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前編

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「今夜だけ、夢をみせて」

 暗闇で囁く女の声。

「もちろん」

 返すのは男の声。

 そして二つはやがて溶けあう。

 夜の闇にこだました愛。
 絡み合う白が暗がりに消えた。


 ◆


「ごめん、妹さんと一線を越えちゃった」

 婚約者モーロ・アドルフットはある日突然そんなことを言ってきた。

「え?」

 この時の私はきっととんでもない顔をしていたと思う。

 あまりにも唐突で。
 あまりにも驚きで。

 綺麗な表情を作る余裕なんてなかった。

「だから、君との婚約は破棄する」
「え、いや……え……?」
「責任を取って、妹さんと結婚するよ」

 モーロは無責任にそんなことを言った。

「待って。じゃあ私は? 私はどうなるっていうの? 捨てるの?」
「ああ、そうなる。でもこれは責任感の問題なんだ。このまま君と結婚したら妹さんはきっと傷つくだろう。だから僕は君との関係を終わらせて妹さんと共に生きるんだ」

 もっともらしいことをぺらぺらと話すモーロ。
 でもその内容は私には到底許容できないようなものだ。

「何を言っているの?」
「まだ何か不満があるのかい」
「おかしいじゃない、その話。私の心はどうなるっていうのよ」

 思っていたことを言ってやれば。

「心? はは。そんなのはどうでもいいじゃないか。心なんてべつにどうとでもなるし、それに、君はべつにそういう感じじゃないから傷つかないだろ? 何を急に繊細アピールしてるんだい? 面白いなぁ」

 彼は平然とそんなことを言った。
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