4 / 11
4話「初めての感覚です」
しおりを挟む
視察の際に助けてくれた男性の名はヴォルフ・エベベマといった。
あの時勇気を出して名前を聞けたことで次に繋がった。
奇跡的なことだがあの後彼と連絡を取ることができたのである。
そして今日、初めて彼を城へ招く。
朝から特別な日だと感じていた。何だかとても不思議な感じだ、心の様子がいつもとは違う。緊張するような、少し胃が痛いような、でもそれでいて浮かれているような感覚もある。様々な色が胸の内で混じり合っている。その色は捉えどころのないものであり、また、初めて経験するものでもあった。
「よく似合っていますよ、セレス様」
「ありがとう」
侍女に褒められたのはラベンダーカラーのドレス。
見た感じ派手なものではないがそこそこ高価な衣服である。
これは何年か前に父が物凄く気に入って無理矢理買ったもので、私の好みとはそれほど一致していないこともあってこれまではあまり着る機会はなかった。いや、そもそも、これを着ようという発想に至らなかったのである。
しかし今日このドレスのことを思い出して、なぜだから分からないけれど、運命に導かれるかのようにこの衣装をまとうことを選んだ。
「もうすぐ到着されます!」
髪は結ってもらった、化粧も軽く施した、そして服装も整えた――きっと大丈夫、綺麗になっているはず。
「ねぇ、私、変なところない?」
「とてもお美しいですよ」
「そう。なら良かった、安心したわ。ありがとう」
いよいよヴォルフと対面。
その瞬間が近づくにつれて心臓の鳴りが大きくなってくる。
――こういう時こそ落ち着こう、深呼吸。
そして彼と向かい合う。
「来てくださってありがとうございます、ヴォルフさん」
挨拶は真っ直ぐに。
「お招きありがとうございました」
彼もまたそこそこ高級そうな衣服をまとっていた。
デザインとしてはシンプルなものなのだがおしゃれさを感じさせる服であり、生地にも高級感がある。
「ではこちらへどうぞ」
「はい」
彼は一礼すると私について歩き出す。
案内するだけでも緊張する……。
そういえば、私の知り合いがここへ来るのはいつ以来だろう? 近しい友人は呼んだことはあったけれど。それを除くと、もうかなりずっとそういうことはしていない。しかも異性となればなおさら。最後に異性を城へ招いたのはいつだっただろうか? もう思い出せはしない。
「こちらの部屋で、お話しできればと」
言えば、彼は室内を軽く見回す。
「……素敵な部屋ですね」
よく分からない沈黙の後、ヴォルフは感想をぽそりとこぼした。
「そう言っていただけますと嬉しいです」
さらに彼は。
「特にあの絵画など」
感想を述べることを続けた。
「絵画? えっ、もしかして、あの『恩人の愛人が来賓で来て修羅場』という絵画のことですか?」
「……凄いタイトル」
「あれ、実は私のお気に入りだったんです。幼い頃気に入っていて。タイトルは少々変わっていますけど、とっても素敵な絵ですよね!」
あの時勇気を出して名前を聞けたことで次に繋がった。
奇跡的なことだがあの後彼と連絡を取ることができたのである。
そして今日、初めて彼を城へ招く。
朝から特別な日だと感じていた。何だかとても不思議な感じだ、心の様子がいつもとは違う。緊張するような、少し胃が痛いような、でもそれでいて浮かれているような感覚もある。様々な色が胸の内で混じり合っている。その色は捉えどころのないものであり、また、初めて経験するものでもあった。
「よく似合っていますよ、セレス様」
「ありがとう」
侍女に褒められたのはラベンダーカラーのドレス。
見た感じ派手なものではないがそこそこ高価な衣服である。
これは何年か前に父が物凄く気に入って無理矢理買ったもので、私の好みとはそれほど一致していないこともあってこれまではあまり着る機会はなかった。いや、そもそも、これを着ようという発想に至らなかったのである。
しかし今日このドレスのことを思い出して、なぜだから分からないけれど、運命に導かれるかのようにこの衣装をまとうことを選んだ。
「もうすぐ到着されます!」
髪は結ってもらった、化粧も軽く施した、そして服装も整えた――きっと大丈夫、綺麗になっているはず。
「ねぇ、私、変なところない?」
「とてもお美しいですよ」
「そう。なら良かった、安心したわ。ありがとう」
いよいよヴォルフと対面。
その瞬間が近づくにつれて心臓の鳴りが大きくなってくる。
――こういう時こそ落ち着こう、深呼吸。
そして彼と向かい合う。
「来てくださってありがとうございます、ヴォルフさん」
挨拶は真っ直ぐに。
「お招きありがとうございました」
彼もまたそこそこ高級そうな衣服をまとっていた。
デザインとしてはシンプルなものなのだがおしゃれさを感じさせる服であり、生地にも高級感がある。
「ではこちらへどうぞ」
「はい」
彼は一礼すると私について歩き出す。
案内するだけでも緊張する……。
そういえば、私の知り合いがここへ来るのはいつ以来だろう? 近しい友人は呼んだことはあったけれど。それを除くと、もうかなりずっとそういうことはしていない。しかも異性となればなおさら。最後に異性を城へ招いたのはいつだっただろうか? もう思い出せはしない。
「こちらの部屋で、お話しできればと」
言えば、彼は室内を軽く見回す。
「……素敵な部屋ですね」
よく分からない沈黙の後、ヴォルフは感想をぽそりとこぼした。
「そう言っていただけますと嬉しいです」
さらに彼は。
「特にあの絵画など」
感想を述べることを続けた。
「絵画? えっ、もしかして、あの『恩人の愛人が来賓で来て修羅場』という絵画のことですか?」
「……凄いタイトル」
「あれ、実は私のお気に入りだったんです。幼い頃気に入っていて。タイトルは少々変わっていますけど、とっても素敵な絵ですよね!」
5
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
婚約者である王子の近くには何やら不自然なほどに親しい元侍女の女性がいるのですが……? ~幸せになれるなんて思わないことです~
四季
恋愛
婚約者である王子の近くには何やら不自然なほどに親しい元侍女の女性がいるのですが……?
死に戻るなら一時間前に
みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」
階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。
「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」
ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。
ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。
「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」
一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。
婚約者の妹が悪口を言いふらしていたために周りからは悪女扱いされ、しまいに婚約破棄されてしまいました。が、その先に幸せはありました。
四季
恋愛
王子エーデルハイムと婚約していたアイリス・メイリニアだが、彼の妹ネイルの策により悪女扱いされてしまって……。
山猿の皇妃
夏菜しの
恋愛
ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。
祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。
嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。
子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。
一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……
それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。
帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。
行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。
※恋愛成分は低め、内容はややダークです
婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。
松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。
全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる