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6話「妙に優しい彼の正体」
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ぽつんと一人椅子に座り、待つことしばらく。
扉が開いて、一人の女性とヤンバレが同時にやって来た。
お盆を持っているため、女性は使用人と思われる。彼女が持つお盆には、浅めのティーカップと丸みを帯びたポットが乗っていた。どちらもほんのり桜色、蔓のような模様が刻まれている。
「お茶をお持ちしました」
女性が柔らかな調子で言ってくれる。
知り合いでも何でもないのに優しくしてもらって、もはや感謝しかない。
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
受け取ったティーカップには赤茶色の液体が入っていた。水面は夜の湖のそれのように静かだ。けれども熱気はどんどん立ち上ってくる。
恐らく熱湯に近い温度なのだろう、すぐに飲むには熱過ぎるかもしれない。
ただ、良い香りが昇ってくるという意味では、液体が熱いのも時には悪くはないのだろう。
「それでは失礼致します。ゆっくりお過ごし下さい」
使用人と思われる女性は一礼して退室していった。
そうして私はヤンバレと二人きりになる。
広く静かな空間で二人になると、どうも緊張せずにはいられなかった。
特別な感情を抱いているからではない。出会ったばかりでそんな感情を抱くはずもないではないか。ただ、誰かと二人きりになるという経験が豊富でないので、どうしても緊張してしまうのだ。
「こんなに色々親切にしていただいてしまって……何だかすみません」
お茶はふんわりとした滑らかかつ柔らかな味わいだった。
舌にじんわり広がる温かさも魅力的。
「いえ。僕がしたかったことですから、気になさらないで下さい」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。それよりお話したいことがあるのですが構いませんか?」
「は、はい……!」
改まって何を言うつもりなのだろう?
何を言おうとしているのかとても気になるが、聞くことへの怖さもある。
「実は僕、王子なのです」
「……え」
すぐには理解できなかった。
ヤンバレの発言が意外なもの過ぎて。
「ウィーダ王国という国をご存知ではありませんか? 僕はそこの第一王子なのです。お伝えするのが遅くなってしまいすみません」
扉が開いて、一人の女性とヤンバレが同時にやって来た。
お盆を持っているため、女性は使用人と思われる。彼女が持つお盆には、浅めのティーカップと丸みを帯びたポットが乗っていた。どちらもほんのり桜色、蔓のような模様が刻まれている。
「お茶をお持ちしました」
女性が柔らかな調子で言ってくれる。
知り合いでも何でもないのに優しくしてもらって、もはや感謝しかない。
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
受け取ったティーカップには赤茶色の液体が入っていた。水面は夜の湖のそれのように静かだ。けれども熱気はどんどん立ち上ってくる。
恐らく熱湯に近い温度なのだろう、すぐに飲むには熱過ぎるかもしれない。
ただ、良い香りが昇ってくるという意味では、液体が熱いのも時には悪くはないのだろう。
「それでは失礼致します。ゆっくりお過ごし下さい」
使用人と思われる女性は一礼して退室していった。
そうして私はヤンバレと二人きりになる。
広く静かな空間で二人になると、どうも緊張せずにはいられなかった。
特別な感情を抱いているからではない。出会ったばかりでそんな感情を抱くはずもないではないか。ただ、誰かと二人きりになるという経験が豊富でないので、どうしても緊張してしまうのだ。
「こんなに色々親切にしていただいてしまって……何だかすみません」
お茶はふんわりとした滑らかかつ柔らかな味わいだった。
舌にじんわり広がる温かさも魅力的。
「いえ。僕がしたかったことですから、気になさらないで下さい」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。それよりお話したいことがあるのですが構いませんか?」
「は、はい……!」
改まって何を言うつもりなのだろう?
何を言おうとしているのかとても気になるが、聞くことへの怖さもある。
「実は僕、王子なのです」
「……え」
すぐには理解できなかった。
ヤンバレの発言が意外なもの過ぎて。
「ウィーダ王国という国をご存知ではありませんか? 僕はそこの第一王子なのです。お伝えするのが遅くなってしまいすみません」
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