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本編
策略①
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― 策略 ―
正午、善照寺砦には徐々に兵が集まり、織田軍は2千弱となっていた。
義元の方は、本陣の陣立ても完了し、鷲津砦と丸根砦も早々に攻略できたことから
「非常に満足である」
と喜び、謡を3番もうたった。
しかし、その報告を受けた信長は、違和感を覚えた。戦はこれからである。あの義元がこの程度で満足するはずがない。信長は、義元が油断したふりをして、自分を本陣へ誘い込んでいるように感じ取った。何か罠を張っているのかも知れない。
しかし、織田軍の中には「義元め! 舐めておる!」と憤慨する武将もいた。中島砦の佐々政次と千秋季忠である。季忠は、熱田から信長とともに善照寺砦へ入ったが、血気にはやり、熱田勢とともに最前線である中島砦へ先行していた。
季忠は、佐々政次に向けて提案した。
「佐々殿、敵は油断しております。この上は、われらで本陣の前衛部隊を叩き、勝機を手繰り寄せましょうぞ」
佐々政次も血の気の多い性分である。大いに賛成し、善照寺砦の信長に出陣の伺いを立てるため、使者を出した。
信長にとって佐々政次の提案はありがたかった。危険な任務になるが、前衛部隊に損害を与え、桶狭間山まで撤退させてくれれば申し分なかった。信長は出陣を許可すると、高見山の方をじっと見守った。
ほどなくして、戦の結果が、信長の想像よりも早くもたらされた。
「佐々様、千秋様、果敢に挑み、高見山の前衛部隊を突破。今川軍弱しと見て、本陣へ迫るも敢え無く討死!」
報告を聞いて、信長は直感した。
『やはり罠か…!』
佐々、千秋隊は、わずか3百。1千の敵前衛部隊を一瞬のうちに突破できるわけがない。
信長の読みは正しかった。義元は、前衛部隊に対して敵が攻めてきたら、敢えて突破させるよう指示していた。そして、敵が勢いに任せ自陣へ突入してきたら、背後から攻め、本陣と挟み撃ちする算段であった。加えて、大高城付近に待機する朝比奈隊も援軍に駆けつけさせ、三方から包囲、確実に信長の首を獲る作戦を立てていた。
そのため、義元が沓掛城から出陣する際、本陣の兵数が少ないのでは? と家臣から注進されていたが、
「この位がちょうど良かろう」
と、答えて意に介さなかった。信長をおびき出すには、本陣が多すぎても、少なすぎても駄目だったのである。多すぎれば警戒されて信長は攻めてこない。少ないと、逆に自分が危険な目に合う可能性があった。
義元は、度重なる勝利に
「我が軍の矛先(先鋒)は、天魔も鬼神も寄せつけぬであろう。実に気分が良い」
と喜び、また悠々と謡をうたった。
信長からすれば、それも義元のあからさまな挑発だった。自分を死地へ招き入れようとしている。しかし、罠を突破し、義元本陣へ辿り着かなければ、勝機は訪れないのも事実だった。
信長は最前線の中島砦へ移動しようとした。しかし、家老衆は
「中島への道の両脇は深田のため、縦一列で歩くしかございませぬ。簡単に兵数を数えることができ、こちらの無勢が明確になる故、決してなりませぬ」
と、それぞれ大声を出しながら、馬の轡の引手にしがみつき、必死で止めたのである。
信長は、それを払いのけると、逃げるように中島砦へ駆けて行った。家老衆も仕方なくついて行かざるを得なかった。
正午、善照寺砦には徐々に兵が集まり、織田軍は2千弱となっていた。
義元の方は、本陣の陣立ても完了し、鷲津砦と丸根砦も早々に攻略できたことから
「非常に満足である」
と喜び、謡を3番もうたった。
しかし、その報告を受けた信長は、違和感を覚えた。戦はこれからである。あの義元がこの程度で満足するはずがない。信長は、義元が油断したふりをして、自分を本陣へ誘い込んでいるように感じ取った。何か罠を張っているのかも知れない。
しかし、織田軍の中には「義元め! 舐めておる!」と憤慨する武将もいた。中島砦の佐々政次と千秋季忠である。季忠は、熱田から信長とともに善照寺砦へ入ったが、血気にはやり、熱田勢とともに最前線である中島砦へ先行していた。
季忠は、佐々政次に向けて提案した。
「佐々殿、敵は油断しております。この上は、われらで本陣の前衛部隊を叩き、勝機を手繰り寄せましょうぞ」
佐々政次も血の気の多い性分である。大いに賛成し、善照寺砦の信長に出陣の伺いを立てるため、使者を出した。
信長にとって佐々政次の提案はありがたかった。危険な任務になるが、前衛部隊に損害を与え、桶狭間山まで撤退させてくれれば申し分なかった。信長は出陣を許可すると、高見山の方をじっと見守った。
ほどなくして、戦の結果が、信長の想像よりも早くもたらされた。
「佐々様、千秋様、果敢に挑み、高見山の前衛部隊を突破。今川軍弱しと見て、本陣へ迫るも敢え無く討死!」
報告を聞いて、信長は直感した。
『やはり罠か…!』
佐々、千秋隊は、わずか3百。1千の敵前衛部隊を一瞬のうちに突破できるわけがない。
信長の読みは正しかった。義元は、前衛部隊に対して敵が攻めてきたら、敢えて突破させるよう指示していた。そして、敵が勢いに任せ自陣へ突入してきたら、背後から攻め、本陣と挟み撃ちする算段であった。加えて、大高城付近に待機する朝比奈隊も援軍に駆けつけさせ、三方から包囲、確実に信長の首を獲る作戦を立てていた。
そのため、義元が沓掛城から出陣する際、本陣の兵数が少ないのでは? と家臣から注進されていたが、
「この位がちょうど良かろう」
と、答えて意に介さなかった。信長をおびき出すには、本陣が多すぎても、少なすぎても駄目だったのである。多すぎれば警戒されて信長は攻めてこない。少ないと、逆に自分が危険な目に合う可能性があった。
義元は、度重なる勝利に
「我が軍の矛先(先鋒)は、天魔も鬼神も寄せつけぬであろう。実に気分が良い」
と喜び、また悠々と謡をうたった。
信長からすれば、それも義元のあからさまな挑発だった。自分を死地へ招き入れようとしている。しかし、罠を突破し、義元本陣へ辿り着かなければ、勝機は訪れないのも事実だった。
信長は最前線の中島砦へ移動しようとした。しかし、家老衆は
「中島への道の両脇は深田のため、縦一列で歩くしかございませぬ。簡単に兵数を数えることができ、こちらの無勢が明確になる故、決してなりませぬ」
と、それぞれ大声を出しながら、馬の轡の引手にしがみつき、必死で止めたのである。
信長は、それを払いのけると、逃げるように中島砦へ駆けて行った。家老衆も仕方なくついて行かざるを得なかった。
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