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レジェスVSモルドス~第二章~
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「やった!」
僕も興奮し、腕の痛みも忘れて拳を天高く突き上げました。
「やはりお前には死角があった。」
レジェスはそう言い切りましたが、そもそもモルドスは目が見えていません。
「耳や気配を察知する能力はずば抜けているが、ただ一点左斜め後方四十二度。そこだけは一瞬反応が遅れる、お前の弱点だ。」
まさか戦闘中にそれを見つける為に四方八方から攻撃を加えていたとは、おそれいりました。
しかしまだ終わった訳ではないはずです。
まだモルドスの特異な能力が残っています。
捨てられた者とはいえ、フルガイアで産まれた者ですから当然、その能力が備わっているはずなのです。
「ま、まさか兄上の腕を切り落とすとは。なんという人間だ。」
この状況にはアイスも驚愕している様子です。
まあ、それも当然といえば当然でしょう。
なんせあのモルドスの肉体はサーシャ様の剣を折る程に強靭でしたからね。
「あ、兄上……。」
ふと見てみるとアイスはかなり弱っているようでした。
腹部からは大量の出血がみてとれます。
このままでは、あと小一時間もすれば息絶えてしまうかもしれません。
「シエルよ。私の願いを聞いてくれないか。」
ディミトリさんは突然シエルさんに頼みごとを始めました。
「アイスを――アイスを治療してやってくれ。」
「ちょっと、あいつは敵よ。傷が癒えたらまた襲ってくるかもしれないのよ。」
「何を馬鹿なことを。ディミトリ、私はあなたの敵です。情けでもかけているつもりですか。」
これには僕もシエルさんに味方します。
アイスを助けてもリスクしかありません。
これは絶対に断らねばなりませんよ、シエルさん。
「シエル。あいつはもう大丈夫だ。戦意なんてありはしない。なあ、アイス。」
そう言ってディミトリさんは無邪気な笑顔を見せました。
なぜそう言い切れるのか僕には分かりませんが、あり得ない話です。
「ふっ。貴方は昔のまんまだ。こんな私をもう一度信じてみようとしている。」
「何を言っているのだ。私はこれまでもずっとお前を信じてきたんだ。確かに疑ったこともあった。だがそれは自分に対してだ。だからもう一度お前に会ってどうしても確かめたかった。そして確信した。お前は昔と何も変わっていないということを。」
二人のことは僕らには理解できませんが、ディミトリさんのアイスに対する信頼は計り知れないもののようです。
「お、おのれ人間風情が我の腕を落とすなどと、あってはならぬことだ。」
モルドスは怒りに震えました。
そろそろ真の力を出してくるはずです。
それさえ乗り気ってしまえばレジェスの勝利は目前でしょう。
「我は負けぬ!」
モルドスは残った右腕でレジェスにパンチを放っていきます。
しかし、やはり左腕の傷が影響しているのか、きれがありません。
レジェスはそれを巧みに避け、モルドスを追い詰めていきます。
「アイス、なぜモルドスはフルガイアの民の能力を使わんのだ?現状でもまだ勝てると踏んでいるのか?」
ディミトリさんの質問にシエルさんの治療を受けながらアイスは
一言言いました。
「使わんのではない、使えないのだ。」
「使えない!?どういう意味だ?」
「兄上にはその能力が備わっていないのだ。」
「ば、ばかなそんな事があり得るのか!?我々フルガイアの民には必ず何かしらの能力がある。確かにそれを完璧にコントロールするには多少の年月が必要だが、それはだいたい子供の時点で終えている。やはり親が居なかった影響なのだろうか?」
ディミトリさんの驚きようから察するに、能力を使えない大人というのは稀有な存在のようです。
そう言えばサーシャ様もパープルアイズが覚醒するまで随分と時間を要しましたからね。
しかし彼女の場合、自分の正体も知らず父親であるディミトリさんとも離ればなれでしたから、致し方ありません。
その間にもレジェスはモルドスへの攻撃の手を休めることはしません。
モルドスは先手を取られ焦りすら見受けられます。
このままいけば勝負が決するのも時間の問題でしょう。
「なぜだ……なぜだ。我は神に仕えし者。人間などに負ける筈がない。」
モルドスはかなり追い込まれているようでした。
「嫌だ――負けるのは嫌だ――。」
「ぬっ、隙あり!もらったぞ!」
そしてついにレジェスの剣がモルドスを捉えました。
剣はモルドスの心臓を貫き貫通しています。
さすがにこれではモルドスもどうすることも出来ません。
完全勝利です。
「グハッ!我は……負けた……のか。」
「そうだ。お前はこの私に負けたのだ。」
「負け――違う――違う!我が、この我が負けることなど決してありはしない。最強は我だ!」
「ん!?なんだこの力は?」
完全に根本まで刺さっていたレジェスの剣が、まるで押し戻されているように見えます。
そして、ついにはモルドスの体から剣が抜けてしまいました。
「な、なんだこれは?力が――力が湧いてくる。」
何かモルドスの様子が変です。
いったい何が起こっているのでしょうか。
そして次の瞬間、僕らは驚愕しました。
ついさっきレジェスに切り落とされたはずのモルドスの左腕が、なんと恐ろしいスピードで再生していくではありませんか。
「止まらぬ。溢れでるパワーが次から次へと。我は――我はついに神々に認められたのか。」
どうやらこれは僕らにとって良くないことが起こっているみたいです。
だが今ならまだいけるかもしれません。
「レジェス、早くとどめを!」
「いや、まだだ。こやつの全力を潰さねば勝ったとは言えぬのだ、ピートよ。」
ああ、やはり戦闘馬鹿には通じませんか。
仕方ありません。
もうレジェスに掛けるしかありません。。
「あ、あの目。あれはもしかして。」
アイスが言ったのは、モルドスの目です。
モルドスは盲目です。
その目がどうしたというのでしょうか……ま、まさか!
モルドスの両の瞳が金色に輝いているではありませんか。
もしかしてこれは、これがモルドスの能力なのでしょうか。
するとアイスは複雑な感情を顔に出して言いました。
「やはり使えなかっただけなんだ。それが今、レジェスとの戦いに触発されて覚醒されたのだ。あの目は――ゴールドアイズだ。」
僕も興奮し、腕の痛みも忘れて拳を天高く突き上げました。
「やはりお前には死角があった。」
レジェスはそう言い切りましたが、そもそもモルドスは目が見えていません。
「耳や気配を察知する能力はずば抜けているが、ただ一点左斜め後方四十二度。そこだけは一瞬反応が遅れる、お前の弱点だ。」
まさか戦闘中にそれを見つける為に四方八方から攻撃を加えていたとは、おそれいりました。
しかしまだ終わった訳ではないはずです。
まだモルドスの特異な能力が残っています。
捨てられた者とはいえ、フルガイアで産まれた者ですから当然、その能力が備わっているはずなのです。
「ま、まさか兄上の腕を切り落とすとは。なんという人間だ。」
この状況にはアイスも驚愕している様子です。
まあ、それも当然といえば当然でしょう。
なんせあのモルドスの肉体はサーシャ様の剣を折る程に強靭でしたからね。
「あ、兄上……。」
ふと見てみるとアイスはかなり弱っているようでした。
腹部からは大量の出血がみてとれます。
このままでは、あと小一時間もすれば息絶えてしまうかもしれません。
「シエルよ。私の願いを聞いてくれないか。」
ディミトリさんは突然シエルさんに頼みごとを始めました。
「アイスを――アイスを治療してやってくれ。」
「ちょっと、あいつは敵よ。傷が癒えたらまた襲ってくるかもしれないのよ。」
「何を馬鹿なことを。ディミトリ、私はあなたの敵です。情けでもかけているつもりですか。」
これには僕もシエルさんに味方します。
アイスを助けてもリスクしかありません。
これは絶対に断らねばなりませんよ、シエルさん。
「シエル。あいつはもう大丈夫だ。戦意なんてありはしない。なあ、アイス。」
そう言ってディミトリさんは無邪気な笑顔を見せました。
なぜそう言い切れるのか僕には分かりませんが、あり得ない話です。
「ふっ。貴方は昔のまんまだ。こんな私をもう一度信じてみようとしている。」
「何を言っているのだ。私はこれまでもずっとお前を信じてきたんだ。確かに疑ったこともあった。だがそれは自分に対してだ。だからもう一度お前に会ってどうしても確かめたかった。そして確信した。お前は昔と何も変わっていないということを。」
二人のことは僕らには理解できませんが、ディミトリさんのアイスに対する信頼は計り知れないもののようです。
「お、おのれ人間風情が我の腕を落とすなどと、あってはならぬことだ。」
モルドスは怒りに震えました。
そろそろ真の力を出してくるはずです。
それさえ乗り気ってしまえばレジェスの勝利は目前でしょう。
「我は負けぬ!」
モルドスは残った右腕でレジェスにパンチを放っていきます。
しかし、やはり左腕の傷が影響しているのか、きれがありません。
レジェスはそれを巧みに避け、モルドスを追い詰めていきます。
「アイス、なぜモルドスはフルガイアの民の能力を使わんのだ?現状でもまだ勝てると踏んでいるのか?」
ディミトリさんの質問にシエルさんの治療を受けながらアイスは
一言言いました。
「使わんのではない、使えないのだ。」
「使えない!?どういう意味だ?」
「兄上にはその能力が備わっていないのだ。」
「ば、ばかなそんな事があり得るのか!?我々フルガイアの民には必ず何かしらの能力がある。確かにそれを完璧にコントロールするには多少の年月が必要だが、それはだいたい子供の時点で終えている。やはり親が居なかった影響なのだろうか?」
ディミトリさんの驚きようから察するに、能力を使えない大人というのは稀有な存在のようです。
そう言えばサーシャ様もパープルアイズが覚醒するまで随分と時間を要しましたからね。
しかし彼女の場合、自分の正体も知らず父親であるディミトリさんとも離ればなれでしたから、致し方ありません。
その間にもレジェスはモルドスへの攻撃の手を休めることはしません。
モルドスは先手を取られ焦りすら見受けられます。
このままいけば勝負が決するのも時間の問題でしょう。
「なぜだ……なぜだ。我は神に仕えし者。人間などに負ける筈がない。」
モルドスはかなり追い込まれているようでした。
「嫌だ――負けるのは嫌だ――。」
「ぬっ、隙あり!もらったぞ!」
そしてついにレジェスの剣がモルドスを捉えました。
剣はモルドスの心臓を貫き貫通しています。
さすがにこれではモルドスもどうすることも出来ません。
完全勝利です。
「グハッ!我は……負けた……のか。」
「そうだ。お前はこの私に負けたのだ。」
「負け――違う――違う!我が、この我が負けることなど決してありはしない。最強は我だ!」
「ん!?なんだこの力は?」
完全に根本まで刺さっていたレジェスの剣が、まるで押し戻されているように見えます。
そして、ついにはモルドスの体から剣が抜けてしまいました。
「な、なんだこれは?力が――力が湧いてくる。」
何かモルドスの様子が変です。
いったい何が起こっているのでしょうか。
そして次の瞬間、僕らは驚愕しました。
ついさっきレジェスに切り落とされたはずのモルドスの左腕が、なんと恐ろしいスピードで再生していくではありませんか。
「止まらぬ。溢れでるパワーが次から次へと。我は――我はついに神々に認められたのか。」
どうやらこれは僕らにとって良くないことが起こっているみたいです。
だが今ならまだいけるかもしれません。
「レジェス、早くとどめを!」
「いや、まだだ。こやつの全力を潰さねば勝ったとは言えぬのだ、ピートよ。」
ああ、やはり戦闘馬鹿には通じませんか。
仕方ありません。
もうレジェスに掛けるしかありません。。
「あ、あの目。あれはもしかして。」
アイスが言ったのは、モルドスの目です。
モルドスは盲目です。
その目がどうしたというのでしょうか……ま、まさか!
モルドスの両の瞳が金色に輝いているではありませんか。
もしかしてこれは、これがモルドスの能力なのでしょうか。
するとアイスは複雑な感情を顔に出して言いました。
「やはり使えなかっただけなんだ。それが今、レジェスとの戦いに触発されて覚醒されたのだ。あの目は――ゴールドアイズだ。」
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