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メタール産チーズケーキ
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キリエス王都マビン・グラスへ向かうために、やって来たのは、キリエス北部に位置する村、メタールである。
ソルディウスからキリエスへの最短ルートは、私たちが馬車で通ってきた道だ。
だが、その道だとキリエスの警戒網に引っ掛かる恐れがある。
そのため、私は敢えて遠回りをしている、という訳だ。
ここメタールは酪農が盛んな村である。
数年前から、ここで作られるチーズケーキが世界中で、爆発的大ヒットを巻き起こしたことは、記憶に新しい。
今でも品薄状態で、ここを訪れる観光客の大半が、そのチーズケーキを求めて、やって来るのだそうだ。
「チーズケーキの為に、遠路はるばるご苦労なことである。」
私には、その神経が理解できない。
ここには、他にも観光できる場所が、たくさんあるのに。
例えば、この雄大に広がる牧場だ。
見渡す限りの広大な牧場には、牛や山羊、羊、トンボ……トンボ!?
私は、自分の目を疑った。
目の前に居るのは、トンボ師匠と弟子のムーンでは、ないか。
「奴ら、こんな所まで何をしに――そうか、チーズケーキか。」
メタール産のチーズケーキを、こよなく愛するトンボ師匠なら、当然といえば当然である。
私は、奴らに見つからないよう、木の陰に身を潜めた。
「しかし、あの二人は、いつも一緒に行動しているのか?」
師匠大好きの、ムーンはトンボに、いつもべったりなのである。
私が、そんな二人を見て、ため息をついていると突然、私の肩を叩く者が現れた。
私は、慌てて「なにやつ!」と、振り返った。
「よっ!おひさ。」と、軽いノリで声をかけてきたのは、私の師匠の一人、ヒグラシだった。
ヒグラシは、槍の使い手だ。
その昔、ギアン大陸には、三人の槍の達人がいた。
彼らは三槍鬼さんそうきと呼ばれ、各国の軍隊から引く手あまた、であった。
因みに三槍鬼は、トンボ、ヒグラシ、ホタル、の三人の事である。
あと一人のホタルも、もちろん私の師匠です。
彼は、残念ながら病に倒れ、この世を去ってしまった。
この三人は、昔からの顔馴染みであるが、とにかく仲が悪かった。
今でも伝説として、語り継がれている話がある。
それは、偶然三人が同じ町に居合わせた事で始まった、三つ巴の戦いである。
不運にも、その町は壊滅してしまったそうだ。
信じるも信じないも、貴方――。
「おおい。さっきから何をボーッと、自分の世界に入り込んでおるんだい。しばらくぶりに、師匠に会ったんじゃから、もっと嬉しそうにしたら、どうだ。」
私は、とりあえず満面の笑みを浮かべてみた。
「しらじらしい奴じゃな。しかし、こんな所でいったい――!あ、あれは、我が宿敵、トンボではないか!」
「しまった!!」
私は、すっかりトンボ師匠の事を忘れてしまっていた。
「ここで会ったが百年目。いざ、尋常に勝負!……と、言いたいとこじゃが、その前にチーズケーキを買わんとな。どうだ、ちょっと付き合ってくれんか。」
ヒグラシもチーズケーキを求めて、わざわざメタールまで来ていたようである。
「まったく、似た者同士だな。」と、私は鼻で笑った。
しかし、この二人が正面から出会ってしまっては、とても危険である。
しょうがないので、私はヒグラシと共にチーズケーキを買いに行くことにした。
この美しい村を破壊させないように、するためだ。
しばらく歩くと、長い人の行列が見えてきた。
こんな田舎には、不似合いな人の数である。
私とヒグラシは、その列の最後尾に並んだ。
「おっ!あそこにトンボが並んどる。あやつは昔から、ここのチーズケーキに目がなかったからのう。」
「そういう、あんたもだろ!?」と、突っ込んでやりたい気分だ。
「しかし、ここ最近ブームだかなんだかで、買うことすら困難になってしもた。残念なことじゃ。」
確かに、昔からのファンには、たまらないだろう。
まあ、そのうち落ち着くはずだ。
しかし、共通の好物があれば、二人は仲良くなれるのでは、ないだろうか。
昔のことは、全て水に流して。
私は、そんな淡い期待をしていた。
しかし、事態は急展開を迎える。
トンボの腰巾着、ムーンが私に気づいてしまったのだ。
「あーっ!トンボ師匠。ほら、あれ。」
「じょーしゅた?みゅーんょ……ヒグラシ!貴様、よくもぬけぬけと、儂の前に現れおったの。今、殺ってやるから覚悟せい!」
「ほう。殺れるもんなら、殺ってもらおうか、トンボ!」
どうやら、私の思い違いだったようだ。
トンボ師匠も覚醒してしまった。
「こうなれば、二人共――いや、ムーンも入れた三人共、私が葬り去るしか、なさそうだ。」と、私は強い決意をした。
「ヒグラシよ。チーズケーキを買うまで、しばし待て。」
「トンボ……承諾しよう。だが、某が買うまで、貴様も待て。」
トンボは、小さく頷いた後、また前を向いた。
私は一人、肩透かしを食らったような状態だった。
「なんなのだ、この爺どもは――まあ、平和に越したことはないが。」と、私は煮え切らない気持ちのまま、ヒグラシと並び続けた。
時間は経過し、いよいよトンボ達の順番が、やってこようとした、その時だった。
突然、後方から悲鳴声が上がったのだ。
「きゃあ!」
「うわあ!変なのが来たぞ!」
「牛の化け物だ!」
いつしか、私たちの後ろにも沢山の人が並んでいた。
その、人々がパニックに陥った様に騒ぎ立てている。
「なんなのだ、牛の化け物って。ここは、牧場だから牛くらい、いるだろう。やれやれ。」と、私は観光客たちのマナーの悪さに呆れながら、振り返った。
「――オーマイゴッド!!」で、ある。
こちらへ向かって歩いてくるのは、頭が牛で体が人間という、奇々怪々な生物なり。
「ありゃ、ミノタウロスじゃ。厄介な奴が来おったな。」と、ヒグラシは、唸る様に言った。
その、ミノタウロスは人間の行列には目もくれず、真っ直ぐに突き進んでくる。
「なんだ。害は、なさそうではないか。」と、私の横を通り過ぎて行った、ミノタウロスの背を眺めながら、安堵した。
――ところが、そうではなかった。
あろうことか、ミノタウロスはチーズケーキの店へ突撃したのだ。
「きゃああ!」と、販売員の女の子たちは、店を空っぽにして逃げてしまった。
ミノタウロスは店内にあったチーズケーキを一瞬にして平らげてしまった。
「ゲップ!」
ミノタウロスは満足そうに、もと来た道を歩き出した。
「ちょっと待てい!牛さんよ。」
トンボがミノタウロスを呼び止めた。
「なんだ人間。何か用か?」
「喋れるのか、あの牛。さすが人間とのハイブリッドだけのことは、あるな。」と、私は感心した。
「よいか、人間界では商品に金を払わねば、ならん。お主が食ったチーズケーキも商品だ。さあ、金を払え。儂のチーズケーキを食ったのだ、安くはないぞ!」
トンボが牛に説教を、している姿は何となくシュールだ。
「人間如きが、殺されないだけ有難く思って、黙っていれば良いものを――死にたいらしいな、老いぼれ。」
ミノタウロスは、そのマッチョな体に似合う、厳つい剣を抜いた。
「やるのだな。上等じゃ!儂のチーズケーキの怨み、ここで晴らしてくれる。おい、ムーン!」
トンボは、ムーンから太い槍を受け取った。
「出た!トンボの愛槍『オニヤンマ』だ。」
私は、ゴクリと唾を飲み込み、ことの成り行きを見守った。
「あいや、待たれい。その戦、某も参戦いたす。」
トンボとミノタウロスの間に割り入ってきたのは、ヒグラシだ。
「ヒグラシ!邪魔をするな。」
「邪魔では、ない。助太刀だ。某もチーズケーキを、どれだけ楽しみにしておったか……許すまじ!」
「そうか、そうであったか。分かるぞ、ヒグラシ。ならば、共に戦おう。」
「……なんだ、この妙な展開は。」と、私は少々げんなり、としてきた。
「いくぞ!」と、ヒグラシが取り出した槍は、伸縮自在の三段構造の武器だ。
「でたな、『トリックスター』。」
ヒグラシの槍は刃が二股に、なったり三股になったりする、変幻自在の槍でもあるのだ。
もちろん、それを使いこなすことが可能なのは基本が出来ているからこそ、である。
「やるぞ、トンボ!」
「おう、ヒグラシ!」
「ハンドレットピアース!」
「無限地獄槍!」
二人の師匠の、槍の乱れ突きの競演である。
「くっ!防ぎきれん――ぐわあ!」
ミノタウロスは断末魔の叫びを上げ、倒れた。
「相変わらず、やるなトンボよ。」
「お主もな、ヒグラシ。」
私は両師匠に拍手を送った。
「あのー、ありがとう御座いました。宜しければ、これ食べて下さい。」
そう言って、店の販売員の女の子がチーズケーキをワンホール持ってきて差し出した。
「なんと!まだ残っていたのか……しかし、これはまずい状態だ。」と、私は恐る恐る二人の師匠を見た。
「では、頂くとしよう。」
「では、遠慮なく。」
二人は、同時に手を差し出した。
「むっ!これは、儂のものだ。ヒグラシ!」
「何を言っておる、トンボ。娘さんは、某にくれたんだ。」
二人の間に激しい火花が散った。
「あの、二つ有るので、お一つずつどうぞ。」
「それじゃあ、一つずつ貰うとするか、トンボよ。」
「しょおしゅしぉ、でぃぐりゃしぃ。」
こうして、ようやく一件落着なのである。
「どうじゃ、お前も一緒に食べんか?」
私は、別にチーズケーキが好きというわけではないが、ヒグラシの好意に甘えることにした。
私と、ヒグラシ、トンボ、ムーンの四人は草の上に腰を下ろし、チーズケーキを頂いた。
「うわぁ!旨ぇ!やっぱ、ここのチーズケーキは最強ですね師匠。もう死んでもいいや。」と、ムーンは草の上に寝っ転がった。
私は、「そんな、死んでもいいなどとオーバーな。」と、半信半疑のまま一口食べた。
「ほ、ほんとだ!この濃厚なチーズの味わい。だが決して、くどくなく、後に残るのは爽やかで、ほのかなレモンの様な風味。食べれば食べるほどに、深く全身に染み渡る――これは、まるで母の胎内にいるような、安らかな気分になる。この世に産まれて良かったー!!と、叫びたくなる……い、いかん。これは、いかん!このままでは、この両師匠の様な老人になってしまう。恐らくムーンは、もう手遅れだろう。」
私は、スッと立ち上がり、両師匠に一礼し、その場を足早に去った。
私は、急ぎメタールを後にした。
「メタール産チーズケーキ……恐るべし。」で、ある。
ソルディウスからキリエスへの最短ルートは、私たちが馬車で通ってきた道だ。
だが、その道だとキリエスの警戒網に引っ掛かる恐れがある。
そのため、私は敢えて遠回りをしている、という訳だ。
ここメタールは酪農が盛んな村である。
数年前から、ここで作られるチーズケーキが世界中で、爆発的大ヒットを巻き起こしたことは、記憶に新しい。
今でも品薄状態で、ここを訪れる観光客の大半が、そのチーズケーキを求めて、やって来るのだそうだ。
「チーズケーキの為に、遠路はるばるご苦労なことである。」
私には、その神経が理解できない。
ここには、他にも観光できる場所が、たくさんあるのに。
例えば、この雄大に広がる牧場だ。
見渡す限りの広大な牧場には、牛や山羊、羊、トンボ……トンボ!?
私は、自分の目を疑った。
目の前に居るのは、トンボ師匠と弟子のムーンでは、ないか。
「奴ら、こんな所まで何をしに――そうか、チーズケーキか。」
メタール産のチーズケーキを、こよなく愛するトンボ師匠なら、当然といえば当然である。
私は、奴らに見つからないよう、木の陰に身を潜めた。
「しかし、あの二人は、いつも一緒に行動しているのか?」
師匠大好きの、ムーンはトンボに、いつもべったりなのである。
私が、そんな二人を見て、ため息をついていると突然、私の肩を叩く者が現れた。
私は、慌てて「なにやつ!」と、振り返った。
「よっ!おひさ。」と、軽いノリで声をかけてきたのは、私の師匠の一人、ヒグラシだった。
ヒグラシは、槍の使い手だ。
その昔、ギアン大陸には、三人の槍の達人がいた。
彼らは三槍鬼さんそうきと呼ばれ、各国の軍隊から引く手あまた、であった。
因みに三槍鬼は、トンボ、ヒグラシ、ホタル、の三人の事である。
あと一人のホタルも、もちろん私の師匠です。
彼は、残念ながら病に倒れ、この世を去ってしまった。
この三人は、昔からの顔馴染みであるが、とにかく仲が悪かった。
今でも伝説として、語り継がれている話がある。
それは、偶然三人が同じ町に居合わせた事で始まった、三つ巴の戦いである。
不運にも、その町は壊滅してしまったそうだ。
信じるも信じないも、貴方――。
「おおい。さっきから何をボーッと、自分の世界に入り込んでおるんだい。しばらくぶりに、師匠に会ったんじゃから、もっと嬉しそうにしたら、どうだ。」
私は、とりあえず満面の笑みを浮かべてみた。
「しらじらしい奴じゃな。しかし、こんな所でいったい――!あ、あれは、我が宿敵、トンボではないか!」
「しまった!!」
私は、すっかりトンボ師匠の事を忘れてしまっていた。
「ここで会ったが百年目。いざ、尋常に勝負!……と、言いたいとこじゃが、その前にチーズケーキを買わんとな。どうだ、ちょっと付き合ってくれんか。」
ヒグラシもチーズケーキを求めて、わざわざメタールまで来ていたようである。
「まったく、似た者同士だな。」と、私は鼻で笑った。
しかし、この二人が正面から出会ってしまっては、とても危険である。
しょうがないので、私はヒグラシと共にチーズケーキを買いに行くことにした。
この美しい村を破壊させないように、するためだ。
しばらく歩くと、長い人の行列が見えてきた。
こんな田舎には、不似合いな人の数である。
私とヒグラシは、その列の最後尾に並んだ。
「おっ!あそこにトンボが並んどる。あやつは昔から、ここのチーズケーキに目がなかったからのう。」
「そういう、あんたもだろ!?」と、突っ込んでやりたい気分だ。
「しかし、ここ最近ブームだかなんだかで、買うことすら困難になってしもた。残念なことじゃ。」
確かに、昔からのファンには、たまらないだろう。
まあ、そのうち落ち着くはずだ。
しかし、共通の好物があれば、二人は仲良くなれるのでは、ないだろうか。
昔のことは、全て水に流して。
私は、そんな淡い期待をしていた。
しかし、事態は急展開を迎える。
トンボの腰巾着、ムーンが私に気づいてしまったのだ。
「あーっ!トンボ師匠。ほら、あれ。」
「じょーしゅた?みゅーんょ……ヒグラシ!貴様、よくもぬけぬけと、儂の前に現れおったの。今、殺ってやるから覚悟せい!」
「ほう。殺れるもんなら、殺ってもらおうか、トンボ!」
どうやら、私の思い違いだったようだ。
トンボ師匠も覚醒してしまった。
「こうなれば、二人共――いや、ムーンも入れた三人共、私が葬り去るしか、なさそうだ。」と、私は強い決意をした。
「ヒグラシよ。チーズケーキを買うまで、しばし待て。」
「トンボ……承諾しよう。だが、某が買うまで、貴様も待て。」
トンボは、小さく頷いた後、また前を向いた。
私は一人、肩透かしを食らったような状態だった。
「なんなのだ、この爺どもは――まあ、平和に越したことはないが。」と、私は煮え切らない気持ちのまま、ヒグラシと並び続けた。
時間は経過し、いよいよトンボ達の順番が、やってこようとした、その時だった。
突然、後方から悲鳴声が上がったのだ。
「きゃあ!」
「うわあ!変なのが来たぞ!」
「牛の化け物だ!」
いつしか、私たちの後ろにも沢山の人が並んでいた。
その、人々がパニックに陥った様に騒ぎ立てている。
「なんなのだ、牛の化け物って。ここは、牧場だから牛くらい、いるだろう。やれやれ。」と、私は観光客たちのマナーの悪さに呆れながら、振り返った。
「――オーマイゴッド!!」で、ある。
こちらへ向かって歩いてくるのは、頭が牛で体が人間という、奇々怪々な生物なり。
「ありゃ、ミノタウロスじゃ。厄介な奴が来おったな。」と、ヒグラシは、唸る様に言った。
その、ミノタウロスは人間の行列には目もくれず、真っ直ぐに突き進んでくる。
「なんだ。害は、なさそうではないか。」と、私の横を通り過ぎて行った、ミノタウロスの背を眺めながら、安堵した。
――ところが、そうではなかった。
あろうことか、ミノタウロスはチーズケーキの店へ突撃したのだ。
「きゃああ!」と、販売員の女の子たちは、店を空っぽにして逃げてしまった。
ミノタウロスは店内にあったチーズケーキを一瞬にして平らげてしまった。
「ゲップ!」
ミノタウロスは満足そうに、もと来た道を歩き出した。
「ちょっと待てい!牛さんよ。」
トンボがミノタウロスを呼び止めた。
「なんだ人間。何か用か?」
「喋れるのか、あの牛。さすが人間とのハイブリッドだけのことは、あるな。」と、私は感心した。
「よいか、人間界では商品に金を払わねば、ならん。お主が食ったチーズケーキも商品だ。さあ、金を払え。儂のチーズケーキを食ったのだ、安くはないぞ!」
トンボが牛に説教を、している姿は何となくシュールだ。
「人間如きが、殺されないだけ有難く思って、黙っていれば良いものを――死にたいらしいな、老いぼれ。」
ミノタウロスは、そのマッチョな体に似合う、厳つい剣を抜いた。
「やるのだな。上等じゃ!儂のチーズケーキの怨み、ここで晴らしてくれる。おい、ムーン!」
トンボは、ムーンから太い槍を受け取った。
「出た!トンボの愛槍『オニヤンマ』だ。」
私は、ゴクリと唾を飲み込み、ことの成り行きを見守った。
「あいや、待たれい。その戦、某も参戦いたす。」
トンボとミノタウロスの間に割り入ってきたのは、ヒグラシだ。
「ヒグラシ!邪魔をするな。」
「邪魔では、ない。助太刀だ。某もチーズケーキを、どれだけ楽しみにしておったか……許すまじ!」
「そうか、そうであったか。分かるぞ、ヒグラシ。ならば、共に戦おう。」
「……なんだ、この妙な展開は。」と、私は少々げんなり、としてきた。
「いくぞ!」と、ヒグラシが取り出した槍は、伸縮自在の三段構造の武器だ。
「でたな、『トリックスター』。」
ヒグラシの槍は刃が二股に、なったり三股になったりする、変幻自在の槍でもあるのだ。
もちろん、それを使いこなすことが可能なのは基本が出来ているからこそ、である。
「やるぞ、トンボ!」
「おう、ヒグラシ!」
「ハンドレットピアース!」
「無限地獄槍!」
二人の師匠の、槍の乱れ突きの競演である。
「くっ!防ぎきれん――ぐわあ!」
ミノタウロスは断末魔の叫びを上げ、倒れた。
「相変わらず、やるなトンボよ。」
「お主もな、ヒグラシ。」
私は両師匠に拍手を送った。
「あのー、ありがとう御座いました。宜しければ、これ食べて下さい。」
そう言って、店の販売員の女の子がチーズケーキをワンホール持ってきて差し出した。
「なんと!まだ残っていたのか……しかし、これはまずい状態だ。」と、私は恐る恐る二人の師匠を見た。
「では、頂くとしよう。」
「では、遠慮なく。」
二人は、同時に手を差し出した。
「むっ!これは、儂のものだ。ヒグラシ!」
「何を言っておる、トンボ。娘さんは、某にくれたんだ。」
二人の間に激しい火花が散った。
「あの、二つ有るので、お一つずつどうぞ。」
「それじゃあ、一つずつ貰うとするか、トンボよ。」
「しょおしゅしぉ、でぃぐりゃしぃ。」
こうして、ようやく一件落着なのである。
「どうじゃ、お前も一緒に食べんか?」
私は、別にチーズケーキが好きというわけではないが、ヒグラシの好意に甘えることにした。
私と、ヒグラシ、トンボ、ムーンの四人は草の上に腰を下ろし、チーズケーキを頂いた。
「うわぁ!旨ぇ!やっぱ、ここのチーズケーキは最強ですね師匠。もう死んでもいいや。」と、ムーンは草の上に寝っ転がった。
私は、「そんな、死んでもいいなどとオーバーな。」と、半信半疑のまま一口食べた。
「ほ、ほんとだ!この濃厚なチーズの味わい。だが決して、くどくなく、後に残るのは爽やかで、ほのかなレモンの様な風味。食べれば食べるほどに、深く全身に染み渡る――これは、まるで母の胎内にいるような、安らかな気分になる。この世に産まれて良かったー!!と、叫びたくなる……い、いかん。これは、いかん!このままでは、この両師匠の様な老人になってしまう。恐らくムーンは、もう手遅れだろう。」
私は、スッと立ち上がり、両師匠に一礼し、その場を足早に去った。
私は、急ぎメタールを後にした。
「メタール産チーズケーキ……恐るべし。」で、ある。
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