エンジェリカの王女

四季

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54話 「三重坂遊園地」

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 私は人間の友達ができたことが嬉しくて、おつかいから帰ると、ジェシカとノアにすぐそのことを話した。

「友達ができた!?」
「馴染むの早いねー」

 麗奈からもらった電話番号の紙切れを二人に見せる。

「麗奈っていうの。とても綺麗な女の人よ。そうだ、早速電話してみてもいい?」

 私はあれからずっとウキウキする気持ちが止まらない。今まで友達なんてほぼいなかったのに、地上界へ来るなりこんな素敵な出会いがあるなんて。
 それから電話のところまで歩いていくと、ウキウキしながらボタンを押す。こんな気持ち、初めて。

「……はい。神木です」

 しばらく呼び出し音が鳴っていたが、やがて麗奈が出てきた。少し暗い声だ。

「こんにちは、アンナですけど……」

「えっ。アンナ!? 早速電話かけてくれたのね。ありがとう」

 電話をかけてきたのが私だと分かった途端彼女の声は明るくなった。

「アンナ、何か話したいことがあるの?」
「またいつか会えますか?」
「えぇ。構わないわよ。あたしも会いたいわ。いつがいいかしら……」

 電話はエンジェリカにもあったけど、地上界の電話はエンジェリカのものより音が良い。雑音も気にならないし、相手の声がはっきりと聞こえる。

「今日が金曜日でしょ。えぇと……来週の月曜日はどうかしら。予定、空いてる?」
「ちょっと確認してみます」

 冷蔵庫の中を覗いていたジェシカに約束していいか確認する。ジェシカは案外サラッと「いいよ」と答えてくれた。私はすぐに電話に戻る。

「月曜日、大丈夫です!」
「ありがとう。それじゃあまたショッピングモールで待ち合わせにする?」

「はい。時間は……」
「十二時にして一緒にお昼でも食べましょうか」
「ありがとうございます。それではまた!」
「さようなら。またね」

 友達と約束してお出かけなんて初めての経験だ。月曜日が今から待ち遠しい。
 私は友達ができたことをエリアスへの手紙に書くことにした。心配しているかもしれないから、楽しく暮らしているということを伝えなくては。


 翌日の朝。

「王女様、おはよっ。今日は土曜日だしどこか遊びに行く?」

 朝早くからジェシカが元気いっぱいで言ってくる。私はまだ寝ていたのに、そんなことはお構いなしだ。

「遊びに行くって……、どこへ行くの?」

 私は半ば寝ぼけながら聞き返す。

「どこがいい? 遊園地とか?」

 遊園地はエンジェリカにもあった。なんでも乗り物や軽食の店がある楽しいところだとか。もちろん私は行ったことはないが。

「素敵。楽しそう」
「決まり! じゃあノアを起こしてくるよ。あいつ寝過ぎ!」

 ノアが寝ている部屋へ行く。しばらくするとジェシカの大きな声が聞こえてくる。

「ノア! いい加減起きて!」
「えー? 眠いー……」
「アンタいつまでダラダラ寝てるつもりっ!?」

 暫しやり取りをしてから、ジェシカがノアを引っ張るようにして現れた。ノアはうつらうつらしていて、まだ半分寝ている。しかも寝起きだからか酷い寝癖がついていた。

「ノア、準備して! 今日三人で遊園地行くから!」
「えー。眠いなー……」

 マイペースすぎるノアに苛立っているのかジェシカの拳が震えていた。

「ノアが無理なら二人で行っちゃうよ。アンタだけ家族に入れないよっ!」
「……準備してくるー。家族は三人だもんねー……」

 ノアは突然やる気になった。やっぱり家族というものに憧れと執着があるからかな。

 十分くらい経っただろうか。ノアがいつもの感じになって現れた。凄かった寝癖もとれている。恐るべき準備速度だ。

「どうー? 準備したよー」

 勝ち誇った顔をしている。

「……ふん。男だもん、早く準備できるのは当たり前じゃん」
「ジェシカは意外と着替えるの遅いよねー」
「うん。黙ろうか」

 ジェシカは微笑みながらノアの喉元に剣先を突きつけていた。どうやらかなり苛立っているらしい。ノアは両手を上げている。

「ごめんなさいー」


 それからも様々な困難があったが、一つずつ乗り越え、ついにたどり着いた。

 三重坂遊園地!!

 土曜日の午前。遊園地はファミリーやカップルで賑わっている。
 馬のメリーゴーランド、回るティーカップ、猛スピードで駆け抜けるジェットコースターまである。なんとも贅沢な遊園地。地上界では普通なのかもしれないが私の目にはそう映った。

「さて、どうするっ?」

 いつものことながらテンションの上がっているジェシカが明るく尋ねてくる。……毎回私に振るの、止めてほしい。

「ジェシカさんはどこへ行きたいの?」
「えっ、あたし? あたしはあそこに行きたいかなっ」

 ジェシカが指差した先には、おどろおどろしい小屋があった。いつ建てたのだろう、と疑問符が出るほど古ぼけている。

「うわ……、あんなところ?なんだか怖くない?」
「けど楽しいよっ。お化け屋敷、あたし好きなんだ」

 何と言えばいいのだろうか。背筋が凍りつくような感じがする。

「僕はティーカップにでも乗ってくるよー」

 ノアはそそくさと行ってしまった。私は今更断るわけにもいかず、渋々ジェシカとお化け屋敷へ入ることにした。


「はーっ、面白かった!」

 小屋の裏口から外へ出る。

 ……疲れ果てた。お化け屋敷の中は地獄のようになっていた。蒟蒻は降ってくる、死人は生き返る。井戸から出てきた女性が美女だったことだけが、まだしもの救いか。

 ジェシカは気持ちよさそうに伸びをしている。彼女はあの地獄を楽しんだらしい。

「王女様はどうだった?」
「……疲れたわ」
「そっか。付き合ってもらってごめんねっ」
「いいえ、気にしないで」

 確かに疲れたが、謝られるほどのことではない。

 そんな時だった。

 カッ、カッ、カッ……。

「久しぶりだねぇ、王女」

 赤髪の少女がわざとらしく足音をたてながら姿を現す。

「……魔気」

 ジェシカは顔を強張らせ警戒した表情を浮かべる。

「キャハッ! 今日は女と二人かぁ。女じゃヴィッタの相手にならなーい。キャハハハッ!」

 甲高い奇声のような声で一人笑い続ける。

「この悪魔! 何者よ!」

 するとヴィッタは静かな声で答える。

「……ヴィッタは、四魔将の一人。紅の雷遣いヴィッタ」

 そして空へ舞い上がる。

「女なんかヴィッタの敵じゃなーい。でもやる気なら、そっちからどうぞ! キャハッ! キャハハハハッ!」
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