上 下
8 / 71

3作品

しおりを挟む
『可愛がっている妹が理不尽に婚約破棄されましたので、姉として始末して参ります!』

 可愛い可愛い私の妹ミレーネが婚約破棄された。
 しかもその理由が婚約者の浮気について追及したからなどという呆れるようなもの。
 そもそも浮気する方が悪いし、そこを突っ込まれたからといって関係を一方的に終わらせようとするなんて身勝手にもほどがある。

 なので私は文句を言いに行くことにした。

 そして、できれば、ついでに……。

「アドレッジさん、ミレーネとの婚約を一方的に破棄したそうですね」
「はぁん? ああ、お前、あの女の姉か」
「何ですかその言い方は」
「うっせぇぞぉ~い。引っ込んでろやババアうぜえんだよ」

 アドレッジは挑発的かつ反抗的な物言いばかりする。

「ミレーネに対してもいつもそういう言い方をしているのですか?」
「これはまだ丁寧な方ですよぉ~」
「ではもっと酷い態度を取っているということですか」
「ああそう、そうだよ、けどそれが何だって言うんだ? そうだったらお前に何の関係があるのかにゃあ~?」

 これは生かしておく意味がないな、と判断して。

「では、死んでいただきます」

 私は魔法を使うことにした。
 それは対象を死に至らせるものだ。

「さようなら、アドレッジさん」

 許せなかったので死の魔法を使った。
 アドレッジはその場に倒れ込み息絶える。

 ミレーネを傷つける者は何者であろうとも許さない――それが私の、そして姉としての、覚悟だ。


 ◆


 あれから数年、私は今もミレーネと姉妹揃って実家で幸せに暮らしている。

 彼女と共に暮らせることはとても幸福なこと。
 細やかなことでさえ楽しいことのように感じられるから、そんな日々が大好きだ。

「お姉さま、今日はお茶でもしませんか?」
「名案ね!」
「ではよろしくお願いいたします」
「こちらこそ! ……あ、でも、良いお菓子ある? ミレーネは今何か持ってる?」

 これからも私たちは毎日を楽しみながら生きてゆく。

「はい! ベリーのクッキーがあります」
「それはいいわね。とても美味しそうだわ。そういえばミレーネはベリー好きだったものね」


◆終わり◆


『ある朝、わざわざ家の前にまでやって来た婚約者が告げてきたのは……。~意味不明な怒りを向けられても困ります~』

 当たり前のように明日は来る。
 それはなんてことのないありふれたこと。

 そう思っていた。

 ……その日までは。

「君との婚約だが、破棄とさせてもらう」

 なんてことのない平凡な朝。
 わざわざ家の前にまでやって来た婚約者ルブールはさらりとそんなことを告げてくる。

 銀色の髪が新しい風に揺れている。

「なぜなら、好きな人ができたからだ」
「それが理由ですか……?」
「ああそうだ。それが理由なら何だというのか? 駄目だとでも言いたいのか?」

 ルブールはじっとりと睨んでくる。

「いえ……ただ、少し、唐突だったので驚いているだけです」

 きちんと返したつもりだったのだが。

「僕を馬鹿にしているのか!!」

 彼は急に怒る。

「馬鹿だと、愚かだと、そう言いたいのだろう!!」
「ち、違います」
「ほら! 怪しい! やはりそうなのだろう!? いきなり婚約破棄した僕を馬鹿にして見下しているのだろう? 愚か者、と!!」

 なんということだろう。
 そんな意味不明なことで怒られる日が来るなんて思わなかった。

「違います……」
「嘘つきめ!」
「待ってください、ルブールさん、落ち着いて」
「君がそんな女だったとはな! 最低女! ああ、良かった、婚約破棄しておいて。こんな酷い女と危うく結婚するところだった」

 なぜそんなことを言うの……。
 あまりにも酷いわ……。

「ということで、君とはさよならだ」

 こうして私は一方的に悪く言われたうえ婚約破棄されたのだった。


 ◆


 数日後、ルブールは落命した。

 何でも、皆が自分を悪く言い見下しているという妄想に溺れてしまった彼は、街中で数時間怒鳴り続けたうえ通行人にたびたび絡むということを繰り返していたそうで――その中で危険な男に絡んでしまい、返り討ちにされ、百回以上連続で殴られて死亡してしまったのだそうだ。

 見ず知らずの相手を百回以上殴る、というのもなかなかではある。

 だがほぼ完全に自業自得である。

 相手を選ぶこともせず、迷惑も考えず、皆に迷惑をかけ続けた。だからこそそういう結末が待っていたのだろう。残念ながら、それは仕方のないことだ。


 ◆


 あれから何年か経過した。
 私はもう過去には縛られず、気の合う善良な人と結婚して、日々楽しく暮らしている。

 ルブールとの苦い記憶は過去という扉の奥にしまってしまおう。

 過ぎ去ればすべてただの記憶でしかないのだから。


◆終わり◆


『既に婚約していた私より巨乳の女性を選んだ彼はその後……? ~想像していなかった展開が待っていました~』

「俺はお前との関係は終わらせることにしたんだ」

 巨乳の女性を連れて私の前に現れた婚約者ロードマンは、隣にぴったりくっついている女体を腕でまさぐりながら告げてくる。

「つまり、婚約は破棄、ということだ」

 いくら今から破棄すると言っても……婚約者である女の目の前で別の女性の身体を触っているというのはどうかと思うのだが?

「分かったな!?」

 急に叫ばれる。

「……そちらの女性のことが好きになったから、ですか?」
「ああそうだ」
「正直に事実を仰るところは尊敬します」
「俺は偉いだろう!?」
「え……あ、ま、まぁ、そうですね……」

 いやいや……。
 そうじゃない……。

 こうして私は一方的に切り捨てられてしまったのだった。


 ◆


 三日後、ロードマンが亡くなったという話が耳に入ってきた。

 ロードマンは私との婚約を破棄してすぐあの女性にプロポーズしたそうだ。女性は大変喜び、それを受け入れた。そこまでは良かったのだが――次の瞬間女性は怪物に変貌し、私を受け入れてくれるなんて嬉しい、と言いながら、その巨大な口でロードマンを食らってしまったそう。というのも、そちらが本体と言っても過言ではないほど大きな口を持っている怪物というのがその女性の本性だったそうなのだ。

 女性との未来を望んだロードマンが女性に食べられるとは、なかなか残酷な結末である。


 ◆


 ――数年後。

「そろそろ寝ましょうか」
「あ、うん。そうだね。もう夜も遅いしね」

 私は良き人と出会うことができた。そして家庭を築くことに成功した。今は夫と夫との間の子と三人で穏やかに生活できている。大変なこともありはするけれど、毎日は充実していて、総合的に見ればとても楽しい。

「君と結婚して本当に良かったよ」
「本当? ありがとう」
「じゃあ……おやすみ。また明日ね。ずっと好きだよ」
「もう。照れてしまうわ。そんな風に直球で言われると。でも、嬉しい。ありがとう、私も貴方が好きよ。……おやすみなさい」


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

離婚します!~王妃の地位を捨てて、苦しむ人達を助けてたら……?!~

琴葉悠
恋愛
エイリーンは聖女にしてローグ王国王妃。 だったが、夫であるボーフォートが自分がいない間に女性といちゃついている事実に耐えきれず、また異世界からきた若い女ともいちゃついていると言うことを聞き、離婚を宣言、紙を書いて一人荒廃しているという国「真祖の国」へと向かう。 実際荒廃している「真祖の国」を目の当たりにして決意をする。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...