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キリエスの王

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僕らは人間界へと戻りました。

フォックスの魔力によって、難なく戻ってこられました。

僕たちだけでは、こっちに帰ってくることさえ困難だったでしょう。


「やはり、人数が多いぶん魔力の消費が激しい。本来ならどこへでも行けるのですが、通りやすいデーモンズホールくらいからしか戻れませんでした。申し訳ありません。」


「何を仰るのですか、フォックス様。貴方様がいてくれたお陰で、私たちは無事に戻れたのですよ。ねえ、レジェス様。」


ジャクリンさんは本当にフォックスを気に入っているようです。

まあ、ちびっこ同士、お似合いですけれどね。


「ふっ、私なら一人でも帰って来れたがな。」


「もお、レジェス様ったら!」


和気あいあい、しているのも良いですがここはキリエスのど真ん中だということを忘れないようにお願いします。


しかし、やけに静まりかえっているようですが、皆さんお留守でしょうか。

僕らは地下から上り、辺りを警戒してグラス城へ潜入してみました。


「誰もいないわね。こんなことってあるのかしら?」


いいえ、絶対にないでしょう。

いくら他国との戦だからって、城を空っぽにする馬鹿はいないでしょう。


「おーい、誰かおらんのか。」


「ち、ちょっとレジェス、大声出さないでよ。見つかっちゃうじゃない。」


本当です。

馬鹿な真似は止めて欲しいですね。


「おい、皆。こっちを見てくれ。」


今度はローラスが何やら興奮したように声を上げました。


大きな扉を開け中に入ると、巨大な広間に出ました。

そして、その奥の方にはこれまた大きな椅子が置いてあります。


「あれは、もしかして玉座ってやつじゃないか。」


広間は明かりが灯っておらず、薄暗いのではっきりとは分かりませんが、おそらく王の椅子、玉座のようです。


「俺、一度でいいから、あれに座ってみたかったんだ。」


ローラスは子供のように目を輝かせているようでした。


「――私が先に座らせてもらおう。」


何故かレジェスまでもが、玉座に興味津々でした。


「それにしても暗いわね。」


「私が明るくしてあげるよ。――エルイーディ。」


そう言ってシエルさんは、魔法で明かりを灯しました。

すると、広間は薄暗いから、薄明かるくに変わりました。

さすがシエルさん。

限度をわきまえていますね。

あまり明るくしてしまうと、目立っちゃいますからね。


「ちょっと待って!あの玉座……誰か座ってない?」


サーシャ様、恐いことを――本当だ!

玉座に座っているということは、それすなわち――。


「何者だ。我はドレイク三世であるぞ。」


まさか!!

ドレイク三世は生きていたのでしょうか!?

僕らは、あまりの突然の出来事に固まってしまいました。


「我が城へ忍び込むとは、いい度胸をした鼠たちだ。全員、縛り首にしてやろう――なんてね。」


「これは、どういうこと!?」


ドレイク三世は突然、少年に姿を変えました。

姿を変えていたのでしょうか。

そういえば、僕は以前にも変幻自在に他人に成りすます男を見たことがあります。

それはシグレ島で戦った、フォックスです。

それを踏まえると、この偽ドレイク三世は恐らくフルガイアの魔物。


「ラクーン、お前か。」


「やあ、久しいね、フォックス。しかし、本当にやって来るとは思わなかったよ。さすがはアイス様だよ。ここで待ってて大正解。」


どうやら味方ではないようですね。

しかし、この面子に彼一人でどうにか出来るとは到底思えません。


「さあさあ、皆さん仕事の時間だよ。」


ラクーンが、パンパンと手を叩くと、奥の方からぞろぞろと、キリエス兵が入ってきました。


しかし、キリエス兵が、この偽者のドレイク三世の命令に従うとは――。


「これは、人間ではない。」


よく見るとキリエス兵の装備品は身につけていますが、中身は骸骨ではありませんか。

しかも、言葉を発っさないところをみると、あれはフルガイアの民ではありません。

ラクーンの特殊な能力なのでしょうか?


「あれは、テルミナのフィロ……。ラクーン、お前テルミナに足を踏み入れたな。」


「ん?ああ、それがどうした。」


「テルミナへは入らないのが、昔からのフルガイアの掟のはずだ。」


「古いなー。今時、テルミナの獣どもを手なずけるなんて、誰だってやってるぜ。そんなことを言っているのは、お前たちくらいだよ。」


そういえば、僕らがテルミナで迷っている時もフォックスは、足を踏み入れることはしませんでしたね。

力関係からいえば、フルガイアの方が上でしょうから、別に問題は無さそうですが、あの世界の秩序を守る為なのでしょうね。


「なあ、フォックスよ。今からでも遅くないぞ、アイス様のところへ来いよ。ディミトリなんて、もう終わっているだろ。何故、あいつの元にいるんだよ。」


「……お前には話しても分からぬことだ。私は、ディミトリ様についていく。アイスなど、ただの裏切り者に、加勢など決してしない。」


「そうかい。じゃあ死んでもらうしかないね。」


この二人には何やら因縁めいたものを感じました。

まあ、今はどうでもいいことですけどね。

それよりも、まずは目の前の敵を倒すことだけを考えましょう。


「あいつは――ラクーンは、私にお任せください。」

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