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十四話「カザフさん、素材手にした」

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 新たに出現した人型魔物たちは、一斉にカザフに襲いかかってくる。しかしカザフは狼狽えたりはしない。冒険者としての活動の中で鍛え上げてきた度胸があるから、敵が出現しても冷静さを保っていられるのだ。

「せいやっ!」

 彼の相棒とも言える太い剣を手に、カザフは人型魔物を切る。確実に仕留めてゆく。

「はぁっ! どぉうりゃあっ!」

 人型魔物は、数が多く、しかも恐怖心を掻き立てるようなビジュアルだ。それゆえ、相手がカザフでなかったならば、それなりに戦えていたかもしれない。

 だが、今回ばかりは相手が悪い。
 いくら数が多くても、カザフに簡単に勝つことはできない。

 ——戦いの結果、カザフはものの数分で人型魔物たちを片付けた。

「ば、馬鹿な……。負傷していて、なお、これほどの戦闘力が……」

 元・男性の巨大な化け物は、信じられない、というように、震える声を漏らす。かなり驚いているようだった。

「次は君だよ」

 カザフは男性に怒っている。だからもう、丁寧語は使わないことにした。

「街の人を襲わせたのが君なら、僕は君を絶対に許さないよ」
「できるものなら……やってみるがいい!」

 巨大な化け物は両腕を横に開く。すると、両肩から大きな棘のようなものが生えてきた。そして、その大きな棘をロケットのように真上へ打ち上げる。

「勝てるのならばな!!」

 そう叫んだ瞬間、一旦真上へ打ち上がっていた棘が、カザフに向かって飛んでゆく。
 だが、カザフの瞳は、棘をしっかり捉えていた。

「とりゃあっ!」

 カザフは柄をぐっと握り、剣を振る。横向けに、豪快に。そうして、ミサイルのように向かってくる大きな棘をすべて弾いた。

 飛んできている棘はいくつもあった。
 だが、カザフにかかれば、弾き返すくらい一撃だ。

「何っ……!?」
「甘いよ」

 棘ミサイルをすべて弾き返したカザフは、剣を手に駆ける。巨大な化け物に急接近。巨大な化け物は、カザフが突っ込んでくるとは考えていなかったらしく、今さら慌てる。

「冒険者を殺し、街の人を殺し、そんなのは許されることじゃない」

 カザフは突っ込む勢いのまま、巨大な化け物の腹に剣を突き刺した。

 ただの剣なら、巨大な化け物の腹を刺すことなどできなかっただろう。刺そうとしたところで、剣の方が壊れていたに違いない。
 でも、カザフの太い剣だから突き刺せた。

「ぐっ……は……!?」

 ただ一撃。
 だがそれは、とても大きな一撃で。

「そん、な……我が……あり得、ん……!?」

 巨大な化け物は、ダメージを受けたことに動揺し、すぐには動けない。そこへ、カザフはさらなる一撃を叩き込む。

「ぐはぁっ……!」

 太い剣による斬撃をまともに食らった巨大な化け物は、もう動けない。力なく、床に崩れ落ちる。
 カザフの完全勝利だ。

「ふぅ。終わった終わった」

 勝利を確信したカザフは、安堵の溜め息を漏らしつつ手の甲で額の汗を拭う。
 背中に受けた傷はまだヒリヒリするけれど、命に関わるような深さの傷ではないとカザフは判断した。

「取り敢えず帰ろう。報告に行かないと」

 魔物を倒しきったカザフは、かつて美術館であったというその建物を出て、依頼完了の報告をしに行くことにした。

「あ、でも、依頼主はいなくなったから……どうしよう」

 依頼主が黒幕だった。そして、その黒幕をカザフは倒した。つまり、依頼主はいなくなってしまったということだ。誰に依頼完了を伝えに行けば良いのか分からない。


 ◆


「なにィ! そうだったのかァ!?」
「はい。依頼主の男性が黒幕だったみたいで。魔物を街へ送っていたのも彼だと思います」

 依頼主がいなくなってしまったため、依頼を受けた酒場の店主に報告した。

「あの依頼を受けた冒険者が還らぬ人になってばかりだったのは、そういうことだったのかァ!」

 トメアシティの酒場の店主は、がっしりした体を持つ大柄な男性だ。しかし、そんな彼でも、真実を知った時にはかなり驚いていた。

「倒してきたので、もう大丈夫だと思います」
「そうかそうか! そりゃあ助かったァ!」
「力になれて良かったです」

 カザフはにっこり。

「報酬を渡さにゃいけないなァ! ……あ。だが、依頼主がいない」

 それを聞いて、カザフは少しがっかりする。
 もちろん報酬のためだけに依頼を受けたわけではないが、報酬ゼロとなると若干悲しいものがあるのだ。

「そう……ですよね……」
「おい待て! 報酬ナシとは言ってねェ!」
「え。本当ですか」
「街を救ってもらったんだ! そりゃ当然だろォ!」

 店主は親指を立てた片手を前に出す。

「ちょっと待ってろ。良いもん持ってきてやる」
「あ、ありがとうございます……!」

 報酬なしでがっかりするなんて俗物と思われただろうか——店主を待つ間、カザフはそんな風に思い少し不安になったりした。

 少しして、店主が戻ってくる。
 その両手には、それぞれ一つずつ、布製の巾着が握られていた。

「あんま多くはねぇが、こんなもんはどうだ?」
「それは?」
「片方は金で、もう片方は魔物から取った素材だ。どうする?」

 カザフが興味を持ったのは、魔物から取った素材の方。

「素材……どのようなものか少し見ても構いませんか?」
「おォ! もちろん!」

 店主は二つの袋をテーブルに置くと、素材が入っている方の袋の口を開く。そして、その中身を手で取り出す。

「えぇと、確か……ネコタイガーの瞳とかジャークメイドの爪とかだったかなァ」
「こちらでお願いします!」
「こっちで良いのかァ? 価値はあんまりだぞォ?」
「はい! 大丈夫です!」

 こうしてカザフは、ネコタイガーの瞳やジャークメイドの爪を手に入れたのだった。
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