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もともとあまり好きではなかった婚約者に婚約破棄されました。なのでさよならします。

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「メリーナ! 貴様との婚約は破棄とする!」

 赤毛の婚約者フートルリッド・ラ・インテルーグはある日突然そんな宣言をしてきた。

 彼のことはもともとあまり好きではなかった。
 なので関係が終わることへの悲しみはそれほどない。

 ただ、あまりにも唐突だったので、すぐには頭が追いつかなかった。

「え……」

 思わず漏れてしまう困惑の声。

「聞こえなかったのか?」

 その声を耳にしたフートルリッドは不快そうな顔をした。

 眉間にしわが寄っている。
 とても深いしわである。

「いえ、聞こえはしました。が、あまりにも突然でしたので。戸惑っています」

 取り敢えず正直に答えると。

「ははは! そうだろうな!」

 フートルリッドはなぜか急に満足そうに笑い出した。

 いやもう何なんだこの人……。
 まったくもって意味が分からない……。

「何か事情があるのですか?」
「事情? 簡単なことだ。敢えて言うまでもない」
「教えてください」
「は? 言うわけないだろ? 何をふざけたことを」
「いきなり婚約破棄するのであれば、せめて事情くらいは説明するべきです」

 問えば。

「貴様は面白くない! それだけが理由だ」

 答えが返ってくる。

「もっと愉快で楽しく過ごせる相手と結婚したいのでな」
「そう……それが婚約破棄の理由ですか」
「ああ! そういうことだ! それこそが一番の理由だ」

 私は取り敢えず「分かりました」とだけ返した。

 面白くないだなんて失礼な理由ではあるけれど、だからといって怒ったり何か言い返したりする気力はない。

「では今すぐ去れ!」
「そうしますね」

 彼の前から去ろうとした、のだが――刹那、シャンデリアが落下してきてフートルリッドの頭上に降り注いだ。

「う、わあああああああ!!」

 響き渡るフートルリッドの叫び。

「ぎゃあああ! 怖いいいいい! あああああ! 助けてママぁぁぁぁぁぁ! パパたまぁぁぁぁぁぁぁ!」

 彼はシャンデリアの下敷きになった。

 ……まぁいいや、帰ろう。

 婚約者が巻き込まれたなら事件だが、元婚約者が巻き込まれても無関係だ。

 フートルリッドはもはや他人。助ける義理はない。なんせもう特別な二人ではなくなったのだから。たとえ過去に繋がりはあったとしても、そんなことはどうでもいいことだ。

 私と彼に繋がりはもうない。

 だから、さよなら。

 私はその場から立ち去る。
 砕け散ったシャンデリアを振り返ることはない。

 私はただ、メリーナとして、この人生を歩んでゆくだけ。


◆終わり◆
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