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レガリアを奪い取れ!~後編~
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私とクレアは二人で、アドの自宅を訪ねた。
執事の男が、
「御主人様は、不在でございます。」と、言ったが、クレアは構うことなく、家の中へ。
「アド、いるんだろ!私だ、クレアだ!」
「……なんと強引な女だ。」と、迷惑をかけた執事に、私は頭を下げた。
しばらくすると、怪しげな中年の小太り男が、こちらの様子を伺うように、コソコソしながら現れた。
「クレアなのか?本当に?偽物ではないだろうな?」
「なに言ってるんだ、本物に決まっているだろ。久しぶりだな。私がレガリアを離れて以来だ。」
「本物なら良かった……そちらの男は誰だ?ま、まさか麿まろを殺しに来た殺し屋か!?」
アドは、高価そうな大きな壺の陰に身を隠した。
私は、こう思った……重症だ、と。
「こいつは私の友の……名無しだ。害はない。」
「そ、そうか、名無しか。じゃあ大丈夫そうだ。」と、アドは胸を張って出てきた。
私は、何か無性に腹が立ち、低級魔法をアドに向け唱えた。
「ぎぃああっ!」
……アドは力尽きた、みたいに倒れた。
「おいおい、やる時は一声かけてくれよ。」と、クレアは何事もなかったように、アドの首根っこを掴み、引き摺るようにして部屋へ入った。
「や、やはり殺し屋ではないか!!」
気を失っていたアドは、目を覚ますなり怒鳴り散らした。
そこで私は、またしても低級魔法を唱え始めた。
「わ、わかった、ごめん。落ち着いて話し合おう。」
その、アドの一言を待っていたかのように、クレアは言った。
「よし単刀直入に言おう。お前、レガリアの王になれ。」
「――嫌だ。よし、これで話しは終わりだ、帰ってくれ。」
クレアは、私に目で合図を送った――やってしまえ、と。
私は頷き、低級魔法を唱え始める。
「待て待て!麿が王になんてなれる筈がない。確かにメイスの、やり方は好かんが、どうもできんだろ。」
「私たちにグリズリー元帥が味方してもか?」
その言葉で、アドの表情は一変した。
「本当か?もし本当なら、考えてもいい。」
「ああ本当だ。」と、クレアは平然と嘘を吐く。
「そうか……実を言うと、麿こそ王の座に相応しいと、思っていたところなんだ。」
クレアは満足そうに頷き、
「そうだろう。じゃあ決まりな。」
「い、いや。やっぱり止めておこうかな……。」
クレアは、またしても目で合図を送った。
「もっと強力なやつだ。」と、その目は物語っていた。
私は低級魔法を、再び唱え始めた。
「ちょっと待て!わ、わかった。なるから、王になってもいいから、魔法は止めて。」
こうして、アドは強制的に王になると、誓わされた。
「もう一度聞くが、本当にグリズリー元帥は、麿が王になることに異存は、ないのだな?」
「細かいことは気にするな。大丈夫だから、なっ。」
クレアは、悪い顔つきで微笑んだ。
「さあ、次はグリズリー元帥だ。こいつは、馬鹿だが手強いぞ。なんせ、レガリア最強の呼び名が高い男だ。任せたぞ。」
私は強い相手と闘うことは、嫌いではない。
しこも、それがレガリア最強を謳う男なら、尚更だ。
私とクレアは、グリズリー元帥を訪ねた。
――私と、まるで熊のように大きい巨体のグリズリー元帥は、対峙していた。
「闘いだ!ワクワクするのう。貴様!死んで後悔するなよ。万が一俺に勝てるようなら、何でも言うことを聞いてやる。」
クレアの言っていた通りの人物だった。
「それで、グリズリー。ルールは?」
クレアの問いかけに、グリズリーは、
「無論なんでも、ありだ。」
その言葉に、クレアは薄く笑みを浮かべた。
「何でもありなのか……では。」と、私は低級魔法「ライジング」を、唱えた。
これは、初級魔法「スパーク」より、ちょっとだけ電圧が高いので、ある。
「ぐおぉぉ!……俺の……負けだ。」と、グリズリー元帥は倒れた。
「本当に、こんなのでよいのだろうか。」と、私の心配は加速していく。
何はともあれ、私たちは目的を一気に達成した。
最後の仕上げは、メイスを追放することである。
レガリアの城には、私をはじめ、クレア、アド、グリズリー、クレアの柄の悪い仲間たちとで、向かった。
メイス王家の面々は、食事中であった。
「ちょっと、お邪魔するよ。」と、クレアは先頭をきって、前に出た。
「なんだ貴様らは!?おい衛兵、つまみ出せ。」
「元の王に向かって、つまみ出せは、ないだろ。」
この時、クレアに気づいたのは、メイス王子で、あった。
「パ、パパ!クレアだ!」
「なに?クレアだと――どこの小汚ない小娘かと思えば、先代であったか。これは、失礼した。して、何用かな今更?」
「国王の座を、この――」
クレアが振り返ると、アドは私の陰に隠れるように、気配を殺している。
だが、すぐにクレアに見つかりメイス達の前に引きずり出された。
「この、アドに国王の座を明け渡せ。」
「なんの冗談だ。そんな間抜けに国王が務まるか。食事が不味くなる、お帰り頂こうか。」
メイス王は、衛兵に向け視線を送った。
衛兵が五名ほど集まり、寄って来ようとしたが、すかさずグリズリーが立ち塞がった。
「下がれ!」
グリズリーの巨体と気迫に衛兵たちは、後ずさりした。
「グリズリー元帥、なんの真似だ。そちらにつくのであれば、お前の元帥の任を解くぞ!」
メイス王は、グリズリーの裏切りに激怒した。
しかし、グリズリーは余裕の笑みを浮かべている。
「俺は元々、下級兵士だった。しかし、俺の才能を見出だし、元帥に任命して下さったのは、そこに居られる元、国王クレア様だ。メイス国王、あなたに俺の任を解く事は出来ない。」
クレアは、拍手をおくった。
「グリズリーよ、よい忠誠心だ。」と。
「おのれ!我々にはキリエスが、ついているのだぞ!」
「ならば、キリエスでも何処でも行かれるがよい。ここは、レガリアだ。」
「レガリア国王とは、安く見られたものだな、クレアよ。こうも次々と国王が代わるのでは他国に、どう思われるやら。レガリアなど簡単に強奪できると、勘違いされるぞ。」
メイス国王の言うことも一理ある。
だが、他の誰かが国王に就いた方が、より良くなるのは明白で、ある。
所詮は悪あがきである、と私は感じた。
「ほう。どの口が言えるのか、メイスよ。貴様はレガリアを力づくで奪ったではないか、セルディン家から。」
「だったら、どうした。今更セルディンなど、関係ないであろう。」
私は「セルディン」の名を、頭の中から引き出すため、白目を剥いてさぐった。
「あった!」と、膨大な知識から、セルディンを引き出した。
セルディンとは、レガリアを古くから治めていた、一族である。
由緒正しい、正統なレガリアの王家である、と判明した。
「いいや、関係大有りだ――私の本当の名は『マリア』だ。レガリア王家の血を引く、最後の人間だ。」
衝撃の事実に、私は驚愕して、顎が外れそうになった。
メイスは顔面蒼白に、なったが、すぐに反撃に出た。
「ふん、そんな戯言を。だいたい証拠など無いでは、ないか。」
その言葉に、メイスファミリーは、力強く相槌を打った。
「そうだよパパ。口から出任せに決まってるよ。」
「あなた、そんな小娘、縛り首にしてちょうだい。」
その時、どさくさに紛れて、再び私の背後に隠れていた、アドが自ら前に飛び出てきた。
「あ、あなたは本当にマリア様なのか?麿は、幼い頃のマリア様とムト様の御守り役を務めていたんだ。もし、本物のマリア様なら、背中に大きな切り傷が、あるはずだ。」
するとクレアは、おもむろに服を脱ぎ始めた。
「な、なんと!」と、私は両手で自分の目を覆った。
もちろん、指の隙間から覗けるようには、している――抜かりなしだ。
「私の背の傷は昔、弟のムトが野盗に襲われ、庇った時についた傷だ。残念ながら、ムトは病で亡くなってしまったがな。」
「ま、まちがいない。その話しも真実だ!生きておられたのか、マリア様ー!」と、アドはクレアの胸に飛び込んだ。
バキッ!
「やめろ。」と、アドは敢えなく、殴られた。
「……すいません。」
「ともかく、返してもらうぞレガリアを。いいなメイス。命だけは見逃してやる。」
もう、こうなっては衛兵たちもクレア側につくしかない。
「く、くそ!忘れぬぞ、この屈辱!キリエスにかかれば、レガリアなど屑だ。滅ぼされてしまえ!」と、この手の輩の、お決まりの捨て台詞で、ある。
「……待てよ!今回の私は何も、やっていない。このままでは、目立たず終わってしまう。」
私は焦りだした。
メイスは家族を引き連れ、部屋を出ようとしている。
「なにかやらねば――なにかアクションを、起こさねば。ええい、ままよ。」と、私はメイスに対し、低級魔法「ボルト・ライトニング」を、浴びせた。
因みに、この低級魔法は、なかなか強力である。
「きょええっ!」と、メイスは気を失った。
「パパ!」
「あなた!」
「まったく、やる時は一言くれって言ってあっただろう……でも、すっきりした、ありがとう。」と、クレアは私の頬に口づけをした。
「……!?なんだ!今、なにが起こったのだ!?」と、私がパニックに陥っていると、クレアは、そんな私の姿を見て笑っていた。
「心ばかりの、お礼だ。気にすんな。」
そう、言ってマリアという名を持つクレアは、また笑った。
その笑顔は純真無垢で穢れのない、彼女の本当の姿だったのかもしれない。
「では、アド、グリズリー、後は頼んだぞ。」
「マリア様は、これからどうされるので?」と、アドは訊ねた。
「私はクレアだ。これからもクレアとして歩むつもりだ。自由に楽しくやっていくよ。頼もしい仲間たちも、できたしな。心配は、いらない。」そう、言ってクレアは、私を見た。
私は、まともにクレアの顔を見れない……私は、まるで乙女のようだった。
「それじゃあ皆、また会おう!」
私とクレアは、レガリアの城を後にした。
「私は、これから一旦アトラスに戻って、ハーブ姉さんに報告に行くよ。あんたは、どうする?」
私は、首を横に振った。
私は、キリエスに向かうつもりだ。
先にキリエスに向かった、ウィルソン師匠たちの事も心配だ。
「キリエスに行く気か?」
私は頷いた。
「そうか、気をつけろよ。」
こうして私たちは、お互い別々の方向へと、歩き出した。
「淡い思い出を、ありがとう。」と、クレアの後ろ姿を見送り、歩き出したのであった。
執事の男が、
「御主人様は、不在でございます。」と、言ったが、クレアは構うことなく、家の中へ。
「アド、いるんだろ!私だ、クレアだ!」
「……なんと強引な女だ。」と、迷惑をかけた執事に、私は頭を下げた。
しばらくすると、怪しげな中年の小太り男が、こちらの様子を伺うように、コソコソしながら現れた。
「クレアなのか?本当に?偽物ではないだろうな?」
「なに言ってるんだ、本物に決まっているだろ。久しぶりだな。私がレガリアを離れて以来だ。」
「本物なら良かった……そちらの男は誰だ?ま、まさか麿まろを殺しに来た殺し屋か!?」
アドは、高価そうな大きな壺の陰に身を隠した。
私は、こう思った……重症だ、と。
「こいつは私の友の……名無しだ。害はない。」
「そ、そうか、名無しか。じゃあ大丈夫そうだ。」と、アドは胸を張って出てきた。
私は、何か無性に腹が立ち、低級魔法をアドに向け唱えた。
「ぎぃああっ!」
……アドは力尽きた、みたいに倒れた。
「おいおい、やる時は一声かけてくれよ。」と、クレアは何事もなかったように、アドの首根っこを掴み、引き摺るようにして部屋へ入った。
「や、やはり殺し屋ではないか!!」
気を失っていたアドは、目を覚ますなり怒鳴り散らした。
そこで私は、またしても低級魔法を唱え始めた。
「わ、わかった、ごめん。落ち着いて話し合おう。」
その、アドの一言を待っていたかのように、クレアは言った。
「よし単刀直入に言おう。お前、レガリアの王になれ。」
「――嫌だ。よし、これで話しは終わりだ、帰ってくれ。」
クレアは、私に目で合図を送った――やってしまえ、と。
私は頷き、低級魔法を唱え始める。
「待て待て!麿が王になんてなれる筈がない。確かにメイスの、やり方は好かんが、どうもできんだろ。」
「私たちにグリズリー元帥が味方してもか?」
その言葉で、アドの表情は一変した。
「本当か?もし本当なら、考えてもいい。」
「ああ本当だ。」と、クレアは平然と嘘を吐く。
「そうか……実を言うと、麿こそ王の座に相応しいと、思っていたところなんだ。」
クレアは満足そうに頷き、
「そうだろう。じゃあ決まりな。」
「い、いや。やっぱり止めておこうかな……。」
クレアは、またしても目で合図を送った。
「もっと強力なやつだ。」と、その目は物語っていた。
私は低級魔法を、再び唱え始めた。
「ちょっと待て!わ、わかった。なるから、王になってもいいから、魔法は止めて。」
こうして、アドは強制的に王になると、誓わされた。
「もう一度聞くが、本当にグリズリー元帥は、麿が王になることに異存は、ないのだな?」
「細かいことは気にするな。大丈夫だから、なっ。」
クレアは、悪い顔つきで微笑んだ。
「さあ、次はグリズリー元帥だ。こいつは、馬鹿だが手強いぞ。なんせ、レガリア最強の呼び名が高い男だ。任せたぞ。」
私は強い相手と闘うことは、嫌いではない。
しこも、それがレガリア最強を謳う男なら、尚更だ。
私とクレアは、グリズリー元帥を訪ねた。
――私と、まるで熊のように大きい巨体のグリズリー元帥は、対峙していた。
「闘いだ!ワクワクするのう。貴様!死んで後悔するなよ。万が一俺に勝てるようなら、何でも言うことを聞いてやる。」
クレアの言っていた通りの人物だった。
「それで、グリズリー。ルールは?」
クレアの問いかけに、グリズリーは、
「無論なんでも、ありだ。」
その言葉に、クレアは薄く笑みを浮かべた。
「何でもありなのか……では。」と、私は低級魔法「ライジング」を、唱えた。
これは、初級魔法「スパーク」より、ちょっとだけ電圧が高いので、ある。
「ぐおぉぉ!……俺の……負けだ。」と、グリズリー元帥は倒れた。
「本当に、こんなのでよいのだろうか。」と、私の心配は加速していく。
何はともあれ、私たちは目的を一気に達成した。
最後の仕上げは、メイスを追放することである。
レガリアの城には、私をはじめ、クレア、アド、グリズリー、クレアの柄の悪い仲間たちとで、向かった。
メイス王家の面々は、食事中であった。
「ちょっと、お邪魔するよ。」と、クレアは先頭をきって、前に出た。
「なんだ貴様らは!?おい衛兵、つまみ出せ。」
「元の王に向かって、つまみ出せは、ないだろ。」
この時、クレアに気づいたのは、メイス王子で、あった。
「パ、パパ!クレアだ!」
「なに?クレアだと――どこの小汚ない小娘かと思えば、先代であったか。これは、失礼した。して、何用かな今更?」
「国王の座を、この――」
クレアが振り返ると、アドは私の陰に隠れるように、気配を殺している。
だが、すぐにクレアに見つかりメイス達の前に引きずり出された。
「この、アドに国王の座を明け渡せ。」
「なんの冗談だ。そんな間抜けに国王が務まるか。食事が不味くなる、お帰り頂こうか。」
メイス王は、衛兵に向け視線を送った。
衛兵が五名ほど集まり、寄って来ようとしたが、すかさずグリズリーが立ち塞がった。
「下がれ!」
グリズリーの巨体と気迫に衛兵たちは、後ずさりした。
「グリズリー元帥、なんの真似だ。そちらにつくのであれば、お前の元帥の任を解くぞ!」
メイス王は、グリズリーの裏切りに激怒した。
しかし、グリズリーは余裕の笑みを浮かべている。
「俺は元々、下級兵士だった。しかし、俺の才能を見出だし、元帥に任命して下さったのは、そこに居られる元、国王クレア様だ。メイス国王、あなたに俺の任を解く事は出来ない。」
クレアは、拍手をおくった。
「グリズリーよ、よい忠誠心だ。」と。
「おのれ!我々にはキリエスが、ついているのだぞ!」
「ならば、キリエスでも何処でも行かれるがよい。ここは、レガリアだ。」
「レガリア国王とは、安く見られたものだな、クレアよ。こうも次々と国王が代わるのでは他国に、どう思われるやら。レガリアなど簡単に強奪できると、勘違いされるぞ。」
メイス国王の言うことも一理ある。
だが、他の誰かが国王に就いた方が、より良くなるのは明白で、ある。
所詮は悪あがきである、と私は感じた。
「ほう。どの口が言えるのか、メイスよ。貴様はレガリアを力づくで奪ったではないか、セルディン家から。」
「だったら、どうした。今更セルディンなど、関係ないであろう。」
私は「セルディン」の名を、頭の中から引き出すため、白目を剥いてさぐった。
「あった!」と、膨大な知識から、セルディンを引き出した。
セルディンとは、レガリアを古くから治めていた、一族である。
由緒正しい、正統なレガリアの王家である、と判明した。
「いいや、関係大有りだ――私の本当の名は『マリア』だ。レガリア王家の血を引く、最後の人間だ。」
衝撃の事実に、私は驚愕して、顎が外れそうになった。
メイスは顔面蒼白に、なったが、すぐに反撃に出た。
「ふん、そんな戯言を。だいたい証拠など無いでは、ないか。」
その言葉に、メイスファミリーは、力強く相槌を打った。
「そうだよパパ。口から出任せに決まってるよ。」
「あなた、そんな小娘、縛り首にしてちょうだい。」
その時、どさくさに紛れて、再び私の背後に隠れていた、アドが自ら前に飛び出てきた。
「あ、あなたは本当にマリア様なのか?麿は、幼い頃のマリア様とムト様の御守り役を務めていたんだ。もし、本物のマリア様なら、背中に大きな切り傷が、あるはずだ。」
するとクレアは、おもむろに服を脱ぎ始めた。
「な、なんと!」と、私は両手で自分の目を覆った。
もちろん、指の隙間から覗けるようには、している――抜かりなしだ。
「私の背の傷は昔、弟のムトが野盗に襲われ、庇った時についた傷だ。残念ながら、ムトは病で亡くなってしまったがな。」
「ま、まちがいない。その話しも真実だ!生きておられたのか、マリア様ー!」と、アドはクレアの胸に飛び込んだ。
バキッ!
「やめろ。」と、アドは敢えなく、殴られた。
「……すいません。」
「ともかく、返してもらうぞレガリアを。いいなメイス。命だけは見逃してやる。」
もう、こうなっては衛兵たちもクレア側につくしかない。
「く、くそ!忘れぬぞ、この屈辱!キリエスにかかれば、レガリアなど屑だ。滅ぼされてしまえ!」と、この手の輩の、お決まりの捨て台詞で、ある。
「……待てよ!今回の私は何も、やっていない。このままでは、目立たず終わってしまう。」
私は焦りだした。
メイスは家族を引き連れ、部屋を出ようとしている。
「なにかやらねば――なにかアクションを、起こさねば。ええい、ままよ。」と、私はメイスに対し、低級魔法「ボルト・ライトニング」を、浴びせた。
因みに、この低級魔法は、なかなか強力である。
「きょええっ!」と、メイスは気を失った。
「パパ!」
「あなた!」
「まったく、やる時は一言くれって言ってあっただろう……でも、すっきりした、ありがとう。」と、クレアは私の頬に口づけをした。
「……!?なんだ!今、なにが起こったのだ!?」と、私がパニックに陥っていると、クレアは、そんな私の姿を見て笑っていた。
「心ばかりの、お礼だ。気にすんな。」
そう、言ってマリアという名を持つクレアは、また笑った。
その笑顔は純真無垢で穢れのない、彼女の本当の姿だったのかもしれない。
「では、アド、グリズリー、後は頼んだぞ。」
「マリア様は、これからどうされるので?」と、アドは訊ねた。
「私はクレアだ。これからもクレアとして歩むつもりだ。自由に楽しくやっていくよ。頼もしい仲間たちも、できたしな。心配は、いらない。」そう、言ってクレアは、私を見た。
私は、まともにクレアの顔を見れない……私は、まるで乙女のようだった。
「それじゃあ皆、また会おう!」
私とクレアは、レガリアの城を後にした。
「私は、これから一旦アトラスに戻って、ハーブ姉さんに報告に行くよ。あんたは、どうする?」
私は、首を横に振った。
私は、キリエスに向かうつもりだ。
先にキリエスに向かった、ウィルソン師匠たちの事も心配だ。
「キリエスに行く気か?」
私は頷いた。
「そうか、気をつけろよ。」
こうして私たちは、お互い別々の方向へと、歩き出した。
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*******************
執筆終了済みです。
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