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ある日の昼下がり、見知らぬ女性が自宅へやって来ました。~突撃系浮気相手は面倒臭いです~

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「貴女がエイリーク様の婚約者さんね?」

 ある日の昼下がり、自宅にやって来たのは見るからに派手そうな見知らぬ女性であった。

「あ、はい。ええと……どなたでしょうか」
「あたくしはリリーナ。エイリーク様に一番愛されている女ですわ。今日は貴女にお願いがあって来ましたの」

 厄介そうだなぁ、などと思いつつ。

「何でしょう」
「エイリーク様から離れてくださらないかしら?」
「え」
「婚約者の座から退いてちょうだい」
「……ええっ」
「邪魔ですの! 貴女の存在が。貴女がいなければあたくしたちは結ばれ幸せになれますのに!」

 というより、まず、なぜ彼女のような立場の人が堂々と婚約者の前に出てこられるのか。それ自体が謎である。もう、本当に、謎でしかない。

「愛されていないのだから! さっさと消えなさいよ!」

 急に攻撃的になるリリーナ。

「そう言われましても……」
「愛されていないのよ貴女は!」
「だとしても、婚約者であることは婚約者です」
「はああ!? なっまいき!!」

 きいい、と甲高い声を発するリリーナ。

「ところで貴女はどういうおつもりでここへ来られたのですか? エイリークさんの浮気相手ですよね?」

 そう言ってやれば。

「あんたねぇッ……!!」

 殴りかかろうとしてきて――。

「やめなさい!!」

 ――しかし、突然現れた男性が、その拳を制止してくれた。

「何をしているのですか! 殴りかかるなど。暴行は犯罪ですよ!」

 間に入ってくれた赤茶の髪の男性は鋭く叫んだ。

「離れなさい!」
「っ……」
「今すぐ離れなさい。そうでなければ、通報しますよ」
「……も、もう、いいですわ!」

 リリーナはそう吐き捨てて走り去っていった。

 あの面倒臭い女性は去った。
 助けてくれた人のことはまったくもって知らないけれど、助けられたことは事実だ。

「大丈夫でしたか?」
「あ、はい。助かりました。ありがとうございました」
「揉め事ですか?」
「そうなんです、婚約者関係のあれこれのことで」

 その後エイリークに話をしてリリーナとの関係について問い詰めた。するとエイリークはすべてを明かした。最初は遊びのつもりで関わろうとしていたこと、そのうちに深い仲になっていったこと、など。さすがに観念したのかエイリークはありとあらゆることを正直に話した。

「そう、分かりました。では、婚約は破棄とします」

 すべては明るみに出た。
 けれどもそれで解決ではない。

 終わりを告げる時は近い。

「えええ!? どうして!?」

 エイリークは混乱していたけれど。

「もう信用できないからです」

 私はただ淡々と思いと事実を述べて。

「そ、そんな! けど、本当のことを言ったじゃないか!」
「だとしても……無理です。これからもあんな女性が発生してきたら耐えられません」
「もうしない! も、もも、もうしないよ!」
「信じられると思いますか?」
「……ごめん」

 その果てに。

「婚約は破棄します」

 宣言する。
 関係を終わらせるための言葉を発する。

「受け入れてください」
「……はい、すみません、でした」

 こうして私とエイリークの関係は終わった。

 ただし償いの金は支払ってもらう。
 お別れだけですべてをちゃらにするつもりは毛頭ないのだ。

 もちろん、彼だけではなく、あの女にも払ってもらう予定ではあるが。


 ◆


 あの後父に色々手伝ってもらって、償いのお金は二人からしっかりと取ることができた。

「ふぅ~、すっきりすっきり」

 支払いが完了した日、父は満足そうに息を吐いていた。

「このお金はお前のものだ、お前が使うといいぞぉ」
「ありがとう父さん」
「好きな物を買うなり、食べ物でも、何にでも使ってくれぇ~い」
「父さんへの贈り物も良いかも」
「ふぁッ!?」

 婚約は破棄となってしまったけれど、穏やかな日々は戻ってきた。

 今はただそれだけでいい。
 日常の中の細やかな幸せを肌で感じながら生きてゆきたい。

 そんなある日。

「お久しぶりです」
「あ! あの時の! あの時はお世話になりました、助けていただいて」

 家から少し離れた辺りにて、懐かしい顔に遭遇した。

「いえいえ」
「本当に、久々ですね」

 彼はルクセッツと名乗った。

「お元気でしたか?」
「はい! 婚約者とは婚約破棄になったのですけど、爽やかな気分で元気に暮らせています」
「ああそうでしたか。色々大変でしたね、けど……今はお元気とのことで、それなら良かったです」
「お気遣いありがとうございます」

 ルクセッツは思いやりの心を持って接してくれた。

 ほぼ他人なのに。
 あの時たまたま出会っただけの人なのに。

 ……でも、とても優しかった。


 ◆


 あれから数年、私はルクセッツと結ばれ幸せに暮らしている。

「覚えている? 初めて会った日のこと」
「もちろん」
「殴られそうになってたところにルクが助けてくれて……あれは本当に嬉しかったというか……ありがたかったわ。あのままだったらきっと間違いなく暴力を奮われていたもの」

 ルクセッツとの日々、日常は、とても楽しいものだ。

「助けに入れて良かったよ」
「ありがとね」

 ちなみにエイリークとリリーナはあの後残念な人生を歩むこととなったようだ。

 エイリークは「婚約者がいる身で他の女にも手を出していた」という情報が世に広く流れてしまったために人々から冷ややかな目で見られるようになってしまったそう。評判は急落。その影響は非常に大きく、仕事にも支障が出るほどであったという。また、知人や友人からもたびたび非難されたそうだ。その件によって彼を受け入れられなくなり離れていった友人もいたとか。

 リリーナは他人の男を奪おうとした女として地元で有名になり、道を歩けば「悪女!」「だらしな雌!」などと声をかけられるようになってしまったそうで、次第に家から出られない状態になっていったそう。で、そんな暮らしに耐えきれず徐々に心を病んでいって。

 それで、ある時ついに毒薬を飲み死のうとしたそうだが、死ぬことには失敗。
 ただその毒の影響で両目の視力を完全に失う結果となってしまって。
 それによって彼女は自立した生活は難しい状態になってしまっているらしい。


◆終わり◆
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