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魔法剣士
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僕は、サーシャ様に魔法剣士へのジョブチェンジを勧めました。
もちろん簡単なことではありません。ですが魔法の効かないサーシャ様が魔法剣士になるということは、これ即ち最強への道が近くなるということではないでしょうか。
幸運なことにサーシャ様は剣士です。剣の腕はあります。
魔法剣士に必要なのは、まずは剣術です。
もしも純粋な魔法使いが魔法剣士を目指すとなると、まずは剣術を一から学ばなくてはなりません。剣は一日してならず、ですね。
その点サーシャ様は、ずっと剣の修業をやってきました。ですが最高峰に到達するには、まだまだ遥か遠く。
ここは決断の時!
ただ、魔法剣士という選択をサーシャ様が受け入れてくださるのかが問題では、ありますが……。
「魔法剣士か……ありだね、あり。」
どうやら良い感触です。ここは一気に決断までいけるよう押していきましょう。
「さすがサーシャ様。今日からは魔法剣士ですね。」
「そうだな!私は魔法剣士として生きていくぞ。ただ魔法剣なんて何にも使えないけどね。ハハハ。」
「そうですね魔法剣士のくせに魔法剣が使えないなんてね、ハハハ。」
「……ピート、もしかして私を馬鹿にしている?」
「そ、そんなことはありませんよ。それよりサーシャ様は魔法剣をどんなものだと、お思いですか?」
危ないところでした。話を別のところへ持っていかないと、小馬鹿にしていたのがバレてしまうところでした。
「魔法剣?あれでしょ、要は魔法を剣にかけるんだろ。」
まあ、確かにそうですが、それではあまりにも単純すぎる答えです。恐らくサーシャ様は魔法剣を誤解していると思われます。
「例えば魔法のファイアを剣にかければ、さっきのローラスの使っていた魔法剣の完成ってわけ。魔法さえ覚えれば問題なし。だろ?」
やはり勘違いしています。やれやれ仕方ないですね。僕が実践して差し上げましょう。始めに言っておきますが僕は魔法剣を使えません。そのことはご了承下さい。
「サーシャ様。よく見ていてくださいよ。」
僕は近くに落ちていた長めの木の枝を拾い上げました。
「これを剣とします。そして、これに初級魔法のファイアをかけてみます。」
僕のファイアで木の枝はパチパチと音を立てて燃え上がりました。
「おお!それで魔法剣の完成か。やっぱり簡単そうだ。」
お気楽なサーシャ様に僕は、こう言ってやりました。
「これが本当に魔法剣なら、サーシャ様が直に触っても熱く感じないはずですよね。では、どうぞ。」
「それは、そうでしょ。さっきだってローラスの魔法剣の炎は熱くもなんとも――熱っ!」
「と、いう訳です。」
「何が、『というわけ』だよ。熱いじゃん!どうして?」
まったく世話がやけますね。面倒ですが仕方ありません。
ご説明しましょう。
「これは魔法剣ではありません。魔法によって燃えているだけの木の枝です。ですから、これは魔法剣でも魔法の炎でもなくて、ただの火なんです。だからサーシャ様でも普通に熱く感じるのですよ。」
「なるほど。何となく解る。だけど、それじゃあ何故、ローラスの魔法剣は熱く感じなかったの?」
「そこです。あれは単純に考えれば魔法のファイアで剣を燃やしているとサーシャ様は思っているようですが、無論違います。そもそも、剣を燃やしているだけならローラスの炎も熱く感じるはずですよね。簡単に言うと魔法使いの使う魔法と、魔法剣士が使う魔法は全く別物ということになるんですよ。」
サーシャ様は、今にも頭から白煙を吹き出しそうな顔をしています。
「いいですか。魔法使いは魔法を唱えて発動。この時に一気に魔力を放出します。ですが魔法剣士は一定の魔力を剣に送り続けるのです。これが乱れると魔法剣が不安定になり効力が薄れます。この一定の魔力を安定して剣に供給、というのが非常に難しいのです。これは上級の魔法使いでも難しいと言われています。」
「どうすれば、それが出来るようになるの?」
「努力と根性で修業し、会得するしかありませんね。」
そうは言ってみたものの、実は魔法剣士というのは、その人のセンスによる部分が大きい。早い話し、向き不向きがあるということ。出来ない人は、どんなに努力しても出来ないのです。
ですが、そこは伏せておきましょう。せっかくサーシャ様が乗り気になってきているのですから。
何故そんなに魔法剣士を勧めるのか、ですって?
正直に申しますと、サーシャ様が剣の腕だけで「最強」を目指すのが困難だろうという見解からです。
決して無理とは言いません。もしかしたら何十年後には大剣士として名を馳せているかもしれません。
ですが、それでは遅い。サーシャ様は、お婆さんになっているかも……考えたくもないことです。
やはり若いうちに、世界中に美しき剣士サーシャ様の名前を轟かせたいじゃないですか、従者としては。
もちろん、他にも理由がありますが、それは追々。
「えーっ、努力とか無理。根性もないし。」
「サーシャ様。魔法剣士って格好よくないですか。僕は、さっきのローラスでさえ一瞬、格好よく見えましたよ。おそらく、あのローラスは、まだ駆け出しの魔法剣士です。そんな初心者の彼でさえ魔法剣を使う時は凛々しく見えました。もし、サーシャ様が魔法剣を使ったりなんかしたら、きっと誰もがサーシャ様に憧れを抱くこと間違いない!断言します。」
僕は饒舌にサーシャ様を誘惑しました。サーシャ様は考えている様子です。いや、違う。おそらくは妄想しているのでしょう。魔法剣を使う自分と熱狂する人々の姿を。
数十秒後。
「やる!私はやるぞ、ピート。努力と根性で魔法剣士になる。」
きた!やはり単純でしたね。サーシャ様は。
「ただ、どうやって魔法剣を修得するの?いくら私でも独学は、ちょっときついぞ。」
「それは心配無用です。僕に、ちょっと心当たりがあります。魔法剣の師匠になってくれるかもしれない方がソルディウスの外れに住んでいるはずです。」
「おお!さすがはピート。思いつきの提案じゃなくて、そこまで考えての発言、見事だ。」
当然です。僕は最強に気のきく従者を目指していますからね。
「よし、じゃあ早速、行こう。」
「はい。」
もちろん簡単なことではありません。ですが魔法の効かないサーシャ様が魔法剣士になるということは、これ即ち最強への道が近くなるということではないでしょうか。
幸運なことにサーシャ様は剣士です。剣の腕はあります。
魔法剣士に必要なのは、まずは剣術です。
もしも純粋な魔法使いが魔法剣士を目指すとなると、まずは剣術を一から学ばなくてはなりません。剣は一日してならず、ですね。
その点サーシャ様は、ずっと剣の修業をやってきました。ですが最高峰に到達するには、まだまだ遥か遠く。
ここは決断の時!
ただ、魔法剣士という選択をサーシャ様が受け入れてくださるのかが問題では、ありますが……。
「魔法剣士か……ありだね、あり。」
どうやら良い感触です。ここは一気に決断までいけるよう押していきましょう。
「さすがサーシャ様。今日からは魔法剣士ですね。」
「そうだな!私は魔法剣士として生きていくぞ。ただ魔法剣なんて何にも使えないけどね。ハハハ。」
「そうですね魔法剣士のくせに魔法剣が使えないなんてね、ハハハ。」
「……ピート、もしかして私を馬鹿にしている?」
「そ、そんなことはありませんよ。それよりサーシャ様は魔法剣をどんなものだと、お思いですか?」
危ないところでした。話を別のところへ持っていかないと、小馬鹿にしていたのがバレてしまうところでした。
「魔法剣?あれでしょ、要は魔法を剣にかけるんだろ。」
まあ、確かにそうですが、それではあまりにも単純すぎる答えです。恐らくサーシャ様は魔法剣を誤解していると思われます。
「例えば魔法のファイアを剣にかければ、さっきのローラスの使っていた魔法剣の完成ってわけ。魔法さえ覚えれば問題なし。だろ?」
やはり勘違いしています。やれやれ仕方ないですね。僕が実践して差し上げましょう。始めに言っておきますが僕は魔法剣を使えません。そのことはご了承下さい。
「サーシャ様。よく見ていてくださいよ。」
僕は近くに落ちていた長めの木の枝を拾い上げました。
「これを剣とします。そして、これに初級魔法のファイアをかけてみます。」
僕のファイアで木の枝はパチパチと音を立てて燃え上がりました。
「おお!それで魔法剣の完成か。やっぱり簡単そうだ。」
お気楽なサーシャ様に僕は、こう言ってやりました。
「これが本当に魔法剣なら、サーシャ様が直に触っても熱く感じないはずですよね。では、どうぞ。」
「それは、そうでしょ。さっきだってローラスの魔法剣の炎は熱くもなんとも――熱っ!」
「と、いう訳です。」
「何が、『というわけ』だよ。熱いじゃん!どうして?」
まったく世話がやけますね。面倒ですが仕方ありません。
ご説明しましょう。
「これは魔法剣ではありません。魔法によって燃えているだけの木の枝です。ですから、これは魔法剣でも魔法の炎でもなくて、ただの火なんです。だからサーシャ様でも普通に熱く感じるのですよ。」
「なるほど。何となく解る。だけど、それじゃあ何故、ローラスの魔法剣は熱く感じなかったの?」
「そこです。あれは単純に考えれば魔法のファイアで剣を燃やしているとサーシャ様は思っているようですが、無論違います。そもそも、剣を燃やしているだけならローラスの炎も熱く感じるはずですよね。簡単に言うと魔法使いの使う魔法と、魔法剣士が使う魔法は全く別物ということになるんですよ。」
サーシャ様は、今にも頭から白煙を吹き出しそうな顔をしています。
「いいですか。魔法使いは魔法を唱えて発動。この時に一気に魔力を放出します。ですが魔法剣士は一定の魔力を剣に送り続けるのです。これが乱れると魔法剣が不安定になり効力が薄れます。この一定の魔力を安定して剣に供給、というのが非常に難しいのです。これは上級の魔法使いでも難しいと言われています。」
「どうすれば、それが出来るようになるの?」
「努力と根性で修業し、会得するしかありませんね。」
そうは言ってみたものの、実は魔法剣士というのは、その人のセンスによる部分が大きい。早い話し、向き不向きがあるということ。出来ない人は、どんなに努力しても出来ないのです。
ですが、そこは伏せておきましょう。せっかくサーシャ様が乗り気になってきているのですから。
何故そんなに魔法剣士を勧めるのか、ですって?
正直に申しますと、サーシャ様が剣の腕だけで「最強」を目指すのが困難だろうという見解からです。
決して無理とは言いません。もしかしたら何十年後には大剣士として名を馳せているかもしれません。
ですが、それでは遅い。サーシャ様は、お婆さんになっているかも……考えたくもないことです。
やはり若いうちに、世界中に美しき剣士サーシャ様の名前を轟かせたいじゃないですか、従者としては。
もちろん、他にも理由がありますが、それは追々。
「えーっ、努力とか無理。根性もないし。」
「サーシャ様。魔法剣士って格好よくないですか。僕は、さっきのローラスでさえ一瞬、格好よく見えましたよ。おそらく、あのローラスは、まだ駆け出しの魔法剣士です。そんな初心者の彼でさえ魔法剣を使う時は凛々しく見えました。もし、サーシャ様が魔法剣を使ったりなんかしたら、きっと誰もがサーシャ様に憧れを抱くこと間違いない!断言します。」
僕は饒舌にサーシャ様を誘惑しました。サーシャ様は考えている様子です。いや、違う。おそらくは妄想しているのでしょう。魔法剣を使う自分と熱狂する人々の姿を。
数十秒後。
「やる!私はやるぞ、ピート。努力と根性で魔法剣士になる。」
きた!やはり単純でしたね。サーシャ様は。
「ただ、どうやって魔法剣を修得するの?いくら私でも独学は、ちょっときついぞ。」
「それは心配無用です。僕に、ちょっと心当たりがあります。魔法剣の師匠になってくれるかもしれない方がソルディウスの外れに住んでいるはずです。」
「おお!さすがはピート。思いつきの提案じゃなくて、そこまで考えての発言、見事だ。」
当然です。僕は最強に気のきく従者を目指していますからね。
「よし、じゃあ早速、行こう。」
「はい。」
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