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4話「いきなり事情が明かされる」
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用意してもらった部屋の中にいる間、ヴァッファリーナから、魔王マオンに関して聞くことができた。
彼は魔族の王、魔族らからは偉大な王として尊敬されているらしい。
ただ、女性と接することが苦手らしく、幼い頃から知り合いだった一部の女性を除く女性と会話するとなると緊張してしまうそうだ。
女性そのものに嫌悪感を抱いている、というわけではないようだが。
ただ、どうしても女性と上手く関わることができないそうで、そのせいでなかなか結婚もできないらしい。
しかも厄介なことに、まったく接触せず形だけの結婚するのは女性に失礼、という考えを持っているそうで。その意思は固く、これまで周りが形だけの結婚を提案した際にはそのすべてを拒否したとのことだ。
「そういう事情もあり、これまで、いろんな種族の国から妻候補を呼んでみたのです。しかしなかなか上手くいきませんで、今に至ってしまっているのです」
「そうでしたか……」
牛柄のメイド服とクリーム色のショートヘアが個性的なヴァッファリーナは、淡々とした調子ながら、マオンに関する情報を丁寧に教えてくれた。
また、マオンの母親が人間であったということも、隠すことなく明かしてくれた。
今日ここへ来たばかりの私に明かせるということは秘密事項ではないのだろうが、それでも、こんなにいきなり明かしてもらって良かったのだろうかと思ってしまった。
「それゆえ、魔王様の容姿は人に近いのです」
「確かに……見た目は人間のようでしたね」
「はい。ですが、魔王様には魔力があります。そこは人間と異なります」
「魔力……。それは、その、魔法が使える、とか……?」
「そうですね、そのような感じです」
「凄いですね。魔法を使える、というのは、人間とは違う部分ですね」
言い終えてから「余計なことを言ってしまった!?」と密かに焦る、が、ヴァッファリーナは怒りも叱りもしてこなかった。
それから一時間ほどが経った頃、部屋の入り口、扉がじわじわと開いてきた。
開き方が不自然なので何事かと思っていると。
「し、失礼……し、しま……しまします……」
開いた扉の隙間から見えてきたのは男性にしては長い黒の髪。それに加えてどこかおどおどした声の調子だったので、入ってこようとしている者が何者なのかはすぐに察することができた。
「ローレニア、さん」
マオンだ。
彼は両手を背中側に回したままこちらへ歩いてくる。
「とても良い部屋をありがとうございます」
「……あ、い、いえいえ」
マオンは気まずそうに発したが、その直後、勢いよく花束を差し出してきた。
「どうぞっ!!」
青い花がたくさん塊になっている花束だ。
「え? あの、これは?」
「贈り物の花束ですッ!!」
「いただいて良いのでしょうか」
「もちろんです!!」
恐る恐る腕を伸ばす。
「ありがとうございます、魔王様」
彼の手から花束を受け取った。
その時の彼の腕は震えていた。
花束を受け取った私へ、彼は視線を向けてくる。彼は何か言いたそうな視線を送ってきていた。彼の赤い双眸はこちらを確かに捉えている。
「何かあるのでしょうか?」
一応そう問いかけてみると。
「実、は……その、できれば……マオン、と、呼んでください……」
呼び捨て?
いや、それはさすがにまずいだろう。
だって彼は魔族の王。私はただの妻候補の人間。そんな私が彼を呼び捨てになんかしたら、きっと、魔族に怒られてしまうだろう。なんて失礼な人、と思われかねない。
「ではマオン様でよろしいですか?」
「あっ……は、はい! そ、そ、それ、で……問題ありません!」
彼は魔族の王、魔族らからは偉大な王として尊敬されているらしい。
ただ、女性と接することが苦手らしく、幼い頃から知り合いだった一部の女性を除く女性と会話するとなると緊張してしまうそうだ。
女性そのものに嫌悪感を抱いている、というわけではないようだが。
ただ、どうしても女性と上手く関わることができないそうで、そのせいでなかなか結婚もできないらしい。
しかも厄介なことに、まったく接触せず形だけの結婚するのは女性に失礼、という考えを持っているそうで。その意思は固く、これまで周りが形だけの結婚を提案した際にはそのすべてを拒否したとのことだ。
「そういう事情もあり、これまで、いろんな種族の国から妻候補を呼んでみたのです。しかしなかなか上手くいきませんで、今に至ってしまっているのです」
「そうでしたか……」
牛柄のメイド服とクリーム色のショートヘアが個性的なヴァッファリーナは、淡々とした調子ながら、マオンに関する情報を丁寧に教えてくれた。
また、マオンの母親が人間であったということも、隠すことなく明かしてくれた。
今日ここへ来たばかりの私に明かせるということは秘密事項ではないのだろうが、それでも、こんなにいきなり明かしてもらって良かったのだろうかと思ってしまった。
「それゆえ、魔王様の容姿は人に近いのです」
「確かに……見た目は人間のようでしたね」
「はい。ですが、魔王様には魔力があります。そこは人間と異なります」
「魔力……。それは、その、魔法が使える、とか……?」
「そうですね、そのような感じです」
「凄いですね。魔法を使える、というのは、人間とは違う部分ですね」
言い終えてから「余計なことを言ってしまった!?」と密かに焦る、が、ヴァッファリーナは怒りも叱りもしてこなかった。
それから一時間ほどが経った頃、部屋の入り口、扉がじわじわと開いてきた。
開き方が不自然なので何事かと思っていると。
「し、失礼……し、しま……しまします……」
開いた扉の隙間から見えてきたのは男性にしては長い黒の髪。それに加えてどこかおどおどした声の調子だったので、入ってこようとしている者が何者なのかはすぐに察することができた。
「ローレニア、さん」
マオンだ。
彼は両手を背中側に回したままこちらへ歩いてくる。
「とても良い部屋をありがとうございます」
「……あ、い、いえいえ」
マオンは気まずそうに発したが、その直後、勢いよく花束を差し出してきた。
「どうぞっ!!」
青い花がたくさん塊になっている花束だ。
「え? あの、これは?」
「贈り物の花束ですッ!!」
「いただいて良いのでしょうか」
「もちろんです!!」
恐る恐る腕を伸ばす。
「ありがとうございます、魔王様」
彼の手から花束を受け取った。
その時の彼の腕は震えていた。
花束を受け取った私へ、彼は視線を向けてくる。彼は何か言いたそうな視線を送ってきていた。彼の赤い双眸はこちらを確かに捉えている。
「何かあるのでしょうか?」
一応そう問いかけてみると。
「実、は……その、できれば……マオン、と、呼んでください……」
呼び捨て?
いや、それはさすがにまずいだろう。
だって彼は魔族の王。私はただの妻候補の人間。そんな私が彼を呼び捨てになんかしたら、きっと、魔族に怒られてしまうだろう。なんて失礼な人、と思われかねない。
「ではマオン様でよろしいですか?」
「あっ……は、はい! そ、そ、それ、で……問題ありません!」
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