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9話「敵対するものはすべて崩壊してゆきます」
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イリッシュを助けるべく国から誰かがやって来るかと思われたが、そんなことはなかった。
というのも、国は国でその時期ちょうど大変なことになっていたようなのだ。
何でも人工隕石を発射する実験が失敗して王都が吹き飛んだそうで。
残された人々はそれへの対処に迫られ、直前に島へ出掛けたイリッシュのことなど忘れてしまっていたようである。
ちなみに王族らはその多くがその爆発に巻き込まれ亡くなったらしい。
国は今治める者がいない状態となっているとか。
一方イリッシュはというと、今日も罰を与えられている――島民らの手によって。
「だ……だずけでくだだい……もうやべで……」
「何を言っても無駄だぞ、死ぬまで終わらせない」
ボロボロになり心も折れたイリッシュには、威張っていきって偉そうにしていた頃の面影はもうない。が、それでも彼への皆の憎しみは消えず。そのため罰を与える行為は今も続いている。
「うぎゃ! ぎゃ! うっ、ぐぎゃ!」
今やイリッシュは情けない声をこぼすだけの人形のようになっている。
彼はもうまともには言葉を紡げない状態だ。
むしろ、こうしてまだ生きているのが不思議なくらい。
やる側も調節してやっている、とはいえ、イリッシュの生命力もかなりのものだ――ある意味尊敬する。
「ま、すぐには死なせないようには考えてやるがな」
「ぐぼぇ! ぶぼ! ぎゃぼ!」
「痛みを知れ、愚かな王子」
「ぎゃ! いだいお……だずげで……うぶふぉ! ぎゃ! ぐぼあ!」
イリッシュは王子ゆえに大事にされて生きてきたのだろう。だからこそ他人の痛みが分からなかった。こうして痛みを受けたなら少しはそれを理解できるようになるのかもしれない、なんて、淡い期待を抱いたりして。でもどうせ無駄だろうという諦めもあって。私の中の彼への感情というのは何とも言えない状態にごちゃごちゃしている。
「ここにいる人間はな、皆お前らのせいで理不尽に普通の生活を奪われたんだ。分かるか? その苦しみが」
「い、だいでず……も、もぶ……やべで、ぐだだ……」
「会話になってねえな!」
「うぎゃ!」
ただ、彼にお似合いの今ではあると思う。
「いつかお前が痛みや苦しみというものを学ぶまで、ずっと続けてやる!」
「……おねだいじばぶ、やべでぐだだい」
「他人の人生はなぁ! おもちゃじゃねえんだぞ!」
「ばい……ばがりばぢだ……だがらぼう……」
「そう言えばやめてもらえると思うなよ! 島流しにあった人間は理由が何だろうがまともに生きていけねえんだからな! お前は理不尽に人生を幸せをたくさん奪ってきたんだ! それを知れ、そしてその悪質さに気づけ!」
そしてある日の朝、イリッシュはついにあの世へ逝ってしまったのだった。
あれだけされてここまで生き延びたのだから頑張った方だろう。
――でも、最期まで謝罪がなかったのは残念だ。
せめて一言でも謝ってくれていたなら。
少しは心が変わったかもしれない、許せはしないにしても何かこの胸の内にあるものに変化があったかもしれない。
イフなんて考えても無駄と知りながらも、そんなことを思ってしまう部分はどうしてもあって。
とにかく、残念、だ。
「王子イリッシュは本日死亡した!!」
特別に開催された集会にて報告があった。
「ざまぁ、よね」
「ふん! 調子に乗ってたんだもの自業自得よ!」
「そうだわ」
「あいつのせいであたしたちみんな……」
「せめて残酷に消えてもらわなくちゃ、わたしたちの心が救われないわ」
「ほんとそれな」
「あんな人、この世にいない方がいいわ」
女性たちはすっきりした顔になっていた。
ウルリエが消え、イリッシュも消えた――私が復讐したい者がこの世から消え去った今、私は何を見据えて歩いてゆけば良いのだろう。
「アイリーンさん」
「あっ、クリフィスさん」
背後から声をかけられて、振り返れば見慣れた顔。
「憎しみの対象のお二人はもうこの世から去られたことですし」
「そうですね、ありがとうございます」
「実は……少しお話があるのですが、良いでしょうか」
何やら改まった様子のクリフィス。
「え、ええ。でも何ですか? 怖い話じゃないですよね……?」
というのも、国は国でその時期ちょうど大変なことになっていたようなのだ。
何でも人工隕石を発射する実験が失敗して王都が吹き飛んだそうで。
残された人々はそれへの対処に迫られ、直前に島へ出掛けたイリッシュのことなど忘れてしまっていたようである。
ちなみに王族らはその多くがその爆発に巻き込まれ亡くなったらしい。
国は今治める者がいない状態となっているとか。
一方イリッシュはというと、今日も罰を与えられている――島民らの手によって。
「だ……だずけでくだだい……もうやべで……」
「何を言っても無駄だぞ、死ぬまで終わらせない」
ボロボロになり心も折れたイリッシュには、威張っていきって偉そうにしていた頃の面影はもうない。が、それでも彼への皆の憎しみは消えず。そのため罰を与える行為は今も続いている。
「うぎゃ! ぎゃ! うっ、ぐぎゃ!」
今やイリッシュは情けない声をこぼすだけの人形のようになっている。
彼はもうまともには言葉を紡げない状態だ。
むしろ、こうしてまだ生きているのが不思議なくらい。
やる側も調節してやっている、とはいえ、イリッシュの生命力もかなりのものだ――ある意味尊敬する。
「ま、すぐには死なせないようには考えてやるがな」
「ぐぼぇ! ぶぼ! ぎゃぼ!」
「痛みを知れ、愚かな王子」
「ぎゃ! いだいお……だずげで……うぶふぉ! ぎゃ! ぐぼあ!」
イリッシュは王子ゆえに大事にされて生きてきたのだろう。だからこそ他人の痛みが分からなかった。こうして痛みを受けたなら少しはそれを理解できるようになるのかもしれない、なんて、淡い期待を抱いたりして。でもどうせ無駄だろうという諦めもあって。私の中の彼への感情というのは何とも言えない状態にごちゃごちゃしている。
「ここにいる人間はな、皆お前らのせいで理不尽に普通の生活を奪われたんだ。分かるか? その苦しみが」
「い、だいでず……も、もぶ……やべで、ぐだだ……」
「会話になってねえな!」
「うぎゃ!」
ただ、彼にお似合いの今ではあると思う。
「いつかお前が痛みや苦しみというものを学ぶまで、ずっと続けてやる!」
「……おねだいじばぶ、やべでぐだだい」
「他人の人生はなぁ! おもちゃじゃねえんだぞ!」
「ばい……ばがりばぢだ……だがらぼう……」
「そう言えばやめてもらえると思うなよ! 島流しにあった人間は理由が何だろうがまともに生きていけねえんだからな! お前は理不尽に人生を幸せをたくさん奪ってきたんだ! それを知れ、そしてその悪質さに気づけ!」
そしてある日の朝、イリッシュはついにあの世へ逝ってしまったのだった。
あれだけされてここまで生き延びたのだから頑張った方だろう。
――でも、最期まで謝罪がなかったのは残念だ。
せめて一言でも謝ってくれていたなら。
少しは心が変わったかもしれない、許せはしないにしても何かこの胸の内にあるものに変化があったかもしれない。
イフなんて考えても無駄と知りながらも、そんなことを思ってしまう部分はどうしてもあって。
とにかく、残念、だ。
「王子イリッシュは本日死亡した!!」
特別に開催された集会にて報告があった。
「ざまぁ、よね」
「ふん! 調子に乗ってたんだもの自業自得よ!」
「そうだわ」
「あいつのせいであたしたちみんな……」
「せめて残酷に消えてもらわなくちゃ、わたしたちの心が救われないわ」
「ほんとそれな」
「あんな人、この世にいない方がいいわ」
女性たちはすっきりした顔になっていた。
ウルリエが消え、イリッシュも消えた――私が復讐したい者がこの世から消え去った今、私は何を見据えて歩いてゆけば良いのだろう。
「アイリーンさん」
「あっ、クリフィスさん」
背後から声をかけられて、振り返れば見慣れた顔。
「憎しみの対象のお二人はもうこの世から去られたことですし」
「そうですね、ありがとうございます」
「実は……少しお話があるのですが、良いでしょうか」
何やら改まった様子のクリフィス。
「え、ええ。でも何ですか? 怖い話じゃないですよね……?」
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