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『可愛がっている妹が理不尽に婚約破棄されましたので、姉として始末して参ります!』

 可愛い可愛い私の妹ミレーネが婚約破棄された。
 しかもその理由が婚約者の浮気について追及したからなどという呆れるようなもの。
 そもそも浮気する方が悪いし、そこを突っ込まれたからといって関係を一方的に終わらせようとするなんて身勝手にもほどがある。

 なので私は文句を言いに行くことにした。

 そして、できれば、ついでに……。

「アドレッジさん、ミレーネとの婚約を一方的に破棄したそうですね」
「はぁん? ああ、お前、あの女の姉か」
「何ですかその言い方は」
「うっせぇぞぉ~い。引っ込んでろやババアうぜえんだよ」

 アドレッジは挑発的かつ反抗的な物言いばかりする。

「ミレーネに対してもいつもそういう言い方をしているのですか?」
「これはまだ丁寧な方ですよぉ~」
「ではもっと酷い態度を取っているということですか」
「ああそう、そうだよ、けどそれが何だって言うんだ? そうだったらお前に何の関係があるのかにゃあ~?」

 これは生かしておく意味がないな、と判断して。

「では、死んでいただきます」

 私は魔法を使うことにした。
 それは対象を死に至らせるものだ。

「さようなら、アドレッジさん」

 許せなかったので死の魔法を使った。
 アドレッジはその場に倒れ込み息絶える。

 ミレーネを傷つける者は何者であろうとも許さない――それが私の、そして姉としての、覚悟だ。


 ◆


 あれから数年、私は今もミレーネと姉妹揃って実家で幸せに暮らしている。

 彼女と共に暮らせることはとても幸福なこと。
 細やかなことでさえ楽しいことのように感じられるから、そんな日々が大好きだ。

「お姉さま、今日はお茶でもしませんか?」
「名案ね!」
「ではよろしくお願いいたします」
「こちらこそ! ……あ、でも、良いお菓子ある? ミレーネは今何か持ってる?」

 これからも私たちは毎日を楽しみながら生きてゆく。

「はい! ベリーのクッキーがあります」
「それはいいわね。とても美味しそうだわ。そういえばミレーネはベリー好きだったものね」


◆終わり◆


『ある朝、わざわざ家の前にまでやって来た婚約者が告げてきたのは……。~意味不明な怒りを向けられても困ります~』

 当たり前のように明日は来る。
 それはなんてことのないありふれたこと。

 そう思っていた。

 ……その日までは。

「君との婚約だが、破棄とさせてもらう」

 なんてことのない平凡な朝。
 わざわざ家の前にまでやって来た婚約者ルブールはさらりとそんなことを告げてくる。

 銀色の髪が新しい風に揺れている。

「なぜなら、好きな人ができたからだ」
「それが理由ですか……?」
「ああそうだ。それが理由なら何だというのか? 駄目だとでも言いたいのか?」

 ルブールはじっとりと睨んでくる。

「いえ……ただ、少し、唐突だったので驚いているだけです」

 きちんと返したつもりだったのだが。

「僕を馬鹿にしているのか!!」

 彼は急に怒る。

「馬鹿だと、愚かだと、そう言いたいのだろう!!」
「ち、違います」
「ほら! 怪しい! やはりそうなのだろう!? いきなり婚約破棄した僕を馬鹿にして見下しているのだろう? 愚か者、と!!」

 なんということだろう。
 そんな意味不明なことで怒られる日が来るなんて思わなかった。

「違います……」
「嘘つきめ!」
「待ってください、ルブールさん、落ち着いて」
「君がそんな女だったとはな! 最低女! ああ、良かった、婚約破棄しておいて。こんな酷い女と危うく結婚するところだった」

 なぜそんなことを言うの……。
 あまりにも酷いわ……。

「ということで、君とはさよならだ」

 こうして私は一方的に悪く言われたうえ婚約破棄されたのだった。


 ◆


 数日後、ルブールは落命した。

 何でも、皆が自分を悪く言い見下しているという妄想に溺れてしまった彼は、街中で数時間怒鳴り続けたうえ通行人にたびたび絡むということを繰り返していたそうで――その中で危険な男に絡んでしまい、返り討ちにされ、百回以上連続で殴られて死亡してしまったのだそうだ。

 見ず知らずの相手を百回以上殴る、というのもなかなかではある。

 だがほぼ完全に自業自得である。

 相手を選ぶこともせず、迷惑も考えず、皆に迷惑をかけ続けた。だからこそそういう結末が待っていたのだろう。残念ながら、それは仕方のないことだ。


 ◆


 あれから何年か経過した。
 私はもう過去には縛られず、気の合う善良な人と結婚して、日々楽しく暮らしている。

 ルブールとの苦い記憶は過去という扉の奥にしまってしまおう。

 過ぎ去ればすべてただの記憶でしかないのだから。


◆終わり◆


『既に婚約していた私より巨乳の女性を選んだ彼はその後……? ~想像していなかった展開が待っていました~』

「俺はお前との関係は終わらせることにしたんだ」

 巨乳の女性を連れて私の前に現れた婚約者ロードマンは、隣にぴったりくっついている女体を腕でまさぐりながら告げてくる。

「つまり、婚約は破棄、ということだ」

 いくら今から破棄すると言っても……婚約者である女の目の前で別の女性の身体を触っているというのはどうかと思うのだが?

「分かったな!?」

 急に叫ばれる。

「……そちらの女性のことが好きになったから、ですか?」
「ああそうだ」
「正直に事実を仰るところは尊敬します」
「俺は偉いだろう!?」
「え……あ、ま、まぁ、そうですね……」

 いやいや……。
 そうじゃない……。

 こうして私は一方的に切り捨てられてしまったのだった。


 ◆


 三日後、ロードマンが亡くなったという話が耳に入ってきた。

 ロードマンは私との婚約を破棄してすぐあの女性にプロポーズしたそうだ。女性は大変喜び、それを受け入れた。そこまでは良かったのだが――次の瞬間女性は怪物に変貌し、私を受け入れてくれるなんて嬉しい、と言いながら、その巨大な口でロードマンを食らってしまったそう。というのも、そちらが本体と言っても過言ではないほど大きな口を持っている怪物というのがその女性の本性だったそうなのだ。

 女性との未来を望んだロードマンが女性に食べられるとは、なかなか残酷な結末である。


 ◆


 ――数年後。

「そろそろ寝ましょうか」
「あ、うん。そうだね。もう夜も遅いしね」

 私は良き人と出会うことができた。そして家庭を築くことに成功した。今は夫と夫との間の子と三人で穏やかに生活できている。大変なこともありはするけれど、毎日は充実していて、総合的に見ればとても楽しい。

「君と結婚して本当に良かったよ」
「本当? ありがとう」
「じゃあ……おやすみ。また明日ね。ずっと好きだよ」
「もう。照れてしまうわ。そんな風に直球で言われると。でも、嬉しい。ありがとう、私も貴方が好きよ。……おやすみなさい」


◆終わり◆
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