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婚約者は裏切りました。どうやら私のことを大切になんてちっとも思っていなかったようです。しかしその後人生が大きく変わり始めました。

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「海に出掛けてみたいの」

 生まれつき身体が弱かった私はいつもそんなことを言っていた。

 婚約者リフレインは毎回「そうだね、きっといつか行こう。一緒に。二人で、海へ」と言ってくれていて、そんな彼のことを私は愛していた。

 ――なのに。

「ごめん、婚約破棄する」

 リフレインはある日突然見知らぬ女を連れて私の前に現れた。

「君は病弱だよね、子どもを作れるかも分からない。そんな人を妻にするのは嫌だって思って、親とも同じ意見だったから、僕は君とはもう別れることにするよ」

 彼は平然とそんなことを言って。

「じゃあね、さよなら」
「待っ――」
「いつか行けるといいね、海。ま、一人でだろうけどさ。くれぐれも無理して死なないようにね。ははは」

 見知らぬ女を腕で抱えるようにしながら去っていった。

 その日は一日中泣いていた。

 あまりにも辛くて。
 もはや絶望しかなくて。

 私だって望んでこんな身体で生まれたわけじゃないのに、どうして、私だけがこんな辛い目に遭わなくてはならないの……。

 そんなことばかり繰り返して、嘆いた。

 ――だがその翌日、家の庭から信じられない量の金塊が発掘され、それによって人生は大きく変わることとなった。

 私の周りには人が集まるようになったし、より良い医者を呼んで治療にあたってもらえるようになり健康になった。

 そして、出会った人たちの中から私を純粋に愛してくれる人まで出てきて――生涯を共にしたいと思える人と出会ったので彼と結婚した。

 彼は私の身体のことを理解している。
 それでもなお受け入れてくれた。
 今は良い状態だけれどこの先どうなるかは分からない、そんな不確定な部分を知りながらも、一生を共にすると誓ってくれたのだ。

 ああ、まるで、神様からの祝福のよう。

 こんな明るい未来が待っているなんて、あの時は欠片ほども思わなかった――でも、あの悲しみと嘆きがこの幸せを連れてきてくれたのであれば、リフレインとの辛かった出来事も無駄ではなかったのかもしれないと思える。

 そうそう、ちなみに、リフレインとその相手女性は既にこの世を去っている。

 二人は海水浴中に急に沈んで死亡したのだそうだ。

 原因不明、謎の海の事故。
 一部の人たちは「心ない婚約破棄をしたから罰が下ったのでは?」などと話していたようだ。

 今、二人は、冷たい海の中に在る。

 そしてきっとこれからもずっと……。

 彼らは二度と地上へは戻れない。

 ――そうよ、永遠に冷たい海の底に佇むの。


◆終わり◆
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