壁ドンの壁

田×四

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胸の高鳴りの原因は高俊

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 一週間の締めくくりの今日は実力テスト。
 一時間目、まずは国語から。
 テスト開始からいい具合に時間が経過し、全ての問題を解き終えた俺は残りの時間を、答案用紙に記入した解答の見直しに当てていた。

(あ、しまった)

 その過程で、一箇所、記入誤りを見付けた。
 物語本文から抜き出せとの問いに対し「胸の高鳴り」と書くはずが、「胸の高俊し」と解答欄に書き込んでしまっていることに気付いたのだ。

 (これでは高俊たかとしに笑われてしまう)

 くすくすと目を細めて笑う高俊を想像してしまい、その可愛らしい様子に思わず笑みがこぼれる。 
 瀬戸内海のようにぽかぽかと温かい穏やかな心の波。
 それが日本海の強風による荒波に急変したのはちょうどこの直後、筆箱の中に消しゴムが見当たらなかったことに起因する。

 (さて、どうしたものか)

 誤記入した箇所を取り敢えず人差し指の腹で擦ってみた。
 答案用紙にシワが寄り、文字が多少薄まって、文字の周りがまだらな灰色に染まり汚くなっただけだった。
 これはもう……諦めるべきか。
 もちろん、挙手をして「先生!」と言い、消しゴムを貸してもらう方法はある。
 だが、しかし。
 この答案用紙を見られてしまうかもしれないことが、何やら無性に恥ずかしい。
 先程も状況説明したとおり、文字は多少薄まった程度であって、「胸の高俊し」と余裕で読める。
 余程の老眼でもない限り、きっと、ほぼ間違いなく、99.8%(残り0.2%は実は老眼だった説)この答案を見られ、読まれてしまう。
 高俊の可愛い笑顔に胸が高鳴るのは、俺一人だけで充分だ。他の奴らまで高俊の可愛さを知る必要はない。

「はい、そこまで」

 テスト監督、鶴畠つるばたけ先生の鶴の一声により、無情にもテストは終了し、最後の足掻きは不毛に終わった。せめて二重線でもして横に正答を記入すればよかった。
 
 (過ぎてしまったことは諦めなければ。気持ちを切り替えよう)

 二時間目のテストまでの休憩時間、高俊に消しゴムを忘れたことを話したら、心優しい高俊は自分の消しゴムをハサミで半分に切ってくれた。
 時化しけていた心の波は、常夏とこなつの南国ビーチに早変わりし、俺は多幸感に包まれた。

 二時間目のテスト中、間違った箇所を消そうとして、消しゴムの裏面に「晴」と油性ペンで書いてあるのに気が付いた。
 高俊のことだ、きっと天気占いでもしていたのだろう。

 五時間目までテストは続いた。
 一日中集中していたため、どっと疲れた。
 だが、金曜日ということもあり、全てのテストが終わると気分は晴れやかだ。
 この土日は部活とゲームと高俊に捧げようと心に誓う。
 心に誓ったとおり、土日は高俊と部活をし、部活終了後は高俊とゲームをして過ごした。
 週明け、月曜日。

「島田ぁ~、鈴木ぃ~もうちょっと頑張れ、田中ひろぉ~、田中はるぅ~、寺岡ぁ……」

 授業の度に、各教科、実力テストが返却される。
 そして、休み時間の度に、返却された答案用紙を持って高俊が点数比べにやって来る。

 「はっちゃん、いっせーのーで」

 この遣り取りにも少し飽きたので、好きに見てくれと思い、先程の授業で返却された国語の答案用紙を高俊に手渡した。
 高俊が持つ答案用紙を横から覗き見ていた女子達から、しばらくしてキャーという歓声のような黄色い悲鳴があがった。
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みんなの感想(1件)

まこ
2023.03.26 まこ

なるほど(*´艸`*)可愛らしいお話しですね!

田×四
2023.03.27 田×四

お読みくださり有り難うございます♪ 可愛らしいとのご感想をいただけてとても嬉しいです(*´ー`*)

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