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『婚約破棄されても己の道を変えるつもりはありません。~彼のその後などどうでもいいことです~』

 先日婚約破棄された。
 その理由は祭りでの歌の練習をしていたから、という、あまりにもちっぽけでどことなく悲しくなるような理由であった。

「はい! せい! はいせせせい! はァ! はい! せい! はいはいせい! せい! はいせいはいはははいはははいせい! はい! せい! はいせいせい! とりゃ!」

 しかし私はそんなことは気にせず歌い続ける。
 なんせ祭り本番まではもうあまり時間がないのだ。

「はい! せい! はいせせせい! はァ! はい! せい! はいはいせい! ほっほらしょっしょらほっほらしょっしょらほっほらしょっしょら……はい! はい! はい! せい! はいせせせい! はァ! はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい! せい! はいはいせい!」

 練習、練習、練習。

 ただひたすらに歌い続けた。


 ◆


 祭りは大成功を収めた。

 私はこれで生きていく。
 そう決めたから、これからも、歌と共に生きていく。


◆終わり◆


『聖女から歌姫へ、自由を得て飛躍しました!? ~王子の婚約破棄が私の人生を輝かせたのかもしれません~』

 聖女として生まれ、その生まれゆえに堅苦しい教育を受けさせられ、さらには王子アルフリーデンドと自分の意思など関係なしに婚約させられた。

 そうして城で暮らすことになるも王子アルフリーデンドから直々に虐められていた私マリーナは、ある日、ついに彼から告げられる。

「君には美しさを感じない! よって、婚約は破棄とする!」

 しかしそれは幸運だった。
 なぜって、彼との婚約の破棄は私にとっては自由を手にすることと同義であるから。

「分かりました! 今までありがとうございました!」

 元気に言って、走り去る。
 急なことだったので荷物をまとめるのには少々時間がかかってしまったが、それさえ終わればこちらのもの。

「お城のみなさま、これまでお世話になりました! ありがとうございました!」

 礼を述べて、城を出た。

 私はもう自由! 何にも、誰にも、もう縛られない! 聖女として生きることを捨てた、人々のために生きることを放棄した、と言われるかもしれない。でもそんなことはどうでもいい! それに、そもそも、私が放棄したわけではないのだし。婚約を終わらせたのは私ではなくて彼のほう。だから何もかもすべて私のせいではない! 責任はすべて王子にあるのだ! ……と思うことにしよう。

 何はともあれ、自由を得られたことは確かだ。

 これからはやりたいことをやって生きよう!

「んぁ~ぁ~あぁ~、っ、これで自由だ、わっしょいわっしょい、んぁ~っわっしょい♪ んん~、ああ~あぁ~♪ これで自由だ、私は自由だ、わっしょいわっしょいはぁぁ~んわっしょい♪ わあぁ~んたぁ~しぃはもぉ、しぃ~ばらぁ~れはしないっ、ああ~あぁ~いいなぁこれからはぁ~♪ はぁ~ぁ~っしょらしょいしょい! わっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょいしょい!」

 自由を得て、嬉しすぎて、即興で熱唱した歌。

 それがまさかの大ヒット。
 社会現象になるほどまでに有名になる。

 そして私はそれによって富を築き大金持ちへとのしあがったのだった。

「んぁ~ぁ~あぁ~、っ、これで自由だ、わっしょいわっしょい、んぁ~っわっしょい♪ んん~、ああ~あぁ~♪ はいはいはいはい! はいはいはいはい! はいはいはいはい! わっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょいわっしょい、っ、はぁ~ぁ~♪」

 これからは歌で生きてゆく。

 こんな未来は想像してはいなかったけれど。
 即興の歌が大ヒットという意外な形で私は新しい生き方を見つけたのだった。

 もちろん、縛られない程度の仕事量にはしておくつもりだ。

 やはり人生には自由が必要。
 まずそれがあってこその社会的な役割や仕事である。

 ちなみに王子アルフリーデンドはというと、あの後詐欺師の女に引っ掛かり資産を半分以上奪い取られてしまったそうだ。

 さらにその一件によって『あまりにも愚かで無能だから』などという理由で勘当を言い渡されてしまったのだとか。

 ……ま、べつにもうどうでもいいのだけれど。


◆終わり◆
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