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28話 「夢から醒めて」
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そこで目が覚めた。
視界には自室のベッドで目覚めた時に目に入る天井とヴァネッサの顔。
「おや、起きられましたか」
寝惚け眼を擦りつつ話す。
「うん。ヴァネッサはどうしてここに?」
「うなされているようでしたので様子を確認しておりました」
「確認って変ね」
「はぁ、そうでしょうか」
私は上半身を起こし、「やっぱりさっきのは夢だったのか」と頭を巡らせる。
「何か夢でもご覧になっていたのですか?」
「うん……おかしな夢だった」
するとヴァネッサは首を捻り若干興味を持ったらしく尋ねてくる。
「どのような?」
私は一瞬夢の内容について話すことを躊躇った。だが悪い夢ほど他人に話した方が良いという言い伝えを思い出し話すことにした。
「たった一人で荒れ果てた廃墟にいるの。そしたらそこにボロボロなエリアスが来てね」
ヴァネッサは興味深そうに聞きつつ意見を述べる。
「ボロボロ? それは想像できませんね。エリアスをそこまで傷つけることが可能な者は、天使にも悪魔にもほとんどいないでしょうから」
それはその通り。エリアスが負けるはずないことは私も分かっている。
「貴女と共に逝けたなら、なんて私が死んでしまったみたいなことを言うの。それからもずっと、もう一度会いたいとか同じようなことばかり繰り返して。まるで気が狂れたみたいに」
「それは……。確かに、妙な夢ですね」
彼女にも意味は分からないようだ。
「エリアスが心配ですか?」
ヴァネッサはそう言った。表情からバレていたのかもしれない。
確かに私は彼を少し心配していた。
「ヴァネッサには何もかもお見通しってわけね」
「長い付き合いですから」
私が赤ちゃんの頃から近くにいたヴァネッサだ、顔色で考えが読めても変な話ではない。むしろ当然と言える。
「エリアスを呼びますか?」
彼女は平淡な調子で問う。
「でも夜だし寝てるんじゃないかな。こんなことで起こすのは可哀想だわ」
「まさか。アンナ王女がうなされているというのに呑気に寝ているはずがないでしょう」
つい失念していたが、そういえばエリアスは私に関してだけは極度の心配性なのだった。
「外にいるので呼んできます。少し待っていて下さい」
ヴァネッサは椅子から立ち上がるとエリアスを呼びにドアの方へ歩いていってしまう。私はベッドの上で静かに待つことにした。
「王女!」
ドアが開くとエリアスが駆け込んでくる。歩幅が大きいのですぐにベッドまでたどり着く。
「王女、悪い夢を見ていたと聞きましたが、本当ですか。今はもう平気ですか?」
「えぇ、もう大丈夫。あのね、エリアス。聞いてもいい?」
彼は安堵の溜め息を漏らし、それから私に視線を向ける。
「はい。何でしょうか」
こんなことを聞くのは躊躇いがあるが、一応確認しておきたかったのだ。
「もし、なんだけど」
「はい」
「私が死んだら、エリアスはどんな気持ちになる?」
するとエリアスは顔をひきつらせる。
「なっ……! 王女、一体なぜそのようなことを」
「私が貴方を残していなくなったら、どう思う?」
「そんなこと! そんなこと、絶対にありません。あるはずがないでしょう!」
この反応を見て分かった。夢の中で黒い女が見せたエリアスはやはりエリアス本人だ。もし私がいなくなれば、彼があの状態になる可能性はかなり高い。
「これだけ覚えていて、エリアス。もし私が先に死んでも、貴方には生きてほしい。私はそう願うわ」
エリアスには生きて、ずっと覚えていてほしい。きっとそう願うだろう。
「そんなことは起こりません。私が生きている限り、貴女には傷一つつけさせません」
彼は真剣な表情で言った。
「分かってるわ」
あまり暗い雰囲気になるのも嫌なので私は笑みを浮かべる。
「私はもしもの話をしただけ。貴方の強さを疑っているわけじゃないのよ」
ヴァネッサも言っていたが、エリアスを倒せる者なんてそういない。だから彼が私を護ってくれる限り、彼より先に私が死ぬことはないだろう。
「はい。何でも私にお任せ下さい、私は貴方の護衛隊長ですから」
彼はやたらと護衛隊長であることを押し出してくるが、それを聞くたびいつも思うのだ。
もし護衛隊長でなくなったら、彼はもう私の傍にはいてくれないのか——、と。
「それではもう時間も遅いことですし失礼しますね。お会いできて良かったです」
彼は整った顔に柔らかな笑みを浮かべてお辞儀する。そして部屋から出ていこうとした——彼の服の裾を私は無意識に掴んでいた。
「王女?」
目を数回ぱちぱちさせるエリアス。長い睫毛のせいでただのまばたきが目立つ。
「エリアス……もうちょっとだけここにいてくれない?」
私は遠慮がちに口を開いた。こんな夜分に引きとめるのは望ましくないが、今は傍にいてほしいと心から思った。
エリアスは少し離れたところで様子を眺めているヴァネッサに目をやる。恐らく許可を得ようとしているのだろう。
「今夜は許可します」
エリアスの言わんとしたことを察したらしくヴァネッサは言い放つ。淡々とした声だ。
「では王女。許可が出ましたので、喜んで貴女の傍に」
彼はベッドのすぐ横にある椅子に腰かけて微笑む。
それは、とても幸せそうな笑みだった。
視界には自室のベッドで目覚めた時に目に入る天井とヴァネッサの顔。
「おや、起きられましたか」
寝惚け眼を擦りつつ話す。
「うん。ヴァネッサはどうしてここに?」
「うなされているようでしたので様子を確認しておりました」
「確認って変ね」
「はぁ、そうでしょうか」
私は上半身を起こし、「やっぱりさっきのは夢だったのか」と頭を巡らせる。
「何か夢でもご覧になっていたのですか?」
「うん……おかしな夢だった」
するとヴァネッサは首を捻り若干興味を持ったらしく尋ねてくる。
「どのような?」
私は一瞬夢の内容について話すことを躊躇った。だが悪い夢ほど他人に話した方が良いという言い伝えを思い出し話すことにした。
「たった一人で荒れ果てた廃墟にいるの。そしたらそこにボロボロなエリアスが来てね」
ヴァネッサは興味深そうに聞きつつ意見を述べる。
「ボロボロ? それは想像できませんね。エリアスをそこまで傷つけることが可能な者は、天使にも悪魔にもほとんどいないでしょうから」
それはその通り。エリアスが負けるはずないことは私も分かっている。
「貴女と共に逝けたなら、なんて私が死んでしまったみたいなことを言うの。それからもずっと、もう一度会いたいとか同じようなことばかり繰り返して。まるで気が狂れたみたいに」
「それは……。確かに、妙な夢ですね」
彼女にも意味は分からないようだ。
「エリアスが心配ですか?」
ヴァネッサはそう言った。表情からバレていたのかもしれない。
確かに私は彼を少し心配していた。
「ヴァネッサには何もかもお見通しってわけね」
「長い付き合いですから」
私が赤ちゃんの頃から近くにいたヴァネッサだ、顔色で考えが読めても変な話ではない。むしろ当然と言える。
「エリアスを呼びますか?」
彼女は平淡な調子で問う。
「でも夜だし寝てるんじゃないかな。こんなことで起こすのは可哀想だわ」
「まさか。アンナ王女がうなされているというのに呑気に寝ているはずがないでしょう」
つい失念していたが、そういえばエリアスは私に関してだけは極度の心配性なのだった。
「外にいるので呼んできます。少し待っていて下さい」
ヴァネッサは椅子から立ち上がるとエリアスを呼びにドアの方へ歩いていってしまう。私はベッドの上で静かに待つことにした。
「王女!」
ドアが開くとエリアスが駆け込んでくる。歩幅が大きいのですぐにベッドまでたどり着く。
「王女、悪い夢を見ていたと聞きましたが、本当ですか。今はもう平気ですか?」
「えぇ、もう大丈夫。あのね、エリアス。聞いてもいい?」
彼は安堵の溜め息を漏らし、それから私に視線を向ける。
「はい。何でしょうか」
こんなことを聞くのは躊躇いがあるが、一応確認しておきたかったのだ。
「もし、なんだけど」
「はい」
「私が死んだら、エリアスはどんな気持ちになる?」
するとエリアスは顔をひきつらせる。
「なっ……! 王女、一体なぜそのようなことを」
「私が貴方を残していなくなったら、どう思う?」
「そんなこと! そんなこと、絶対にありません。あるはずがないでしょう!」
この反応を見て分かった。夢の中で黒い女が見せたエリアスはやはりエリアス本人だ。もし私がいなくなれば、彼があの状態になる可能性はかなり高い。
「これだけ覚えていて、エリアス。もし私が先に死んでも、貴方には生きてほしい。私はそう願うわ」
エリアスには生きて、ずっと覚えていてほしい。きっとそう願うだろう。
「そんなことは起こりません。私が生きている限り、貴女には傷一つつけさせません」
彼は真剣な表情で言った。
「分かってるわ」
あまり暗い雰囲気になるのも嫌なので私は笑みを浮かべる。
「私はもしもの話をしただけ。貴方の強さを疑っているわけじゃないのよ」
ヴァネッサも言っていたが、エリアスを倒せる者なんてそういない。だから彼が私を護ってくれる限り、彼より先に私が死ぬことはないだろう。
「はい。何でも私にお任せ下さい、私は貴方の護衛隊長ですから」
彼はやたらと護衛隊長であることを押し出してくるが、それを聞くたびいつも思うのだ。
もし護衛隊長でなくなったら、彼はもう私の傍にはいてくれないのか——、と。
「それではもう時間も遅いことですし失礼しますね。お会いできて良かったです」
彼は整った顔に柔らかな笑みを浮かべてお辞儀する。そして部屋から出ていこうとした——彼の服の裾を私は無意識に掴んでいた。
「王女?」
目を数回ぱちぱちさせるエリアス。長い睫毛のせいでただのまばたきが目立つ。
「エリアス……もうちょっとだけここにいてくれない?」
私は遠慮がちに口を開いた。こんな夜分に引きとめるのは望ましくないが、今は傍にいてほしいと心から思った。
エリアスは少し離れたところで様子を眺めているヴァネッサに目をやる。恐らく許可を得ようとしているのだろう。
「今夜は許可します」
エリアスの言わんとしたことを察したらしくヴァネッサは言い放つ。淡々とした声だ。
「では王女。許可が出ましたので、喜んで貴女の傍に」
彼はベッドのすぐ横にある椅子に腰かけて微笑む。
それは、とても幸せそうな笑みだった。
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