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学園編(初等部)

試合の始まり

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「本当は、優勝者のアシンとお嬢さんのどちらかにしようと最初から決めてたんだ。」

「俺達の満場一致でアシンに決まってたんだけど、キングの仕事をサボってた様でな。」

「つまりは、アシンのおこぼれと思う事だな。安心しろ。俺達はお前に期待などしていない。」

遠回しに役立たずと言われているな。
「スレイン、そんな言い方しない。」

「お前達も思うだろ。運だけで優勝した奴と一緒になんて闘いたくない。」

「そんなの戦ってみないと分からないだろ。まあ、試合ならさっきの3人の方がいいな。」

私に与えられる評価は何時も同じなのだ。だから彼等の言葉に怒りを覚える事はない。

「説明するぞ。ゴーレム好きのハイレイクが作ったゴーレムと試合して貰う。」

話の内容を簡単にまとめると、ゴーレムの中に5つの心臓部が組み込まれているらしい。

その全てを壊す事でゴーレムは止まるらしい。今日はゴーレムの動きを見るらしい。

壊してもいいから、本気で戦う様に言われた。場外に出たり、戦闘不能になればお終い。

これが、試合の内容だ。それにしても、研究員や数人の生徒が観戦している。

「じゃあ、僕の作ったゴーレムと戦って貰う・・。本気で頼む・・・。」

ゴーレムを作った人は、深緑色の髪に桜色の瞳をした美丈夫だった。

だけど、目の下のクマからとても暗い印象を受ける。

「悪い・・・けど、中等部の彼等の実力に合わせた・・・から。逃げるなら・・」

成る程、彼等からしたら私は瞬殺されると考えているのか。

まあ、内容はどうであれ、結果は不戦勝が重なった優勝なのだ。

気に食わない人間もいるだろう。観戦者のの1部からは負けろとまで言われてるしね。

「構いません。初めて下さい。」
そう簡単に負けるつもりはない。

私はレイピアを抜き、構えをとる。
「そう・・・。なら、初めて・・」

ゴーレムを作ったハイレイクさんの合図に、試合開始の合図がなる。

リバーズさんは両剣だ。右は普通の剣の長さで、左は右より少し短い。

スイレンさんはロングソード。ロキさんは両手に銃を持っている。

右はオートマチックピストルで、左がリボルバーピストルだ。

両方の銃に前世のモデルガンにはなかった剣が搭載されていた。いわゆる銃剣だ。

中等部では、自分に合った武器を探す事が重要らしい。

リバーズさんの方へ走るゴーレム。リバーズさんは避ける事なくゴーレムに走る。

ゴーレムのパンチが、リバーズさんの両剣とぶつかり合う。

ガキーンと鉄と鉄のぶつかり合う音が響く。ゴーレムが拳を払うと、リバーズさんが吹き飛ぶ。

リバーズさんは難なく着地し、構え直す。そこには満面の笑顔をゴーレムに向けている。

スイレンさんが走り出し、空中へ飛び回転を加えてロングソードを叩きつけた。

しかし、頑丈なゴーレムの身体には傷一つ付けられていない。

続いてロキさんが攻撃を仕掛けた。銃を撃つロキさんの銃弾は魔法強化をしているみたい。

強化する事で、スピードと貫通力を上げているんだ。だが、それだけではない。

撃った弾丸は、炎を帯びてゴーレムに向かって行く。それでも傷が付かない。

あれはゴーレムではなく、ロボットと化してる気がするのだが・・・。

「おい!?ロキとスイレン、俺の獲物をとんなよ。」
「ふん。なら、俺達より先に倒せばいい事だ。」

「チッ。まあ、こんなにわくわくする事はそんにないからな。覚悟しいや。」

リバーズさん、何か口調が変わってない?そんな事を思っているとゴーレムが突っ込んで来た。

私はレイピアに魔法強化をして、ゴーレムの足を切る為に振るう。

しかし、案の定切る事は叶わなかった。それにしても凄い強度だ。

本気で魔力で強化しても、貫通できるか分からない。そんな事を思っていると、私はある事に気づいた。

けれど、ゴーレムに拳を向けられ、距離を取る事を余儀なくされた。

だけど、このゴーレムの弱点が分かった気がする。先程、足を見たら分かったのだ。

足首と思わしき所から、何本かの線が繋がれていたのをだ。人の構造と似ているのだろう。

あの線を切断すれば、動けなくなる筈だ。一か八かだがやる価値はある。

私は攻撃を仕掛ける為に、ゴーレムへ走るその直前でリバーズさんがゴーレムに飛び掛かった。

しかし、ゴーレムが先程よりも素早い動きで、リバーズさんの両剣を避けた。

それだけではなく、ゴーレムの身体に仕掛けられていたのか銃が出てきた。

放たれた炎の弾丸をギリギリで躱したが、両足をゴーレムが掴んだ。

リバーズさんは逆さまの状態で捕まったのだ。この試合は戦闘不能となるか、場外に入った時に退場。

リバーズさんは両剣で反撃を試みるが、結構な強度のゴーレムには効いていない。

私はレイピアを構えて、ゴーレムへと走る。
「貴様が行っても邪魔だ!」

そんな言葉を無視して、レイピアに強化魔法をほどこす。

ゴーレムがリバーズさんに、一撃を喰らわそうとした時、私に気づいたゴーレムは標的を変える。

左の拳が飛んでくるが、私はジャンプしてゴーレムの左腕を掛ける。

ゴーレムは左腕を払うが、私はジャンプしてゴーレムの右腕に飛ぶ。

構造が前世のロボットと似ているのなら、関節部分にある線を切断すれば良い。

私はレイピアの頭柄を左手で押し、剣先を地の方向へと向けてゴーレムの右腕の関節に攻撃した。

その瞬間、火花が散りギギギと言う音が響く。ゴーレムは払い除けようとする。

しかし、私が吹き飛ばされないようにしながら、攻撃の手も緩めない。

結果は私は吹き飛ばされた。だけど、リバーズさんを救出出来たし、手応えもあった。

問題は線にも何か強化してあるみたいだ。私としてはあの3人が協力してくれたらいいと思う。

まあ、無理だろうけど。あの3人の仲の悪さは有名な話である。

協力と言う考えなど消し飛ぶ程に。
「あんがとよ。」

リバーズさんが、視線を逸らしながらお礼を言って来た。

「俺、あんたの事、誤解してたんや。すまんかったな。」

「謝罪はいいですよ。」
「そうかい。まあ、協力してあいつを倒そうや。」

満面の笑顔で言うリバーズさん。
「ええ、頼りにしています。先輩。」

「おうよ!」
両剣を構えるリバーズさん。

「・・・貴女もあんな動きが出来たんだな。」
スイレンさんの声の方向を見るともう歩き出していた。

「何にしても、気楽に行こうよ。時間はまだあるもんね。」

ロキさんも拳銃を構えて歩き出す。私も警戒を怠らない。油断なく隙を探る。

この戦いはまだ、始まったばかりである。


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