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国境を越えて

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ザラスとの戦いを制した僕たちは足早に、フェイトフル・リアルムへと向かっています。

なるだけ早く歩を進めなければ、また追っ手が来るやもしれませんからね。


「シエルさん、シエルさん。あの、一つお訊きしてもいいですか?」


「なに?」


「さっきサーシャ様の剣にやったようにやれば、僕の剣にも同じことが出来るということですよね。」


「うん、出来るよ。」


「じゃあ、もし次の戦いがあったらお願いしてもいいですか。」


「……ピート君、君は充分強い。だから一人で頑張りたまえ。」


なんというか、あしらわれてしまいましたね。

残念です。せっかく魔法剣士のようになれるチャンスだったのに。

僕は軽いショックを受けていまいました。


「ピート。」


「何です?サーシャ様。」


まさか傷ついた僕を慰めてくれるのでしょうか。


「さっきの、あのハラスメントとかいうのが乗ってた馬車を何で持って来なかったのよ。」


「はい?」


「だから馬車があれば、こんなに歩く必要もなかったでしょ。」


いや、それは僕に言われても困ります。

そもそも、それは盗っ人のすることですよ。最低です。


「あれは、戦利品だから。」


サーシャ様は、まるで僕の心の声を見透かしたように言いました。


「ピートは最高に気の利く従者でしょ。だったら、その辺りの気配りは当然よね。あっ!まさか私の健康のために、わざと馬車を持って来なかったのかしら?そうだとしたら、ごめんなさいね。」


僕は悪くもないのに、ねちねちと責め立てられました。


「ほ、ほらサーシャ様。もうじき国境付近ですよ。」


僕はとりあえず遠くの方を指差し、適当なことを言って誤魔化そうとしました。

ところが国境は、なかなか姿を見せてはくれませんでした。


僕たちはその後、二日間ほど黙々と歩き続けました。

そうして今度こそ、ようやく国境へと辿り着くことができました。


「やっと着きましたね。」


「もうじきの国境の遠いこと、遠いこと。はぁ、疲れちゃった。」


まったく、根にもつタイプですね、サーシャ様は。


僕たちの目に飛び込んできたのは、大きな二つの砦でした。

手前に見えるのが現ザラスの国の関所で、奥の方がフェイトフル・リアルムの砦です。

さて問題は手前にある砦を無事通過できるかどうかですね。

僕たちは他の人たちと共に、どさくさに紛れて関所を通り抜けようと考えました。


「人が多いな。これはチャンスですね。」


ところがです、ザラス国の砦は蛻の殻でした。

どうやら、まだ新興国のザラスには、こんな辺境の土地にまで手を回す余裕がなかった様です。ラッキーでした。


僕たちは難なくザラスの砦を抜けて、フェイトフル・リアルムの関所へと辿り着きました。

しかし、ここで予想だにしていない問題が発生してしまいます。

フェイトフル・リアルムへ入国しようと列をなしていた人々が続々と戻って来るではありませんか。

おそらく関所を通過する許可が降りなかったのでしょう。


「そんなに厳しかったですかね、ここ。」


ここは過去に何度も行来きした場所です。当然、この砦も通過しましたが、その時は簡単に通してもらいました。


「この人の多さが答えよ。」


「それって、どういうことなの、シエル?」


サーシャ様もシエルさんの言った意味が理解出来ていない様子です。


「いつかは分からないけど、そのうち必ず戦争が始まると思うの。だからザラスにいる人々はフェイトフル・リアルムに流れこんでいるのよ。当然、フェイトフル・リアルム側は、これに紛れてザラス――いえ、キリエスの工作員が入って来ると読んでいると思うの。だから簡単には通れなくなってしまったのよ。」


なるほど。ですが、戦争が起こるとすればザラス国がフェイトフル・リアルムに侵攻する確率の方が断然高いと思われます。

そうなると戦場は、おのずとフェイトフル・リアルムになります。

まだザラスに居た方が安全ではないでしょうか。

僕は、そのことをシエルさんに問いただしました。


「もちろん、そうでしょうね。だから、今の内にフェイトフル・リアルムから船に乗ってギアン大陸に避難するつもりじゃないかしら。」


ギアン大陸ですか。それで合点がいきます。

今の緊迫した状態なら、レト大陸のどこにいても危険ですからね。


「はい、次。」


おっと!僕らの番みたいです。


がっちりとした体格のフェイトフル・リアルムの兵士は僕らを怪しんだ目で上から下まで見回しました。


「それで、お前たちはどこから来て、我が国に何用なのか簡潔に述べろ。」


何だか悪いことして、取り調べを受けているようで気分を害しますが、仕方ありません。


「僕たちは、パークさんにお目通りしたくて、やって来ました。」


「お前らの名を聞かせてもらおうか。」


「はい。こちらがサーシャ。それでこっちがシエル。僕はピートと申します。」


すると体格のよい兵士が何やら近くの別の兵士を呼んで、ひそひそと耳打ちしています。


「よし分かった。お前らはこちらへ来なさい。」


僕らは言われるがまま、その兵士について行きました。


「さあさあ、どうぞこちらへ。」


案内されるがまま、僕らは阿呆みたいにその部屋へと入って行きました。


「ねえ、ピート。これって牢屋じゃない?」


「えっ!ああ、そうですねこれは牢屋ですね。ハハハ。」


そして次の瞬間、ガシャン!と音を立てて扉が閉まり、更にカヂャ!と鍵を掛けられました。


「ちょっと、どういうことよ!?」


「お前たちは怪しすぎる。だいたいパーク様のことを知る者などそうそう居ないはずだ。あの方は表には一切、お出にならないからな。とりあえず、確認が済むまでそこで待っていろ。」


体格のよい兵士は、そう言ってどこかへ去って行きました。


「ピート、どうするのよ。あんたがしっかりしないから私達、収監されちゃったじゃない。」


「何いってるんですか、だいたい先頭で入って行ったのは、サーシャ様ですよ。従者の僕は後ろからついて行っただけです。」


「ほう、それが主人に向かって言う言葉か、ピート。」


ここは僕も譲りませんよ。

今回ばかりは言い負かしてやります。


「ちょっと止めて。それよりここを出る方法を話そうよ。」


シエルさんは珍しく、まともな意見を出しました。

それで僕たちも冷静さを取り戻した。


「出るって言っても、どうするの?」


「そうですよ。もう少し待ってみましょう。すぐ出してもらえるかもしれませんし。」


僕たちはシエルさんを宥める様に言いました。


「嫌よ!私、こーんな汚い所には一秒たりとも居たくないの。だから、この牢屋を木端微塵にしてやるわ。見てなさい――。」


シエルさんが今にも暴走しようとした、その時でした。


「お待たせ致しました。数々のご無礼失礼しました。」


先ほどの体格のよい兵士が戻って来ました。

しかも何やら先ほどとは変わって、ずいぶん丁寧な物言いです。


「ちょっと早く出して。」


シエルさんは何かをやらかしそうでしたが、どうやら踏み止まってくれたみたいです。


「パーク様から謁見の許可が降りました。あなたがたを充分にもてなす様にとの命を受けました。どうぞこちらへ。」


牢屋の扉が開き、僕たちは外へ出ることができました。


「もしかしてパークさんは、この砦に?」


確認作業が早すぎです。そうなると、パークさん自身がここに居ると考えるのが妥当でしょう。


「ええ、居られます。」


「それでいつ会えますか?」


「これより、お会いできますよ。」


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