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中編

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「そちらの都合で婚約破棄するならペナルティがあるけれど、それはいいの?」
「いいよ! 真実の愛の前ではペナルティなんて無力だからさ!」

 どうやらヘインは、レイシアに、もうすっかりやられてしまっているようだ。

 今の彼には何を言っても無駄だろう。

 私が何を言っても聞かないだろう。むしろ、下手なことを言えば喧嘩になりそうだ。嫉妬深いとか何とか誤解されるのも嫌だから、今は何も言わない方が良い気がする。

「分かったわ。じゃあ、そちらからということで、婚約破棄としましょ」
「理解してくれてありがとう! 助かるよ!」
「えぇ……さようなら、ヘイン」

 ヘインの親としては、それなりに力を持っている私の家と関係を持ち続けたいはずだ。ヘインはともかく、彼の両親は、私の実家の権力に価値を感じている部分もあったようだったから。せっかく上手くいっていたのにヘインの勝手な行動で婚約破棄になった、と知ったら、彼の親はどう思いどう動くだろうか。

 息子に腹を立てる?
 慌ててこちらの機嫌を取ろうとする?

 ……だが、いずれにせよ、婚約破棄と決まった以上婚約は破棄される。

 もっとも、私には関係のないことだ。

 私が彼と結婚することによる利益というのは元々それほどなかった。利益があるとしたら、彼と夫婦になれる、ということくらいだろう。それゆえ、婚約破棄となっても、損はそれほどない。

 損するのは向こう。
 私は彼と離れることになるだけ。

 婚約破棄の手続きはヘインが主体となって行った。というのも、ヘインは自分の親にこのことについて話していないそうなのだ。

 怒られそうだから、などという理由だそうだ。

 怒られそうと恐れるならこんなことしなければいいのに……、と思ったのは、私の中だけの秘密としておこう。

 ちなみに、私の親はこのことを知っている。
 私が話したからである。
 何も私までヘインの自己中心的な不安に付き合うことはない。本来親に話すのは普通のことなのだから。自分の現状を親に伝えるという行為は罪でもなんでもないのだから。
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