1 / 10
1話「婚約者は幼馴染み、だったのですが……?」
しおりを挟む私には幼馴染みがいる。
彼の名はオーツク。
幼い頃から家が近所で、それゆえ、毎日のように日が暮れるまで遊んでいた。
そしてその彼こそが、婚約者でもある。
彼と婚約することになったのは自然な流れだった。
そういう年齢になってきた頃に「私たちなら上手くやっていけるんじゃない?」「そうだな、お互いのことよく分かってるからな」みたいなやり取りをして、そのまま婚約したのだ。
何も特別なことなんてなかった。
でも嫌い合ってとか誰かに強制されてとかではなくて。
そう、確かに、私と彼は自身の意思によって婚約を決めたのである。
大恋愛ではない。
でもだからこそ上手くいく部分もあるはず。
そう思っていたし、悪い進展なんて少しも考えてみなかった。
――だがその日はやって来てしまう。
「ごめんリア、婚約は破棄とさせてくれ」
リアというのは私の名前だが――ある日のこと、突然、オーツクが女を連れて家にやって来た。
「え……? な、何? どういう……」
「彼女と結婚することにした」
オーツクがそう言えば、彼の隣に立っている女性は一瞬だけ私へ目をやった。
その時の視線の黒いこと。
善良さなんて欠片ほどもない。
私に対して敵意と優越感を同時に抱えているような目つきだ。
もっとも、オーツクはそんなことには一切気づいていないのだけれど。
「待って、意味が分からないわ。急過ぎよ。どうしてそんな」
「彼女を選ぶことにしたんだ」
「だからどうして――って、まさか」
「そのまさかだよ、恐らくな」
嘘だ。
信じたくなかった。
彼がそんなにだらしない人だったなんて……。
「婚約者さん、お願いします。オーツクを解放して差し上げてください」
やがてオーツクの横にいる女性が口を開く。
長い睫毛が何度も上下していた。
「貴女、一体……」
「オーツクが愛しているのはわたし。察しているのならもう分かっているのでしょう? わたしは愛されるという意味で勝っているの、貴女に」
「勝手ですよ、あまりにも」
「けど、実際一番愛されているのはわたし」
そう言って女性は口角を持ち上げた。
「大丈夫か? アルバニア。お前が前に出なくても」
「でもね、オーツク、話すなら女同士の方が良いかもって思って……」
「ああ、ありがとうな。俺に気を遣ってくれているんだな。本当に、本当に優しい女性だな、お前は」
「いいえ、そんなんじゃないの。ただこの人に貴方の本当の気持ちを分かってほしくて」
オーツクとアルバニアは楽しそうに喋っている。
どうしてこんないちゃつきを見せられなくてはならないのか……。
「それで。オーツク、本気なの? 本気でそう言ってる?」
「ああ」
「……すべてが壊れることになるわ」
「だとしても俺はアルバニアを選ぶ。何を失っても、何を言われても、それでも彼女を愛しているから」
26
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ちょっと、いとこ!? ……何をしてるのですか、私の婚約者と二人きりで。 ~そういうのを一般的に裏切りというのですよ?~
四季
恋愛
ちょっと、いとこ!? ……何をしてるのですか、私の婚約者と二人きりで。
泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──
その選択はあまりにも身勝手過ぎませんか? ただまぁべつにそれでも構いませんよ。せいぜい愛に生きてください。
四季
恋愛
その選択はあまりにも身勝手過ぎませんか?
ただまぁべつにそれでも構いませんよ。
せいぜい愛に生きてください。
婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです
青の雀
恋愛
第1話
婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる