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人斬り紅龍
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私は、港町「水辺」に戻っていた。
なんとか帰りの便が、ないものかと当たってみたが上手くはいかなかった。
「どうしたものか……」
私は途方に暮れていた。
そんな私の耳に、ふいに町民たちの噂話しが飛び込んできた。
「人斬りが、また出たってよ。」
「そうらしいな?まったく、ここも物騒になっちまったな。」
人斬り?
そんなものが出るのか。
「同じ剣士として許せん!」と、強くそう思った。
私は、ひとまず漁師のヨハチの手伝いをしながら、帰りの船を探した。
彼には色々と世話になっている。
食事から寝床までだ。
どこまでも親切なヨハチも、人斬りには頭を悩ませていた。
「まったく、紅龍組の連中は、どうにかならんもんかね。おちおち酒も飲みに行けねぇや。」
彼には無人島で救ってもらった恩義がある。
「どれ、私が紅龍組とやらを退治してやるか。」
その夜、人斬りが出没するという神社へと単身出向いた。
目的地に到着すると、なにやら激しい金属音が聞こえた。
「この音は!誰かが戦っているのか!?」
急いで、その場へ駆けつけると既に戦いは終わっている模様だった。
そこには一人の男が立ち尽くしていた。
この国の、鎧らしきものを纏った、男の姿は私にとっては異形の姿であった。
私は、恐る恐る男に近寄った。
「敵か味方か――」
その男は、こちらに気付き、有無をいわさず斬りつけてきた。
「おのれ!人斬りめ!」と、私も剣を抜き、応戦した。
剣を交えて感じた。
「この男、できる!」と。
「ならば――十字砲火クロスファイアで、どうだ!」
キィーン!と、剣と刀が激しく火花を散らした。
すると相手の男は、急に刀を下ろし、そして兜を脱いだ。
「やはり、お主か!拙者だ――小鉄だ。」
「……おお!師匠!」
その初老の男性は、私の剣の師匠である、小鉄であった。
「ヨハチから聞いては、いたのだ。外国の剣士を船に乗せてきた、とな。しかしそれが、お主とはな。」
小鉄師匠と出会ったのは、今から五年ほど前である。
当時、レガリアの東の地、マルカという海沿いの町に立ち寄っていた私は、海辺で倒れている一人の男性を発見した。
その男性は漂流した様子であった。
私は男性を介抱し面倒をみた。
それが小鉄であった。
その間、私は小鉄師匠から剣の手解きと、彼の国の言葉を教えてもらった。
「そうか!ここは小鉄師匠の国。道理で、この国の言葉が理解できたはずだ。」
私は懐かしい顔に安堵した。
「今度はお主が漂流したか。ガハハハ!これも運命なのだろう。よし!拙者の家に来い。あの時の恩返しを致そう。」
私は小鉄の家で厄介になることになった。
小鉄の家は大きな屋敷であった。
家族は居ないらしく、お手伝いさん数人と暮らしているらしい。
小鉄の話しによると、紅龍組は人斬り集団であり、金で人を殺す暗殺集団でもあるとのことだ。
そして小鉄は一人、紅龍組と戦っているらしい。
「さすがに拙者も年でな。奴らの相手をするのも日に日に難しくなってきてのう。お主には迷惑かもしれんが、よかったら手伝ってはくれぬか?」
「何を、おっしゃる師匠よ。私は弟子だ。弟子が師匠に手を貸すのは至極当然のこと。」と、強く思った。
そして師匠の頼みに、私は力強く頷いたのであった。
その晩、二人は運命的再会を祝して酒を酌み交わした。
そして夜も深まった頃、二人は床についた。
「おお!これがフトンというものか。それに、この畳というものも気に入った。」
私は観光旅行気分で就寝した。
――数字間後。
私はハッ!として目を開けた。
「――何かいる。」
すぐに枕元にあった剣を取り、息を殺した。
「……屋根の上か。」
僅かだが足音が聞こえる。
その時だった!
「敵じゃあ!」と、小鉄の叫び声が響き渡った。
次の瞬間、天井が破られ黒装束の人間が屋敷へと侵入してきた。
「夜襲とは卑怯な!」
私は剣を抜き、戦った。
黒装束の敵は素早かった。
私は部屋から部屋へと移動しながら応戦した。
すると、ちょうど目の前に小鉄の姿があった。
「生きとったな。まあ、お主なら当然か。だが用心せい、こやつらは忍だ。飛び道具も持っとるからな。」
その矢先、闇夜に一瞬、光る物体が私を目掛けて飛んできた。
それを難なく払い、私は敵に詰め寄り、倒した。
私は小鉄師匠と共に敵を撃破した。
「刺客を送り込んでくるとは、奴らも必死のようじゃの。」
小鉄は刀を収めて一息ついた。
しかし、それは敵の罠だった!
一旦引いたと見せかけ、実のところ直ぐ側に潜んでいたのだ。
小鉄は敵の吹き矢にやられ、倒れた。
「し、ししょう!」
私は師匠の元へ駆け寄った。
――翌日。
小鉄は、なんとか一命をとりとめた。
吹き矢には毒が塗られていたが、私の低級魔法「セラム」にて、毒を体内から取り去った。
私は師匠を侍女に任せ、立ち上がった。
「お、おぬし、待て。」
「師匠よ、止めても無駄だ。」という決意を、私は目に宿していた。
「奴らは強い。これを、持っていけ。」
そう言って小鉄は、自分の愛刀を渡した。
「お主には不慣れな物かもしれんが、長曾弥虎徹――名刀じゃ。」
私は受け取った刀を手に取り、静かに抜いてみた。
「う、うつくしい。私には分かる。この剣――いや、この刀は紛れもなく名刀だ。」
「お主。死ぬなよ。」
私は師匠の屋敷を出た。
そして、紅龍組が住みかにしているという寺院へと、やって来た。
「あれか。」
寺の敷地に足を一歩踏み入れた瞬間だった。
私の足に何か引っ掛かった。
「なんだ、この紐は?」
そして、乾いた木の音が激しく鳴り響く。
カランカランカラン!
私は驚き、慌てふためいた。
その時だった。
「!」
私は高速で剣を抜き、自分目掛けて飛んできた物を叩き落とした。
「――あそこか。」
木々の陰で、蠢く黒い影。
私は低級魔法「インビシブル・ナイフ」を唱えた。
見えない刃物は忍たちを捉えた。
そして、ついに影は姿を見せ襲いかかってきた。
私と忍たちの戦いは熾烈を極めた。
奴らの素早い動きに私は、翻弄され始める。
「ならば!」
私は低級魔法「ディアーレッグ」を唱え、足を強化して忍と同等――いや、それ以上の脚力で対抗した。
そして一人、また一人と確実に仕留めていく。
残る一人には、私の得意中の得意である、低級魔法「パンチャー」を唱え、ぶん殴ってやった。
「ハァハァ……手強い奴だった。」
続いて現れたのは、これまた手強そうな三人組だった。
「我ら紅龍三人衆を倒せるかな。行くぞ!」
三人は一斉に刀を抜き、斬りかかってきた。
その、凄まじい攻撃は、まるで落雷のように私を襲った。
完全に手数で負けている。
私は防戦一方となった。
「くそ!剣一本では――!」
私は隙をつき、三人から一旦離れて距離をとった。
そして、腰に装備している、もう一本「虎徹」を抜いた。
「さあ、かかってこい!」
三人衆は躊躇うことなく、斬りかかた。
しかし、今度は三人の猛攻を余裕で防いでやった。
そして私は、
「二刀流、十字砲火クロスファイア」を見舞った。
「ぐわぁ!」
「ぎゃあ!」
「ちっくしょう!」
三人衆は、倒れた。
残すは、頭一人だ。
「情けねぇ!俺が相手をしてやる、この紅龍様がな。」
紅龍は刀を抜いた。
「貴様の、その刀。さては小鉄の物だな?面白い、この骨喰い《ほねはみ》の餌食にしてやる。」
紅龍は仕掛けてきた。
それに私も二刀流で応戦する。
「さすがに頭だけは、ある。先程の三人衆とは比べものにならん。」
二人は互角の戦いを繰り広げた。
「俺が何故、人斬りの紅龍と呼ばれているか分かるかい。」
「なんだ突然。そんなの知るか、である。」と、思った。
「見せてやろう。我が暗殺の奥義。」
紅龍は刀を鞘へと収めた。
そして全身の力を抜いたように、自然体のまま無防備に私の方へ歩き寄ってきた。
「さては奥義とは、諦めることだな。」と、思えるほど、今の奴は隙だらけである。
紅龍は、ぐんぐん近付く。
私は底知れぬ不気味さを感じた。
やがて二人の間合いが詰まった時である。
突然、紅龍の全身から凄まじい殺気が放たれ、そして稲妻のような早さで鞘に収まっていた刀を抜き、その勢いのまま斬りかかってきた。
「は、はやい!」
私は紅龍の初撃をかわした。
だが、奴の刀は一撃にとどまらなかった。
返す刀で二撃目。
更に返す刀で三撃目。
そして最後は鋭い突きを放った。
私の体の、あちらこちらを掠めたが、なんとか全てしのいだ。
「ほう。初見で、これをかわすか。見事だ――だが次は、もっと早くなるぞ。」
そう言って、紅龍は不敵に笑った。
私は自分の剣と小鉄師匠の刀を鞘に収めた。
「見えた、奴の弱点!」
「ふん、俺の真似事か?舐めるな!」
私は小鉄師匠の刀「虎徹」に、手をかけた。
「死ね!」
紅龍の初撃は、正に神速であった。
私は、一切の攻撃を諦め、全ての集中力を見切りだけに費やした。
一撃目!
二撃目!
三撃目!
そして最後の突き!
――全て見切った!
「今だ!」
紅龍は最後の突きを放った後、一瞬だけ無防備な体勢になる。
隙だらけなのだ!
ここで私は、全集中力を攻撃へと転じさせ、虎徹を抜き紅龍を斬った。
「ば、ばかな……お見事……だ。」
紙一重の勝利であった。
「この師匠の刀がなかったら……際どかった。」
私は勝利を手土産に小鉄師匠の元へと帰った。
小鉄は、怪我の具合がよいのか、縁側に出て茶を啜っていた。
「勝ったのだな。」
師匠の言葉に、私は親指を立てて応えた。
そして、私は師匠の愛刀を手渡した。
「これは、お主にやった物だが……要らんのか?」
私は自分の剣に手をやり、微笑んで頷いた。
「そうか。お主には、そっちの方が合っとるな――いやぁ良かった。実は後悔しとったんじゃ。さすがに返してくれとは、言えんしな。しかし、やはり拙者の弟子だ。師の心を読みとりおった、ガハハハ!」
「まったく、都合のいい爺さんである。」
小鉄師匠は、私の帰りの船を手配してくれた。
そして、すっかり良くなった小鉄師匠は私の見送りに、港へとやって来た。
「また来い。お主ならいつでも大歓迎じゃ。」
私は頷き、船へと乗り込んだ。
「いい所だった。また是非来たいものだ。」
船はギアン大陸、レガリアへと向け出港した。
船の上から小鉄師匠に手を振り、別れを告げた。
甲板の上は、潮風が心地よく顔を撫でた。
カモメの鳴き声は、新たな旅立ちを祝福した。
そして、海はどこまでも青く澄んで美しかった。
「さあ次は、どんなことが待ち受けているのだろう。」
しかし彼は、すっかり忘れていた――自分が極度の船酔い症であることを。
その後、ふとした瞬間に思い出すことによって、彼はレガリアに到着するまで、船室にて寝込んでしまうことを――彼はまだ知らないのであった。
なんとか帰りの便が、ないものかと当たってみたが上手くはいかなかった。
「どうしたものか……」
私は途方に暮れていた。
そんな私の耳に、ふいに町民たちの噂話しが飛び込んできた。
「人斬りが、また出たってよ。」
「そうらしいな?まったく、ここも物騒になっちまったな。」
人斬り?
そんなものが出るのか。
「同じ剣士として許せん!」と、強くそう思った。
私は、ひとまず漁師のヨハチの手伝いをしながら、帰りの船を探した。
彼には色々と世話になっている。
食事から寝床までだ。
どこまでも親切なヨハチも、人斬りには頭を悩ませていた。
「まったく、紅龍組の連中は、どうにかならんもんかね。おちおち酒も飲みに行けねぇや。」
彼には無人島で救ってもらった恩義がある。
「どれ、私が紅龍組とやらを退治してやるか。」
その夜、人斬りが出没するという神社へと単身出向いた。
目的地に到着すると、なにやら激しい金属音が聞こえた。
「この音は!誰かが戦っているのか!?」
急いで、その場へ駆けつけると既に戦いは終わっている模様だった。
そこには一人の男が立ち尽くしていた。
この国の、鎧らしきものを纏った、男の姿は私にとっては異形の姿であった。
私は、恐る恐る男に近寄った。
「敵か味方か――」
その男は、こちらに気付き、有無をいわさず斬りつけてきた。
「おのれ!人斬りめ!」と、私も剣を抜き、応戦した。
剣を交えて感じた。
「この男、できる!」と。
「ならば――十字砲火クロスファイアで、どうだ!」
キィーン!と、剣と刀が激しく火花を散らした。
すると相手の男は、急に刀を下ろし、そして兜を脱いだ。
「やはり、お主か!拙者だ――小鉄だ。」
「……おお!師匠!」
その初老の男性は、私の剣の師匠である、小鉄であった。
「ヨハチから聞いては、いたのだ。外国の剣士を船に乗せてきた、とな。しかしそれが、お主とはな。」
小鉄師匠と出会ったのは、今から五年ほど前である。
当時、レガリアの東の地、マルカという海沿いの町に立ち寄っていた私は、海辺で倒れている一人の男性を発見した。
その男性は漂流した様子であった。
私は男性を介抱し面倒をみた。
それが小鉄であった。
その間、私は小鉄師匠から剣の手解きと、彼の国の言葉を教えてもらった。
「そうか!ここは小鉄師匠の国。道理で、この国の言葉が理解できたはずだ。」
私は懐かしい顔に安堵した。
「今度はお主が漂流したか。ガハハハ!これも運命なのだろう。よし!拙者の家に来い。あの時の恩返しを致そう。」
私は小鉄の家で厄介になることになった。
小鉄の家は大きな屋敷であった。
家族は居ないらしく、お手伝いさん数人と暮らしているらしい。
小鉄の話しによると、紅龍組は人斬り集団であり、金で人を殺す暗殺集団でもあるとのことだ。
そして小鉄は一人、紅龍組と戦っているらしい。
「さすがに拙者も年でな。奴らの相手をするのも日に日に難しくなってきてのう。お主には迷惑かもしれんが、よかったら手伝ってはくれぬか?」
「何を、おっしゃる師匠よ。私は弟子だ。弟子が師匠に手を貸すのは至極当然のこと。」と、強く思った。
そして師匠の頼みに、私は力強く頷いたのであった。
その晩、二人は運命的再会を祝して酒を酌み交わした。
そして夜も深まった頃、二人は床についた。
「おお!これがフトンというものか。それに、この畳というものも気に入った。」
私は観光旅行気分で就寝した。
――数字間後。
私はハッ!として目を開けた。
「――何かいる。」
すぐに枕元にあった剣を取り、息を殺した。
「……屋根の上か。」
僅かだが足音が聞こえる。
その時だった!
「敵じゃあ!」と、小鉄の叫び声が響き渡った。
次の瞬間、天井が破られ黒装束の人間が屋敷へと侵入してきた。
「夜襲とは卑怯な!」
私は剣を抜き、戦った。
黒装束の敵は素早かった。
私は部屋から部屋へと移動しながら応戦した。
すると、ちょうど目の前に小鉄の姿があった。
「生きとったな。まあ、お主なら当然か。だが用心せい、こやつらは忍だ。飛び道具も持っとるからな。」
その矢先、闇夜に一瞬、光る物体が私を目掛けて飛んできた。
それを難なく払い、私は敵に詰め寄り、倒した。
私は小鉄師匠と共に敵を撃破した。
「刺客を送り込んでくるとは、奴らも必死のようじゃの。」
小鉄は刀を収めて一息ついた。
しかし、それは敵の罠だった!
一旦引いたと見せかけ、実のところ直ぐ側に潜んでいたのだ。
小鉄は敵の吹き矢にやられ、倒れた。
「し、ししょう!」
私は師匠の元へ駆け寄った。
――翌日。
小鉄は、なんとか一命をとりとめた。
吹き矢には毒が塗られていたが、私の低級魔法「セラム」にて、毒を体内から取り去った。
私は師匠を侍女に任せ、立ち上がった。
「お、おぬし、待て。」
「師匠よ、止めても無駄だ。」という決意を、私は目に宿していた。
「奴らは強い。これを、持っていけ。」
そう言って小鉄は、自分の愛刀を渡した。
「お主には不慣れな物かもしれんが、長曾弥虎徹――名刀じゃ。」
私は受け取った刀を手に取り、静かに抜いてみた。
「う、うつくしい。私には分かる。この剣――いや、この刀は紛れもなく名刀だ。」
「お主。死ぬなよ。」
私は師匠の屋敷を出た。
そして、紅龍組が住みかにしているという寺院へと、やって来た。
「あれか。」
寺の敷地に足を一歩踏み入れた瞬間だった。
私の足に何か引っ掛かった。
「なんだ、この紐は?」
そして、乾いた木の音が激しく鳴り響く。
カランカランカラン!
私は驚き、慌てふためいた。
その時だった。
「!」
私は高速で剣を抜き、自分目掛けて飛んできた物を叩き落とした。
「――あそこか。」
木々の陰で、蠢く黒い影。
私は低級魔法「インビシブル・ナイフ」を唱えた。
見えない刃物は忍たちを捉えた。
そして、ついに影は姿を見せ襲いかかってきた。
私と忍たちの戦いは熾烈を極めた。
奴らの素早い動きに私は、翻弄され始める。
「ならば!」
私は低級魔法「ディアーレッグ」を唱え、足を強化して忍と同等――いや、それ以上の脚力で対抗した。
そして一人、また一人と確実に仕留めていく。
残る一人には、私の得意中の得意である、低級魔法「パンチャー」を唱え、ぶん殴ってやった。
「ハァハァ……手強い奴だった。」
続いて現れたのは、これまた手強そうな三人組だった。
「我ら紅龍三人衆を倒せるかな。行くぞ!」
三人は一斉に刀を抜き、斬りかかってきた。
その、凄まじい攻撃は、まるで落雷のように私を襲った。
完全に手数で負けている。
私は防戦一方となった。
「くそ!剣一本では――!」
私は隙をつき、三人から一旦離れて距離をとった。
そして、腰に装備している、もう一本「虎徹」を抜いた。
「さあ、かかってこい!」
三人衆は躊躇うことなく、斬りかかた。
しかし、今度は三人の猛攻を余裕で防いでやった。
そして私は、
「二刀流、十字砲火クロスファイア」を見舞った。
「ぐわぁ!」
「ぎゃあ!」
「ちっくしょう!」
三人衆は、倒れた。
残すは、頭一人だ。
「情けねぇ!俺が相手をしてやる、この紅龍様がな。」
紅龍は刀を抜いた。
「貴様の、その刀。さては小鉄の物だな?面白い、この骨喰い《ほねはみ》の餌食にしてやる。」
紅龍は仕掛けてきた。
それに私も二刀流で応戦する。
「さすがに頭だけは、ある。先程の三人衆とは比べものにならん。」
二人は互角の戦いを繰り広げた。
「俺が何故、人斬りの紅龍と呼ばれているか分かるかい。」
「なんだ突然。そんなの知るか、である。」と、思った。
「見せてやろう。我が暗殺の奥義。」
紅龍は刀を鞘へと収めた。
そして全身の力を抜いたように、自然体のまま無防備に私の方へ歩き寄ってきた。
「さては奥義とは、諦めることだな。」と、思えるほど、今の奴は隙だらけである。
紅龍は、ぐんぐん近付く。
私は底知れぬ不気味さを感じた。
やがて二人の間合いが詰まった時である。
突然、紅龍の全身から凄まじい殺気が放たれ、そして稲妻のような早さで鞘に収まっていた刀を抜き、その勢いのまま斬りかかってきた。
「は、はやい!」
私は紅龍の初撃をかわした。
だが、奴の刀は一撃にとどまらなかった。
返す刀で二撃目。
更に返す刀で三撃目。
そして最後は鋭い突きを放った。
私の体の、あちらこちらを掠めたが、なんとか全てしのいだ。
「ほう。初見で、これをかわすか。見事だ――だが次は、もっと早くなるぞ。」
そう言って、紅龍は不敵に笑った。
私は自分の剣と小鉄師匠の刀を鞘に収めた。
「見えた、奴の弱点!」
「ふん、俺の真似事か?舐めるな!」
私は小鉄師匠の刀「虎徹」に、手をかけた。
「死ね!」
紅龍の初撃は、正に神速であった。
私は、一切の攻撃を諦め、全ての集中力を見切りだけに費やした。
一撃目!
二撃目!
三撃目!
そして最後の突き!
――全て見切った!
「今だ!」
紅龍は最後の突きを放った後、一瞬だけ無防備な体勢になる。
隙だらけなのだ!
ここで私は、全集中力を攻撃へと転じさせ、虎徹を抜き紅龍を斬った。
「ば、ばかな……お見事……だ。」
紙一重の勝利であった。
「この師匠の刀がなかったら……際どかった。」
私は勝利を手土産に小鉄師匠の元へと帰った。
小鉄は、怪我の具合がよいのか、縁側に出て茶を啜っていた。
「勝ったのだな。」
師匠の言葉に、私は親指を立てて応えた。
そして、私は師匠の愛刀を手渡した。
「これは、お主にやった物だが……要らんのか?」
私は自分の剣に手をやり、微笑んで頷いた。
「そうか。お主には、そっちの方が合っとるな――いやぁ良かった。実は後悔しとったんじゃ。さすがに返してくれとは、言えんしな。しかし、やはり拙者の弟子だ。師の心を読みとりおった、ガハハハ!」
「まったく、都合のいい爺さんである。」
小鉄師匠は、私の帰りの船を手配してくれた。
そして、すっかり良くなった小鉄師匠は私の見送りに、港へとやって来た。
「また来い。お主ならいつでも大歓迎じゃ。」
私は頷き、船へと乗り込んだ。
「いい所だった。また是非来たいものだ。」
船はギアン大陸、レガリアへと向け出港した。
船の上から小鉄師匠に手を振り、別れを告げた。
甲板の上は、潮風が心地よく顔を撫でた。
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そして、海はどこまでも青く澄んで美しかった。
「さあ次は、どんなことが待ち受けているのだろう。」
しかし彼は、すっかり忘れていた――自分が極度の船酔い症であることを。
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