「わかっているよ」
 
 ぬくくっと指がはいってくる。入り口を馴染ませ、拡げながら奥を確かめたエリオットは成彦の弱いところを刺激する。
 
「やめ、あ、そこ・・・んやあぁああっ」
 
 びりびりと小刻みな快感の波が腰を震わせた。
 ぴんと張り詰めた足先が絶頂を教えてくれるが、成彦の男性器は硬さを保ったまま揺れている。
 
「射精を耐えたのか?」
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 エリオットは動きを止めたまま視線を落としたので、中断されてしまうのかと勘繰ったが、それとは真逆にあたたかな身体が成彦を優しく押しつぶした。
 
「余計な詮索はやめるよ。せっかく成彦が大胆になってくれているのだから楽しまなくちゃ損だ」
 
 半端に乱れたシーツの上で成彦の脚が大きくひらかれ、侵入を待ちわびる後孔に重たくどっしりした嵩がのった。
 腰を推し進めてこないエリオットの男根は入りこんでくる寸前で意地悪く止まっていた。かすかに重なっている粘膜の熱だけがじわりじわりと成彦のなかに広がっていき、腹側の薄い茂みに先走りの糸がたらりと垂れる。

「・・・も・・・溶けちゃう」

 腹の奥が痙攣している。

「は、私と溶け合いたいか?」
「はい・・・いっそ一つになりたいです」
 
 下半身にクッと体重がのり、ひくついた窄まりは貪欲にエリオットを呑み込んだ。



 × × ×

 

 翌朝、成彦を襲ったのは絶え間ない後悔と羞恥心。
 
(あんなふうに誘うなんて娼夫と同じだ)
 
 ベッドの上のアレやこれを思い出し、成彦は沈んだ気持ちになる。
 
(うなじを噛んでもらって番になったのに・・・僕はいつになっても自信がもてない)
 
 一番に愛されているという自信がもてれば、堂々と正妻を迎えることができるのだろうか。
 
「エリオット様・・・・・・」
 
 隣で寝るエリオットに顔を寄せる。首筋から香る大好きなフェロモンで胸を満たすと、名残惜しさを振りきって体を離した。
 
(この人のそばにいるために、僕も何かしなくちゃっ)

 成彦の顔つきはもう病んではいなかった。
 さっそくエリオットとドミニクが仕事に出かけてから、成彦はセイを呼んだ。
 
「お呼びでしょうか」
「うん、折言って君に頼みがあるんだ」
 
 そうして成彦の計画を聞いたのち、勢いよく被りをふった。
 
「ひぇえ、む、無理ですっ、怒られてしまいます!」
「バレちゃっても僕が命じたと言えば大丈夫だから」
「身元を隠して工場の作業員に紛れ込みたいだなんて、いったいなんのためにでしょうか」
「エリオット様の仕事を近くで見たい。外で働く経験もしたい」
 
 少しでもエリオットに近づきたい。今の自分で相応しくないなら、これから変わればいい。
 
「それから、必要とされる男になりたいんだ」
 
 今の関係が壊れてしまっても、エリオットと繋がっていられる人になりたいのだ。
 
「成彦様」
「ふふ、エリオット様はね日本で出逢った頃に僕にオメガの性を卑下するなと言ってくださった。僕が前向きに外に出ようとすることに反対しないと思うよ」
「わかりました。そこまでおっしゃるならばお供させていただきます」
 
 二人は暖炉の煤をはたいた粗末な服に着替え、同じく汚れた帽子を被り、見えている肌は土汚れで褐色に染めた。オメガのフェロモンを周囲に気づかれる心配はないが、鶏小屋の土の上で転げ回り、鼻をつまみたくなるような匂いをつける。
 何日も体を洗っていない低所得者層の東洋人兄弟の完成だ。
 準備を整えているうちにわくわくしてくる。
 何をやっているのかと首を傾げる使用人たちに事情を話して秘密を約束してもらい、成彦はセイと屋敷の外へ出かけた。
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