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『婚約者である彼とお茶をしていたのですが、急に婚約破棄を告げられてしまいました。……えっと、その、理解が追い付かないのですが。』
「お前ってさ、あんまいいとこないよな」
婚約者エーベリッヂがそんなことを言ってきた。
うちの庭で二人お茶をしていた時のことだ。
「え?」
「だからさ、婚約破棄するわ」
エーベリッヂは平然とそんなことを告げてくる。
申し訳ない、とか、罪悪感、とか、そういったものは欠片ほどもなさそうだ。
「婚約破棄? 何のネタ?」
「いや本気」
「え、ちょ……本気ッ!?」
驚きすぎて持っていたティーカップを落としそうになった。
危ない危ない……。
ティーカップを落としたら絶対粉々になってしまう。お気に入りのものだからそんなことになったら大変だ。危うく悲劇が訪れるところだった。大好きなティーカップが割れたりなんてした日には号泣へまっしぐらである。
ただ、今は、別の意味悲劇が訪れているが……。
「ああそうだよ、本当の本当に、本気」
「えええ……」
いや、本当に、もう……待ってくれ、少し。
意味が分からない。
どこまでも意味不明、理解不能。
「じゃ、そういうことだから。付き合いは今日までな。ばいば~い」
理解が追い付かず混乱しているうちにエーベリッヂは去っていった。
◆
翌朝エーベリッヂの死を知る。
彼は昨夜とある女と二人でいたそうだが、そのまま二人まとめて落命してしまったのだそうだ。
詳しいことは分かっていない。
ただ、亡骸の状態を見るに、他殺のようだという話だ。
何があったんだ……。
だがまぁべつにもうどうでもいいことだ。
きっと何かやらかしでもしていたのだろう。
……その女と結婚したくて私との婚約を破棄したの、かな?
もしかしたらそうだったのかもしれない。
そういうことなのならあんな急に婚約破棄を告げてきたのも多少は理解できないことはない。
もっとも、今さら真実を知ろうとしたところで無意味なのだが。
◆
暑い夏、寒い冬、それぞれを越えて。
今日私は愛する人と結ばれる。
「よく似合ってるよ、美しいね」
「ありがとう」
「いつも美しいけどね。純白のドレス、それもまた凄く似合うね」
「……ちょっと、照れるわ」
これから我が夫となる彼との出会い、それは、エーベリッヂに婚約破棄された数日後であった。その日私は一人寂しく町の中央公園を散歩していた。で、少しベンチに腰掛け休んでいたところ、彼から声をかけてきてくれたのだ。
すべての始まりはそこだった。
「これからもずっとずっと……仲良しでいようね」
「ええ、もちろんよ」
今回は婚約破棄にならずここまで来ることができた。
だからこそ彼との明るい未来を信じたい。
◆終わり◆
『ある朝、目を覚ますと、目の前に婚約者と見知らぬ女が立っていました。~なんじゃこりゃあ!! な出来事でした~』
ある朝、目を覚ますと、目の前に婚約者アベルと見知らぬ女が立っていた。
「今日は君に伝えたいことがあって来た」
アベルは直立したまま平然とそんなことを述べてくる。
いやいや、そもそもそれ以前の話なのだが!
知らない間に部屋に人が入っていることが怖いのだが!
……そんなことを思っていたら。
「僕は君との婚約を破棄することにした」
さらにそんなことを言われてしまう。
「え、いや、それ以前に勝手に室内に入り込んでいることが怖いのですけど……」
「はぁ!? うるさいな!! ……ったく、感じの悪い女だな」
「いやいやおかしいですよ! 私はただ寝ていただけです。それに非はないと思うのですが。それでも私がおかしいと言うのですか?」
一応言い返しておくけれど。
「うるさいうるさいうるさい!」
アベルはそれを掻き消すように同じ言葉ばかりを繰り返し。
「とにかく! 君とはもう付き合わない」
「そうですか……」
これは一体何なのだろう?
なぜこんなややこしい目に遭わされているのだろう?
「アベルさまぁ、本当にいいんですかぁ~?」
「ああもちろんだよ」
「ええ~? でもぉ、婚約者さんが可哀想なんじゃあ……」
「僕は真実の愛のために生きるんだ。だから大丈夫。君は何も心配しなくていい」
しかも婚約者であった彼が他の女性といちゃついているところを見せられるし……。
もう意味不明過ぎる。
何が何だか、である。
脳が受け入れ理解できる範囲の出来事では到底ない。
こうして私はあっという間に婚約破棄されてしまったのだった。
ただ、あの後、こちらからも一応反撃はした。
仕返し、と言うと悪質なようだが。先に無礼極まりないことをしてきたのは向こうなのだから容赦は不要、そう考えて、こちらは積極的な行動に出た。
つまり、勝手に家に入ったアベルらを犯罪者として治安維持組織に突き出したのである。
それによってアベルとあの女性は不法侵入の罪で拘束されたのだった。
彼らは私を押し退けた後で結婚しようと考えていたようだ。
しかし犯罪者となってしまったために結婚などできる状況ではなくなってしまった。
で、やがて二人は離ればなれにされてしまったようだ。
私さえいなければ二人で幸せになれる。アベルらはそう思っていたのかもしれない。でもそれは間違いで。他者を傷つけてまで結ばれようとして、そんな酷いことをして、幸福を手に入れることなんてできるはずもなかったのだ。
◆
あれから数年、私は今とても穏やかに暮らせている。
アベルに切り捨てられてから少しして出会った青年と愛し合うようになり、結婚。
そして夫婦での生活は順調に進み、現在に至っている。
今はとても幸せ。
だからこの道を選んだことは正解だったと思っている。
◆終わり◆
「お前ってさ、あんまいいとこないよな」
婚約者エーベリッヂがそんなことを言ってきた。
うちの庭で二人お茶をしていた時のことだ。
「え?」
「だからさ、婚約破棄するわ」
エーベリッヂは平然とそんなことを告げてくる。
申し訳ない、とか、罪悪感、とか、そういったものは欠片ほどもなさそうだ。
「婚約破棄? 何のネタ?」
「いや本気」
「え、ちょ……本気ッ!?」
驚きすぎて持っていたティーカップを落としそうになった。
危ない危ない……。
ティーカップを落としたら絶対粉々になってしまう。お気に入りのものだからそんなことになったら大変だ。危うく悲劇が訪れるところだった。大好きなティーカップが割れたりなんてした日には号泣へまっしぐらである。
ただ、今は、別の意味悲劇が訪れているが……。
「ああそうだよ、本当の本当に、本気」
「えええ……」
いや、本当に、もう……待ってくれ、少し。
意味が分からない。
どこまでも意味不明、理解不能。
「じゃ、そういうことだから。付き合いは今日までな。ばいば~い」
理解が追い付かず混乱しているうちにエーベリッヂは去っていった。
◆
翌朝エーベリッヂの死を知る。
彼は昨夜とある女と二人でいたそうだが、そのまま二人まとめて落命してしまったのだそうだ。
詳しいことは分かっていない。
ただ、亡骸の状態を見るに、他殺のようだという話だ。
何があったんだ……。
だがまぁべつにもうどうでもいいことだ。
きっと何かやらかしでもしていたのだろう。
……その女と結婚したくて私との婚約を破棄したの、かな?
もしかしたらそうだったのかもしれない。
そういうことなのならあんな急に婚約破棄を告げてきたのも多少は理解できないことはない。
もっとも、今さら真実を知ろうとしたところで無意味なのだが。
◆
暑い夏、寒い冬、それぞれを越えて。
今日私は愛する人と結ばれる。
「よく似合ってるよ、美しいね」
「ありがとう」
「いつも美しいけどね。純白のドレス、それもまた凄く似合うね」
「……ちょっと、照れるわ」
これから我が夫となる彼との出会い、それは、エーベリッヂに婚約破棄された数日後であった。その日私は一人寂しく町の中央公園を散歩していた。で、少しベンチに腰掛け休んでいたところ、彼から声をかけてきてくれたのだ。
すべての始まりはそこだった。
「これからもずっとずっと……仲良しでいようね」
「ええ、もちろんよ」
今回は婚約破棄にならずここまで来ることができた。
だからこそ彼との明るい未来を信じたい。
◆終わり◆
『ある朝、目を覚ますと、目の前に婚約者と見知らぬ女が立っていました。~なんじゃこりゃあ!! な出来事でした~』
ある朝、目を覚ますと、目の前に婚約者アベルと見知らぬ女が立っていた。
「今日は君に伝えたいことがあって来た」
アベルは直立したまま平然とそんなことを述べてくる。
いやいや、そもそもそれ以前の話なのだが!
知らない間に部屋に人が入っていることが怖いのだが!
……そんなことを思っていたら。
「僕は君との婚約を破棄することにした」
さらにそんなことを言われてしまう。
「え、いや、それ以前に勝手に室内に入り込んでいることが怖いのですけど……」
「はぁ!? うるさいな!! ……ったく、感じの悪い女だな」
「いやいやおかしいですよ! 私はただ寝ていただけです。それに非はないと思うのですが。それでも私がおかしいと言うのですか?」
一応言い返しておくけれど。
「うるさいうるさいうるさい!」
アベルはそれを掻き消すように同じ言葉ばかりを繰り返し。
「とにかく! 君とはもう付き合わない」
「そうですか……」
これは一体何なのだろう?
なぜこんなややこしい目に遭わされているのだろう?
「アベルさまぁ、本当にいいんですかぁ~?」
「ああもちろんだよ」
「ええ~? でもぉ、婚約者さんが可哀想なんじゃあ……」
「僕は真実の愛のために生きるんだ。だから大丈夫。君は何も心配しなくていい」
しかも婚約者であった彼が他の女性といちゃついているところを見せられるし……。
もう意味不明過ぎる。
何が何だか、である。
脳が受け入れ理解できる範囲の出来事では到底ない。
こうして私はあっという間に婚約破棄されてしまったのだった。
ただ、あの後、こちらからも一応反撃はした。
仕返し、と言うと悪質なようだが。先に無礼極まりないことをしてきたのは向こうなのだから容赦は不要、そう考えて、こちらは積極的な行動に出た。
つまり、勝手に家に入ったアベルらを犯罪者として治安維持組織に突き出したのである。
それによってアベルとあの女性は不法侵入の罪で拘束されたのだった。
彼らは私を押し退けた後で結婚しようと考えていたようだ。
しかし犯罪者となってしまったために結婚などできる状況ではなくなってしまった。
で、やがて二人は離ればなれにされてしまったようだ。
私さえいなければ二人で幸せになれる。アベルらはそう思っていたのかもしれない。でもそれは間違いで。他者を傷つけてまで結ばれようとして、そんな酷いことをして、幸福を手に入れることなんてできるはずもなかったのだ。
◆
あれから数年、私は今とても穏やかに暮らせている。
アベルに切り捨てられてから少しして出会った青年と愛し合うようになり、結婚。
そして夫婦での生活は順調に進み、現在に至っている。
今はとても幸せ。
だからこの道を選んだことは正解だったと思っている。
◆終わり◆
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