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いざキリエスへ

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結局のところアイスの正体、そして僕らを救った謎の光りの剣の正体は何も、分からず終いでした。

ただ不安だけが後に残りました。


「あんなことがあったすぐ後に、こんなことを言い出すのは心苦しいのだが、君たちは今すぐにでもキリエスへ向かいなさい。」


心の準備というものが整っていない状況ではありますが、僕にはどうしてもアイスの残した言葉が気になりました。

――魔界のプリンセス。

あれはいったい、どういう意味なのか。

それは、もちろんサーシャ様にとっても同じでした。


「行きます。行って、私が何なのかを知りたい。」


当然の決断です。

まあ、どこにいても神出鬼没のアイスなら追ってくるでしょうし、ここは敵の懐に飛び込んでみるのも面白いかもしれません。

ただ問題もあります。

それは、どうやってキリエスの心臓部まで辿り着くかです。

ザラス国を通っていくのは不可能です。

そうなると、海路という選択しかありません。

キリエスの港に着いても油断は出来ない。ですが、陸に上がりさえすれば何とかなるかもしれません。


「そうか、行ってくれるか。ならば船を出そう。実を申せばキリエス側にも協力者がいてな。安全に停泊できる港を用意してくれている。ただ、そこからの陸路は危険が伴う。何とか目立たずに王都マビン・グラスまで行ければよいのだが……。」


「それなら心配には及びません。僕が、とっておきの裏道を知っていますから。」


「そうか。ピートはキリエスの出身だったわね。さすがね、こんな時に役に立つわね。」


サーシャ様、今頃気付いたのですか。僕は、いつだってお役に立てる、出来る男ですよ。


「そういえば、カモミール姫様からお聞きしていた、手練れの助っ人は、どこに?」


おお!ローラスさん、なかなか良い所に気付きましたね。ちょうど僕も、それを訊ねようとしたところです――本当ですよ。


「あ、ああ、そのことだが、実はそこに……。」


そう言ってパークさんは、たった今アイスに倒された兵士たちを指差していました。

つまり僕らだけで行ってこいということです。


「すまぬな、役に立てずに。だが一つだけ吉報もあるぞ。これもまた確実とは言い切れないが、レジェスがキリエスへ向かったという情報が、君たちが来る少し前に入ってきてな。」


彼がキリエスに?

何の為なのでしょうか。というより、彼がキリエスに行っていたとしても、僕らに協力するとは限りません。

どのみち、あまり期待しない方が良さそうですね。



その後、準備の時間に少しの猶予をもらい、僕たちは支度を整えました。

そして、船に乗りキリエス本国の領土に、遂に侵入したのでありました。

そこからは、僕の知る峠道をひたすら進みました。

途中でキリエス兵に出会すことも皆無でした。


無事にキリエスの王都マビン・グラスへと辿り着いたのフェイトフル・リアルムを出て、四日目の辺りが薄暗くなった頃でした。


街の中では目立たないように二組に別れて歩きます。

僕とサーシャ様が先を歩き、少し離れてローラスとシエルさんが後方からついてきます。


久しぶりの故郷ですが、感慨深さは微塵もありません。

この国は、いつでも空気が重たく感じます。

行き交う人々の表情も、どこか虚ろです。

僕は、この国が大嫌いでした。


僕が育った家が、その路地を入ったすぐの所にあります。

ですが住人は、もういません。


物心ついた時には、僕はヘミング家という家に居ました。

本当の両親のことは何も知りません。

僕は養子という名の奴隷でした。

来る日も、来る日も僕はこき使われ、失敗すれば暴力を受けました。

この頃の僕には生きている自覚さえありませんでした。


そんなある日、ヘミング家に盗賊が押し入ります。

マビン・グラスでも裕福な家に属する、ヘミング一家をターゲットに絞ったと思える犯行でした。


彼らは『麒麟』と呼ばれる盗賊です。

ここ最近、キリエスで名を馳せている盗賊団。

麒麟は、情け容赦ない事で有名です。

ターゲットは金持ち。

奪うのは金目の物と家主の命です。


今回狙われたヘミングも、また同じ運命を辿りました。

彼の妻も惨殺されます。

そして、遂には僕も見つかってしまいました。


「は?ガキなんか居たか、この家に?」


「頭、急いでそのガキ片付けて、ずらかりましょう。」


「そうだな。じゃあ坊主悪いけど死んでくれ。」


僕は静かに目を閉じました。

その、行為に盗賊団の頭は戸惑いをみせました。


「お前、これから死ぬんだぞ。怖くないのか?」


僕は首を横に大きく振りました。


「親父とお袋が死んだのに泣かないのか?」


「僕は買われただけだ。だから悲しくなんてないし、お前らだって恐ろしくなんかない。」


そんな僕に同情したのかどうかは分かりませんが、盗賊団の頭は僕を連れて行くことにしました。

正直、僕はどうでもよかった。

どうせまた、ここでの生活みたいな事が繰り返されるだけ、だと知っていたからです。


盗賊団の頭は、盗賊らしからず小綺麗な格好をしていました。

どこか知的で冷徹な雰囲気を出しながらも、それでいて悪戯っ子のような人懐っこい笑顔を見せました。

それが、僕にとっては眩しい太陽のように見えました。


この男の名前は、エッジ。

仲間たちからは、ブラックエッジと呼ばれていました。

その名の通り、黒い刀身の剣を持っています。

それは美しくも妖しい輝きを放っていました。


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