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『私との婚約を破棄して家ごと自滅したようですが、知りません。やり直してほしい? そんなのは不可能ですよ、甘ったれたこと言わないでください。』

「フィリーナ、お前との婚約は破棄とする!!」

 告げられたのはある春の日だった。
 婚約者カインドルズが急に呼び出してきてそんな言葉を投げつけてきたのだ。

「婚約、破棄……?」
「ああそうだ」
「そうですか。分かりました」

 でもこちらとしてはそんなことはどうでもいい。
 だってべつに彼に執着しているわけではないから。

「……いいのか? 本当に」

 拍子抜けしたような顔をするカインドルズ。

「はい」
「なっ……な、なぬぬぬ……本気か?」
「もちろんです。だって貴方の心はもう変わらないでしょう? であれば、受け入れる外ありません」

 するとカインドルズはにやりと笑みを浮かべて「やり直したいなら今ここで泣いて謝れ、そうすれば少しは考えてやってもいいが?」などと言ってきた。

 あり得ない……。
 どうかしていると思う……。

「いえ、結構です」
「な!?」
「私、べつに、貴方への執着心はありませんので。貴方のお望みの通りで大丈夫です、問題ありません。それでは。失礼いたします」

 カインドルズとの関係はここまで。
 これ以上ずるずると付き合うような真似はしない。

「さようなら」

 こうして私たちは別れることとなったのだった。

 幸い、両親は受け入れてくれた。
 父も母も、二人とも、私がおかれている状況に理解を示してくれたのだ。

 なので私は問題なく実家暮らしへ戻ることができた。


 ◆


 あの後、少しして、カインドルズは泣きながら我が家へやって来た。

 何でも我が家との関係がなくなったことで彼と彼の家が行っていた仕事に悪影響が出たそうなのだ。彼と私の婚約が破棄となったことによって信頼が落ちたのだとか何とかで。それによって彼の家の稼ぎは大幅に下がったらしく、取引先の数も減って、そこそこ大変なことになっているのだそうだ。

 で、私とやり直したい、と。

 だが当然お断り。
 当たり前だろう、今さら泣きつかれても困る。

「私を捨てたのは貴方ですよね、ですからやり直す気など一切ありません。……もう二度と、私の前に現れないでください」

 それから少し経って聞いたことだが。
 カインドルズとその実家は私との婚約破棄関連の件によって仕事を九割近く失い、いろんな意味で終わったのだそうだ。


 ◆


「クッキー、焼いてみたんだ!」
「え、すごい」
「フィリーナ好きだったよね? クッキー。だからこれ、食べてほしいな」

 あれから数年、私は既婚者になった。

「いいの!?」
「うん、もちろん」
「嬉しい……! ええ、好きなのクッキー!」
「じゃあ食べてみて」
「ありがとう! 嬉しい。じゃあ、いっただーきまーすっ!」

 温かな夫と共に過ごせて、今はとても幸せ。


◆終わり◆


『婚約者がある日突然婚約の破棄を告げてきました、それも一方的にです。~その後彼はこの世を去ることとなったようですね~』

「君はさ、僕には相応しくないんだ」

 婚約者ルルブールスはある日突然そんなことを言ってきた。

「え?」
「だから、君との婚約は破棄とするよ」

 彼は平然とそんなことを言い、私との関係を終わらせる道を選んだ。


 ◆


「ルルブールスくん、そんな人だったの!? それはサイテーだわ」
「酷い人ね」
「あり得ないってそれ……酷すぎでしょ、重要なことなのに話し合いもろくにせずに決めるなんて……」

 突然の婚約破棄について友人らに聞いてもらったところ、私を悪く言う者はいなかった。

「私、悪くはないわよね……?」

 そう問えば。

「当たり前! 気にしなくていいって!」
「向こうが勝手なのが問題なのよ。貴女には非はないわ。当然じゃない、何かやらかしたというわけでもないのだし」

 心強い励ましの言葉が返ってくる。

「気にすることないない!」
「絶対、もっと、彼より素晴らしい人に出会えるって」
「そうよ。これはきっとそこへ至るための道筋。間違いない、そう思うわ。だらか大丈夫、幸せはきっとやって来る」

 彼女たちの言葉を聞いて安心した。

 私は悪くないのだ、と、そう思えたから。



 ◆


 あれから少しして、ルルブールスの訃報を耳にすることとなった。

 そんな未来が待っているとは思わなかった。でもそれは現実で。彼は確かにこの世を去ることとなってしまったのだった。

 ……というのも、彼は危険な世界で生きる男の女に手を出してしまったのである。

 それによって罰を与えられて。
 その際負った傷が原因となり死へと誘われることとなってしまったようなのである。

 私と別れた後に彼が手を出した女性がその人だったから悲劇が起きた――もしそれが別の女性であったなら、普通の女性であったなら、そんな悲劇は起こらなかっただろう。

 でもそれは今さら変えられはしないことだ。

 惚れる女性を変えることはできない。
 既に過去のことだからなおさら。

 ――そう、つまり、彼は結局死ぬしかなかったのだ。

 それが彼の運命だった。
 そして彼の人生でもあった。

 きっと、それ以外の道などありはしなかったのだ。


 ◆


 婚約破棄から二年ほどが過ぎ、私は、共にあって心地よいと感じることのできる男性と巡り会うことができた。

 親戚の女性の紹介という出会いであった。
 そのため刺激的な恋はなかった。
 けれども会って話をしているうちに段々彼の芯の部分に惚れるようになっていった。

 彼みたいな人に出会うのは初めて、そんな気がした。

 で、関係性は着実に進んでいって。

 その果てに私たち二人は結婚。
 ついに結ばれたのであった。

 そうして彼と結婚した今、私は、居心地の良い家を手に入れることができている。

 彼とならきっとどんなことだって乗り越えてゆけるだろう。

 そして未来へ。

 今は希望を瞳で感じている。
 明日という名の光を。


◆終わり◆
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