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『その日は突然やって来ました。そう、関係の終わりを告げられる日です。~ある晩餐会にて~』

 その日は突然やって来た。

「フルーレニア、貴様との婚約は破棄とするッ!!」

 ――そう、関係の終わりを告げられる日。

 それはある晩餐会。婚約者である彼ニースと共に参加していたのだが、途中で「話がある」と言われて。何事かと思っていたら、婚約破棄宣言だった。おかげで私は思わぬ形で注目の的となってしまう。今は周囲からの視線が刺さって痛い。

「貴様は俺に相応しくないッ!!」
「一体何を……」

 戸惑っていると。

「まず貴様は可愛くない! 顔は並だし、性格も平凡、個性のなさが可愛くなさに直結している! 貴様はただの女だ! ただの雑魚女、分かるか? つまり、可愛らしさがないということだ。だから俺は貴様を愛せない。だって可愛くないから!」

 彼は不満な点を話し出す。

「可愛くない女はどこまでいっても可愛くないものだと貴様から学べた、それは良かったが……それ以外はゴミだった。貴様と出会ったことで良かったことはほとんどない。なぜなら可愛くないからだ。分かっているのか? なぁ、聞いているか!? ……貴様は自分が可愛くないと正しく理解しているか? 可愛くない! 可愛くない! 愛おしさ皆無! 一切可愛くない! 欠片ほども! 魅力がない! それは可愛くないから! 可愛いところがないからだ!」

 それは非常に長かった。
 どこまでも続く。
 いつまでも終わりそうになくて、恐怖を感じたほどだった。

「ということで、おしまいだ」

 ようやく彼の発言が終わったのは、不満なところを話し出してから数時間後のことであった。

 だが救いはあった。

「何あれ……酷い男ね……」
「フルーレニアさん可哀想に」
「あんなことを平然と言うなんて悪魔みたいな男」
「あり得ないですわね、引きますわ」

 それは、周りが私の味方をしてくれていたことだ。


 ◆


 翌日ニースは死亡した。
 噂によると、街を散歩していたところどこかから飛んできた力士の下敷きとなってしまい圧死したそうだ。

 あまりにも呆気ない最期……。

 だが可哀想だとは思えない。
 むしろ自業自得だとしか考えられなかった。

 だって彼は悪人だ。

 身勝手に婚約破棄して、人前で好き放題他人を悪く言う、そんな人なのだから――彼がどうなろうとも知ったことではないのだ。


◆終わり◆


『私はもう貴方のことを覚えたまま生きてはゆきません。記憶はそこへ置き去りにして、幸せへと歩みます。』

 赤い花が咲いた。
 今年もまた。

 この花が咲くたびに思い出す。

 貴方との幸せだった日々を、そして。

 ――貴方とのさよならを。


 ◆


 あの日私は突然告げられた。

「君との婚約だが、破棄とさせてもらう」

 貴方はきっと何とも思っていなかったのだろう。

 けれども私はとても辛かったし悲しかった。
 この心が叩き壊されるようで。

 夢も、幸福も、愛も。

 何もかもすべてが破壊された。

「永遠にさよならだ」

 そう述べる貴方の瞳はとても冷たくて。

 ああ、そうか、この人はもう……。

 溢れる涙を隠したくて雨の中に駆け出した。

 地面に叩きつけられる雨粒。
 まるでこの心の中のよう。
 激しく降り注ぐ雨が髪を頬を濡らしても、それすらも、私自身であるかのようで。


 ◆


 あれから何年が経ったのだろう。
 もう思い出せないけれど。
 でも今さらどれだけの月日が過ぎたか数えるなんてことはしたくない。

 だって、私はもう、新しい道を歩み始めているから。

 ……貴方はこの世界にはいないのでしょう?

 かつて愛していた人は死んだ。
 ある冬の日に旅行していて雪崩に巻き込まれたらしい。

 でもそれでいい。

 永遠にさよならだ。

 そう言った貴方がこの世界にまだいるなんて、そんなことはおかしいでしょう。

 ……だって、永遠にさよなら、なのだものね?

 私は貴方をそこに置いてゆく。

 そして幸せな未来を掴むの。


 ◆


 赤い花が咲いた。
 今年もまた。

 この花は何度でも咲くけれど、もう振り返ることはない。

 貴方との幸せだった日々は過去に置き去りにしてきた。

 ――貴方とは、さよなら。


◆終わり◆
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