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前編

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「おまえ、いっつもいっつも薬草とか研究して、気味わりーんだよ」

 私は薬屋の娘だ。
 幼い頃から薬草に囲まれて育ってきた。

 それゆえそういうものへの心理的抵抗はほぼなくて。
 薬草というものを気味悪く思う者がいるとは夢にも思わなかったのだ。

 しかしそういう者は存在した。

 婚約者ルテンがそうだったのだ。

「なんか青くせーしよ、勘弁してくれよ。お前みたいな女を妻にするなんて吐くわ」

 彼はどうしても私の研究を受け入れられないようであった。

「てことで、婚約は破棄な」

 彼はさらりと言った。

「え、急ですね」

 思わず本心が漏れてしまう。

「これまで我慢してやってたんだよ!! うるせーよ!!」

 ルテンは苛立った様子。
 こちらの返しが悪かったのだろうか。

「そうですか」
「あぁそうだよ! まだ優しいだろ?」
「そうですね」
「じゃ! とっとと荷物まとめて出ていけ!」

 一方的だなぁ……と思いつつも、私は、彼が言うことに従うことにした。

「二度とここへ来るなよ!」

 できれば彼にも薬草の良さを分かってほしかった。薬草は人を癒やし救うものなのだと知ってほしかった。怖いものではない、呪いに使うものではない、怪しいものではない。時に毒となることがある点は注意しなくてはならないにしても、悪人が使わない限り、知識ある者が使う限り、人に害を与えるようなものではない。それを知ってほしかった。そしてその力を有効活用してくれればと思っていた。

 でも無理だった。

 私はルテンに薬草の本当の力を伝えられなかった。
 それだけは悔しい。

 とはいえ、こうなってしまったものは仕方ないので、ここからは速やかに去ることとしよう。
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