18 / 20
2作品
しおりを挟む
『貴方は私をそんなに悪く言って……楽しいのですか? もしそうなら、私には貴方の気持ちは分かりません。』
「きみとの婚約だが、本日をもって破棄とさせてもらう」
伸ばした赤毛を頭の後ろでみつあみにしているところが特徴的な婚約者アーベリアーはある日突然真剣な面持ちでそんなことを宣言してきた。
さらに、彼は続ける。
「きみはぼくにとって特別な人にはなれなかった。分かるだろう? 魅力的なぼくには、もっと美しく魅力溢れる女性こそが似合うんだ。きみはまともではある、が、刺激的なほどの魅力はないだろう。そういう意味で、きみはぼくのパートナーに相応しい女性とはなれなかったのだよ」
そんな私を悪く言うようなことを。
彼は完全に私を想いの範囲から外しているようだ。
だからこそ何でも遠慮なく言えるのだろう。
でも……正直あまりあれこれ言ってほしくはなかった。
悪いところばかり並べられても傷つくだけだ。
「分かりました。……では、私は去りますね。さようなら」
もうこれ以上向かい合ってはいたくなかった。だってこのまま向かい合っていても傷つくだけだと分かっていたから。もしも私に何かしら多少の非があるのだとしても、それでも、傷つけられることを受け入れたくはない。傷つくことなんて誰しも避けられるのなら避けたいものである。
「そそくさと逃げるとはな。愚かな女だ」
アーベリアーは最後そう吐き捨てていた。
でもこれで良かったの。
だって好き放題言われたくなんてないから。
彼に私の何が分かるというの?
私のことなんて何も知らないくせに。
負の方向のことばかりあれこれ言わないでほしい。
◆
あの後私は友人の紹介で大企業の社長の息子である青年と知り合い、暫しの交流の後に彼と結ばれた。
彼は仕事に熱心に取り組んでいる。どこまでも真っ直ぐで、いつも一生懸命。常に仕事について考えているほど。また、社長の息子ではあるが、それを矛として威張り散らしたりはしない。そんなところに惹かれた。
結婚後は二人での生活。
彼は今も忙しい。
でもそんなことは最初から分かっていたことなので私は少しも気にしていない。
彼を支えてゆきたい。
その思いだけで彼の隣にいる。
ちなみにアーベリアーはというと。
複数の女性と同時進行で関係を深めていっていたそうで、結婚間近にそのことがばれてしまい、結婚相手の親に怒られたそう。
また、怒られるだけでは済まず、婚約も破棄に。
あと少しで結婚、というところまでいっていたのに、すべて白紙に戻ってしまったそうである。
それによってアーベリアーは生きることに絶望、今は塞ぎ込んでしまっているとか。
でも自業自得だ。
すべては彼の行いのせいなのだから。
◆終わり◆
『 「君との婚約だが、破棄とすることにした」そう告げられる日は突然やって来ました。~私は私の道を突き進みます~ 』
「君との婚約だが、破棄とすることにした」
馬に乗って野原を駆けていた日の夜、婚約者ルートイングリッテから珍しく呼び出された。
彼が自ら呼び出してくるなんて珍しいことだ。日頃は大抵放置、それで普通。だから少々嫌な予感はしていた。何か特別なことではないか、と。で、その予想は見事に当たってしまったのだった。
「婚約、破棄……?」
「今日君が馬に乗って駆けているところをみたんだ」
「え? あ、はい。そうですね。乗っていました」
「その姿を見て、この女は俺に相応しい女ではないと判断したのだよ」
えええーっ!!
なんじゃそりゃーっ!?
「俺はもっとお淑やかな女性と結婚したい」
「あ、そうですか」
「それで婚約破棄を決めたのだ。理解できたかな?」
「……ええ分かりました」
「ならば受け入れてくれるのだね?」
「きっともう……何を言っても無駄なのでしょう。ですから受け入れます。受け入れない、なんて……無理なのでしょう」
ルートイングリッテは「ああそうだな」とだけ返してきた――その声の冷たいこと。
こうして私たちの関係は終わりを迎えてしまったのだった。
◆
婚約破棄後、することがなくなった私は、国防軍の騎馬部隊に加入した。
馬に乗るのは得意だ。
だからそれを活かせる職に就こうと考えたのである。
「きみ、ほんと、馬に乗るのは上手いなぁ」
「男顔負けだネ」
「それで戦闘技能を身につけたら絶対最強になるやつだろうね」
「心強いよ!」
「女性でも馬に上手く乗れる人っているんだなぁ……って、ダジャレじゃないからね!?」
そこで私は戦闘に関する技術を学んだ。
そちらに関しては未経験だったので色々苦戦することもあったけれど、でも、知らない世界を知ることができるのは楽しいことであったし頑張れば頑張るほどに結果が出るという世界であるところも嬉しかった。
ここではお淑やかさなんていう曖昧なものは求められない。
馬に上手く乗れればいい、努力して戦いにおいての強さを得られればいい、そういうことだからやるべきことは限られている。
一年で小隊長に、一年半で中隊長に、そして二年で副隊長にまで昇格することができたのだった。
私はここで生きていこう。
それが私の生きるべき道だ。
だから今は、もう、過去は振り返らない。
過去の絶望はすべて今の私を作るための礎となったのだ。
誰が何と言おうとも過去は過去――そう、後ろに置いていく。
ああ、ちなみにルートイングリッテだが、彼はあの後別の理想的な女性と結婚でいそうになっていたらしいのだが結婚直前に自分の父親に借金があったことが発覚してしまいそれによって婚約破棄されることとなったそうだ。
それによって彼の心は破壊され。
今や彼は抜け殻。
生きることに絶望し、自室にこもって、まともな会話すらできないような状態になってしまっているそうだ。
かつてのルートイングリッテはもうこの世界には存在しない。
肉体は一応生きてはいても、精神は消滅したも同然である。
◆終わり◆
「きみとの婚約だが、本日をもって破棄とさせてもらう」
伸ばした赤毛を頭の後ろでみつあみにしているところが特徴的な婚約者アーベリアーはある日突然真剣な面持ちでそんなことを宣言してきた。
さらに、彼は続ける。
「きみはぼくにとって特別な人にはなれなかった。分かるだろう? 魅力的なぼくには、もっと美しく魅力溢れる女性こそが似合うんだ。きみはまともではある、が、刺激的なほどの魅力はないだろう。そういう意味で、きみはぼくのパートナーに相応しい女性とはなれなかったのだよ」
そんな私を悪く言うようなことを。
彼は完全に私を想いの範囲から外しているようだ。
だからこそ何でも遠慮なく言えるのだろう。
でも……正直あまりあれこれ言ってほしくはなかった。
悪いところばかり並べられても傷つくだけだ。
「分かりました。……では、私は去りますね。さようなら」
もうこれ以上向かい合ってはいたくなかった。だってこのまま向かい合っていても傷つくだけだと分かっていたから。もしも私に何かしら多少の非があるのだとしても、それでも、傷つけられることを受け入れたくはない。傷つくことなんて誰しも避けられるのなら避けたいものである。
「そそくさと逃げるとはな。愚かな女だ」
アーベリアーは最後そう吐き捨てていた。
でもこれで良かったの。
だって好き放題言われたくなんてないから。
彼に私の何が分かるというの?
私のことなんて何も知らないくせに。
負の方向のことばかりあれこれ言わないでほしい。
◆
あの後私は友人の紹介で大企業の社長の息子である青年と知り合い、暫しの交流の後に彼と結ばれた。
彼は仕事に熱心に取り組んでいる。どこまでも真っ直ぐで、いつも一生懸命。常に仕事について考えているほど。また、社長の息子ではあるが、それを矛として威張り散らしたりはしない。そんなところに惹かれた。
結婚後は二人での生活。
彼は今も忙しい。
でもそんなことは最初から分かっていたことなので私は少しも気にしていない。
彼を支えてゆきたい。
その思いだけで彼の隣にいる。
ちなみにアーベリアーはというと。
複数の女性と同時進行で関係を深めていっていたそうで、結婚間近にそのことがばれてしまい、結婚相手の親に怒られたそう。
また、怒られるだけでは済まず、婚約も破棄に。
あと少しで結婚、というところまでいっていたのに、すべて白紙に戻ってしまったそうである。
それによってアーベリアーは生きることに絶望、今は塞ぎ込んでしまっているとか。
でも自業自得だ。
すべては彼の行いのせいなのだから。
◆終わり◆
『 「君との婚約だが、破棄とすることにした」そう告げられる日は突然やって来ました。~私は私の道を突き進みます~ 』
「君との婚約だが、破棄とすることにした」
馬に乗って野原を駆けていた日の夜、婚約者ルートイングリッテから珍しく呼び出された。
彼が自ら呼び出してくるなんて珍しいことだ。日頃は大抵放置、それで普通。だから少々嫌な予感はしていた。何か特別なことではないか、と。で、その予想は見事に当たってしまったのだった。
「婚約、破棄……?」
「今日君が馬に乗って駆けているところをみたんだ」
「え? あ、はい。そうですね。乗っていました」
「その姿を見て、この女は俺に相応しい女ではないと判断したのだよ」
えええーっ!!
なんじゃそりゃーっ!?
「俺はもっとお淑やかな女性と結婚したい」
「あ、そうですか」
「それで婚約破棄を決めたのだ。理解できたかな?」
「……ええ分かりました」
「ならば受け入れてくれるのだね?」
「きっともう……何を言っても無駄なのでしょう。ですから受け入れます。受け入れない、なんて……無理なのでしょう」
ルートイングリッテは「ああそうだな」とだけ返してきた――その声の冷たいこと。
こうして私たちの関係は終わりを迎えてしまったのだった。
◆
婚約破棄後、することがなくなった私は、国防軍の騎馬部隊に加入した。
馬に乗るのは得意だ。
だからそれを活かせる職に就こうと考えたのである。
「きみ、ほんと、馬に乗るのは上手いなぁ」
「男顔負けだネ」
「それで戦闘技能を身につけたら絶対最強になるやつだろうね」
「心強いよ!」
「女性でも馬に上手く乗れる人っているんだなぁ……って、ダジャレじゃないからね!?」
そこで私は戦闘に関する技術を学んだ。
そちらに関しては未経験だったので色々苦戦することもあったけれど、でも、知らない世界を知ることができるのは楽しいことであったし頑張れば頑張るほどに結果が出るという世界であるところも嬉しかった。
ここではお淑やかさなんていう曖昧なものは求められない。
馬に上手く乗れればいい、努力して戦いにおいての強さを得られればいい、そういうことだからやるべきことは限られている。
一年で小隊長に、一年半で中隊長に、そして二年で副隊長にまで昇格することができたのだった。
私はここで生きていこう。
それが私の生きるべき道だ。
だから今は、もう、過去は振り返らない。
過去の絶望はすべて今の私を作るための礎となったのだ。
誰が何と言おうとも過去は過去――そう、後ろに置いていく。
ああ、ちなみにルートイングリッテだが、彼はあの後別の理想的な女性と結婚でいそうになっていたらしいのだが結婚直前に自分の父親に借金があったことが発覚してしまいそれによって婚約破棄されることとなったそうだ。
それによって彼の心は破壊され。
今や彼は抜け殻。
生きることに絶望し、自室にこもって、まともな会話すらできないような状態になってしまっているそうだ。
かつてのルートイングリッテはもうこの世界には存在しない。
肉体は一応生きてはいても、精神は消滅したも同然である。
◆終わり◆
13
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
※完結まで毎日更新です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる