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93話 「役に立てる嬉しさ」
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カルチェレイナは口元に怪しい笑みを浮かべたまま片手をそっと掲げた。
どうやらそれが合図だったらしい。
ルッツはおどろおどろしい大剣を持ってこちらへ迫ってくる。
同時に、ヴィッタはその場に立ったまま両手を広げる。すると三体の大型悪魔が地面をメリメリ突き破って出てきた。ジェシカを救出するため魔界へ行った時に見た大きい悪魔と同じ類いのものだ。
接近してくるルッツの前に立ち塞がるエリアス。
できればエリアスをルッツと戦わせたくなかった。堕ちて天使じゃなくなっているとしても、同じ血が流れている二人だ。殺しあうなんて辛すぎる。
槍と剣が交わり、鋭い金属音が宙に響く。
エリアスとルッツは互角の戦いを繰り広げる。今日は、エリアスの槍の扱いに迷いがない。一切躊躇っていないように見える。
「邪魔すんな! デカブツは引っ込んでやがれっ!」
「口が悪いですよ、ツヴァイ」
ツヴァイとレクシフはヴィッタ率いる大型悪魔たちと戦っている。大型悪魔たちもなかなか善戦しているが、ツヴァイとレクシフのコンビネーションの前には無力。
ツヴァイは短剣と肉体で近距離、レクシフは自由自在に動く鞭で遠距離。お互いに弱点をフォローし合いつつ戦っている。
しかしヴィッタは大型悪魔を次々作り出す。きりがない。
「ルッツ……お前は私が仕留める!」
エリアスは一歩踏み込み、積極的に攻め込んでいく。いつもと違って今日は彼が攻める側。戦いを有利に運んでいる。
このままいけば案外勝てるのでは、と思った。
——しかし。
ヴィッタの赤い稲妻がエリアスに当たる。予想外の方向からの攻撃に反応が遅れ、まともに電撃を浴びてしまい、エリアスは顔をしかめる。
「……ぐっ!」
その隙をルッツは見逃さない。大剣を半ば殴るように豪快に振る。エリアスはすぐに避けようとするが、電撃を浴びた直後の痺れた体では間に合わない。
大剣で斬られたらさすがのエリアスも無事では済むまい。斬られ所によっては致命傷となることも考えられる。
——助けなくちゃ。
強くそう思った瞬間、急に光景がスローモーションのようになった。
そうだ。私の力を使えば。
「止まれっ!」
私は二度心の中で念じてから言葉を発した。
ルッツの動きが止まる。
……成功した。即興なのでダメもとだったが、ルッツの動きは確かに止まっていた。完璧な成功だ。
エリアスはすぐに後ろへ飛び、ルッツから距離をとる。
「ありがとうございます、王女。おかげで助かりました」
エリアスの体はまだパチパチ音をたてている。しかしそのぐらいでは弱音を吐かない。彼の表情は余裕すら感じさせるものである。
……それにしても何だろう、この達成感は!
私の持つ力が初めて役立ったような気がして高揚してくる。
「終わりだっ!」
大剣を手に突っ込んでくるルッツ。
彼の剣を軽く受け流し、即座に反撃に出る。
「——っ!」
エリアスの槍がルッツの腕に掠る。今度はルッツが距離をとる番だ。
二人の距離はまた遠くなる。剣を構え直すルッツの片手首からポタポタと赤いものが垂れていた。
「エリアス、何をしたの?」
「腱を断ちました。あれで片手は使い物になりません」
「どうしてなの?」
「腱を断てばまともに動かせなくなります」
ふぅん。勉強になったわ。
片手が使えなくなるということはかなり不利になるはずだ。エリアスが勝てる可能性がようやく出てきた。少しだけだが心が軽くなる。
ルッツは剣を片手に持ち直しながら、鬼の形相でこちらを睨んでいる。……正しくは、エリアスを。
「キャハッ。だーっさっ! やっぱ元・天使に四魔将なんて務まらないんじゃなーい? キャハハハッ!」
大型悪魔を次から次へと作り出しているヴィッタが、ルッツに対して挑発するように大きな声を出す。相変わらず甲高い声で笑いながら。
ルッツはヴィッタを睨む。
「ヤーン、ヴィッタ怖いよぉ。カルチェレイナ様、ルッツが睨んでくるぅ!」
彼女は淡々と様子を眺めているカルチェレイナへ寄っていき勢いよく抱きつく。カルチェレイナは慣れているらしく、黙ってヴィッタの頭を撫でている。
こうして見るとヴィッタも普通の女の子だなぁ……って違う! 和んでいる場合ではない。
エリアスは長槍の先に白い聖気を集結させる。光の塊は徐々に膨らんでいく。
そして、その場で長槍を勢いよく振り下ろした。
見るからに威力が凄まじそうな白い衝撃波がルッツへ飛んでいき、見事に命中した。
「そんな技できたの?」
こんな大技を持っていたとは知らなかった。
「はい。消耗が激しいのであまり使いませんが」
エリアスは私を見て幸せそうに微笑む。自然体の、柔らかな笑みである。
「もう不覚は取りません。王女を必ずお護りします。常に貴女の傍に」
ルッツは今の一撃でかなりダメージを受けたようだ。服は所々破れ、肌が見えている。
「キャハッ! やられてやがんのー。雑魚だねぇ!」
ふざけて挑発するヴィッタにカルチェレイナは「止めなさい」と注意する。その姿はさながら子どもに注意する母親だ。
「ルッツ、一旦引くといいわ。もう一度出直してきなさい」
カルチェレイナは怒るでもなく落ち着いた態度でルッツに言う。ルッツは大人しく従い、私たちの目の前から消えた。
「さて……」
水色の長い髪を色っぽく掻き上げながらカルチェレイナは言った。
「そろそろあたしも参戦しようかしらね」
どうやらそれが合図だったらしい。
ルッツはおどろおどろしい大剣を持ってこちらへ迫ってくる。
同時に、ヴィッタはその場に立ったまま両手を広げる。すると三体の大型悪魔が地面をメリメリ突き破って出てきた。ジェシカを救出するため魔界へ行った時に見た大きい悪魔と同じ類いのものだ。
接近してくるルッツの前に立ち塞がるエリアス。
できればエリアスをルッツと戦わせたくなかった。堕ちて天使じゃなくなっているとしても、同じ血が流れている二人だ。殺しあうなんて辛すぎる。
槍と剣が交わり、鋭い金属音が宙に響く。
エリアスとルッツは互角の戦いを繰り広げる。今日は、エリアスの槍の扱いに迷いがない。一切躊躇っていないように見える。
「邪魔すんな! デカブツは引っ込んでやがれっ!」
「口が悪いですよ、ツヴァイ」
ツヴァイとレクシフはヴィッタ率いる大型悪魔たちと戦っている。大型悪魔たちもなかなか善戦しているが、ツヴァイとレクシフのコンビネーションの前には無力。
ツヴァイは短剣と肉体で近距離、レクシフは自由自在に動く鞭で遠距離。お互いに弱点をフォローし合いつつ戦っている。
しかしヴィッタは大型悪魔を次々作り出す。きりがない。
「ルッツ……お前は私が仕留める!」
エリアスは一歩踏み込み、積極的に攻め込んでいく。いつもと違って今日は彼が攻める側。戦いを有利に運んでいる。
このままいけば案外勝てるのでは、と思った。
——しかし。
ヴィッタの赤い稲妻がエリアスに当たる。予想外の方向からの攻撃に反応が遅れ、まともに電撃を浴びてしまい、エリアスは顔をしかめる。
「……ぐっ!」
その隙をルッツは見逃さない。大剣を半ば殴るように豪快に振る。エリアスはすぐに避けようとするが、電撃を浴びた直後の痺れた体では間に合わない。
大剣で斬られたらさすがのエリアスも無事では済むまい。斬られ所によっては致命傷となることも考えられる。
——助けなくちゃ。
強くそう思った瞬間、急に光景がスローモーションのようになった。
そうだ。私の力を使えば。
「止まれっ!」
私は二度心の中で念じてから言葉を発した。
ルッツの動きが止まる。
……成功した。即興なのでダメもとだったが、ルッツの動きは確かに止まっていた。完璧な成功だ。
エリアスはすぐに後ろへ飛び、ルッツから距離をとる。
「ありがとうございます、王女。おかげで助かりました」
エリアスの体はまだパチパチ音をたてている。しかしそのぐらいでは弱音を吐かない。彼の表情は余裕すら感じさせるものである。
……それにしても何だろう、この達成感は!
私の持つ力が初めて役立ったような気がして高揚してくる。
「終わりだっ!」
大剣を手に突っ込んでくるルッツ。
彼の剣を軽く受け流し、即座に反撃に出る。
「——っ!」
エリアスの槍がルッツの腕に掠る。今度はルッツが距離をとる番だ。
二人の距離はまた遠くなる。剣を構え直すルッツの片手首からポタポタと赤いものが垂れていた。
「エリアス、何をしたの?」
「腱を断ちました。あれで片手は使い物になりません」
「どうしてなの?」
「腱を断てばまともに動かせなくなります」
ふぅん。勉強になったわ。
片手が使えなくなるということはかなり不利になるはずだ。エリアスが勝てる可能性がようやく出てきた。少しだけだが心が軽くなる。
ルッツは剣を片手に持ち直しながら、鬼の形相でこちらを睨んでいる。……正しくは、エリアスを。
「キャハッ。だーっさっ! やっぱ元・天使に四魔将なんて務まらないんじゃなーい? キャハハハッ!」
大型悪魔を次から次へと作り出しているヴィッタが、ルッツに対して挑発するように大きな声を出す。相変わらず甲高い声で笑いながら。
ルッツはヴィッタを睨む。
「ヤーン、ヴィッタ怖いよぉ。カルチェレイナ様、ルッツが睨んでくるぅ!」
彼女は淡々と様子を眺めているカルチェレイナへ寄っていき勢いよく抱きつく。カルチェレイナは慣れているらしく、黙ってヴィッタの頭を撫でている。
こうして見るとヴィッタも普通の女の子だなぁ……って違う! 和んでいる場合ではない。
エリアスは長槍の先に白い聖気を集結させる。光の塊は徐々に膨らんでいく。
そして、その場で長槍を勢いよく振り下ろした。
見るからに威力が凄まじそうな白い衝撃波がルッツへ飛んでいき、見事に命中した。
「そんな技できたの?」
こんな大技を持っていたとは知らなかった。
「はい。消耗が激しいのであまり使いませんが」
エリアスは私を見て幸せそうに微笑む。自然体の、柔らかな笑みである。
「もう不覚は取りません。王女を必ずお護りします。常に貴女の傍に」
ルッツは今の一撃でかなりダメージを受けたようだ。服は所々破れ、肌が見えている。
「キャハッ! やられてやがんのー。雑魚だねぇ!」
ふざけて挑発するヴィッタにカルチェレイナは「止めなさい」と注意する。その姿はさながら子どもに注意する母親だ。
「ルッツ、一旦引くといいわ。もう一度出直してきなさい」
カルチェレイナは怒るでもなく落ち着いた態度でルッツに言う。ルッツは大人しく従い、私たちの目の前から消えた。
「さて……」
水色の長い髪を色っぽく掻き上げながらカルチェレイナは言った。
「そろそろあたしも参戦しようかしらね」
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