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10話「言いたいことは言える時に」
しおりを挟む「え――れ、レルフィア、様――?」
ロヴェンは暫し固まっていた。
言葉など出せず。
愕然とした顔のまま硬直していた。
まるで時が止まったかのように。
彼の思考回路は完全に焼け切れてしまっているようだった。
「いきなりですみません。でも、もしロヴェンさんがそれでもいいと言ってくださるのなら、そうしたいなと思ったのです。そして私はこれからもこの国のために力を使います」
ロヴェンはそのまま気絶して倒れた。
「ロヴェンさん!? 倒れ――ええっ。ひ、人を呼びます! そこにいてくださいね!?」
まさかいきなり倒れるなんて思っていなかったのでかなり驚いたし焦った。けれども何とか人を呼んで救護してもらえて。そのかいあってか、彼は数時間も経たず意識を取り戻すことができた。
「すみませんでした……倒れるなんてお恥ずかしい……」
「いえ、こちらこそ、あんなことを言って」
「……あっ」
ロヴェンはまた顔を赤く染める。
「あ、ああああ、それ、それっ……ほん、き、ですか……?」
彼はどこまでも真っ赤で。
藍色の肌すらも赤みを帯びている。
「そうです」
「嘘、みたいで、その……信じられなくて……」
「いきなりすみません」
「で、では、その……僕と、生涯を、共に……!?」
「ええ。よろしくお願い、できますか?」
私は彼の前へ片手を差し出す。
「は、はい! よろしくお願いします!」
彼はその手を取った。
恐る恐る、でもしっかりと。
皮膚の色は違う。
けれども今、心は同じ。
私たちには見た目という意味では違いがあるけれどそれでも想いはしっかりと重なっているのだ。
「共に生きてゆきましょう、ロヴェンさん」
「あ、は、ははははいっ! 同じ想いです! これからよろしくお願いしますっ!」
手を取り合って、笑う。
見つめ合う二人の間には特別な煌めきがある。
それはまるで一つの宇宙のように。
目に見えずとも確かにそこに存在している。
「って、あ、ではまず手続きがあるんです。確か、ポケットに、説明用のペーパーが……って、あれ!? 独り言メモに変わってる!?」
またしてもおっちょこちょい展開か?
そういうの多いなぁ。
「独り言メモ?」
「えと、ああ、これなんですよ」
「ちゅき、と書いてありますね」
「そうなんです! これは、独り言です! なので気にしないでくだち――って、あフ! ……噛みました」
何がどうなっているんだ……。
「と、とにかく、手続き説明用ペーパーを部屋から取ってきま――って、ぐふぉっ!?」
急いでベッドから立ち上がろうとしたロヴェンはベッドの縁につま先をひっかけてしまいそのまま前向けにくるりと転がりベッドから綺麗に落ちた。
「いてて……」
大丈夫かなぁ、この人。
今さらながら思ってしまった。
――それからは少々忙しくなった。
私とロヴェンの婚約が決まって。
魔族の国ルトレーは大騒ぎ。
私たち以上に国民の方が騒いでいた。
「おめでとうございます! レルフィア様!」
「きゃぁーっ、可愛いっ」
「麗しいお方だわぁ」
「あんたたち、そんなこと言うんじゃないよ! 無礼だよ」
「おめでとうございますーっ」
「おめでとす!」
「おめとすおめとすとするるんぼんばら」
道を歩けば多くの人から声をかけられる。
「ロヴェン様と気が合ったんですか?」
「詳しく教えてください」
「なれそめ聞きた過ぎて草」
「国民一同、祝福致します」
すべてが変わった気がした。
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