上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

 王子フィレットには愛する女がたくさんいる。
 そしてそれは私と婚約してからもまったくもって変わらず――ここの王家は一夫多妻を採用してはいないはずなのだが、にもかかわらず彼はそんな感じであった。

「なぜ複数の女性といまだに関わり続けているのか?」
「はい」

 婚約者を作るのであれば他の女性たちとは少しでも距離を取るべきではないか?

 そうでなければ婚約相手に対して失礼というものだろう。

「何だ、その質問は」
「そういう文化はこの国にはありませんよね」
「ったく、うるさいな。べつにいいだろう好きにして。俺は王子だぞ? 男はなぁ、いろんな女を味わってなんぼってもんなんだよ。ま、お前には分からないだろうが……」

 欲望のままに生きる。
 もしかしたらそれが彼にとっては普通のことなのかもしれない。

 王子だからか、否か、そのあたりは分からないけれど。

 ただ、彼はそういう人なのだろう。

「ですがそういったことは少し失礼ではないかと思います。誠実さを欠いています。婚約者として不快です。どうしていつまでもそのような行為を続けられるのですか」

 意見を言葉に乗せてみれば。

「うるさいッ!!」

 フィレットは急に鬼のような顔をして叫んだ。

 突然の豹変に驚いた。
 まさかここまで急激に変わるとは。

「女と遊ぶことくらい好きにさせろよ!!」

 どうしてそんなに言葉を強く発するの? ――なんて思ってしまう。
しおりを挟む

処理中です...