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マディルへの道中
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私とフォンダンさんは、砂漠の町サンドリエルを発ち、西へと歩を進めた。
目的地は、マディルである。
「マディルとは、一体どんな国だろうか」と、考えていると隣を歩くフォンダンは、それを見透かした様に口を開いた。
「このアトラスって国はね、いくつもの小規模、中規模の国々が集まって成り立っているんだ。」
私は懐から、すかさずメモ帳を取り出した。
「元々は大国レガリアに対抗するために、この辺りの国が同盟を結んだのが始まりでね。」
ほうほう、メモメモ。
「現在のように一つの王国に纏まるまでに、幾度とない戦争を繰り返してきた。一見、平和そうに見える今だって、いつまた戦が起きても不思議ではない状況とも言えるんだ。」
そうだったのか、メモメモメモ。
「そして、マディルの王を殺されてしまったアトラスは今、とても危険な状態にある。」
ふむふむ、殺された……と……!?
「殺ったのは、クレアだ。」
なんですと!
「馬鹿な。いくらクレアが自由奔放な女とはいえ、そんな大それた事をするとは、思えない……私怨なのか?」と、私の頭の中は大パニックに陥ってしまった。
私はメモを取る手を停止して、フォンダンの話しに、ただ耳を傾けた。
「クレアはレガリアの王という立場だ。それは、もはや個人の問題では済まされるものではない。その証拠にアトラス全土から王都には、今まさに兵が続々と集結している。」
「な、なんということだ。クレア一人が起こしてしまった事で大国同士が戦争でも起こそうとしているのか!?」
私は改めて「王」という立場の重大な責任を感じた。
「アトラスにはレガリアを叩く大義名分がある。だから兵の士気は高い。それに比べてレガリアの兵たちは、きっと混乱しているだろうね。」
それは、そうだろう。
まず第一に王が行方不明なのだから。
その王が不在のまま、アトラスが攻めこんでこようとしている上に、その引き金を王自らが引いた、となれば大混乱は必至。
「もし、戦になればレガリアには、なす術はないだろう。」
フォンダンの言っていることは、もっともだった。
「――だけどね、レガリアにはクレイヴがいる。先の魔王との戦いで援軍を送ったレガリアには大きな借りがあるからね。クレイヴの兵たちの士気は相当、高いはずだ。」
確かに。
フォンダンの言う通りである。
義理堅いクレイヴなら、必ずや援軍を惜しみなく出すだろう、と私は確信した。
私は、ちょっと想像してみた。
「とんでもない戦いになるぞ!」と、いう答えが導き出された。
「それだけじゃない。この大陸の四大大国のうち、二国が戦いを始めれば、アトラス西部にそびえるマゼイル山脈の山の軍、ハーゲン・ライブも黙っちゃいないだろう。彼らはアトラスに恨みをもっているからね。」
聞いたことがある。
確か、元々はアトラスに住んでいた人々のことだ。
「他にも、マゼイル山脈を越えた西からは、大国ブレイズ。それに、小国ながら大国に引けをとらない実力を持つ、グリフォンブルーも、どう動くか分からない。」
その国は初めて聞く名であった。
「レガリアの南には、サウス軍事同盟連合が必ず挙兵するだろう。」
レガリアを敵対視している奴らだな。
「そうなってくると、ギアン大陸全土が戦火に包まれてしまう。しかも、その隙を突くようにレト大陸の勇、キリエスまでも攻めこんでくる恐れがある。」
なんということだ。
それでは、このギアン大陸は甚大な被害……いや最悪、壊滅するかもしれない。
一体どうすれば――。
「方法は一つ。僕たちがクレアを操っている黒幕を倒し、アトラスを納得させることだ。」
それで治まるだろうか?と、私は半信半疑であった。
それにもし――。
「もしも、クレアが誰かに操られている訳ではなく、自分の意思で起こした事件であった場合は、僕たちが彼女を――殺す。かつての仲間だった君には辛いだろうが。」
致しかたないことだ。
「とりあえず、アトラスにはハーブが説得に行ったから、しばらくは時間を稼いでくれるはずだよ。アトラスの王とは旧知の仲らしいからね。僕たちは僕たちのやれる事をやろう。そして、この戦争は絶対に阻止するんだ、命に変えても――分かるね。」
私は、その深刻さを受け止めた上で、頷いた。
「うん。分かっているなら、良し。じゃあ、そろそろ食事にしようか。」
私とフォンダンは、近くの原っぱに腰を下ろし、ハーブティーの手作り弁当を広げた。
「……」
「……」
フォンダンは無言で開いたばかりの弁当を閉じた。
「よし、どこかで美味しいものでも食べよう。」
私は二度、力強く頷いてみせたのであった。
目的地は、マディルである。
「マディルとは、一体どんな国だろうか」と、考えていると隣を歩くフォンダンは、それを見透かした様に口を開いた。
「このアトラスって国はね、いくつもの小規模、中規模の国々が集まって成り立っているんだ。」
私は懐から、すかさずメモ帳を取り出した。
「元々は大国レガリアに対抗するために、この辺りの国が同盟を結んだのが始まりでね。」
ほうほう、メモメモ。
「現在のように一つの王国に纏まるまでに、幾度とない戦争を繰り返してきた。一見、平和そうに見える今だって、いつまた戦が起きても不思議ではない状況とも言えるんだ。」
そうだったのか、メモメモメモ。
「そして、マディルの王を殺されてしまったアトラスは今、とても危険な状態にある。」
ふむふむ、殺された……と……!?
「殺ったのは、クレアだ。」
なんですと!
「馬鹿な。いくらクレアが自由奔放な女とはいえ、そんな大それた事をするとは、思えない……私怨なのか?」と、私の頭の中は大パニックに陥ってしまった。
私はメモを取る手を停止して、フォンダンの話しに、ただ耳を傾けた。
「クレアはレガリアの王という立場だ。それは、もはや個人の問題では済まされるものではない。その証拠にアトラス全土から王都には、今まさに兵が続々と集結している。」
「な、なんということだ。クレア一人が起こしてしまった事で大国同士が戦争でも起こそうとしているのか!?」
私は改めて「王」という立場の重大な責任を感じた。
「アトラスにはレガリアを叩く大義名分がある。だから兵の士気は高い。それに比べてレガリアの兵たちは、きっと混乱しているだろうね。」
それは、そうだろう。
まず第一に王が行方不明なのだから。
その王が不在のまま、アトラスが攻めこんでこようとしている上に、その引き金を王自らが引いた、となれば大混乱は必至。
「もし、戦になればレガリアには、なす術はないだろう。」
フォンダンの言っていることは、もっともだった。
「――だけどね、レガリアにはクレイヴがいる。先の魔王との戦いで援軍を送ったレガリアには大きな借りがあるからね。クレイヴの兵たちの士気は相当、高いはずだ。」
確かに。
フォンダンの言う通りである。
義理堅いクレイヴなら、必ずや援軍を惜しみなく出すだろう、と私は確信した。
私は、ちょっと想像してみた。
「とんでもない戦いになるぞ!」と、いう答えが導き出された。
「それだけじゃない。この大陸の四大大国のうち、二国が戦いを始めれば、アトラス西部にそびえるマゼイル山脈の山の軍、ハーゲン・ライブも黙っちゃいないだろう。彼らはアトラスに恨みをもっているからね。」
聞いたことがある。
確か、元々はアトラスに住んでいた人々のことだ。
「他にも、マゼイル山脈を越えた西からは、大国ブレイズ。それに、小国ながら大国に引けをとらない実力を持つ、グリフォンブルーも、どう動くか分からない。」
その国は初めて聞く名であった。
「レガリアの南には、サウス軍事同盟連合が必ず挙兵するだろう。」
レガリアを敵対視している奴らだな。
「そうなってくると、ギアン大陸全土が戦火に包まれてしまう。しかも、その隙を突くようにレト大陸の勇、キリエスまでも攻めこんでくる恐れがある。」
なんということだ。
それでは、このギアン大陸は甚大な被害……いや最悪、壊滅するかもしれない。
一体どうすれば――。
「方法は一つ。僕たちがクレアを操っている黒幕を倒し、アトラスを納得させることだ。」
それで治まるだろうか?と、私は半信半疑であった。
それにもし――。
「もしも、クレアが誰かに操られている訳ではなく、自分の意思で起こした事件であった場合は、僕たちが彼女を――殺す。かつての仲間だった君には辛いだろうが。」
致しかたないことだ。
「とりあえず、アトラスにはハーブが説得に行ったから、しばらくは時間を稼いでくれるはずだよ。アトラスの王とは旧知の仲らしいからね。僕たちは僕たちのやれる事をやろう。そして、この戦争は絶対に阻止するんだ、命に変えても――分かるね。」
私は、その深刻さを受け止めた上で、頷いた。
「うん。分かっているなら、良し。じゃあ、そろそろ食事にしようか。」
私とフォンダンは、近くの原っぱに腰を下ろし、ハーブティーの手作り弁当を広げた。
「……」
「……」
フォンダンは無言で開いたばかりの弁当を閉じた。
「よし、どこかで美味しいものでも食べよう。」
私は二度、力強く頷いてみせたのであった。
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