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婚約者と納豆の話をしていたのですが、その途中で急に……? ~まったくもって理解不能です~

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「ミレーナさ、納豆って知ってる?」
「ええ。最近東国から輸入されるようになった若干癖のある匂いの食べ物でしょう? 知ってるわよ」

 私ミレーナと目の前の彼アズルは婚約者同士。
 長い付き合いの果てに今の関係に落ち着いた。

「食べたことある?」
「この前一回」
「そうなんだ!?」
「ええ」
「どうだった? 美味しかった?」
「そうね、少し癖はあるけれど、美味しくないことはなかったわ」

 私たちは三日に一回くらいは顔を合わせている。

「へぇ……」
「アズルはどうなの? まだ食べてみていないの?」
「うん」
「そうなの。今度食べてみたら? 多分食べられると思う。ただ、たまにどうしても食べられない人もいるみたいだから、体質との相性もあるみたいではあるけれど」
「勇気要るなぁ」
「でも美味しいと思うわよ」
「そうだね」
「アズルって匂いある系の食べ物もそこそこ好きじゃない? だからもしかしたら口に合うかもしれないわ」

 出会った頃はまだお互い子どもだったので未来のこととか婚約結婚とかそういった類のことは少しも考えてみていなかった。

 だが運命は私たち二人をここへ連れてきた。
 きっと結ばれる定めだったのだと今は思う。

「そうだね、いつか挑戦してみようかな」
「気に入るといいわね」
「うんありがとう」
「あ、そういえば、匂いがあまりだったら薬味を入れるといいらしいわ」
「というと?」
「ねぎとか? 多分。そういうのと一緒に食べると匂いが抑えられるらしくって。食べやすくなるーって、誰かが言っていた気がするわ」
「ふーん、そうなんだ」
「あまり興味ない?」
「ううん、興味あるよ」
「そう。なら良かった。食べてみたらまた教えてちょうだいね。話聞かせて」

 その瞬間、訪れる静寂。

 え? と思いつつ、彼の方へ目をやる。

「――ミレーナ、婚約は破棄するよ」

 やがて彼はそんなことを告げてきた。

「え……」
「納豆を褒めた君とはやっていけない」
「どういうこと……?」
「納豆を少しでも美味しいと言うような下品な女性を生涯のパートナーとすることはできないってことだよ」

 意味不明過ぎる!! ――と叫びたいが、さすがに叫びはしなかった。

「な、何よ、下品って……」
「事実だよ」
「どういうことよ」
「納豆好き女性なんて下品女の極み」
「待って! 意味が分からないわ。さすがに。完全に理解不能よ」
「じゃあ君はそのくらい低知能だってことだね」
「そういう言い方するのは酷いわ」
「なんにせよ、君とは生きないから。婚約は破棄するから。じゃ、これで帰るからさ。さよならミレーナ」

 アズルは逃げるように去っていった。



 ――翌朝、アズルが亡骸となり発見された。

 発見場所は彼の家の近くに位置する山の中。
 通行人はそこそこいる道になっているところだった。

 だが、発見はできたものの、その亡骸を回収することはできなかったそうだ。

 というのも。
 肉食魔物がその亡骸の周辺をうろついていたそうなのである。

 ゆえに手を出せなかった。

 結局、アズルの亡骸が家族のもとへ戻ることはなく、彼はただ魔物の餌となってしまっただけであった。



 あのいきなり過ぎる婚約破棄から半年。
 私に良き縁談が舞い込んできた。
 つい先日とある資産家の男性から一度話をしてみたいとお誘いがあり――結果、お互い良い印象を持ったので、先へと進むこととなった。

 彼とならきっと……。

 今はただ、そう信じていたい。

 大丈夫。
 今度こそ幸せを掴む。


◆終わり◆
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