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二十四話「カザフさん、本音を漏らしてしまう」
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一泊二日の旅を終えた数日後、カザフはナナの店を訪ねた。
「久しぶりー」
「あ! カザフさん、こんにちは!」
今日はよく晴れた日だ。
真っ青な空がどこまでも続いているのを見上げたら、海水浴に来ているかのような気分になってくる。
「この前はペンダントありがとう!」
旅を終えて、ナナの店がある村へ帰ったあの日、カザフはナナからペンダントを貰った。それはハルマチクサをモチーフとしたようなもので、カザフは一目見て気に入った。
「袋に飾りとしてつけてみたよ!」
今までナナに貰った手作りアクセサリーは、いつも、外出時には持って歩いていない。だが、今回のものは手離したくなくて。そのため、いつも持ち歩いている荷物入れの袋に、飾りのようにつけてみたのだ。
「どうかな?」
そう言って、カザフはナナに袋を見せる。
「あ! 綺麗ですね!」
「今までのも好きだったけど、これは特に気に入ったんだ。だからここにつけてみておいたよ」
「その使い方、良いと思います!」
あの旅の影響か、あれ以来、カザフとナナの心の距離はグッと近づいた。以前はただの協力者という関係だったが、今では友人のようになっている。いや、それどころか、友人以上の感情を抱きかけているくらいだ。
「ナナちゃん、腕の傷はどう?」
「大丈夫ですよ! 順調に治っています」
ナナは白いワンピースの袖を捲って、腕のこの前負傷した部分をカザフに見せる。
「どうですか?」
「うん、治ってきているね。痛みは?」
「かさぶたがひっついているような違和感はありますけど、痛みはほぼないです」
ナナの答えを聞き、カザフは安堵の溜め息を漏らす。
そんな彼に、今度はナナが問いかける。
「ところで、カザフさんこそ大丈夫なんですか? 普通に噛まれてましたし、ナナより酷い怪我をしてそうでしたけど……」
問いを放つナナの表情は、どことなく不安げ。彼女のそんな顔を見るのが嫌で、カザフはすぐに「あれぐらいたいしたことないよ!」と返した。カザフは、自分のためにナナが暗い顔をしているところなんて、死んでも見たくないのだ。
「そうですか……それなら良かったです」
「ナナちゃんは心配しなくていいよ」
カザフが笑顔で言うと、ナナは軽くお辞儀する。
「は、はい。お気遣いありがとうございます」
非常に大きな恩ができたわけでもないのに、お辞儀。
その妙な礼儀正しさに、カザフは心を奪われそうになった。
無論、本人は自分がナナに特別な感情を抱きかけていることなどまったく気がついていないのだが。
「そうでした! カザフさん、もし今度機会があったら、デザートパンパンの宝玉を一つか二つ取ってきてくれませんか?」
いきなり話題を切り替え、素材集めを頼むナナ。
「デザートパンパン?」
「その……ナナはそれがどこに生息しているのか、知らないんです。実は、お客さんからそれを使ったアクセサリーを頼まれていて。砂漠にいるパンダだって聞いたんですけど……詳しいことまではよく分かっていないんです」
砂漠、という言葉には、心当たりがある。パルテム大陸内にある砂漠といえば限られているからだ。ただ、デザートパンパンという言葉は聞いたことがない。
「分かった。デザートパンパンについては、自分で調べてみるよ」
「すみません……」
「それで、頼み主はどんな人なんだい?」
カザフは純粋な興味で尋ねた。
するとナナは明るい顔つきで返す。
「前に来て下さった、あの、美人の女性です!」
そこまで言って、彼女はカザフをじっとり見つめる。
「カザフさんが気に入っていたお方ですよー」
「あぁ、そっか。あの人なんだ」
「カザフさんの好みの女性でしょうー? 前、あの方のこと、凝視してましたもんねー」
ナナは敢えてそんなことを言う。完全にわざとだ。
世には、こんなことをされたら怒ってしまう男性もいるかもしれない。心の余裕があまりない人なら、苛立った可能性もある。
だが、カザフは苛立ったりはしなかった。
変に呑気なところがあるから……かもしれない。
「べつに、好みではないかな」
カザフの口から出た言葉が意外だったのか、ナナはきょとんとした顔をする。
「……そうなんですか?」
「うん。綺麗な人のことは尊敬するけど、美しさがすべてってわけじゃないよ」
「またまたー」
まで怪しんでいるナナに、カザフは強烈な一撃をぶちかます。
「どちらかというと、僕はナナちゃんみたいな人の方が好きかな」
カザフは穏やかな表情で述べた。
彼からしてみれば、純粋な気持ちを伝えただけのことであって、驚くべきことなどではないのかもしれない。本心を口から出しただけなのだろう。
でも、ナナからすれば、それは告白にも近しいような発言で。
だから驚かずにはいられなかったのだ。
「なっ……何を言ってるんですか!?」
「え? おかしなことを言ったかな」
「だ、だって! 急に、そんなこと言われたら……!」
二人が同じような精神状態であったなら、話はもっと簡単だったのだろう。
だが、現実はいつも、そう上手くはいかないもので。
いきなり「好きかな」と言われ驚いているナナと、深く考えず「好きかな」と言ったカザフの間には、大きなずれがある。
もしかしたら、二人の心は同じなのかもしれない。
いや、きっと同じなのだろう。
でも伝え方や捉え方は人それぞれ。だから、ちょっとしたずれが起こり、妙なことになってしまう場合もあるのだ。
「そんなこと言われたら……ナナ、恥ずかしくなってしまいます……」
勇気を振り絞って心を伝えるナナ。
その顔はリンゴのよう。
顔面から火が噴き出しそうな状態になっているナナとは対照的に、カザフはのんびり落ち着いている。
「恥ずかしく? どういうこと?」
そんなことを聞くべきではないのに、カザフは聞いてしまう。
「久しぶりー」
「あ! カザフさん、こんにちは!」
今日はよく晴れた日だ。
真っ青な空がどこまでも続いているのを見上げたら、海水浴に来ているかのような気分になってくる。
「この前はペンダントありがとう!」
旅を終えて、ナナの店がある村へ帰ったあの日、カザフはナナからペンダントを貰った。それはハルマチクサをモチーフとしたようなもので、カザフは一目見て気に入った。
「袋に飾りとしてつけてみたよ!」
今までナナに貰った手作りアクセサリーは、いつも、外出時には持って歩いていない。だが、今回のものは手離したくなくて。そのため、いつも持ち歩いている荷物入れの袋に、飾りのようにつけてみたのだ。
「どうかな?」
そう言って、カザフはナナに袋を見せる。
「あ! 綺麗ですね!」
「今までのも好きだったけど、これは特に気に入ったんだ。だからここにつけてみておいたよ」
「その使い方、良いと思います!」
あの旅の影響か、あれ以来、カザフとナナの心の距離はグッと近づいた。以前はただの協力者という関係だったが、今では友人のようになっている。いや、それどころか、友人以上の感情を抱きかけているくらいだ。
「ナナちゃん、腕の傷はどう?」
「大丈夫ですよ! 順調に治っています」
ナナは白いワンピースの袖を捲って、腕のこの前負傷した部分をカザフに見せる。
「どうですか?」
「うん、治ってきているね。痛みは?」
「かさぶたがひっついているような違和感はありますけど、痛みはほぼないです」
ナナの答えを聞き、カザフは安堵の溜め息を漏らす。
そんな彼に、今度はナナが問いかける。
「ところで、カザフさんこそ大丈夫なんですか? 普通に噛まれてましたし、ナナより酷い怪我をしてそうでしたけど……」
問いを放つナナの表情は、どことなく不安げ。彼女のそんな顔を見るのが嫌で、カザフはすぐに「あれぐらいたいしたことないよ!」と返した。カザフは、自分のためにナナが暗い顔をしているところなんて、死んでも見たくないのだ。
「そうですか……それなら良かったです」
「ナナちゃんは心配しなくていいよ」
カザフが笑顔で言うと、ナナは軽くお辞儀する。
「は、はい。お気遣いありがとうございます」
非常に大きな恩ができたわけでもないのに、お辞儀。
その妙な礼儀正しさに、カザフは心を奪われそうになった。
無論、本人は自分がナナに特別な感情を抱きかけていることなどまったく気がついていないのだが。
「そうでした! カザフさん、もし今度機会があったら、デザートパンパンの宝玉を一つか二つ取ってきてくれませんか?」
いきなり話題を切り替え、素材集めを頼むナナ。
「デザートパンパン?」
「その……ナナはそれがどこに生息しているのか、知らないんです。実は、お客さんからそれを使ったアクセサリーを頼まれていて。砂漠にいるパンダだって聞いたんですけど……詳しいことまではよく分かっていないんです」
砂漠、という言葉には、心当たりがある。パルテム大陸内にある砂漠といえば限られているからだ。ただ、デザートパンパンという言葉は聞いたことがない。
「分かった。デザートパンパンについては、自分で調べてみるよ」
「すみません……」
「それで、頼み主はどんな人なんだい?」
カザフは純粋な興味で尋ねた。
するとナナは明るい顔つきで返す。
「前に来て下さった、あの、美人の女性です!」
そこまで言って、彼女はカザフをじっとり見つめる。
「カザフさんが気に入っていたお方ですよー」
「あぁ、そっか。あの人なんだ」
「カザフさんの好みの女性でしょうー? 前、あの方のこと、凝視してましたもんねー」
ナナは敢えてそんなことを言う。完全にわざとだ。
世には、こんなことをされたら怒ってしまう男性もいるかもしれない。心の余裕があまりない人なら、苛立った可能性もある。
だが、カザフは苛立ったりはしなかった。
変に呑気なところがあるから……かもしれない。
「べつに、好みではないかな」
カザフの口から出た言葉が意外だったのか、ナナはきょとんとした顔をする。
「……そうなんですか?」
「うん。綺麗な人のことは尊敬するけど、美しさがすべてってわけじゃないよ」
「またまたー」
まで怪しんでいるナナに、カザフは強烈な一撃をぶちかます。
「どちらかというと、僕はナナちゃんみたいな人の方が好きかな」
カザフは穏やかな表情で述べた。
彼からしてみれば、純粋な気持ちを伝えただけのことであって、驚くべきことなどではないのかもしれない。本心を口から出しただけなのだろう。
でも、ナナからすれば、それは告白にも近しいような発言で。
だから驚かずにはいられなかったのだ。
「なっ……何を言ってるんですか!?」
「え? おかしなことを言ったかな」
「だ、だって! 急に、そんなこと言われたら……!」
二人が同じような精神状態であったなら、話はもっと簡単だったのだろう。
だが、現実はいつも、そう上手くはいかないもので。
いきなり「好きかな」と言われ驚いているナナと、深く考えず「好きかな」と言ったカザフの間には、大きなずれがある。
もしかしたら、二人の心は同じなのかもしれない。
いや、きっと同じなのだろう。
でも伝え方や捉え方は人それぞれ。だから、ちょっとしたずれが起こり、妙なことになってしまう場合もあるのだ。
「そんなこと言われたら……ナナ、恥ずかしくなってしまいます……」
勇気を振り絞って心を伝えるナナ。
その顔はリンゴのよう。
顔面から火が噴き出しそうな状態になっているナナとは対照的に、カザフはのんびり落ち着いている。
「恥ずかしく? どういうこと?」
そんなことを聞くべきではないのに、カザフは聞いてしまう。
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