上 下
6 / 10

6話「パーティーは終わりましたが……?」

しおりを挟む

「あ、あの……助けてくださってありがとうございます」

 取り敢えず礼を言っておく。
 最低限しなくてはならないことといったらまずはこれだろう。

「いえいえ」

 そう言って彼はまた柔らかな顔つきに戻る。

 厄介な女性たちと関わっている時の彼はまるで別の人であるかのようだった。それこそ人格丸ごと入れ替わってしまったかのようで。だが彼はすぐに私の
知る彼に戻った。今などは私の中にある彼の像に非常に近い雰囲気をまとっている。

「当然のことをしたまでです」
「それでも……ありがとう、そう言わせてください」
「どういたしまして」

 彼の笑みはいつだって甘い。

 こうしてパーティーは終わったのだった。


 ◆


 しかしウォシュルとの繋がりは切れなかった。というのも、彼の方から積極的に動いてきたのだ。彼は使える限りの手段を使って私に連絡してきた。そしてまた会おうとそんな風に提案してくれて。そんなこともあり、私たちの縁はパーティーだけで終わりとはならなかったのである。

「まっさかリアが王子に見初められちゃうなんてねぇ~」

 それからというもの、母はずっとこんな感じだ。

 何かと浮かれている。

「母さん! 見初められたわけじゃないから!」
「でもでも~、また連絡が来るなんて……明らかにそういうことでしょ~?」

 言っても受け入れてはくれない。
 彼女は既に私たちがそういう関係なのだと思い込んでいるのだ。

 ……まだそんなところまで進展してはいないのに。

「違うってば!」
「良い感じになれて良かったわねぇ~、うふふ、何だかとっても嬉しい気持ちだわぁ~。うきうきしちゃうっ」
「もう……母さん……」

 浮かれて楽しげな母を見ていると呆れて溜め息が出てしまう、が。

「で、リアはどうなの? 嫌なの?」

 そう問われれば、頷くことはできなかった。

 実際、私はウォシュルのことを嫌ってはいない。だからまたこうして誘ってもらえることは嬉しくもあるのだ。しかしながら急に近づいてこられるなんて何か裏があるような気もしてしまって。そんなところで私の思考はぐるぐる回っている。

「嫌いじゃ……ないけど」
「ほらね! 両想い! ひゅーっ、最高のやつじゃないの!」

 母はハイテンションだ。

 応援してくれる気持ちは嬉しいけれど、あまり期待したくはなくて、それゆえどうしてももやもやしてしまう部分がある。

「けど、本当に、そんなのじゃないわ。私たち。ただ少し知り合いになっただけで……それに王子の結婚相手よ? 私みたいな人間が選ばれるわけがないわ。彼はきっと、もっとお金のある家の娘さんと結婚するのよ」

 期待を過剰に抱きたくない。
 喜んでいて地の底に落とされるのが何よりも怖いのだ。

 だから何かと慎重になってしまっているところもある。

 ……そうよ、まだ何も始まっていない。

 それなのに期待するなんて。
 単に後ほど自分を苦しめるだけのことじゃないの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

婚約破棄は既に決定事項

アシコシツヨシ
恋愛
よくある婚約破棄がテーマの恋愛です。一話読み切りです。

婚約者と実妹が深い仲になっていました!? しかもその場で婚約破棄を告げられまして……

四季
恋愛
婚約者と実妹が深い仲になっていました!? しかもその場で婚約破棄を告げられまして……

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

離婚します!~王妃の地位を捨てて、苦しむ人達を助けてたら……?!~

琴葉悠
恋愛
エイリーンは聖女にしてローグ王国王妃。 だったが、夫であるボーフォートが自分がいない間に女性といちゃついている事実に耐えきれず、また異世界からきた若い女ともいちゃついていると言うことを聞き、離婚を宣言、紙を書いて一人荒廃しているという国「真祖の国」へと向かう。 実際荒廃している「真祖の国」を目の当たりにして決意をする。

妹と婚約者が口づけしているところを目撃してしまう、って……。~これはスルーできませんので終わりにします~

四季
恋愛
妹と婚約者が口づけしているところを目撃してしまう、って……。

処理中です...